
大阪・関西万博の開催を記念して、111年の歴史を紡いできた宝塚歌劇団の卒業生たちが、シャンソンやジャズの名曲からミュージカル『ME AND MY GIRL』『エリザべート』の代表曲まで、幅広い楽曲と共に万国博覧会に縁ある国々を歌とダンスで巡るEXPO2025『未来へのOne Step! ~世界を結ぶ愛の歌声~』が東京国際フォーラムホールCで上演中だ(20日まで。のち梅田芸術劇場メインホールで25日~27日上演)。
この公演の開幕の地となったのは大阪・関西万博EXPOホール「シャインハット」。4月29日~5月1日の上演で、1970年EXPO70として大盛況を博した大阪万国博覧会の年に初舞台を踏んだ宝塚OGの大女優麻実れいが、二つの万博をつなぐ語り部としてスペシャル出演。日本の歌を含む1幕ノンストップのショーが展開された。
今回の東京国際フォーラム公演、および梅田芸術劇場公演では、剣幸、安寿ミラ、一路真輝、麻路さき、真琴つばさ、姿月あさと、和央ようか、湖月わたるの元トップスターたちと、 風花舞、月影瞳、大鳥れい、舞風りら、舞羽美海、妃海風の元トップ娘役たちを中心に、場面を彩るダンサー、シンガーとして16名のOGも集結。トップスターたち縁の思い出の名曲や、ラテン音楽に乗せたパワフルなシーンが追加され、2幕構成にボリュームアップしたスペシャルショーが展開されている。

作品は、万国博覧会にちなみ全体の大きなテーマに「世界とタカラヅカ」を置き、宝塚歌劇団が111年の歴史のなかで行って来た海外公演、また上演してきた作品を国別に括り、その地の有名楽曲や、ミュージカルナンバーを集めて場面、場面が展開されていくのが基本の流れ。構成・演出の中村一徳が、決して奇をてらわず「お国めぐり」を基本とする「レビュー」というエンターテイメントの形態にこの企画をすっぽり落とし込んだシンプルさが生きている。

その中でも、宝塚ファンにはわかることとして、キャストの中で実際にトップコンビだった麻路さき&月影瞳、真琴つばさ&風花舞をピックアップしたり、例えば安寿ミラ、真琴の元花組メンバー、剣幸、真琴、姿月あさとの元月組メンバー、一路真輝、 舞風りら、舞羽美海の元雪組メンバーなど、アンサンブルキャストも含めて組つながりでのシーンを創るなど、時代を越えた、或いはとても懐かしい各組の香りを立ち上らせた丹念な目配りも中村らしさにあふれる。また、『ME AND MY GIRL』宝塚オリジナルキャストのビル役者である剣がロンドン、『エリザベート』宝塚初演でトート役を演じた一路がウィーン、ブラジルに住む麻路、ニューヨークに拠点を置く和央ようかが、それぞれのお国めぐりを先導するなど、わかる人にはわかる、という緻密なマニアックさも効いている。分けても一路、麻路、姿月と宝塚初演から三演まで三代のトートが揃った様はなんとも贅沢で、作品が宝塚に根付いていった過程を思い起こさせた。

また、素晴らしいのが石田肇の映像で、「夜霧のモンマルトル」、ミュージカル『ファントム』などパリゆかりの場面から、オペレッタ『微笑みの国』、ミュージカル『エリザベート』のウィーンの宮廷へ、そして一気に情熱の国スペインへと、背景が移り変わってゆく様が見事。美術の稲生英介、照明の佐渡孝治の連携も抜群で、基本的には転換のない舞台面に豊かな空間を生み出し、レビューの醍醐味を大いに彩ってくれた。
特に圧巻はそれぞれの十八番が詰まった終幕。不動の名曲『ザ・レビュー!』の「夢人」から『宝塚をどり讃歌』の「タカラヅカ行進曲」、「夢のタカラヅカ」、『王家に捧ぐ歌』の「世界に求む」、『パパラギ』の「心はいつも」、『NEVER SAY GOODBYE』、『ル・ボレロ・ルージュ』の「情熱の翼」、『ジュビレーション!』、『TAKE OFF』、『ブラック・ジャック─危険な賭け─』の「かわらぬ思い」、『ル・ポァゾン』が畳みかけられた時には、当時の思い出が蘇ると共に、人生経験を重ねた宝塚OGたちが、各々積み上げてきたものが熟成を加えた歌唱やダンスに感極まる。後に再演された作品、歌い継がれている名曲が多いだけに、近年の上演や歌唱で、この名曲たちを知ったというファンも多いことだろう。そういう方たちにも是非オリジナルキャストによる歌唱を聞いて欲しいと思えるクライマックスだった。

