
8月4日(月)に東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて開幕するホリプロの最新作、ミュージカル『ある男』の製作発表が、250名の一般オーディエンスを招いて5月1日(木)に開催された。
平野啓一郎によるベストセラー小説『ある男』は、2018年9月に発売され、2022年秋には妻夫木聡主演で映画化し、第79回ヴェネチア国際映画祭正式出品、第44回カイロ国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した人気作。2015年初演のミュージカル『デスノート THE MUSICAL』で編曲・オーケストレーションを担当したジェイソン・ハウランドと、同作で主演した浦井健治・小池徹平の最強タッグが復活。
当日は、出演者の浦井健治、小池徹平、濱田めぐみ、ソニン、上原理生、上川一哉、知念里奈、鹿賀丈史に加え、原作者である平野啓一郎、脚本・演出の瀬戸山美咲が登壇した。
製作発表は浦井健治、小池徹平による劇中歌「暗闇の中へ」の歌唱披露から幕を開ける。



主催者挨拶
菅井敦(株式会社ホリプロ代表取締役社長):本日はたくさんの方にお集まりいただき誠にありがとうございます。本作は2022年11月に公開された映画で妻夫木聡が主演し、翌2023年の日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞を受賞いたしました、弊社にとりましてメモリアルで大切な作品になっております。映画は弊社の制作ではないのですが、弊社のファクトリー部から「これをぜひミュージカル化したい」という声を聞き、大変嬉しく縁があるなと思ったのを覚えております。改めまして許諾をいただきました、平野先生ありがとうございます。本作は『デスノート THE MUSICAL』で夜神月、Lを演じていただいた浦井健治さん、小池徹平さんをW主演に迎え、濱田めぐみさん、ソニンさん、上原理生さん、上川一哉さん、知念里奈さん、鹿賀丈史さんというミュージカル界を代表する素晴らしいキャストのみなさんに集結していただきました。また、先日まで上演しておりました『ボニー&クライド』で脚本・演出をしていただきました瀬戸山美咲さんに本作でも脚本・演出をお願いしておりまして、今から初日が楽しみでワクワクしている自分がおります。本作は何かと生きづらい現代社会において懸命に生きるみなさまに、自分は一体何者なのか、愛とは何なのか、人間の存在とは何なのかという問を強く問いかける、見る人の心に大変刺さる作品になると確信しております。ぜひ、この作品が一人でも多くの方に届けられ、感動を与えられるようにお力添えのほどよろしくお願いいたします。
原作者挨拶

平野:この度は私の拙作『ある男』がこのような素晴らしい制作陣と役者のみなさまの手によってミュージカル化されますことを大変光栄に存じております。『ある男』は僕がいろいろ書いてきた中でも、僕の思想、ものの考え方が最も凝縮されて表現されている作品のひとつではないかと思っておりまして、自分の中でも非常に重要な作品で思い入れの強い作品です。幸いにして国内外多くの読者のみなさまにも愛していただいた作品で、その作品がこのような形でまた新たな命を吹き込まれるということに非常に興奮しております。正直、映画化までは予想できたのですが、ミュージカル化というのはまったく想像しておりませんでした。お話を伺ったときに、原作がかなり込み入った話なので、どういう風になるのかなと思いつつ許諾をしました。その後の制作の推移にも関わっておりますが、原作のコアにある価値観を、ミュージカルを通じて何とか表現したいという制作陣のみなさんの真摯な思いに非常に打たれまして、それが少しずつ形になってきていることに興奮を覚えております。今日お越しくださったみなさまは大変熱心なミュージカルのファンの方だと思いますが、きっとご期待に沿うような、あるいはご期待以上の作品になるのではないかと僕も期待しておりますので、どうぞ楽しみにしていてください。僕も非常に楽しみにしています。だいたい小説を書いて本を出版するときにはこんな豪華な場所で発表会なんてことはありませんので、こういう場所にお招きいただきまして作家冥利に尽きるといいますか、僕自身も大変喜んでおります。一緒に期待を高まらせて作品の公開を待ちましょう。
作品への思い

瀬戸山:この原作を読んだとき、たくさんの登場人物たちと出会う中で、自分自身も長い旅をしたような感覚になりました。そしていろいろな人の人生を通して、自分自身の人生も肯定されたような穏やかで静かな気持ちになりました。一方で、この作品の中で描かれている現実というのはとてもシビアなものもあり、とても心に迫ってくる、そして心の隙間まで入り込んでくるような作品だと思っております。この繊細な作品を、大胆な手法を用いることができるミュージカルという形で、みなさまにお届けできるのが大変楽しみです。今回本当に素晴らしいキャスト、クリエイティブのみなさまが揃いました。みなさまにご覧いただける日がとても楽しみです。

