【公演レポート】自分と違う相手を認め、愛せるミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』

【公演レポート】自分と違う相手を認め、愛せるミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』

一見破天荒なストーリーの中に、多様な価値観を持った人と人が認め合うことの尊さを描いて、ミュージカル界に旋風を巻き起こし続ける『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』が、渋谷の東急シアターオーブで上演中だ(29日まで。のち、12月6日~10日大阪・梅田芸術劇場メインホール、12月23日~24日静岡・静岡市清水文化会館マリナートで上演)。

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』は、日本では『天使にラブ・ソングを…』のタイトルでウーピー・ゴールドバーグ主演により、1993年に公開され大ヒットとなったコメディ映画を原作に2009年英国で製作されたミュージカル。

日本初上陸となった2014年帝国劇場公演での大熱狂を皮切りに、早くも2016年に帝劇で再演。のち、東急シアターオーブにところを移し、2019年~2020年、2022年~2023年にかけての全国ツアー公演と、回を重ね愛され続ける作品となっている。

今回の上演は、前回第4演目の公演がコロナ禍のなか一部中止を余儀なくされた苦難を晴らすべく、非常に早い時期に実現した第5演目で、ヒロイン・デロリスに初演以来の森公美子と、2019年公演に初登場以来、これが3度目のデロリス役となる朝夏まなとら、お馴染みのキャストに新キャストを迎え、更にパワーアップした公演が続いている。

【STORY】

1977年、ディスコブーム華やかなりし頃のフィラデルフィア。
天真爛漫で、必ずスターになる!という夢を追い続けるデロリス・ヴァン・カルティエ(森公美子/朝夏まなとWキャスト)は、クラブ歌手としてステージに立つことを目指している。だが、愛人でギャングのボスのカーティス・ジャクソン(大澄賢也)は、自身が経営するナイトクラブでデロリスを歌わせようとはせず、はぐらかすばかり。
それでもカーティスに従っていたデロリスだったが、クリスマスにプレゼントとして手渡されたのが、カーティスの妻の毛皮だったことを知り、遂に彼と別れ、自分の力でスターになる道を切り拓こうと決意する。

そんな折も折、カーティスが子分の三人組TJ(泉見洋平)、ジョーイ(KENTARO)、パブロ(林翔太)と共謀して、仲間を殺すのを目撃してしまったデロリスは、彼らから命を狙われるハメに。
必死に逃げ延び助けを求めて駆け込んだ警察で、彼女は高校の同級生だった巡査のエディ・サウザー(石井一考/廣瀬友祐Wキャスト)と再会。重要証人であるデロリスを匿う「完璧な場所を思いついた!」とのエディの指示で向かったのは、なんと規律厳しいカトリックの修道院だった。

自分の心の赴くままに生きてきたデロリスが、修道院の生活に溶け込めるはずがないと、修道院長(鳳蘭)は猛反対するが、資金難に苦しむ教会に警察から多額の寄付が得られる、とオハラ神父(太川陽介)に諭されしぶしぶ承諾。
かくて、デロリスは「進歩的な修道院からやってきたシスター・メアリー・クラレンス」として、シスター・メアリー・ラザールス(春風ひとみ)、シスター・メアリー・パトリック(柳本奈都子)、見習い修道女のシスター・メアリー・ロバート(梅田彩佳)ら、多くの修道女たちと寝食を共にすることになる。

だが、デロリスの破天荒な行動は修道院の空気をかき乱すばかり。見かねた修道院長から、聖歌隊に参加する以外のことはしないよう厳命されるが、歌が歌えるとデロリスは大喜び。張り切って聖歌隊に参加したものの、そのコーラスのあまりの下手さに愕然とし、クラブ歌手を目指して鍛えた歌声と持ち前の明るいキャラクターを活かし、聖歌隊の特訓に励むことになる。デロリスに触発された修道女たちのコーラスはみるみる上達。
やがて聖歌隊の歌は大評判となり、閑古鳥が鳴いていたミサには人が詰めかけるように。そのおかげで多額の寄付が集まった修道院は売却の危機を免れるが、それはすなわち、デロリスの居場所がカーティスたちの耳に入る日が刻一刻と近づいてくることでもあった。

果たしてデロリスはこの危機を切り抜けることができるのか!?
修道院と聖歌隊を巻き込んだ一大作戦が始まる!

