【公演レポート】主演:ふぉ~ゆ~『CRIMINAL FOUR ―愛しき大悪党―』

 2011年に結成され、演劇公演を中心に活動している4人組 ふぉ~ゆ~(福田悠太・辰巳雄大・越岡裕貴・松崎祐介)。彼らが、クールな犯罪集団に扮する新作『CRIMINAL FOUR ―愛しき大悪党―』が、東京・IMM THEATERで上演中だ。(※3月23日まで。のち、3月27日~30日/大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール、4月12日~13日/福岡・キャナルシティ劇場で上演)

 メンバー全員が1986年生まれで、それぞれ名前に「ゆう」が付くことから「for you」と掛け合わせて命名されたふぉ~ゆ~。俳優として個々はもちろん、『SHOW BOY』、『ENTA!7 Zepp in the SHOW』、『Endless SHOCK』や、アドリブに次ぐアドリブで上演時間がどんどん延びることが1つのウリになっている「劇団尺伸ばし」の公演など、グループの代表作も多数。また、M-1グランプリへの参戦や、バラエティの冠番組が放送中と、多岐に渡る活動を続けている。

 これまでハッピーエンドでハートフルなコメディ作品への出演が多かった彼ら。今作では一転して、表の顔と裏の顔を持つ大悪党にする。ひと味違う、だからこそ更に引き立つふぉ~ゆ~の魅力が炸裂する舞台が展開されている。

【STORY】

 舞台はフランス・パリ。国民が夢中になったパリ五輪から10年後の世界。各国の争いが絶えない中、フランスはどうにか踏みとどまり、平和を愛する国として日々を営んでいる。しかしそのスタンスを取り続けることで政治的に孤立し、経済は困窮。かつての「花の都パリ」は、今や貧困の街へと歩みを進めていた。
 
 そんな閉塞感漂う街で、市民の間で噂になっているのが犯罪集団「ル・ミラージュ」だった。その名の通り蜃気楼のような、掴みどころのない存在。巧妙な手口で警察に尻尾を掴ませない彼らを、民衆の中には「極悪非道」と罵る者もいれば、「正義の味方」と英雄視する者もいる。それは彼らの標的が、いつも極悪人であることが理由だった。
 
 ル・ミラージュの構成員は、パリ市警の警察官でリーダーのユーゴ(福田)、保険セールスマンで人を引き込む話術を持つライアン(辰巳)、ビューティーアドバイザーで天才的なIQを誇るシモン(越岡)、ジムのインストラクターで戦闘能力に秀でたガスパール(松崎)という、それぞれ表の顔を持つ4人。世界の均衡を保つべく暗躍している彼らに、新たなミッションが下される。それは間もなく行われるパリ市長選挙にまつわるものだった。

 民間企業の女性CEOで、認知も高い次期市長候補 シルヴィー・ゴールドスミス(蘭寿とむ)。彼女の人気は圧倒的で、選挙戦突入時点で既に現職市長の落選が確実視されている。しかしそんな彼女には“裏の顔”があるというのだ。その真実を追い求める地域ラジオのパーソナリティ エミリー(大原優乃)と出会った彼らは、この選挙の行方に大きく関わることになっていく──。

 エミリーと、ル・ミラージュ。それぞれの正義が交差する時、パリの運命は大きく動き出し……。

 作品の企画を聞いてはじめに感じたのは、「ふぉ~ゆ~が大悪党に!?」というストレートな驚きだった。もちろん一人ひとりが卓抜した個性を持ち、活躍には多くの彩りがあることは心得ている。やはりふぉ~ゆ~4人が主演する舞台のイメージには、明るく楽しく、でもちょっとほろっともする人情味あふれる作品がまず思い起こされるからだ。

 今回の舞台『CRIMINAL FOUR ―愛しき大悪党―』では、そんなふぉ~ゆ~が持つ、あえて単純化して括るなら“いい人”のイメージに、ひと捻りを加えている。貧困が進み、閉塞感が満ちている社会のために、非合法的な手段を使ってでも正義を貫こうとする“義賊”「ル・ミラージュ」として、彼らを物語世界に存在させているのが面白い。