浦井:城戸章良を演じさせていただきます、浦井健治です。自分は家族の意味をこの作品を通じて教わり、感じ、学んだと思いました。どういう風にミュージカル化するんだろうと自分も正直思っているんですけれども、Xと城戸のデュオがあるように、時空を超えた形で表現できるというのはすごく演劇冥利だなと思っております。ともに過ごした時間こそが家族になっていくということがこの作品のメッセージかなと思っていて、このカンパニーも僕は家族みたいだなと思っています。いろんな作品で出会い、別れながら一緒に切磋琢磨している力強い方々とご一緒できることを幸せに思いながら、挑めたらと思っております。

小池:ある男・X役を演じさせていただきます、小池徹平です。先ほど平野さんがすごく思いを込めた作品であるということ、そして『ある男』のミュージカル化に対してすごく期待しているというお言葉をいただきまして、すごくありがたいお言葉をいただいたな、安心するなというのと同時に、若干のプレッシャーも感じました。初演のミュージカルになりますので、僕たちも気を引き締めて、0から1、1から10にしてみなさまのもとに素敵な作品を届けられるよう、精一杯思いを込めて作りたいなと思っておりますので、どうかみなさま楽しみにしていてください。

濱田:後藤美涼を演じます、濱田めぐみです。原作と映画を拝見させていただいたときに、自分の人生をもう一度改めて見つめ直すとてもいいきっかけになりました。そして今回ミュージカル化ということで、どういうことになるのかなというのが正直な感想ですが、初日にはとても素敵な作品を皆様にお届けするんだという気合いで、これからお稽古に臨んでいきたいと思います。丁寧に大切に作り上げていきますので、どうぞみなさま楽しみに待っていてください。

ソニン:谷口里枝役を演じさせていただきます、ソニンです。日本原作の新作ミュージカルに参加できることを本当に嬉しく思っております。原作を初めて読んだときに、アイデンティティに悩む主人公にちょっと自分を重ねた自分がいまして、この作品に携わることで私に何か起こるかもしれないという直感を得ました。新作なので、稽古場でどんどん変化していくと思います。信頼できるメンバーと一緒に素晴らしい作品になるように力を合わせてクリエイトしていけたらなと思っております。

上原:谷口恭一役を演じさせていただきます、上原理生です。『ある男』の原作を読ませていただき、国籍だったり名前だったり、何をもってその人を推し量るんだろうというのをすごく突きつけられる作品だなと感じ、人間ドラマや社会ドラマが緻密に濃密に描かれていて、率直にとても面白いと思いました。日本の原作のものでオリジナルミュージカルを上演する、その初演に呼んでいただき、とても楽しみに思っております。みなさまのご期待をいい意味で裏切れる作品にできるように頑張りたいと思います。

上川:谷口大祐役の上川一哉です。僕もこの原作を読ませていただいたときに、今を生きる我々にとって大きな問いかけがある作品だなと感じました。その問いかけを丁寧に考えながら答えを見つけていけたらと思います。そしてこのメンバーの中で僕と理生君が一番の年下なので、お兄さまお姉さま方に甘えながら精一杯頑張りたいと思います。

知念:城戸香織を演じます、知念里奈です。私は元々原作を読んでいて、面白くて、映画も拝見していましたので、お声をかけていただいたときは本当に嬉しくて、どんな風にミュージカルになるんだろうと思いながらワクワクしています。浦井健治君演じる城戸章良の妻の役なんですが、実の夫が浦井君とすごく仲良くさせてもらっているので、はじめてそれをを伝えたときは、ちょっと複雑そうな顔をしていました(笑)。ちょっと気まずいなって私も思ったんですが、今日こうして素敵なみなさまとお会いして、そんなことは気にせずにしっかり役割を果たそうと思いました。ご期待ください。