そんな歴代のトップスターたちは、最上級生の剣幸があまりの好評に、異例の二公演続けての上演になった『ME AND MY GIRL』初演以来、ライフワークともなったビル役を変わらぬ軽快さで演じ歌ったのをはじめ、随所に舞台の芯を取り、どんな時でも誠実で真摯で、しかもパッショネイトという剣の魅力が、この作品の要になっている。

孤高のダンサートップスターの香りを纏っていた安寿ミラは、男役の魅力を知り尽くした人ならではの振付でいまも宝塚の舞台を盛り立てているが、そのダンスはもちろん退団後積極的に取り組んできたシャンソンでも真価を発揮。一転「かわらぬ思い」では、まさに孤高の天才医師ブラック・ジャックのヒューマンな想いをストレートに届けてくれた。

歌唱力に秀でたトップスターとして『エリザベート』宝塚初演でトート、更に退団後東宝初演でエリザベートのオリジナルキャストを務めた一路真輝は、その『エリザベート』はもちろん「君こそ我が心のすべて」の歌声が圧巻。トップ披露作品『TAKE OFF』では雪組出身生徒を率いて爽やかな青空を舞台に広げた。

退団後ブラジルに居を構え、こうしたOG公演を活動の中心にしている麻路さきは、現役当時の男役としての抜群の包容力を今も手にしていて、センター力を如何なく発揮。初代相手役だった月影瞳との邂逅も嬉しく、主演ショー作品『ジュビレーション!』はOG公演でもあまり再現されてこなかった楽曲だけに感懐もひとしおだった。

スタイリッシュな現代性あるトップスターとして一斉を風靡した真琴つばさは、その個性と機転の利くトーク力も生かした活動と共に、ハスキーボイスを武器に越路吹雪のレパートリーを多く歌ってきた成果が「愛の讃歌」に結実。コンビの風花と五分に対峙する目線も健在で、「情熱の翼」の熱唱がこのコンビならではのスパークを生んだ。

癒しの伸びやかな歌声で魅了し、退団後シンガーとしても活躍する姿月あさとは、そんな持ち味によく似合う穏やかに娘役を見つめる様と、『エリザベート』のトート役で見せる、黄泉の帝王としての顔と歌声のギャップの魅力がこの公演でも秀逸。宝塚でしかなしえないトートとの出会いが姿月にとって大きな財産になっていることが改めて感じられた。

一見ナチュラルな風貌のなかに、キメにキメた男役の粋を噴出する和央ようかは、退団後ロングヘアでも男役が成立することを証明した存在。初演を担った『ファントム』の切なさと共に、『NEVER SAY GOODBYE』は夫君である作曲家フランク・ワイルドホーンが和央の声にあてて書き下ろした楽曲であることを、改めて想起させる歌声を披露してくれた。

OG公演では常にいますぐ現役に戻れる、と感じさせる湖月わたるは今回も娘役たちとのペアダンスで魅了。「世界に求む」の争いのない世を願う尊い理想をオリジナルキャストの湖月の歌声で聴く感動は格別だし、一転『ジュビレーション!』では星組新進スター当時の「わたるちゃん」の顔を久々に見せていて、宝塚の歴史と絆を感じさせた。
またトップ娘役を務めた面々も多士済々。その筆頭風花舞は、初舞台でソロダンスを踊った衝撃のデビューからダンサートップ娘役として活躍した数々の名演を思い起こさせる変わらぬダンス力で魅了。その男前なカッコ良さにますます磨きがかかっている。

