【公演レポート】舞台「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」

【公演レポート】舞台「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」

本日 博品館劇場にて、下村敦史 作家デビュー10周年記念作品「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」(幻冬舎)を原作とする舞台「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」(脚本・演出:吉村卓也)が、開幕した。(2025年4月29日(火・祝)まで上演)

STORY

「私が犯人です!」「俺が犯人だ!」、全員犯人です!

社長室で社長が殺された。
それに「関わる」メンバーが7人ある廃墟に集められる。
未亡人、記者、社員2人、運転手、清掃員、被害者遺族——。

やがて密室のスピーカーからある音声が流れる。
「社長を殺した犯人だけ生きて帰してやる」。

犯人以外は全員毒ガスで殺す、と脅され、
7人は命をかけた自供合戦を繰り広げるが—。

2024年5月、下村敦史の小説「同姓同名」を、主催:Tie Works、脚本・演出:吉村卓也 にて朗読劇「同姓同名」として上演し、連日満員御礼で大好評の中、幕を閉じた。

そして今回【下村敦史 × Tie Works × 吉村卓也】のタッグが再結成され、第二弾として待望の今作が上演される。

今作は、そのタイトル通り【全員が犯人であり、被害者であり、探偵である】のテーマが見どころの1つとなっている。

ある廃墟に集められた7人が、閉鎖的な空間で互いに疑い合い、主張し合い、集められた意味と真相を追い求める心理戦が展開される。

複雑に絡み合う人間関係と心理戦が織りなすミステリードラマに、吉村卓也の脚本・演出が舞台ならではの緊張感とライブ感を加え、登場人物たちの心理的な対立を、閉鎖的な空間の使い方や舞台美術で視覚的に表現した点が印象的だった。

さらに、テレビアニメ『NARUTO』のオープニングテーマ「GO!!!」や『交響詩篇エウレカセブン』『コードギアス 反逆のルルーシュ』など多数のアニメ作品の主題歌を手掛けるTAKE(FLOW)の音楽が、物語の感情的な起伏を効果的に支え、シーンごとの雰囲気を際立たせた。

主演を務めるのは実力派俳優の波岡一喜
表向きは冷静で理知的な人物だが、内に秘める激しい感情を抱える記者の神嶋哲役を演じ、その場を掌握する存在感は、舞台全体の重厚感を支える柱となり、他のキャストとの掛け合いでも安定感を発揮した。

宝塚歌劇団星組男役スターで、昨年退団した天華えまは、殺された社長の遺族 千場夢子を演じる。
一見無垢で被害者的な立場に見えるが、時折見せる鋭い視線や自供は、二面性を繊細かつ大胆に表現し観客を翻弄した。

作品のミステリアスな雰囲気を一層深め、観客にどの人物を信じたら良いのか疑念を抱かせる物語の鍵を握る役どころである。

殺された社長の会社で働く石和田勘役を演じたのは、昨年幕張メッセ2daysワンマンライブを成功させたボーイバンドWATWINGの古幡 亮
同役を京典和玖とWキャストで務める。

繊細な技術者役で一見大人しそうに見えるが、自らの秘密を自供するシーンでは感情的な起伏をダイナミックに表現し、物語の展開に大きな影響を与え、舞台の熱量を加速させていた。

大河ドラマ「光る君へ」などドラマや映画でも活躍する中村静香が演じた未亡人の志賀川加奈恵は、公演ビジュアルからも伝わってくるように自信に満ち溢れ、傲慢な態度が印象的だ。

だが、今作の特徴であるどの役も目に見える一面だけでないことは、この役も例外ではない。
物語をリードしながら、観客の思考や共感を二転三転させる言動や佇まいは、セリフを発しないシーンでも常に目を引く存在であった。

清掃員で、遺体の第一発見者である林宗太郎役は、2.5次元舞台で目覚ましい活躍を続ける反橋宗一郎。

どの登場人物も自らが助かるために自供合戦を繰り広げる中で、他の人物とは一味違った角度から自らを犯人であると名乗り出る。
反橋が演じることで、よりピュアに感じる自供だが、はたしてこれも嘘やハッタリなのか、全く想像できない展開に発展していく。

お笑い界だけでなく、演劇界でもで引っ張りだこで様々な話題作への出演が続くなだぎ武は、社長の運転手である倉持孝役を演じる。

もちろん今役も「私が犯人です!」とアピールするが、軽快すぎる自供トーンと、原作や脚本に書いてあるのか疑問に思うほどのボディランゲージは、シリアスな作品の中で緊張感を和らげてくれる緩衝材の役目も果たし、エンタメ作品としての魅力を高める存在として際立っていた。

そして営業部長・竜胆元也役には、2.5次元舞台やミュージカルでの活躍で知られる仲田博喜。

落ち着いた口調と鋭い視線は、キャラクターの知性と威圧感を強調し、それぞれの自供内容について論破し追い詰める姿は、物語を一層リアルに描き出している。
観客が状況整理できるような役どころかと思いきや、この役もまた訳アリの登場人物である。

「犯人であり、被害者であり、探偵である」今作の見どころが詰まった、仲田演じる竜胆にぜひご注目を。

原作者である下村が、「タイトルそのままの奇想天外なミステリーで、訳ありの登場人物達が廃墟に監禁され、自白をかけたデスゲームをする羽目になる、という原作小説は、最初から最後まで限定的な空間で完結するサスペンスなので、刊行時からとても舞台向きではないかと思っていました。」とコメントしていた通り、必見の舞台となっている。

【廃墟に集められた理由とは】【「犯人であり、被害者であり、探偵である」の意味とは】。
そしてガスマスクを付け、役名もキャスト名も発表されていない人物は一体何者なのか。

その真実をぜひ劇場、もしくは配信(ライブ配信+1週間アーカイブ)にて確かめていただきたい。

(文・撮影:野田 紅貴)

舞台「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」

公演期間:2025年4月23日(水)〜4月29日(火・祝)
     ★7公演にてアフタートークあり
会場:博品館劇場

出演:
波岡 一喜
天華 えま
古幡 亮(WATWING)※Wキャスト
京典 和玖 ※Wキャスト
中村 静香
反橋 宗一郎
なだぎ武
仲田 博喜

原作:下村 敦史「全員犯人、だけど被害者、しかも探偵」(幻冬舎)
脚本・演出:吉村 卓也
音楽:TAKE(FLOW)
プロデューサー:熊坂 涼汰
主催:Tie Works

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