鹿賀:私は今回、小見浦憲男と小菅という2役をやらせていただきます。2人の接点は全くありません。全くの別人です。ただ、主人公のXを探っていく間で、2人ともキーポイントとなる人物であります。小見浦というのは得体の知れない男でして、虚実の「虚」と「実」が同時に存在しているような男です。何が本当か、何が嘘かがよくわからないような男です。そういう男を歌うナンバーがあるんですが、これは手強いなと今から思っております。その辺りも含めて面白おかしく不気味な男を演じられればと思っております。また、小菅に関しては非常に男気のある男でございます。2人の男を通じてこの作品の中でキーポイントとなるような出方をしたいと思っております。楽しみにしておいてください。
ミュージカルだからこそ伝えられる本作品の魅力とは
瀬戸山:普段私はストレートプレイの台本を書くことの方が多いので、言葉からいつも書き始めていましたが、ミュージカルとなると言葉とはまた違う、お客様に伝える表現の手段がさらに増えるということがあります。特に音楽です。言葉を出発点に音楽の力そして人間の歌声の力によって、人間の感情の機微がより鮮明にお客様が体感する形で伝わります。さらに、身体表現を多く取り入れようと思っておりまして、アンサンブルの方もダンスに長けた方にお集まりいただきました。言葉以外の表現をもってその主人公たちの過去や、生まれた環境、逃れられなさ、息苦しさをビジュアルや、歌声も含めた振動でお客様に体感していただけるように構成したいと思います。時間や空間を超えて人と人が共存できるのが舞台の魅力だと思っておりますので、空間の使い方を凝って、言葉と目で見たもの、音楽、いろんなところからお客様が感じて、考えていけるような作品にしたいと思います。先ほど鹿賀さんがお話しされた小見浦のような特異なキャラクターに関しては、音楽があることですごく増幅させることができると感じております。既にワークショップを2度行い、歌についてみんなで歌って考える時間を持てているのですが、みなさまが予想しているものを裏切るような大胆なジャンプをしていると思います。この作品全体で一番大事にしたいのが、呼吸です。見ている方が登場人物たちと一緒に呼吸をして、息が苦しくなったり、ほっとしたり、作品全体を見終わったときにはちょっとすっきりしていたり、何かこの体験がこれからみなさんの人生に関わっていけるようなことを身体で伝えたいなと強く思っています。
作曲:ジェイソン・ハウランドさんの楽曲を聞いての印象は
浦井:ジェイソンさんとは『デスノート THE MUSICAL』でご一緒させていただいたことがあり、日本のミュージカルの中でもジェイソンさんの存在はとても大きいなと思っています。ジェイソンさんは、こういうBGMで役の心情を奏でたらどうだろうなどと、演出の方と一緒に作品に寄り添いながらオリジナルのミュージカルの土台を作ってくださった方です。そのジェイソンさんの楽曲は役を本当に愛していて、そして役の心情やその役がどう変化して未来へつながっていくかという過程も音の中で表現してくださる作曲家だなと思っております。オリジナルで紡いでいくというのはすごく労力と時間がかかると思うんですが、プロデューサーさんが数か月前からかなり無謀なスケジュールを投げかけてかけてきて(笑)、ワークショップという形で日本で時間をかけながらやってくださり、お客様に楽しんでいただきたいという信念の強さや熱意が、役者を突き動かしたり、制作に伝わる。そしてその時間こそが、お客様に伝えるための熱量となって舞台上に立ち上がっていくと信じている方で、それに応える役者陣のキラキラしている感を今回も感じていて、みんなが楽しんで創作をする豊かさというものをワークショップや楽曲から感じています。
8年ぶりの共演でお互いの印象の変化は。また、今作に臨むにあたり、楽しみにしていることは

