【公演レポート】舞台『ダブル』

【公演レポート】舞台『ダブル』

第23回文化庁メディア芸術祭 マンガ部門で優秀賞を受賞した野田彩子の漫画『ダブル』を原作とした舞台『ダブル』が開幕。
 

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

劇団を足掛かりに「若手人気俳優」としてドラマやCMに出て注目を浴び始め、役者としてのキャリアを順調に重ねてゆく宝田多家良役和田雅成が、劇団の先輩として多家良の才能にいち早く気付き、多家良の代役をはじめ演技面と私生活の両方を支えながらも、自身の役者活動との差に苦しむ鴨島友仁役玉置玲央が演じ、互いにライバルでありながらも惹かれあう二人の関係を描く。
 

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

舞台は、つかこうへい作「熱海殺人事件」のオープニングで流れる「白鳥の湖」から始まる。
幕が開くと、そこは一人暮らしの多家良の新居。
多家良の才能に魅了された役者仲間たちが集まり、彼らの「俳優生活」を取り巻く事情が語られ、時に有名戯曲で遊び、そして次の舞台の台本を読み、物語が展開される。
 

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

紀伊國屋ホールには様々な物語がある。「熱海殺人事件」は紀伊國屋ホールで最も上演され続けている。
そのオープニングは必ず数々の名優がこの音楽と共に芝居を始めたことを思い起こさせる。また「小劇場ブーム」の頃には「劇場スゴロク」という人気と出世の尺度を図る指標があり、”ゴール”としては度々紀伊國屋ホールが目指されていた。そのゴールとも言われた紀伊國屋ホールの舞台で、舞台裏でも楽屋でもない、俳優のロフト付きワンルームという私的な空間を表現した。
2000年代頃はこういった「ワンルーム」を舞台にした作品が多数上演された。その頃に劇団を立ち上げ切磋琢磨した中屋敷法仁が紀伊國屋ホールで描く舞台が「ワンルーム」であることも感慨深い。
 

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

玉置玲央の友仁は登場する戯曲への舞台設定や作品背景の造詣が深く、ただ演劇の話をするだけでも楽しいことが見て取れる。その上で多家良を支えることへの葛藤と、自身が有名人であることを自覚するアイドルの今切愛姫(牧浦乙葵)や芸能界のキャリアが長い轟九十九(井澤勇貴)と渡り合えない後ろめたさなのか、時たま見せる影と諦めが、この部屋を出た瞬間に「無名の人」と他人から見られる事を思い出せさせられる。
 

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

芝居を愛する人たちが演劇を語り、劇中劇を始める。
その様子は演劇を愛する役者たちによる楽屋でのやりとりを描く清水邦夫の「楽屋」を彷彿とさせる。
 

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ
©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

それぞれ違う形でお互いに寄りかかりながら「自分の殻」に閉じこもっていた二人。仕事を引き寄せるふるまいが足りなかった鴨島と、作品背景などのディテイルを自分で思い描けなかった多家良。少しずつお互いを取り込み、風向きを変えてゆく。
 

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

やがて、多家良は「熱海殺人事件」と同じくつかこうへい作品である「飛龍伝」に出演が決まる。訳あって友仁も同じ舞台で共演することとなり、さらに演出家から、2人の役を入れ替えてのダブルキャスト上演を提案される。

その意向に悩むなか、部屋では二人のよりプライベートな事実を晒けだす。が、「世界一の役者になりたい」多家良とその多家良に追われる存在でありたい友仁、それぞれの望みの前に彼らは、今の関係性を変えないことを選ぶ。

©野田彩子 / ヒーローズ ©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

今作では原作を基とした戯曲を上演する、という形が取られており、敢えて稽古場や舞台裏を出さず、ワンルームの部屋で起こる出来事の中に名作演劇をちりばめるなど、原作では描かれていないエピソードも含まれる。近年多くある、原作漫画の名場面を忠実に再現する舞台化作品とは異なっており、戸惑う観客も居るかもしれない。

しかし演劇について新しい解釈や表現を提示するのが「劇団」「小劇場」である中で、その演劇を題材とした漫画の舞台化でそれを演出している面白さを味わえることを楽しめる作品だった。

公演概要

舞台『ダブル』
公演期間・劇場:2023年 4月1日(土)~4月9日(日) 紀伊國屋ホール
原作:野田彩子『ダブル』(ヒーローズ刊)
脚本:青木 豪
演出:中屋敷法仁

出演:
宝田多家良役:和田雅成
鴨島友仁役:玉置玲央

轟 九十九役:井澤勇貴
冷田一恵役:護 あさな
今切愛姫役:牧浦乙葵
飯谷宗平役:永島敬三

主催:ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ
公式サイト:https://www.nelke.co.jp/stage/double/
公式 Twitter:@st_DOUBLE_2023

©野田彩子 / ヒーローズ
©ネルケプランニング/ゴーチ・ブラザーズ

 

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