今年5月26日に宝塚歌劇団を退団した、元花組トップスター柚香光の卒業後初ステージとなるRay Yuzuka 1 st solo concert『TABLEAU』が大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕(9月11日~16日)、東京・東京国際フォーラムホールC(21日~24日)、愛知・御園座(28日~29日)へと歩みを続けている。
『TABLEAU』とは「絵画」そして、生きている人間が絵画のように存在する「動く絵」という意味を持つ単語。そのタイトル通りに、柚香光のこれまで、いま、さらに未来を思わせる様々な場面が、一つひとつ強烈な「絵」として残る数々の場面が展開されていく。
その盛りだくさんなことと言ったら驚くばかりで、おそらく宝塚の男役時代そのまま、と感じさせるものも多い場面もあれば、こう来ましたか!という場面も満載。多彩な楽曲による歌、様々なジャンルのダンスのそれぞれが、一篇のドラマのように映るのは柚香の秀でた芝居心の賜物で、どの場面も『TABLEAU』として目に焼き付いてくるものばかりだ。
そのなかで、最も強く印象に残ったのは「柚香光」は「柚香光」なんだ、という非常に強固な事実だった。それはシンガーの塚本直、長谷川開、ダンサーの水島渓、鑓水海人、小澤竜心、小石川茉莉愛、大田志歩、畠中ひかりと共に「Let Me Entertain You」で賑やかにはじまるオープニングから顕著に表れてくる感覚だった。通常、宝塚を退団したての元トップスターが、こうした男女のシンガーやダンサーと共に舞台を創ったとき、特に男役時代に近い場面があればあるほど、女性が男性役を演じる宝塚歌劇という世界のなかで、男役を男役たらしめているのは娘役なんだな、という真理を感じることが極めて多い。それは歌やダンスの技術の高さとは全く比例するものではなく、どんなに優れたダンサーと踊っても、やはりあの世界はひとつの幻想共同体のなかで成立していた関係性なのだと、退団を改めて意識する瞬間にもなり得る。けれどもこのステージで新たな仲間と歌い踊っている柚香からは、そんな感慨が全く湧いてこなかった。それほど柚香光はキメるところは思いっきりキメるのに、まるで自分の感覚のまま踊っているかのように錯覚させる、自由さを併せ持った稀有な存在のままステージで躍動していたのに目を瞠った。
それは名シンガーとして名を馳せている塚本直の歌と共に、幼馴染の男女の数十年の物語を柚香がダンスで表現した、というよりもダンスで演じた「Bang Bang」でより一層明確になった。元娘役ではなく、パワフルボイスの魅力でミュージカルシーンでも大活躍している塚本と男女を演じて全く違和感がないのだ。それは後半に出てくるドレス姿をはじめとした様々な衣装でも同じだった。どんな場面も自然体のこの柚香を観てくれたら、個人的にもメディア側の末席に連なる人間としても、ずっとやめて欲しいと思っていた、元男役に頻繁にかけられる「スカートは履きましたか?」「髪は伸ばしますか?」という「本人が好きなようにすればいいだけじゃないか!」とつい横から遮りたくなるような質問もさすがに飛んでこないだろう。さらに何故かむしろ宝塚ファンからあがる確率が高い退団後も「男役芸」を続けることに対する疑義とも、最早無縁な気がする。そうした従来の枠組が全くない居住まい、柚香を柚香たらしめている「TABLEAU」が次々に観られる構成をした、このところ古典作品を現代の蘇らせる鮮やかな仕事ぶりが際立っている演出家・小林香の手腕も随所に光り、とにかく観ていてワクワクする。
そんな柚香が、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演の初日と二日目にスペシャルゲストとして登場した元相手役の星風まどかとのコーナーでは、極自然に男前度が上がるのも微笑ましい。既にまるで姉妹のようにも、魂のバディのようにも映る二人の関係性が、宝塚時代に共に歌ったデュエット曲や、阿吽の呼吸でありつつふんわりとしているトーク、更にダンスへとつながっていく時間が美しく、それぞれの道を進みながら、またこうした機会もいつかあるのかもしれないと思わせる二人が醸し出す「TABLEAU」が尊かった。東京国際フォーラムホールC公演では、柚香のトップお披露目公演でもあった『はいからさんが通る』などで初代相手役を務めた華優希がスペシャルゲストで出演することが決まっているので、どんな「TABLEAU」を見せてくれるのかも楽しみでならない。
また、セットリストのそこここで、いまの柚香の心情がそのまま歌詞にのっている、そうした楽曲がチョイスされているんだなと感じる場面も随所にあり、これは聞きもの。様々な仕掛けのある石原敬の美術、石田肇の映像も面白く、例えば“多様性の時代の申し子”と言ったまとめ方もしたくない、全ての括りから飛翔している「柚香光というジャンル」が生まれ出たことが何よりも大きな興趣だった。この人がこれから何をして、どんなものを見せてくれるのか。そんな期待が大きく膨らんだRay Yuzuka 1 st solo concert『TABLEAU』、幸いにもライブ中継、ライブ配信も決まった「柚香光」の第一歩を、是非多くの人に見つめて欲しい。
【文・撮影/橘涼香】
Ray Yuzuka 1 st solo concert『TABLEAU』
■構成・演出:小林香
■出演:柚香光
塚本直、長谷川開
水島渓、鑓水海人、小澤竜心、小石川茉莉愛、大田志歩、畠中ひかり
〈Special Guest〉
星風まどか (大阪公演・9月11日&12日)
華優希 (東京公演・9月21日&22日)
■日時場所
【大阪公演】梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2024/9/11(水)~9/16(月・祝)
【東京公演】東京国際フォーラム ホールC
2024/9/21(土)~9/24(火)
【愛知公演】御園座
2024/9/28(土)~9/29(日)
【ライブ配信】
・9月28日(土)17:00 公演
・9月29日(日)13:00 公演 大千穐楽 ※アーカイブ配信なし
【視聴方法】
・PIA LIVE STREAM(ぴあ)
〈配信チケット料金(税込)〉
各4,500円
各7,000円 (公演プログラム郵送サービス付き): ※送料別途必要
【ライブ・ビューイング】
9月29日(日)13:00 公演 大千穐楽 ※来場者プレゼント付き
【会場】全国各地の映画館
〈チケット料金〉5,200円(全席指定・税込)
詳細 https://liveviewing.jp/rayyuzuka-tableau/