小池:まずはけんちゃん(浦井)は、見た目が全然変わっていない印象があるんですけれども
浦井:お!でも徹平もだよ?
小池:いやいや(笑)。でも見た目は変わらないのに、やることがどんどんチャレンジャーになっていて、役の幅もすごく広いですし。今回の章良役はストーリーテラーでもあり、みなさまの目線になって物語を一緒に旅するという、すごく心情の変化が難しい役どころではあると思うのですが、けんちゃんだったらすごく丁寧にみなさまに問題を投げかけたり一緒に考えたり、いろんな目線からアプローチできるような演じ方をしてくれるんじゃないかなと思っております。
浦井:プレッシャーです、頑張ります
小池:『デスノート THE MUSICAL』の話がありましたが、けんちゃんとやるときってアルファベットの役が多いなと思って(笑)、『デスノート THE MUSICAL』のときはLって呼ばれていて、今回はXって呼ばれていて。ひとつのアルファベットという偶然もありつつ、これも何かの縁かなと思いながら非常に楽しみにしています。あとは、この作品の作る側も演者陣もいいものを作ろうという熱量というものがすごく、今日みなさんにお会いしても、ワークショップに参加したときも、この作品に懸ける思いが同じ方向を向いているような気がしていて、この気心知れた仲間たちとどういう風に稽古場で作り上げていけるんだろうな、ひとつの完成に向かってどんどん進化していくんだろうなという期待感がすごくあるので、非常に楽しみにしております。
オリジナルミュージカルの創作の魅力とは
濱田:オリジナルミュージカルに携わることがすごく多く、新作をやらせていただくことも結構ありまして。毎回思うのが、お稽古場に来た段階でそれぞれ持っているもの、その作品に対するイメージが微妙に違うんですよね。例えば赤色だったらちょっと紫がかった赤のイメージを持っている方、オレンジ系の赤、もしくは青いイメージを持っている方もいたりとか、違うテイストのエッセンスを稽古場に持ってきてまず点で集まります。本読みをして、立ち稽古に入るときに、点と点がつながって線になっていくんです。その線がたくさん出来上がって、線と線がつながっていって、ひとつの面ができて、面と面がつながって立体的な箱が出来上がってきて、その時には色味がだいたい一緒になってきていて、箱が出来上がった時にはみんなの愛情や情熱、エネルギーが箱の中に注がれて、演出家が演出をして形ができてきて。これで舞台上に乗せられるだろうと思うところまで作り上がったその先にようやくお客様がいらっしゃって、はじめて完成するというイメージです。今回の『ある男』という作品に関して、それぞれのイメージをキャストもスタッフも持ってると思うんですけれど、その微々たる違い、もしくはかなり違ったものを集めてきて、それをほぐして混ぜながらひとつにしていくというのがなかなか大変で、すごく労力がかかるのですが、実はそれがすごく楽しくて。作り上げては壊し、壊しながらだんだん次元が上がっていって、一番いい高みのところでお客様に見ていただくまでの経過の過ごし方というのが前から私好きで。音楽も同じですよね。今回どのような形でみなさまのお手元に届くのかがすごく楽しみで、ワクワクしています。オリジナルミュージカルのときはいつもそうなんですけども、初日の幕が開けて、みなさまにお届けできるその日を楽しみに頑張りたいと思っています。
出演の決め手になったこと、2役演じる上で楽しみにしていることは
鹿賀:瀬戸山さんとプロデューサーの井川さんにホテルに呼び出されまして(笑)、何の話かと思ったらオリジナルミュージカルやりませんかということで、これは面白いなと直感的に思いました。私は一番最初のオリジナルミュージカルはミュージカル『シラノ』でした。それから『デスノート THE MUSICAL』、『生きる』、それで今回の『ある男』と4本目になります。海外のものを日本語でやるということも面白いですけども、やはり1から作り上げるオリジナルミュージカルというのは特別な思いがありまして、今回もわかったように喋っていますけども台本はできておりません(笑)。これから書き直しもあるだろうし、ジェイソンさんの曲もまた変わるかもしれませんが、これが本当に作っていくということだと思います。その喜びというのがオリジナルミュージカルならではの楽しみだと思います。私は今回2つの役を演じ、相反する2つの役はそれぞれが歌うわけですけども、その歌い方もどうしようかなと考えたり、具体的な作業にこれから入っていくところなんですけど、私としてはこの『ある男』という作品を非常に楽しみにしております。
違う一面が見られるか、役を演じるにあたって楽しみにしていることは
ソニン:新しい一面が見せられるかというとプレッシャーではありますが(笑)、ただ個人的に最近では珍しく、今年3連続でミュージカルをやっていまして、その中の役どころでいうと今回の系統の役はないので、今の年齢でこの役を作り上げるというのは楽しみのひとつでもあります。今回演じる谷口里枝はXと結婚していた女性の役なんですけれど、小池徹平さんとは何かの縁なのか共演が多く、何度も芝居の話をしながら作り上げた経歴があります。夫婦役というのを聞いた瞬間、信頼をおいている相手なのでその関係性はいるだけで成立するなと自負しています。このミュージカル版では少し変わった構成になるような気もしているので、このミュージカル版において谷口里枝をどう作っていくか楽しみですし、役割を果たしていきたいなと思っています。
オリジナルキャストとして初演で役を演じるにあたって大切にしていることは