生の舞台を観ていると、時折悲しい結末を迎える悲劇だからではなく、舞台から発せられる明るさや楽しさ、そして美しさに心をわしづかみにされて、笑っていたはずなのにいつの間にか泣いている自分に気づかされることがある。その瞬間何かが浄化されて、体温まであがってくるような感覚は、これがあるから劇場にいくことをやめられないと言えるほどの、パワーに満ちている。

そんな感覚がとても強い作品のひとつがこの『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』だ。
既に5演目を数え、ストーリー展開はもちろんミュージカルナンバーも頭に入っているほどなのに、「愛を広めよ」に至る終幕の、敢えて“ド派手”とも言いたいキラキラ感と、ハッピーオーラに満ちた舞台に接する度に、涙腺が怪しくなることは変わらない。

それはこのジェットコースターに乗っているかのように、個性あふれる登場人物たちが駆け抜ける物語が「宗教も、人種も、価値観も異なる人間同士が理解しあい、真の友情を築いていく」という、実はまるで蜃気楼のように遠い理想を叶えてみせてくれるからだ。それは世の中が「多様性を認めよう」との旗を振り続けている、つまりはいくらスローガンを掲げても、その理想に遠く届かない現実社会が、いつかこんな日を迎えられる、少なくともそう信じ続けることで、このキラキラした美しい世界に手が届くかもしれないと思わせてくれるマジックに満ちている。

そんなパワーがこの舞台からほとばしり出る様はいつも圧巻だ。しかもそれが明るい笑いと、ウキウキするサウンドと、躍動するキャストによって徹頭徹尾のエンターテイメントで描かれるのが、この作品を何より貴重なものにしている。

それは、初演から細かいブラッシュアップはもちろんあるものの、大きな展開としては何も変えずに、王道のミュージカルコメディに徹する演出の山田和也、美術の松井るみ、照明の髙見和義、衣裳の前田文子、そしてこの作品に於いてはキャストの一人とも言える指揮の塩田明弘ら、スタッフワークの信念の賜物だ。

そんな作品に躍動する、初演以来の不動のデロリス森公美子は、直近まで『チャーリーとチョコレート工場』の舞台に立っていたスケジュールのなかで、おそらく身体のなかに入っているのだろうデロリスを懐深く演じている。

特に聖歌隊の指導をはじめてからの歌声の説得力が圧巻で、デロリスが突然現れたことで、このまま修道女として人生を送ることに疑問を覚え始めるシスター・メアリー・ロバートの悩みを聞く場面でにじみ出る包容力と共に、森公美子デロリスの真骨頂を感じさせてくれた。

一方の朝夏まなとも、2019年から3度目となるデロリス役でますますパワーアップ。カンパニーを率いていく役どころが最もニンに合う、太陽のスターとも称される持ち前の明るさを如何なく発揮して魅せてくれる。スターになる、世界の歌姫になる、という夢の為なら手段を選ばなかった登場時点から、自分の心の声を聞き、異なる生き方、考え方の人々と友情を結んでいくデロリス自身の成長物語が、よりくっきりと表出された役柄の成熟を一層深めている。

そのデロリスの高校の同級生で彼女に恋していた、エディ巡査の石井一考も、緊張しやすくすぐに汗をかく、「汗っかきエディ」を演じ続けていて安定感抜群。

見事に転ぶ、カッコいい男になりたいのに決まらない、隠れていなければいけないデロリスが注目を集めてしまうことに慌てるなど、一つひとつにメリハリある演技が、作品の面白さを底上げしていた。

そのエディ役で初参加となった廣瀬友祐は、完璧なまでに整ったマスクと美丈夫ぶりを裏切る、こうしたコメディパートを担う役どころに近年積極的に挑戦して役幅を広げている。

おそらくエディのような役柄がむしろ好きなのだろうなと思える、カリカチュアされた演技が面白く、高校時代にデロリスにとても告白できなかった、という内向的な一面がより強く出たエディ像が印象的だった。

