100年の夢が橋をかける人生の「RUNWAY」SPECIAL ENTERTAINMENT STAGE『RUNWAY』レポート

100年の夢が橋をかける人生の「RUNWAY」SPECIAL ENTERTAINMENT STAGE『RUNWAY』レポート

 2014年に劇団創立100周年の祝祭の時を迎えた宝塚歌劇団で、当時各組を代表するトップスターとして記念式典に臨んだ、花組の蘭寿とむ、月組の龍真咲、雪組の壮一帆、星組の柚希礼音、宙組の凰稀かなめと、そこから続く2024年までの10年間にバトンを引き継ぎ、歩みを進めた元星組トップスター北翔海莉、元花組トップスター柚香光、そして元トップ娘役の夢咲ねね朝月希和を中心とした新作ショーSPECIAL ENTERTAINMENT STAGE『RUNWAY』が、12月4日~15日大阪・梅田芸術劇場メインホール公演を終え、神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールで上演中だ(29日まで)。

 宝塚歌劇が100周年へのカウントダウンを刻みはじめた2011年、梅田芸術劇場で上演された『DREAM TRAIL~宝塚伝説~』を皮切りに、宝塚を卒業したOGたちが集う公演が格段に増え、今も大小様々な上演が続いている。それらが独特の魅力を放ち隆盛を続けているのは、彼女たちのステージが往時を懐かしむスターとファンの同窓会的な催しとはハッキリ一線を画す、新たなショーを生み出しているからだ。元々日本にはミュージカルが一般に広く根付いているのに対して、ショー文化は宝塚やOSK日本歌劇団など、かつて全国にあった「少女歌劇」と呼ばれた女性だけの歌劇団がその大半を担っている側面がある。しかもこれらの歌劇団は、未婚の女性が舞台に立つという決まり事があり、スターたちはほとんどの場合時分の花を咲かせた盛りに退団していく。だがそうして歌劇団を離れた途端、ショーに出演する機会は極端に減ってしまう。もちろん俳優として様々な舞台に立ち、コンサートを開催するなど、彼女たちの多くは新たな道で活躍を続けていくが、ことショー作品となるとそもそも舞台がなかなかないのが実情だ。

 そうしたエンターテイメントにひとつの活路を見出したのが、こうしたOG公演と称される宝塚の卒業生たちが集う公演で、当然代表作の主題歌を歌うことも数多いが、そこに全く新しい魅力が輝いていることに、常々感心させられてきた。卒業後のそれぞれの活動、人生の道程は様々に異なるが、その蓄積が必ず新たな魅力を加味していて、心躍るものがとても多い。

 そんななかでも、あの創立100周年の、つまり100年に一度の祝祭の時から10年を経て、当時のトップスターが集い”今”だから実現できるシャープでスタイリッシュなショーを創る、という今回の企画はずば抜けていて、ここ十数年の“OG公演”のなかでも白眉と言えるステージが繰り広げられいるのが嬉しいことだった。

全体は休憩なし約95分のノンストップで構成されていて、宝塚で美しく花開いたスターたちが、それぞれの人生を自分らしく、かつ美しく歩み続けている、という構成・演出の稲葉太地の作詞、長谷川雄大作曲による、このショーの為に書き下ろされたテーマソング「RUNWAY」からショーはスタート。ここで黒を基調にそれぞれが鮮やかな組カラー(花=ピンク、月=イエロー、雪=グリーン、星=ブルー、宙=パープル)が大胆に重ねられた衣装でスターたちが登場してくる様が、ファッションショーの「RUNWAY」を歩くスーパーモデルを思わせるところから、ショーに対する期待感が急上昇していく。誰もが宝塚で一時代を画したスターばかりだから、歩いてポーズするが基本になっているステージングでも、既に個性が煌めいていて、こんな粋なやり方があるのかと目を瞠った。

そこから展開されるステージは、前半が宝塚の舞台でも頻繁に取り上げられる、スタンダードの名曲たちを様々な趣向で一気に見せるもので、日替わりのトークコーナーを挟んだ後半が100周年に上演された、必ず「宝塚(TAKARAZUKA)」がタイトルに入ったショー作品の主題歌、そしてスターたちの代表曲へと怒涛のように続いていく流れになっている。と書くとシンプルな構成に思えるかもしれないが、稲葉の舞台創りは精緻に凝っていて、100周年という特別な年だったからこそ交流の多かった5人のトップスターの様々な組み合わせや、元花組、元宙組など、同じ組で共に舞台を創った時期があるメンバーをフューチャーするなど、良い意味でマニアックな妙味に満ちている。敢えて登場順には倣わずにいくつかあげると、コミカルな表現にも長けている壮一帆と北翔海莉がステージの主導権を取り合って争っている間に、朝月希和がスーッとおおざらいしていくシャンソンメドレーの可笑しみが楽しいし、柚希礼音のトップ披露公演で「新生星組」を形成したゴールデントリオ、夢咲ねねと凰稀かなめが時を越えて同じ楽曲でトライアングルを作る「アシナヨ」には万感の思いが募る。

