進化を続け、勢いを増したミュージカル『ボディガード』上演中!

進化を続け、勢いを増したミュージカル『ボディガード』上演中!


日本語歌詞で蘇る名曲の数々と、華麗にショーアップされたステージと、サスペンスを孕んだストーリー展開が大好評を呼んだミュージカル『ボディガード』が東京渋谷の東急シアターオーブで上演中!

(東京公演は3月3日まで。のち3月9日~3月11日は山形・やまぎん県民ホール、3月30~4月7日は大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演)

ミュージカル『ボディガード』は1992年にケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストン主演により世界中で大ヒットを遂げた映画『ボディガード』を舞台化した作品。グラミー賞受賞曲「I Will Always Love You」をはじめ、映画でもお馴染みの楽曲などをふんだんに使った大型ジュークボックスミュージカルとして、英国「ローレンス・オリヴィエ賞」で、最優秀作品賞を含む4部門にノミネートされるなど喝采を集め、8ヶ月の英国&アイルランドツアーを完売してウエストエンドへ凱旋。オランダ、ドイツ、韓国、カナダ、イタリア、オーストラリア、スペイン、フランス、オーストリア、米国等世界中で上演される作品となった。日本では、2019年9月に本場英国キャストによる初の来日公演を果たしている。

更に、満を持した2020年春、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮のNBCミュージカルドラマ「SMASH」の振付でエミー賞を受賞し、2018年には宝塚歌劇で『WEST SIDE STORY』の演出・振付を担当するなど、世界で活躍し日本でもなじみ深いジョシア・ベルガッセ新演出での日本キャスト初演版が、東京・大阪での公演を予定していたが、コロナ禍の影響により殆どの公演回が中止を余儀なくされた。その困難を越えた2年後の2022年1月大阪、2月東京にて念願の再演が叶い、ミュージカルとLIVEコンサートの楽しさが融合した舞台は大きな称賛を集め、2024年、更なる進化を遂げた舞台が開幕した。

オスカー賞を目指すスーパースター、レイチェル・マロン(新妻聖子May J.・Wキャスト)は、息子のフレッチャー(野林万稔古澤利空笹本旭・トリプルキャスト)と姉のニッキー・マロン(AKANE LIV)と暮らしているが、いつからか彼女の周辺には謎のストーカー(大久保祥太郎)の影が潜んでいた。

レイチェルの身を案じるマネージャーのビル(内場勝則)の強い薦めで、敏腕ボディガードのフランク・ファーマー(大谷亮平)が、彼女の警護に当たることになる。しかし、フランクの存在は、オスカー賞レースのためレイチェルの露出を高めたい広報担当のサイ(水田航生)、古参ボディガードのトニー(加藤潤一)、そして何より自由を束縛されることを嫌うレイチェルの反発にあう。

だがある晩、フランクの反対を押し切って出演したシークレットライブで、そのフランクに窮地を救われたレイチェルは、彼に深い感謝と信頼を覚えるようになる。急速に心を寄せていく二人だったが、フランクは依頼人と深い仲になることへの躊躇と、ストーカーの影を感じてレイチェルと距離を置こうとし、彼の態度が理解できないレイチェルとの関係には暗雲がたれこめる。

それでもスターとして走り続けるレイチェル。任務遂行に身を捧げるフランク。狂気を増していくストーカー。家族が、仲間たちが、それぞれの愛情、友情、恐怖、嫉妬、欲望がうずまく複雑な感情に揺り動かされていくなか……

いきなりテンションMAX!と思わせる「Queen of the Night」(夜の女王)に乗せて、奥行きの深い舞台中央から、十川ヒロコの華やかな衣裳に身を包んだレイチェルとダンサーたちが、勝柴次朗のゴージャスな照明に彩られて登場した途端、あーこの作品はシアターオーブに合う!と、一気にこちらのボルテージがあがってくるのを感じた。天空の劇場とも称される、渋谷の街が一望できるスタイリッシュな空間にあるシアターオーブの持つ空気感が、この作品のミュージカルであり、LIVEであり、必然的に音楽劇の要素も持つショーアップされた持ち味にジャストフィットするのだ。