 特筆すべきは、ふぉ~ゆ~のイメージから乖離した「ピカレスク・ロマン」や「アンチヒーロー」ではなく、あくまでも義賊であることで、彼らの正義が寄って立つところが非常にわかりやすいところ。そして、ユーモアやペーソスもたっぷり含まれる、ふぉ~ゆ~のふぉ~ゆ~ならではの良さを自然に活かしているところだ。

 そんな本作のストーリーは今の日本にも、そして世界にもストレートに通じる社会派的なメッセージと、彼らの持ち味が絶妙にブレンドされている。コメディに対して独特の哲学を持つ劇団・山田ジャパンを率いる、脚本・演出の山田能龍のバランス感覚が光る。

 舞台の高さも空間利用し、スピーディーな場面転換を可能にした里森恵の美術、エンターテインメント性を高める太田明希の照明、物語世界を更にわかりやすく構築するムーチョ村松の映像、そして舞台を盛り上げるパルクールなどを支えるアクション演出のHAYATEなど、スタッフワークが充実。怒涛の舞台展開を可能にした、万全の体制となっている。

 これがコンサートだったとしたら大歓声間違いなしのキメポーズで、颯爽と登場する「ル・ミラージュ」。舞台狭しと、更には客席にまで飛び出して大活躍している様が、作品を牽引していく。

 福田悠太が演じる「ル・ミラージュ」のリーダー ユーゴは、仲間の個性を最大限に尊重しつつ、キメる時にはきちんと責任を持つ理想のリーダー。ふぉ~ゆ~のリーダーである本人の立ち位置が自然に投影されている役柄の居住まいに、抜群の安心感がある。
 表の顔は警察官のユーゴは、「ル・ミラージュ」を追い続けるパリ警察の名物刑事 エリック・ゼニガタとたびたび虚々実々の駆け引きをする。飄々と繰り広げつつも、狙った獲物は絶対に逃さないと言わんばかりの野心をインサートさせる芝居も抜群。演技者のとしての幅の広さを感じさせた。

 ビューティーアドバイザーで天才的なIQを誇るシモン越岡裕貴が演じる。表の顔の設定が多くは書き込まれていない中でも、印象的な衣装の着こなしや仕草の一つひとつで、シモンの個性を立たせる立ち居振る舞いに目を引かれる。
 こうした義賊・怪盗ものなどで登場してくる、とあるセキュリティ突破のシーンは1つの見せ場だ。いきなり舞台造りがアナログになる可笑しさを、むしろネタにして盛り上げるメンバーと、大真面目に取り組む越岡シモンの動きが捧腹絶倒。是非注目して欲しい。

 辰巳雄大は保険のセールスマンで、人を引き込む詐欺師のような話術の持ち主であるライアンに扮する。物語を転がす重要なパートを担って、登場時点の明るさから少しずつ苦悩が前に出てくるライアンの変化が絶品。
 彼が密かに望み、追い続けるものは真実なのか?という疑問には、おそらく……という悲しい予想がよぎってしまう展開ではあるが、それでもなんとかその想いを叶えてあげたい、とつい願わずにはいられなくなる。そんなライアンの心根を応援したくなる、辰巳の真摯な演技が光った。

 ジムのインストラクターで、戦闘能力に秀でたガスパールを演じるのは、松崎祐介。一見脳も筋肉で出来ている?と思わせる、豪快で突き抜けた演技に惹きつけられる。一方で実は情に脆く、むしろ傷つきやすい繊細な心の持ち主、というガスパールの二面性をよく表現していてホロリとさせられる。
 アクションの一つひとつのスケールも大きく、役柄の設定をきちんと体現しており、見応えは抜群。身体だけでなく、共感せずにはいられない、大きな感情の抑揚でも魅せる松崎の一筋縄ではいかない魅力が活きていた。