かと思うと、その凰稀と記念公演の特別出演を通じて意気投合したと伝え聞く龍真咲との、遠慮のないゼロ番争いが展開される「EL Cumbanchero」など、男役が熱くキザに決めることが定番だった楽曲を、全く新しく見せているのが新作ショーならでは。熱い男役の代表格だった蘭寿とむがイメージを保ちつつスタイリッシュに決める各曲で、柚希や柚香光、また北翔が共に踊る贅沢感が際立つ。贅沢と言えば、特段にダンスに秀でたトップスター柚希と柚香が、時を越えて共に踊る「El Tango」には極めつけ感が漂った。

そこから後半の宝塚コーナーでは、各組トップが歌うショーのテーマ曲で、瀬戸かずや、愛月ひかる、更にダンス力に秀でた選抜OGたちが、在籍していた組の曲を共に歌うことで、より組の香りが楽曲に加えられていく仕掛けも周到だ。彼女たち一人ひとりに必ず見せ場が用意されているのもたいしたもの。中でもこのメンバーの中に宝塚版『オーシャンズ11』の主人公ダニー・オーシャンを初演、再演で演じた柚希と蘭寿がいて、ヒロイン、また「11」メンバーとして関わった夢咲、北翔、柚香が揃っていることに着目した稲葉の目配りの確かさが奏功し、名曲揃いのメドレーでボルテージは最高潮に。スターたちを盤石に活かした構成力が光った。

そんな舞台に躍動した100周年のトップたちは、元花組の蘭寿とむが熱いパッションを感じさせ続けていた男役姿と、生来の穏やかな人柄とのギャップの魅力に、更なる柔らかさを加えていて惹きつける。特に神奈川公演に入ってから本人がより一層舞台を楽しんでいることが伝わり、この座組全体の筆頭でもある蘭寿が醸し出す雰囲気が、舞台に朗らかなものを加えていた。

元月組の龍真咲は、退団後歌手としての活動も重ねてきた蓄積が、男役時代の「龍節」と感じさせた歌い方を進化させていて、ナチョラルさと力強さが共にある歌声が伸びやかだ。宝塚時代、また退団後のコンサート活動でも、こうした色使いのハッキリした衣装が殊更に似合う人で舞台姿も華やか。茶目っ気の潜むキュートな持ち味も健在で目に楽しい。

蘭寿の同期生で「ジャイアン」を自称する元雪組の壮一帆は、スパッと切れ味の良いトークにその持ち味を生かしつつ、実は非常にクレバーな気配りの人でもある壮の存在が、座組の潤滑油になっているのだろうなと、想像させる余裕ある舞台ぶりが光る。退団後台詞劇も含め、社会派的な作品にも多く出演している経験値が、表現の幅を格段に深めているのも頼もしい。

ショー作品、特に自身の名を冠した『REON』シリーズで大きな魅力を発揮した元星組の柚希礼音は、まさに水を得た魚のよう。先頭に立って全員を率いていく姿がこれほど似合う人がいるだろうかと改めて思わせつつ、この作品の特徴でもあるメインも張れば、次の曲ではバックも務める、スターたちが魅せる二面性と舞台への献身が柚希のなかにもきちんとあることが感じられ、非常に早い時期に組の中核メンバーになっていた人だけに新鮮な感動があった。

話題の台詞劇やNHK大河ドラマへの出演など、近年芝居の印象が強かった元宙組の凰稀かなめは、一も二もなくゴージャス。抜群のスタイルも輝く美貌も健在なばりか、歌声も力強く進化していて10年の重みを感じさせる。「孤独だっていいじゃない」のフレーズが印象的な『PHOENIX 宝塚!!』の主題歌は、既に凰稀自身のテーマ曲とも言えて、退団後何度となく歌声を聞いてきたが、やはり組のメンバーと歌う趣は格別だった。

そんな100周年トップスターの一人柚希に続く星組トップスターを務めた北翔海莉は、宝塚時代から抜群だった歌唱力に更なる磨きがかかっていて、歌の比重が高いショーステージをおおいに盛り上げている。前述した壮との掛け合いシーンでも、極自然に客席に「どう思います?」と訴えるなど、観客を場に巻き込んでいく姿も余裕と親しみがあふれ、多彩な表現力が様々な楽曲の良さを伝えてくれる安心感があった。