 しかもこの冒頭のLIVEステージの最中に、二村周作の左右に可動し、舞台の空間を縦にも使うことができる、スチールで組まれたこれも非常にスタイリッシュな装置の高みで、レイチェルの身にストーカーの影が迫っていることを同時に知らせてくる展開がなんとも秀逸。一気にLIVEパフォーマンスとミステリー劇の要素を持ち合わせる作品の世界観が提示され、物語に観る者を引き込むスピード感は、相変わらず快調だ。

 特に、前回公演から考えると、もちろん細かいブラッシュアップは多々あるものの、大きな変更はないなかで、作品がグッと引き締まり、劇場全体を巻き込んでくる力が格段にアップしているのに驚かされた。というのも、基本的にこのミュージカルは、楽曲を歌手であるレイチェルをはじめ、姉のニッキーなど登場人物たちが実際に物語世界のなかで歌っている描写が大変多いのが特徴だが、そのLIVEステージとしての楽曲の使い方から、役柄が心情を訴える、音楽がドラマを運ぶミュージカルの歌唱につながっていく過程が、格段にスムーズになっているのだ。これによって、華麗なLIVEパフォーマンスがふんだんにある舞台という印象が更に進んで、ショーシーンが融合したドラマティックなミュージカル作品としての醍醐味が大きくふくらむことになった。

この感触を引き出したのは、前回公演から二年を経て奥深い進化を遂げた続投キャストたちに加えて、今回公演から加入、或いは5公演のみの上演となった日本初演から復帰したキャストたちがもたらした新しい風が、よい相乗効果を生んだ故に他ならない。

レイチェル・マロンをWキャストで演じる新妻聖子は、3回目となるスーパースター役に、自信を持って臨んでいるのがよくわかる堂々としたパフォーマンスがまず印象的。2階、3階の客席にも歌声はもちろん目線や意識を飛ばそうしていることが伝わり、空間掌握力が更に上昇している。芝居面でもレイチェルの大スター故のプライドの高さや、気の強さ、反面の可愛らしさがくるくると変わる表情からよく出ていて、何より『ボディガード』と言えばの代表曲「I Will Always Love You」(オールウェイズ ラブ ユー)に至るまでに、何度もクライマックスの歌声を感じさせつつ、それでもオールウェイズ ラブ ユーがやはり頂点だったと納得させる圧巻の歌唱力が、新妻レイチェルの真骨頂を感じさせた。

一方、前回公演からレイチェル役を続投したMay J.が、彼女にとっての初演から飛躍的な進歩を遂げているのが眩しい。前回公演でも優しさや、愛らしさが前に出るMay J.のレイチェルとして魅力的だったが、今回は役柄が求める大スターの権高さや、ある意味人の意見を聞かず、我を通すことで自分らしさを守っているレイチェルを強靭に演じていて、舞台姿が非常に大きくなった。特にホイットニー・ヒューストンの名曲の数々を、曲としてではなくドラマとして、ミュージカルナンバーとして届ける深みがぐっと増したことで、レイチェルを演じるMay J.を堪能できるのが嬉しく、2022年公演を観ている人にも是非再見して欲しいヒロインぶりだった。

レイチェルのボディガード、フランク・ファーマーの大谷亮平も、大舞台で芝居をすることに更に馴染んできていて、常に全身を観られている舞台での在り様に隙がなくなり、フランクが「敏腕ボディガード」たる説得力を高めている。元々俳優としての持ち味はこの役柄にピッタリだっただけに、ここが抑えられてくると舞台全体が引き締まるし、フランク自身が負っている過去の深い傷にも思いを致せる。何より、この男ちょっと優し過ぎるのが罪だよな、と感じさせる、レイチェルが、更にニッキーが心惹かれていくことに納得のいくフランク像が構築されていて見応えがあった。フィナーレは思い切ってもっと弾けてしまってもギャップの面白さが出るかもしれないが「話題を変えるならいまがチャンスだと思うけど」のなんとも粋な台詞が似合うフランクだった。

