エンターテインメントの力を信じる大人の全力『CLUB SEVEN another place』公演レポート

ソング&ダンス・芝居・タップ・ミュージカル・スケッチ、あらゆる要素を取り入れた“大娯楽エンターテインメント”として愛され続けるニュー・エンターテインメント・ショー『CLUB SEVEN』。2003年5月の初演以来、脚本・構成・演出・振付を務める玉野和紀が紡ぎ出すおもちゃ箱をひっくり返したような世界観の舞台は、昨年節目の20周年の歴史を刻み、ウエスタ川越大ホールでの大千穐楽公演は、回替わりで出演していたキャストが勢ぞろい。人数が増えても、会場が変わっても自由自在にショーを構成できる玉野の発想力と、キャストたちの対応力にびっくりしっぱなしの舞台は祝祭に包まれ、体感2時間実質5時間越えの、終演後時計を見て再度びっくりした、全く長さを感じさせない怒涛のエンターテインメントが繰り広げられていた。

そんな“成人式”を超えた21年目の今年、ところをお馴染みのシアタークリエから有楽町よみうりホールに移し『CLUB SEVEN another place』と題された舞台は、公演前取材で玉野が語ってくれた「会場が変わってもこっちは何も変わらないんですよ。常に全力でやるのみなので、大きな会場だから大きなエネルギーでということではなくて、キャストの人数が変わっても一人ひとりが全力なのは同じですし、観てくださる方のキャパが5万人だろうと200人だろうと、僕たちが全力だということは同じなので」の言葉通り、大人が全力で頑張る怒涛のステージが展開されていた。

実際、今回過去最高の95曲にまで増大した『CLUB SEVEN』名物、ノンストップ五十音メドレーの果てに、全員がオープニングの衣裳で勢揃いするカーテンコールでは、いつも自然に目頭が熱くなってくる。そこには人ってすごいな、一生懸命な姿ってなんて素晴らしいんだろう、という思いだけがあふれていて、観ていて日々背負っていたあらゆるものが浄化されていくような心持ちにさせられるのだ。これは確かに場所がシアタークリエでも、シアター1010でも、ウエスタ川越大ホールでも、そしていま、ラストスパートに入っている有楽町よみうりホールでも全く変わらない、『CLUB SEVEN』の持つ力だった。

豪華絢爛な衣裳の「大奥」まで登場するドラマ性とコントを掛け合わせたような、2バージョン日替わりの「スケッチ」。大真面目からのジェットコースターもある「ミュージカル」。ダンス、歌、そして五十音メドレー。そのぎっしり詰まったエンターティメントのなかには、誤解を恐れずに言うならばくだらなさ過ぎて大爆笑、という展開、やはり玉野の言葉を借りれば「豪華な宴会芸」というしかないものも確かにある。けれども、全員がこれでもかとカッコよく決めて扉から登場する冒頭のダンスシーンの引っ込みで既に、客席に背を向けた途端、鬼の形相になっているんだろうな……が見えるような、猛ダッシュで扉に引っ込んでいくキャストたちの、早替りに次ぐ、早替り。時にはこれだけの為にそっくり着替えたんだと、感心する一瞬の登場の為に、新たなキャラクターに扮する全員の、これが全力でなくて何?という姿勢には、言葉ではとてもいい表せないほど尊いものがある。

とにかく頑張る、その頑張る姿は必ず客席に共有されて、エネルギーと笑顔の循環、連帯が生まれる。そうした全力だけが生み出す力を玉野和紀は、そして彼の目指すところに賛同するキャスト全員が信じている。だから確かに『CLUB SEVEN』は、どこにいっても『CLUB SEVEN』であり、どこにいっても人のぬくもりに溢れた美しい輝きを見せてくれるのだ。

そんな、21年目の『CLUB SEVEN』には、初演から作品を支え続ける“レジェンド”メンバーと、常連の雰囲気を醸し出しはじめた面々、さらに清新な新キャスト、総勢9人が揃った。

この人がいなければ『CLUB SEVEN』は成り立たない脚本・構成・演出・振付・出演の玉野和紀は今回も絶好調。玉野の強みは汲めどもつきぬ新たなアイディアと同時に、これは外せないという定番のメニューを決して忘れないバランス感覚だろう。これだけの歴史を重ねた公演だと、五十音メドレーのような大枠の構成はもちろん、細かい場面にもこれを観ないと『CLUB SEVEN』を観た気がしない、という名物シーンが多く生まれている。その両者を並び立たせ、良い意味のマンネリズムと、常に新しい試みとが合致していなければ、『CLUB SEVEN』の歴史はきっとここまで続いてはいない。その玉野の名コンダクターぶりにはただ頭が下がるし、老若男女を演じ分ける元気いっぱいの姿に、忘れてならないタップシーン同様の力が漲っている。