そして、110周年までトップを務めた元花組の柚香光は、一挙手一投足の全てがスタイリッシュ。新人公演時代にタイムスリップしたかのような印象を与えたかと思うと、堂々のトップスターオーラを振りまき、また柚希と踊ればしなやかな繊細さもこぼれるなど、多面体の煌めきで魅了する。『Cool Beast!!』をこんなに早くまた観られるとは退団公演時には想像もできなかったが、そんなサプライズの全てにも「ジャンル・柚香光」の唯一無二が貫かれていた。

また、元トップ娘役の称号を持つ二人、柚希礼音の相手役で元星組の夢咲ねねは、柚希に向けるときめきの視線が娘役そのもの。退団後様々な役柄を演じているが、柚希の隣に立てばもうそれだけで瞬時に10年前に戻る娘役スイッチが入るのも微笑ましく、特大リボンをつけたくなる衣装の十川ヒロコの気持ちがわかる気がする。

元雪組トップ娘役の朝月希和は、退団後名作ミュージカルの可憐なヒロインを演じている姿から一転、このショーではどこか男前な押し出しを感じさせるのが嬉しい驚き。相手役を務めた彩風咲奈とのトップお披露目作品『Fire Fever!』の力強い歌いっぷりも実に颯爽としていたが、一転雪組つながりで壮一帆の隣に立つと、愛らしい娘役に変貌する変身の妙味も感じさせた。

花組のアニキと呼ばれた瀬戸かずやは、ダンサーメンバーの先頭に立ち、八面六臂の大活躍。花男の矜持健在で、柚香光との邂逅もしみじみと余韻を残した。一方愛月ひかるは宙組で育ち専科を経て星組の中核メンバーとして堂々と活躍した記憶が新しいが、凰稀かなめと共にいると一気に若手の雰囲気になる宝塚マジックを体現。二人共に男役愛の強さをにじませる。そしていずれ劣らぬダンサー、シンガーを揃えたなと感じさせた光月るう、沙月愛奈、響れおな、天寿光希、音波みのり、笙乃茅桜、夢妃杏瑠、和海しょう、風馬翔、晴音アキ、秋音光、希峰かなた、大原万由子、帆純まひろ、花束ゆめは、キャストたちは、何曲覚えたのだろうと思うほど多くの場面を盛り立てていて、このショーになくてはならない存在。集団美のなかにスターたちに負けない個性も入れ込んだ全員に拍手を贈りたい。

総じてノンストップで駆け抜ける舞台のエネルギーと完成度が素晴らしい舞台で、好評を受け追加公演も打たれたほどの人気もうなずける。28日、29日にはライブ配信も用意されているので、100年の歴史に橋をかけ、それぞれの人生の「RUNWAY」を力強く歩んでいる美しきスターたちの、今しかないショーを体感して欲しい。

【取材・文・撮影/橘涼香】

公演情報

SPECIAL ENTERTAINMENT STAGE『RUNWAY』

日程:
12月4日(水)~15日(日)
大阪・梅田芸術劇場メインホール(※公演終了)
12月21日(土)~29日(日)
神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場 ホール

構成・演出:稲葉太地(宝塚歌劇団)
出演:蘭寿とむ、龍真咲、壮一帆、柚希礼音、凰稀かなめ、北翔海莉、柚香 光/夢咲ねね、朝月希和
瀬戸かずや、愛月ひかる、光月るう、沙月愛奈、響れおな、天寿光希、音波みのり、笙乃茅桜、夢妃杏瑠、和海しょう、風馬翔、晴音アキ、秋音光、希峰かなた、大原万由子、帆純まひろ、花束ゆめ

料金:S席14,000円 A席9,000円 椅子付立見席6,000円 (全席指定・税込)

お問合せ:梅田芸術劇場【東京】0570-077-039(10:00~18:00)

釈付チケット・ライブ配信チケット販売中

【注釈付チケット】
[神奈川公演]
注釈付S席 14,000円(全席指定・税込)
注釈付A席  9,000円(全席指定・税込)
※追加公演を除く。

【ライブ配信日程】
●2024年12月28日(土)17:00 公演
●2024年12月29日(日)13:00 公演 大千穐楽 
※いずれもアーカイブ配信なし

<視聴方法>
・PIA LIVE STREAM(ぴあ)
・Rakuten TV

<配信チケット料金(税込)>
ライブ配信視聴券:各4,500円
ライブ配信視聴券(公演プログラム郵送サービス付き):各7,000円 ※送料別途必要
※「公演プログラム郵送サービス付き」は数量限定。予定枚数に達し次第販売終了。
※公演プログラムは各公演会場で販売するほか、12月4日よりネット通販も実施
※(参考)プログラム販売価格:2,500円(税込)

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