二人のレイチェルとフランク、それぞれの好演によって、作品のラブロマンスとしての感触が大きくなっていて、そうでないと「I Will Always Love You」(オールウェイズ ラブ ユー)が歌えないとわかりつつ、別の結末があってもしっくりくる気がする深化も面白かった。

レイチェルの姉・ニッキー・マロンのAKANE LIVは初演からこの役を演じ続けている人で、役柄が映画版よりもずっと現実味がある設定になっていることもあり、生まれながらのスターの妹との能力の違いを見極める才能を持ちながら、歌手の道が諦めきれないニッキーの苦しみを切実に伝えている。なんとか幸せになって欲しいと思えるニッキーだけに、レイチェルの全く悪気がないからこそ始末が悪い言葉に傷つき、フランクの素朴な賛辞に胸躍らせる姿も切なく、ニッキーなりに浮足立っている描写を入れてきたのも人間味を深めていた。

レイチェルの広報担当サイ・スペクターの水田航生は、2020年初演以来の復帰だが、この歳月で水田が獲得してきた役者としての格が、サイ役での出演を贅沢に感じさせているのがまず嬉しい発見だった。その上で、ストーカーの影を徹底的に過小評価しているサイの思考が、ただレイチェルにオスカーを獲らせる為の戦略にのみ頭がいっぱいのビジネスライク感よりも、元々楽天的でポジティブな人なんだろうな、と感じさせるのが水田のサイの魅力。彼の正義のなかでちゃんとレイチェルを大切に思っていることが伝わるサイになった。

古参ボディガード、トニー・シベリの加藤潤一は今公演が初参加。前任の大山真志が「年中食べている」という設定だったところを、こう来たか!と変化させていて、これは是非劇場で確かめてもらいたいが、加藤の持つちょっとファニーな個性の魅力が、フランクに反発するトニーを決して嫌な奴に見せていない、トニーもまたきちんとプライドを持って仕事をしてきた人物なのだと伝えているバランス感覚がいい。これによってフランクを認める姿も清々しいし、水田と共に実はこんなに踊れます!を披露するフィナーレの楽しさも抜群だった。

もう一人の初参加、ストーカーの大久保祥太郎は、台詞こそ少ないが、出番の度に劇場全体の視線を集める必要のある役柄を、代々のキャストとは異なり、ある意味普通の人故の怖さを表現してきたのが新鮮だった。これまでは、重大な決意をした時に繰り返すアクションにゾッとさせられたものだが、そういうわかりやすい記号的な芝居をしないなかで、妄想のなかにひたすら突き進んでいくストーカーの怖さを表現し得たことに大久保の力量を感じる。客席側の壁にストーカーの最終目的が視覚化されていくシーンの、いつもながら秀逸な演出場面の集中力も高く、ミュージカル『ボディガード』を劇場で体感する興趣を強めている。

レイチェルのマネージャー、ビル・デヴァニーの内場勝則も、初演以来の不動のビルだが、この人もミュージカルの舞台で芝居をすることがよりナチュラルになっていて、極めて早い段階からストーカーの危険性を察知している、レイチェル側の唯一の人間としての存在感が際立った。特に吉本新喜劇の座長を長く務めた人がビルを演じるからには、というスタッフ側にも、客席にもあっただろう期待感を損なうことなく、過度に傾注もしていないのが好印象で、レイチェル本人も含めて、一見てんでんばらばらな方向を向いているかに思える面々を、ちゃんとチームとして機能させているのがビルなのだと伝わる信頼感も健在だった。

