慈愛に満ちた聾唖の少女と戦場を駆ける男の物語 舞台『OVER SMILE 2024』ゲネプロレポート

慈愛に満ちた聾唖の少女と戦場を駆ける男の物語  舞台『OVER SMILE 2024』ゲネプロレポート

「企画演劇集団ボクラ団義」のオリジナル作品『OVER SMILE』が約11年ぶりに2024年版として幕を開けた。
「赤」「青」「緑」三色の国々が争う世界で、どこの色にも属さない聾唖の少女・スーと「赤」の隊長・レイが出会い、心を通わせていく。交われば白になるはずの世界で、何故人々は争うのか。総勢20名以上の豪華キャストが命を燃やして舞台に立つ、その一部始終の様子をゲネプロレポートでお届けする。

2022年3月に惜しまれつつも活動を休止した「企画演劇集団ボクラ団義」。しかし2023年には主宰の久保田唱が株式会社ボクラ団社を立ち上げ、同年6月に初プロデュース公演『ボクノロワイヤル~髪の毛同士の戦闘絵巻~』を上演し、事実上の復活を遂げた。

近年では舞台『炎炎ノ消防隊』シリーズ、舞台『Collar×Malice』シリーズなど、数多くの作品を手掛ける脚本家・演出家の久保田だが、彼が約11年前にボクラ団義で手掛けたオリジナル作品がこの『OVER SMILE』だ。ふと見かけた手話をする少女の姿から構想を練り始めたのだという本作は自団体での上演のみならず、他社プロデュースによる商業公演、高校・大学・俳優専門学校での教材としても取り上げられており、今回はまさに待望の再演となった。

物語の始まりは、とある喫茶店から。現代で暮らすごく普通の大学生カップル、竹原弥生(演:高岡薫)と福永恵太(演:木村優良)が今作のストーリーテラーに近い役割を果たす。福祉を専攻する彼らは手話が使えることがきっかけで、喫茶店で謎の老人(演:図師光博)と出会うことになる。

この国で起きた、とある戦争の話――老人がふいに語り始めたかと思いきや、次の瞬間には、弥生と恵太は「赤」「青」「緑」の国々が日々争う、いわば“三国志”のような世界に巻き込まれていたのだ。

激しい戦闘で負傷した「赤」の軍『レッド・エイジ』を率いる一番隊隊長のオウ・レイ(演:沖野晃司)は、のちに弥生と恵太も身を寄せることになる『狭間の谷』の診療所で目を覚ます。レイを介抱したのは、どの色にも属さない少女・スー(演:佐倉初)であった。一刻も早く戦場に戻ろうとするレイを必死に止めるスーだが、何故か言葉を発さず、必死にしがみつくのみ。その様子に違和感を覚えたレイは、診療所の主であるドクトル・タカマツ(演:田中彪)から、彼女は耳が聞こえないのだと諫められる。

耳が聞こえず、言葉を話せないスーは、相手の唇を読み、手話で会話をする。表情はいつも笑顔で、レイのことを怖がる様子もない。目を逸らされてしまうとコミュニケーションが取れなくなってしまうから、自分を見てもらえるように、不安を打ち消すかのように、無理にでも笑っているのだ。戦地にはおよそ似つかわしくないスーの笑顔は、レイをはじめとした周囲の心に変化をもたらしていく。そんな彼女には「時を止める」という、この戦争の根底を覆しかねない特殊能力があったが、その力を使うには大きな代償が伴うのであった。

まさに小鳥のようなかわいらしい声も武器である女優・佐倉初から、あえて声という表現を奪うという選択をした今作は、彼女にとってもきっと大きなターニングポイントになるのではないか。身振り手振りで懸命に周囲に訴えかける健気さ、何色にも染まらない純粋無垢さは、どこか浮世離れしており、ヒロインにぴったりであると感じた。

一方で圧巻の殺陣シーンをはじめ、『レッド・エイジ』を率いる隊長たる風格を感じさせる沖野晃司は、2013年の同作品でもオウ・レイ役を務めていた。10年以上の年月を経てさらにその覇気は増すばかりだ。

この2人の出会いが後の戦争の行方を大きく左右していくわけだが、各軍には多くの魅力的な登場人物がおり、それぞれの思惑もまた、物語を彩っていく。

レイが所属する『レッド・エイジ』は、シュフ(演:成松慶彦)を総督として、軍師・リュウソウ(演:縣豪紀)、一番隊副長・エンブ(演:飯山裕太)、二番隊隊長・バタク(演:森大地)、二番隊隊士・ブーチャン(演:麻生金三)、一番隊隊士・チョウロン(演:添田翔太)らで構成されている。レイが命を懸けて任務を遂行しようとする一方で、リュウソウはシュフと意見が噛み合わない妃・ミヤビ(演:舞川みやこ)に甘言を囁き、何やら企んでいる様子……。

そんな『レッド・エイジ』と対峙する「青」の軍、『ユーリー・ブルー』はナイトのソロリス(演:黒木文貴)を中心に、ナイトのベラルーシ(演:奥村等士)、デイムのジーナ(演:甲斐千尋)らが皇女・レオナ(演:宇田川美樹)の名のもとに集う。レイと同じく、スーに命を救われたソロリスは、素直にスーに惹かれ、彼女を守るために奮闘する。他軍に比べ、少し緩い空気のある『ユーリー・ブルー』はそれぞれが自分の信念に従って動いており、ジーナもまた、自らの考えで『レッド・エイジ』のシュフと接触する。祈り子・踊り手のパピコ(演:鈴木友梨耶)、ペネルペ(演:花井円香)という謎めいた存在にも注目だ。

