KAAT神奈川芸術劇場 2025年度ラインアップ発表会【寄稿:渡部晋也】

KAAT神奈川芸術劇場 2025年度ラインアップ発表会【寄稿:渡部晋也】
撮影:加藤甫

 「開かれた劇場」を目指し、ユニークな企画を多数打ちだしてきたKAAT神奈川芸術劇場が、2025年度のラインナップを発表した。芸術監督の長塚圭史は新年度で任期最終年となるため、これまでの成果が最終年のラインナップにどう現れるかが興味の焦点だった。

撮影:加藤甫

 夏までのプレシーズンは、デヴィッド・ボウイの楽曲によるミュージカル『LAZARUS』の日本初演(演出:白井晃)に始まり、フランス北東部のストラスブール国際演劇センターとの国際共同制作によるダンス作品(振付・演出:伊藤郁女)。夏のキッズ・プログラムとしてはKAATとSPAC-静岡舞台芸術センター、2つの劇場が作品を創っての同日上演。また「開かれた劇場」の象徴でもある1階のエントランスホールを使ったKAATアトリウムプロジェクトでは、注目の作品で美術・衣装を担当してきた山本貴愛が空間をデザイン。そこでのパフォーマンスも行われる予定だ。

 続くメインシーズン。これまでの4年間は『冒』『忘』『貌』『某』と同じ読み仮名でつながるテーマタイトルを掲げてきたが、今年タイトルとして掲げるのは『虹』つまりは“レインボウ”ということだ。「「虹」は多様な人々を繋ぎ、越境する七色の架け橋」という長塚だが、これまでとは趣の違うテーマタイトルからは、芸術監督としての一区切りを察することができるのではないか。

『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』

 作品はケラリーノ・サンドロヴィッチ『最後のドン・キホーテ』。中スタジオとアトリウムを使ったエキシビションとして大小島真木展。海外からのダンス招へい作品はポルトガルの振付家、マルコ・ダ・シルヴァ・フェレイラによる『カルカサ』。KAATと城山羊の会による山内ケンジの新作上演。KAATプロデュース作品としてチェルフィッチュを主宰する岡田利規の新作『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』。そして国際的舞台芸術プラットフォーム『YPAM』の開催が予定されている。またKAATで制作した作品で神奈川県内を巡るKAATカナガワ・ツアー・プロジェクトは第三弾となる今年、長塚による『冒険者たち』シリーズの初演作再演と新作の同時上演を予定している。

 ラインナップを見渡すとこの5年間で醸成した土壌が劇場を育てていることがよくわかるし、既に長塚の再任が決まっていることで、更に大きな結実を期待させてくれる。

 これまでの試みによる成果の1つは、このラインナップ発表に2024年度複数の作品を鑑賞できるシーズンチケットを購入されたいわゆる“常連”の観客から、選ばれた数名の方々が傍聴していたことにも現れているだろう。このシーズンチケットは2025年度には『メインシーズンパスポート』として6作品全てを鑑賞できるチケットに進化する。鑑賞できる作品が増えるという事は、購入すると更に劇場との付き合いが親密になるという事だ。街と劇場の在り方として、理想的な成長を遂げていると言えるだろう。

 日々の暮らしに押しつぶされることなく、心豊かに暮らすために劇場は必要だ。横浜を中心にした神奈川エリアの人々はそんなインフラが整っているといえる。そんな環境が正直羨ましい。

(文:渡部晋也)

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