レイチェルの息子フレッチャーの野林万稔古澤利空笹本旭の出演回が今回は明記されていて、初日に出演した野林は、大人に囲まれて生きているが故に身に着いたフレッチャーの賢さを自然体で、May J.初日の二日目に出演した古澤は、信頼に足る人を見抜く目と強い好奇心を感じさせてそれぞれ演じている。二人より見た目の持ち味に幼さが残る笹本のフレッチャーも是非観てみたいし、両レイチェルとの組み合わせの面白さもあることだろう。また、ダンスリーダーや振付家としても多くの活躍を続けている青山航士がフランクに多大に協力するレイ・コート捜査官を演じていて、人間味のある達者な芝居を披露。さっき高みで誠実なレイを演じていた人が、いま舞台中央でダイナミックに踊っている、という変身の妙を今回も楽しませてくれている。

そのダンサーたち五十音順で飯田一徳岡田治己加藤翔多郎鹿糠友和熊澤沙穂後藤裕磨斎藤葉月杉浦小百合杉山諒二橋本由希子深瀬友梨Micco吉元美里衣の面々が、LIVEパフォーマンスシーンはもちろん、クラブやカラオケバーの客やDJなどそれぞれ重要な役柄にも扮しているのもこの作品の魅力のひとつ。リハーサルシーンで振りが入っていないダンサーに扮する吉元など、本当に踊れない人に見えるのがたいしたもので、こうした様々な役柄を演じるメンバーに実力者が揃うことで作品の厚みが増すことを実感させる。スウィングの重責を担う新井健太江崎里紗にも敬意のある作品創りが嬉しく、三度目の上演でありつつ、決してこれまでと同じではない、さらに勢いを増したミュージカル『ボディガード』を、是非多くの人に体感して欲しい。

(文・撮影/橘涼香)
※写真はプレスコールの「すてきなsomebody」May J&全キャスト〈フレッチャー役・野林万稔〉、「I Will Always Love You」新妻聖子

ミュージカル『ボディガード』日本キャスト版


原作:ローレンス・カスダン
   ワーナー・ブラザース映画「The Bodyguard/ボディガード」
脚本:アレクサンダー・ディネラリス
訳詞:森雪之丞
翻訳:阿部のぞみ
編曲:クリス・イーガン
演出・振付:ジョシュア・ベルガッセ
出演:新妻聖子・May J.(ダブルキャスト) 大谷亮平
   AKANE LIV 水田航生 加藤潤一 大久保祥太郎 / 内場勝則
   青山航士
   飯田一徳 岡田治己 加藤翔多郎 鹿糠友和 熊澤沙穂 後藤裕磨 斎藤葉月
   杉浦小百合 杉山諒二 橋本由希子 深瀬友梨 Micco 吉元美里衣(五十音順)
   新井健太(スウィング) 江崎里紗(スウィング)

◇会場&公演スケジュール

【東京】
2024年2月18日(日)~3月3日(日) 東急シアターオーブ
《料金》S席:14,000円 / A席9,500円 / B席5,500円(全席指定・税込)

※未就学児童入場不可
主催:梅田芸術劇場/フジテレビジョン/アミューズ/読売新聞社
協力:TBSラジオ
企画・制作:梅田芸術劇場
問合せ:梅田芸術劇場(10:00~18:00)〔東京〕0570-077-039

【山形】
2024年3月9日(土)~3月10日(日) やまぎん県民ホール
《料金》SS席13,500 円 / S席13,000円 / A席10,000円 / B席8,000円(全席指定・税込)

※未就学児童入場不可
主催:さくらんぼテレビ/仙台放送
共催:山形県総合文化芸術館 指定管理者 みんぐるやまがた/山形県
企画・制作:梅田芸術劇場
問合せ:さくらんぼテレビ(平日10:00~18:00)0120-150-616

【大阪】
2024年3月30日(土)~4月7日(日) 梅田芸術劇場メインホール
《料金》S席14,000円 / A席9,500円 / B席5,500円(全席指定・税込)

※未就学児童入場不可
主催:梅田芸術劇場/関西テレビ放送/アミューズ/読売新聞社
協力:ABCラジオ、FM COCOLO、FM802
企画・制作:梅田芸術劇場
問合せ:梅田芸術劇場(10:00~18:00)〔大阪〕06-6377-3800

◇公式HP・SNS
HP:https://bodyguardmusical.jp/
X(旧 Twitter):@BodyguardNIPPON

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