そしてやっかいなのが「緑」の軍、『グリーン・ステイツ』。宰相のドナルド(演:林光哲)は今作のヒール役といえるだろう。傍若無人な振る舞いで、他軍は勿論、自軍の兵士たちをも虐げ、姫であるメアリー(演:遠藤しずか)もまた、ドナルドの行動を助長するばかり。兵長のコロンバス(演:氏家蓮)は感情の見えない昏い瞳でドナルドの言いなりに動くが、少女・ミズーリ(演:花崎那奈)に対しては自らの従妹として思うところもありそうで……。

そんな3国がぶつかり合う戦場に放り込まれた弥生と恵太は、不思議と先の未来がふと見えることがあり、中立の立場を貫くスーや、彼女を守ろうと奮闘するレイ、ソロリスらと結託していく。

何故この世界に自分たちが飛ばされたのか。スーと同じく手話が使える者だからだろうか。答えを探し求める2人の前に、『グリーン・ステイツ』の戦士として、自分たちをこの世界に引き込んだ張本人――リッチモンドが敵として現れる。

怒涛の展開で観るものを世界観に引き込んでいく『OVER SMILE』。スーやタカマツ、弥生たちが手話で会話するシーンでは、一部字幕が付いているが、字幕と共に彼女らの表情や口の動きにも注目してほしい。

今作ではさらに、聴覚障害があるお客様へ向けたタブレット台本の貸出を行っているほか、3月3日の“耳の日”には耳の不自由な方が振動で音を体感できる[ボディソニック]席を用意するなどの取り組みも実施。本作のキーとなる“手話”をきっかけに、さまざまなバリアフリーを考慮した取り組みを行っていることも知っておいてほしいところだ。

言葉を尽くしても理解し合えるとは限らない世界で、言葉が使えない少女と、戦うことしか出来ない男は、一体どんな結末を迎えるのか。弥生と恵太が知ることになる真実と、彼らが導き出した答えとは。

“色”褪せない名作をぜひ劇場で体感してほしい。

執筆:通崎千穂(SrotaStage)


★特別インタビュー他、関連記事はこちら!

老人が話し始めた物語は、彼の若い頃の話だという。
大学生の竹原弥生と福永恵太が暮らすその地で起きた話だというのに、見たことも聞いたこともない、どこの国ともわからぬ話……。

戦いが絶えないその地では、「赤」「青」「緑」三色の国々が日々争っていた。
その中の『狭間の谷』と呼ばれる診療所に、どこの色にも属そうとしない一人の少女がいた。
耳の聞こえないその少女は、戦いを嫌った。
戦いを嫌うその少女は、自身の持つ不思議な力で度々、「時を止めた」。
少女は心の不安を見せないよう、いや、不安だからこそ、いつもオーバーなほどに笑顔だった……。

戦いの果てに待つものは。人が物語を話す目的とは。少女の顔から笑顔が消えた時、その地で起こる出来事とは。
手話を織り交ぜた会話と、三色の激しい戦いによって、物語が綴られる。


舞台『OVER SMILE 2024』


【会場/日程】
あうるすぽっと
2024年 3月1日(金)~3月10日(日)

【スタッフ】
作・演出:久保田唱(企画演劇集団ボクラ団義)
音楽:三善雅己
楽曲提供… Rose in many Colors

【出演】
スー:佐倉初
レイ:沖野晃司
弥生:高岡薫
恵太:木村優良
ソロリス:黑木文貴
ドナルド:林光哲
リュウソウ:縣豪紀
コロンバス:氏家蓮
エンブ:飯山裕太
ベラルーシ:奥村等士
バタク:森大地
ブーチャン:麻生金三
チョウロン:添田翔太
シュフ:成松慶彦
ジーナ:甲斐千尋
ミヤビ:舞川みやこ
メアリー:遠藤しずか
ミズーリ:花崎那奈
パピコ:鈴木友梨耶
ペネルペ:花井円香
レオナ:宇田川美樹
ドクトル・タカマツ:田中彪
リッチモンド/老人:図師光博
アンサンブル:佐竹正充/増本祥子/小林諒大/清水龍平

【チケット】
 ◎前売り券〈一般〉
  特典あり:9,900円
  特典なし:8,800円
 ◎前売り券〈後方(二列)席〉
  特典あり:7,700円
  特典なし:6,600円
 ◎当日券〈一般〉
  特典あり:10,600円
  特典なし:9,500円
 ◎当日券〈後方(二列)席〉
  特典あり:8,400円
  特典なし:7,300円
 ★特典(全券種共通)・・・非売品 2L版ブロマイド(全公演異なるデザイン)


公式サイト:https://bokugene.com/oversmile2024/
公式 X(旧 Twitter):@oversmile2024



企画・主催:株式会社ボクラ団社
共催:株式会社 T-gene/株式会社キョードーファクトリー/ロングランプランニング株式会社
宣伝:キョードーメディアス
製作:舞台「OVER SMILE 2024」製作委員会

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