参加している多くのミュージカル作品でも、“怪演”という雰囲気を表出することが増えている吉野圭吾が、『CLUB SEVEN』の舞台では攻めに攻めていつつ、どこか茫洋とした空気感も生み出すのは常に興味深いことだが、21年目を迎えてその感覚が更に強まり、出てきただけで何かが起こりそうな予感がして(あにはからんやそうでない出番もあるだけに)目が離せない。ここで培ったものが、俳優吉野圭吾の現在地にも、大きく寄与しているのだろうと感じさせる舞台ぶりだった。

ここのところ“イケオジ”の香りも放つようになってきた東山義久は、今回更に大きく役割りに幅を持たせていて、東山義久がそれをやってしまいますか?と、一瞬虚を突かれたほど思い切ったキャラクターも演じて、新たなステージに入ってきたことを感じさせる。かと思うと、これぞ東山の粋で目が離せなくなる独特のカッコよさ全開のシーンも忘れずにきちんとあり、ますます奥深い魅力を見せてくれている。

玉野の片腕として『CLUB SEVEN』を支え続ける西村直人は、客席の空気を読む力が抜群で、あまりにも自在に繰り出す台詞が、時にアドリブに聞こえるほど。こうしたノンストップの舞台には何かしら昨日とは違うことが起こるのがむしろ当たり前で、それを全て回収して、むしろショーアップにつなげていく西村の貢献度は計り知れず、どんなキャラクターでもお任せの安心感も相まった、『CLUB SEVEN』に欠かせない頼もしい人だ。

実際の出演回数以上に、もうずっと『CLUB SEVEN』に出ているような気にさせられる大山真志は、彼にしかできないという当たり役を既に多数抱えていて、そのいずれもが楽しさにあふれるのが観ている方にも幸福感を届けてくれる。もちろんダンスも歌の実力も確かで、年年歳歳貴重な存在になっている。

今回『CLUB SEVEN』というタイトルのまま、更に2名が加わり9人になった『CLUB SEVEN』の新しい顔、林翔太は舞台を中心に活躍を続けている人で、こうしたなんでもできなければならないステージも楽々と務めているかに感じさせる、地力の確かさに舌を巻いた。それがちょっと意外なキャラクターもクッキリと見せる力になっているから、男性アイドルはもちろん女性アイドルに扮しても、バッチリと似合っているのはむしろ当然なのだろう。舞台に眩しい煌めきを加えてくれていた。

もう一人の初参加鈴木凌平は、ダンサーとしての活躍が顕著で、近年ではミュージカル『ベートーヴェン』で演じたゴースト=音楽の精霊の、チームとして動きつつ、独自の感性が迸るダンスが殊に印象的だが、踊りだけでなく歌も芝居も心境著しいことがこの舞台でしっかりと示してくれた恰好。たくさんの可能性を秘めた人材として、今後の活躍がますます楽しみになった。

そして、基本的には毎回チェンジする、という形式をとってる女性キャストだが、そのなかでも3回目の参加となった北翔海莉は、『CLUB SEVEN』が大好きなんだろうな、が全身からにじみ出るのがこのエンターティメントステージを更に弾ませている。歌、ダンス、芝居と三拍子そろった実力派なだけでなく、コントシーンにも臆さず、とことん飛び込んでいく潔さがステージの温度を高めている。

その北翔とは宝塚時代同じ組で活躍した時期もあった初参加の留依まきせは、宝塚時代からこの人あり!と言われた歌唱力を存分に発揮する歌声を披露。もちろんそれだけでなく、ダンスに芝居にと大活躍で、北翔とのコンビネーションも極めてよく、初参加とは思えない堂々とした舞台姿で作品を盛り上げてくれた。

そんな9人が舞台を縦横無尽に走り回り、踊り、歌うステージのボルテージが、変わらないことが嬉しく、実は密かに願っている「いつか一度でいいから玉子ちゃんから飴ちゃんをもらいたい」という夢を今回も持ち越しつつ、楽しんだ21年目の『CLUB SEVEN another place』、大人の全力が詰まったステージがここからさらに未来へと続いていくことを願っている。

【取材・文・撮影/橘涼香】

※10月12日(土)13時公演より大山真志さんは怪我のため休演となりました。10月12日(土)・13日(日)はA・Bミックスバージョンにて演出内容を一部変更の上、上演させていただきます。

公演情報

『CLUB SEVEN another place』
■脚本・構成・演出・振付・出演:玉野和紀
■出演:玉野和紀 吉野圭吾 東山義久 西村直人
    林翔太 大山真志 鈴木凌平 北翔海莉 留依まきせ
■日程:
●9/22~9/23◎シアター1010
●9/28~10/13◎有楽町よみうりホール
■料金:12.500円(全席指定・税込)
※Aバージョン、Bバージョンあり(スケッチの一部が変更。詳細公式サイト参照)
■お問い合わせ:
有楽町よみうりホール公演
キョードー東京TEL:0570-550-799(平日11:00~18:00/土日祝10:00〜18:00)

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