芝居力に優れた娘役としてはじめ麻路と、次いで轟悠の相手役も務めた月影瞳は、近年年齢を重ねた役柄にも多く挑んでいるが、ここでは溌剌とした明るさで場面を担い、芯を取れる娘役としての頼もしさを存分に見せてくれている。
在団当初から“大女優”の趣を持っていた大鳥れいも歌にダンスに大車輪の活躍ぶり。特に『エリザベート』タイトルロールのエリザベート役唯一の経験者として「私が踊る時」を堂々と歌いきって、変わらぬ位取りの高さを示した。
その名の如く風のように舞うダンサートップ娘役として活躍した舞風りらは、ダンス力も見事なドレス捌きも健在。多くの場面で踊り歌いながら、軽やかさを一瞬も失わない自力に改めて感嘆させられた。

同じく踊れるトップ娘役として活躍した舞羽美海も、持ち前のダンス力はもちろんのこと、宝塚の娘役を体現している愛らしさが、まるで現役時代そのまま舞台に舞い降りたかのよう。観る者に幸福感を届ける娘役力を発揮していたのが嬉しい。
美しい歌声で舞台を輝かせた妃海風は、リリカルなソプラノの魅力はもちろんのこと、相手役をプリンスに見せる、宝塚の娘役だけが持つ特殊技術に近いオーラを存分に振りまき、一路や姿月など新鮮な組み合わせの妙を見せてくれていた。

また、開幕のソロを担った有栖妃華をはじめ、舞城のどか、真波そら、羽咲まな、光月るう、沙月愛奈、愛白もあ、七生眞希、颯希ゆうと、朝霧真、湊璃飛、希峰かなた、大原万由子、花宮沙羅、涼花美雨、花束ゆめが、実に多くの場面で歌い踊り全体を盛り立てた総力には大きなものがあり、それぞれ得意のダンスに歌にと大活躍。「ランべス・ウォーク」など客席降りも賑やかに務め、宝塚歌劇の魅力を存分に届けた姿に拍手を贈りたい。
何よりも、この年代を越え、現在それぞれが進む活動の道も越えて「宝塚歌劇団OG」という唯一の共通言語を持ったメンバーが、一堂に会し、個性もふんだんにありつつ統一した世界観を創れること。宝塚111年の歴史の強みがここに顕れたことが嬉しく、この公演の為の新曲「未来へのOne Step!」が示す通りの、宝塚歌劇団が新たに歩みはじめる第一歩に期待したい公演となった。
取材・文・撮影/橘涼香
公演情報

EXPO2025『未来へのOne Step! ~世界を結ぶ愛の歌声~』
【構成・演出】中村一徳(宝塚歌劇団)
【出演】剣幸 安寿ミラ 一路真輝 麻路さき 真琴つばさ 姿月あさと 和央ようか 湖月わたる
風花 舞 月影 瞳 大鳥れい 舞風りら 舞羽美海 妃海 風 他
■日程 【東京】 2025年5月17日(土)~20日(火) 東京国際フォーラム ホールC
【大阪】2025年5月25日(日)~27日(火) 梅田芸術劇場メインホール
●アフタートークショー(剣 幸・安寿ミラ・一路真輝・麻路さき・月影 瞳〔司会〕)
東京・5月17日17時/大阪・5月26日12時半
◆アフタートークショー(真琴つばさ・姿月あさと・和央ようか・湖月わたる・風花 舞〔司会〕) ※アフタートークショーの登壇者は急遽変更になる場合あり。
東京・5月19日17時/大阪5月25日17時
★みんなで歌おうイベント(オリジナル歌詞カードプレゼント)
東京・5月17日12時半、20日12時半/大阪・27日12時半
♥スペシャルノベルティプレゼント
東京・5月18日12時半・19日17時/大阪・5月25日12時半
料金:S席13,000円 A席9,000円 B席5,000円(全席指定・税込)
お問合せ:梅田芸術劇場(10:00~18:00) 〈東京〉0570-077-039 〈大阪〉06-6377-3800
制作協力:宝塚歌劇団
企画・制作:梅田芸術劇場
主催:梅田芸術劇場/タカラヅカ・ライブ・ネクスト