冷酷なギャングのボス・カーティスも、初演からこの役柄を演じ続ける大澄賢也が扮し、一時期この作品全体のトーンからはギリギリかも……と感じさせたこともあったカーティスの冷徹さが、コメディのなかの悪役としてしっくりと馴染んでいる。踊れる人ならではの立ち居振る舞いの俊敏さも役柄によく合った。

そのカーティスの子分三人組は、ヌケ感強めのキュートさに磨きがかかるTJの泉見洋平、己をイケていると信じている男の可笑しみが加速するジョーイのKENTAROと、お馴染みのメンバーに加えて、周りとは母国語が異なるパウロに、2019年公演以来の林翔太がカムバック。

賑やかな三人組のコントラスがよりくっきりとした。林はカーテンコールの振付指導も担うが、学生団体などを自然に巻き込む声かけの巧みさが堂に入っていて、ミュージカルファンを量産してくれるだろう頼もしい存在にもなっている。

修道女たちでは、シスター・メアリー・ラザールスの春風ひとみが、デロリスとの出会いで変化していく年配の修道女を的確に表現。突然の弾けっぷりに大笑いさせられるのも、芝居巧者の春風ならではだ。

デロリスとの出会いから、知らなかった世界を見たいと願うようになるシスター・メアリー・ロバートには、梅田彩佳が初参加。ずっと憧れていた役柄だったそうで、常に人の後に、後に隠れていたロバートが、好奇心に抗えなくなる様をキラキラした瞳で見せている。「私が生きてこなかった人生」のソロナンバーが、特によく声が伸びて聞かせていて、聖歌隊の場面も進化を遂げていくだろう。ミサのシーンで埋もれないスター性も良い。

シスター・メアリー・パトリックの柳本奈都子は、2016年公演に修道女の一人として出演していて、ハキハキした明るさが役にピッタリ。冒頭デロリスと共に颯爽と登場するクラブシンガーのミッシェルの河合篤子とティナの福田えりも、スレンダーなボディと迫力ある歌声がより輝いて惹きつける。

修道院を守るという一点に信義を置くオハラ神父は、前回公演からの続投となる太川陽介。寄付金を集めることに熱心で、ある意味変わり身が早くノリもいいオハラ神父を軽やかに演じていて、大いに笑いを誘っている。太川の登場で、作品のポップさがさらに加味されていて、スパンコールに輝く衣裳もよく似合う。

そして、厳格な修道院長はこれも初演から不動の鳳蘭。本質がレビュースターであるだけでなく、根っこに秀逸なコメディセンスも持ち合わせている鳳にとって、この修道院長役はまるで彼女の為に書き下ろされたかのよう。

神様との対話で見せるコロコロと変わる表情や、抜群のリズム感が生む高揚はもちろん、敵視していたデロリスを受け入れていく芝居面の変化もより充実して、終幕の感動を一層高めた。
できる限り長く演じ続けて欲しいと願う当たり役だ。

修道女たちや街の人々など、多くの役柄を担う面々にも、働き場が多くあるのもこの作品の美点。
全体に違う誰かと手を取ることの温かさ、尊さを、アラン・メンケン手練れのミュージカルナンバーが弾ける舞台から受け取れる、何度観ても楽しく心洗われる作品のハッピーシャワーを浴びに、是非多くの人に劇場を訪れて欲しい。

【取材・文・撮影(朝夏&廣瀬回)/橘涼香 写真提供(森&石井回)/東宝演劇部】

ミュージカル『天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~』

公演期間:2023年11月5日 (日) ~2023年11月29日 (水)
会場:東急シアターオーブ

出演
森公美子/朝夏まなと(Wキャスト)、石井一孝/廣瀬友祐(Wキャスト)、
大澄賢也、春風ひとみ、梅田彩佳、泉見洋平、KENTARO、林 翔太、柳本奈都子、
河合篤子、福田えり、太川陽介、鳳 蘭 ほか

スタッフ
音楽:アラン・メンケン
歌詞:グレン・スレイター
脚本:シェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
追加脚本:ダグラス・カーター・ビーン
原作:タッチストーン・ピクチャーズ映画「天使にラブ・ソングを…」(脚本:ジョセフ・ハワード)
演出:山田和也

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