 彼らと出会い、やがて共闘していくことになるコミュニティラジオのパーソナリティ エミリー。演じる大原優乃の美しい声と台詞発声の明晰さが、ラジオパーソナリティという役柄にピッタリだ。
 また、地域のほのぼのとした、ちょっと良い話を届ける姿と、市長選挙の雰囲気にのまれかけている社会へ一石を投じようとする姿のギャップに、心を奪われる。「このままではいけない」と思っている気骨ある女性であることを示す、市長候補へ質問を投げかける時の第一声も鋭く、聞き入ってしまう。全体を通じて物語を進めるキーパーソンを十二分に演じていた。

 「ル・ミラージュ」を追うパリ市警の名物刑事 エリック・ゼニガタ役の吉田メタルは、この役名を聞いただけで、おそらく多くの方がその役どころの在り様にピンとくるだろう。その求められているものをストレートに、かつコミカルに演じている。
 しかし、それだけではない、「能ある鷹は爪を隠」しているというの片鱗のにじませ方が、実に巧み。前述した福田ユーゴとの会話をはじめ、場面場面で醸し出す変化が物語世界のアクセントになっている。

  8年ぶりの演劇作品復帰となる蘭寿とむが、パリ市長候補 シルヴィー・ゴールドスミスを演じる。彼女が選挙に出馬して第一声の演説で見せる、“バリ市長候補の大本命”であるという人としての器の大きさ、おおらかさに圧倒されずにはいられない。あっと驚かせる展開で、少しずつシルヴィーの”裏の顔”を見せていく、振り幅の豊かな演技を堂々と披露していた。
 宝塚歌劇団男役トップスター時代から、人柄の良さがにじみ出る温かなオーラと、演技力によって溢れだすクールさのギャップが魅力的だった。その両面がプリズムのように、次々と現れるキャラクターの顔を自在に演じて、作品をおおいに盛り上げる。長年のファンにも、初めて蘭寿の舞台姿を観たという人にも、深く印象を残すだろう造形だった。

 そして、「ル・ミラージュ」の創設者 ロイド・ビアス役の鍛冶直人は、的確な状況判断でミッションの舵取りをする人物像を骨太に演じている。最初は謎多き人物として描かれているが、徐々に明かされる彼の経歴や「ル・ミラージュ」の4人との関係性、何より彼の4人に対する父親のような愛情の深さに、グッとくるものがある。

 また、シルヴィーの有能な女性部下 クラリスを演じる長江愛実(山田ジャパン)の、忠実でいつつどこかミステリアスな雰囲気。一転、何年経っても名前さえシルヴィーに覚えてもらえないと嘆く側近 アンリ役の谷田部亨政(劇団TEAM-ODAC)が、まったく“使えない”ように見えて腕っぷしが恐ろしく強いという意外性。といった、脇を固める実力派メンバーが演じるキャラクターの個性にも惹きつけられる。

 2024年11月、帝国劇場のクローズとともに幕を下ろした『Endless SHOCK』に久々にメンバー全員で参加した、ふぉ~ゆ~。4人が揃うことで『SHOCK』に与えた見事な厚みと同様に、個性豊かな4人の「ゆう」が「ふぉ~ゆ~」であることの強みと輝きを本作でも感じさせた。メンバーであり、ある意味“家族”でもある彼らの絆が煌めく、爽快な舞台だった。

(取材・文:橘 涼香 撮影:カンフェティ編集部)

『CRIMINAL FOUR ―愛しき大悪党―』

【東京公演】IMM THEATER
2025年3月6日(木)~23日(日)

【大阪公演】COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
2025年3月27日(木)~3月30日(日)

【福岡公演】キャナルシティ劇場
2025年4月12日(土)・13日(日)

■脚本・演出:山田能龍
■出演:
 ふぉ〜ゆ〜
 (福田悠太 辰巳雄大 越岡裕貴 松崎祐介)
 大原優乃 鍛治直人 吉田メタル
 蘭寿とむ
 長江愛実 布施勇弥 小西啓太 谷田部亨政
 木勢茉莉 木村光 大賀辰次朗 岩本涼介

特別インタビュー(カンフェティ3月号掲載)

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