知念:初めて自分がその役に息を吹き込むというのはすごくチャレンジです。翻訳ミュージカルは変更がなかなか難しいのですが、オリジナルミュージカルは自分の意見を反映させることができたりするので、ここにいらっしゃるみなさんを信じて「私はこう思うけどどうですか?」と意見を交換し合いながら作っていける、そこが楽しみなのかなと思います。
本作の創作の場面で楽しみなことは
上原:ワークショップではまず歌稽古があり、作曲のジェイソンが「今朝できたよ」って稽古場に来てくれて、本当に出来立てほやほやのものをその場で音取して声に出して歌ってみて、「じゃあこういう風にやってみてくれるかな」って、この地球の歴史上初めての演奏をして、すごくクリエイティブな空間だなという驚きがありました。ワークショップに行って初めて共演者の方々を知ったんですよ。全員は集まれなかったんですけど名前だけありまして、すごくないですか?このメンバー(笑)。それにまずびっくりしまして、この中にいさせてもらえるの?ってびっくりしました。こんなに素敵な方々と作品を作れるんだというワクワクですね。ワークショップを経てこれから稽古が始まりますが、その時にはまた新たなバージョンになっているかと思うので、どんな作品になるのか僕も知るのが楽しみですし、ワクワクがありますね。
物語の核心にもなる存在を演じる上で大事していること、作品への出演にあたり楽しみにしていることは
上川:難しい質問ですね(笑)。谷口大祐って名前は出てくるんですけどどういう人物かはなかなか語られない部分があって、なぜ彼が戸籍を交換する道を選んだのか、それまでの生い立ちだったりとか、その時感じていた感情や思いというのを稽古を通しながら、先ほど瀬戸山さんがお話された呼吸の中で僕も体現していけたらなと思っていますし、彼だけじゃなく、兄だったりとか美涼だったりとかそことの関係性をしっかり作っていきたいなと思います。美涼役のめぐさんとは久しぶりの共演で、劇団を退団して初共演になるので、劇団時代背中を追ってきた大好きな先輩なので、勉強させていただこうと思います。
質疑応答:ミュージカルの脚本を手がけるにあたって何を大切にしているのか
瀬戸山:今までミュージカルの台本は翻訳のものを担当することは3回ほどありました。小説からストレートプレイも書いたことはあったのですが、小説からミュージカルという形は初めてで、最初はストレートプレイの感覚で書き始めたんですが、やはりここは歌で伝えたほうがより深く入っていくだろうというのを見つけるというのが最初の課題としてありました。ワークショップを2度やらせていただいて、1回目にやっていた曲や脚本は今8割くらい入れ替わっています。音楽そのものはジェイソンのすごくバリエーションのある曲があるので、もしかしたらこの曲はまた違う見せ方でほかの曲に生まれ変わることもできるかも、ということもあるんですが、歌詞は毎回書き直しをしています。やはり人間の感情の動くところが歌うポイントだと思いますので、この物語のなかでどこで一番心が動いているのかということを見つけること、旋律も含めて伝えられることが実はもっとシンプルにできる部分もあるということが、今回台本を作りながら、ワークショップやりながら、みなさんに歌っていただきながら気が付いていくという感じがありまして、やはり最初にも言ったように言葉だけで表現しきれないジャンプできる部分がたくさんあるので、音楽の力を信じて、台本も書いていきたいなと思っております。
お客様へのメッセージ
瀬戸山:この作品は複雑な社会のなかでどうやって生きていくのかというヒントがある作品だと思っております。見た方にとって救いになるような作品を目指したいと思っています。劇場でお待ちしております。
小池:(劇中歌「暗闇の中へ」を)2回も歌わせていただきました(笑)。これだけ頑張ったのでたくさんの方に見ていただきたいと思っております。自分の本当の幸せとは何なのか、自分という人間はどんなものなのか、みなさん心の中に何か突き刺さるようなテーマがあると思いますので、ぜひ劇場に体感しにきていただけたら嬉しく思います。よろしくお願いいたします。
浦井:『ある男』、原作に忠実にリスペクトを持って、この座組だからこそできる表現を目指していきたいと思います。筆を執って自分の考え方、思考をさらけ出しながらこの原作を書いてくださった思いにちゃんと忠実に応えられるように精進していきたいと思うと同時に、演劇というものは今その時代に必要なものを描くことができると思っています。そして未来へつながっていくものだと思っております。個人的には歌も心が動くときにというのもそうなんですけども、逆にこの原作はもしかしたら心が動かない、そういった状況の時にどういう風に心情を歌に醸し出していくかということも原作へのリスペクトにつながっていくんじゃないかと感じております。物語の環境の中で生き抜いた、もしくは生きようとした人物たちをしっかりと体現できるように演じたいと思います。
文・撮影:カンフェティ
公演情報
ミュージカル『ある男』
■期間:2025年8月4日 (月) 〜 2025年8月17日 (日)
■会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
■スタッフ
原作:平野啓一郎「ある男」(文春文庫/コルク)
音楽:ジェイソン・ハウランド
脚本・演出:瀬戸山美咲
歌詞:高橋知伽江
■出演
浦井健治
小池徹平
濱田めぐみ
ソニン
上原理生
上川一哉
知念里奈
鹿賀丈史
碓井菜央 宮河愛一郎 青山瑠里 上條駿
工藤広夢 小島亜莉沙 咲良 俵和
増山航平 安福毅 植山愛結(スウィング) 大村真佑(スウィング)