【稽古場レポート】日中合作 音楽劇「李香蘭-花と華-」

【稽古場レポート】日中合作 音楽劇「李香蘭-花と華-」

日中合作 音楽劇「李香蘭-花と華-」が、まもなく1月13日(金)に初日を迎える。

本作は、中国で生まれ育ち、中国人「李香蘭」として歌手・女優として活躍した日本人・山口淑子の半生を物語の中心とした作品。日中戦争のさ中、対立を深める中国と日本の間に挟まれ、祖国と母国との間で苦悩した李香蘭。彼女は、自分が日本人であることも隠し通さなければならない立場であってもなお両国の平和を願い続け、戦後はワイドショーの司会や参議院議員としても活躍した。

李香蘭役には、モデル・アーティスト・女優として幅広く活動中の西内まりや。西内は本作が舞台初挑戦となる。李香蘭の半生を振り返るストーリーテラー役の山口淑子役は、元宝塚花組男役トップスター・安寿ミラが務める。

この日は、音響として使用する音声・歌唱の録音と、ヘッドマイクを装着しての音量確認をしながらのシーン稽古がおこなわれた。

日本の関東軍による張作霖爆殺事件などの、鬼気迫る緊張感にあふれたシーンでキャストたちの歌唱に被せて使用される歌のシーン。男女キャストに分かれて4人から5人ずつ、マイクに向かい歌の“入り”タイミングをうかがう。「撃てや 撃てや 一人残らず」のフレーズが重なり、戦場の恐ろしさと怒りが増幅されていくかのようだ。歌に入るタイミングが非常に難しい。苦戦する男性チームに、飛龍つかさ(川島芳子役/玉置成実とのWキャスト)ら女性チームが、手拍子と合図で援護を送る。

「歌はきれいに。でも(気持ちや感情は)きれいじゃなくていい。揃わず、あちこちに散らばっているように」と、演出の良知真次から指示が入る。勝利の大前提はあるものの、軍ひとりひとりの感情はそれぞれであろう兵士たちの気持ちが歌で表現されていく。音程の調整が細かく入り、「レオン! 教えてくれ!」と加藤靖久(李将軍役)が若手の寺島レオンに声をかけるなど、ベテランも若手も関係なく互いに音を確かめあっている様子が見られた。

また、李香蘭の大ヒット曲「夜来香(イェライシャン)」の歌唱シーン稽古前には、姚旭之が西内に中国語の歌詞の発音について丁寧にアドバイスを送る。「何となくそれらしく」で済まそうとはせずに、「中国人として活躍した歌手が歌う歌」を再現しようとするこだわりが感じられた。「ありがとう!」とにこやかに晴れ晴れとした表情で礼を伝える西内に、姚旭之も「完璧!」と笑顔で返す。

繰り返される「夜来香」のサビ。二胡の音色を感じさせる西内の真っすぐな歌声が、稽古場全体の空気を透明にしていくかのように感じる。「夜来香、一度目、二度目、三度目…と円で繋がっているように」と演出からオーダー。「上手へ、下手へ、そしてセンターへ」。良知が演出卓を出て実際に西内の横に立ち、手振りを添えて声の方向性を指導する。歌い終わり、しかしまだ出来に納得いかない様子の西内。「もう一度お願いします」と頭を下げ、良知も「何度でも」と応える。さらに集中し、ビブラートの調整や声の行く先を確かめながら歌唱していく。

続いて、ダンサーとともに歌うシーン。この曲は名倉加代子の振り付けだ。「名倉先生が見ていらっしゃると思って!」と声がかかると、西内とダンサーの背すじがさらにピッと伸びる。身長の倍ほどはあろうかという細長い布を天女の羽衣のように扱い、ゆるやかな動きで、しなやかに、たおやかに西内と4人のダンサーが躍る「夜来香」。曲が終わり、西内が深々とお辞儀をすると、キャストとスタッフ一同から惜しみない拍手が送られた。

ここから何度も稽古を重ね、衣装を着けての通し稽古の後に、最終稽古がおこなわれた。

最終の通し稽古では、名のとおりシーンごとにストップさせずに冒頭から物語が通して進められていく。

日ごと、時間ごとに進化していく西内まりやの李香蘭。360°どの角度から見ても「美」の文字と空気がふさわしい。チャイナドレスをまとって舞台に立つ姿が楽しみだ。安寿ミラは、その華やかさと存在感で、登場し一歩歩みを進めるだけで観客の目を引きつける。落ち着いた耳心地のよい声、圧倒的な歌唱力。スター・シャーリー山口、物語を語る山口淑子として、舞台に欠かせない存在感と説得力を示している。

清国の皇族の王女に生まれながらも、日本人の養女となり男装の麗人として日本で人気を博した後は諜報活動(スパイ)として活動した川島芳子には、宝塚歌劇団花組を退団したばかりの飛龍つかさと、ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」でのニコラ役が記憶に新しい玉置成実

山口淑子(李香蘭)の親友・リュバチカには玉置成実と黒崎真音。可憐でひたむき。大好きな幼なじみである淑子を守るために奔走する姿が観客の心を掴むであろうこの役を、Wキャストの2人がどう演じるのか楽しみにしてもらいたい。

東宝の若き敏腕プロデューサーであり、李香蘭が日劇(日本劇場/現在は取り壊され有楽町マリオンに)で舞台をおこなったときにエスコート役を務めた児玉英水には中村太郎。熱い志を持った映画製作者として、満州映画協会(満映)の理事長・甘粕とぶつかりあう川喜多長政は伊勢大貴が演じる。李香蘭を映画界にスカウトするキーマン・山家亨には柳瀬大輔

日本で1923年に「甘粕事件」(アナキストら3名を殺害したと言われている)を起こした後、満州へ渡り力を持った後は満州映画協会(満映)の理事長に就任した甘粕正彦役は、本作のエグゼグティブプロデューサー、演出、振付も兼任している良知真次。甘粕は、得体のしれぬ冷たさを持つ一方で満映の社員たちを大切にし、文化芸術を広めるために力を尽くしたと言われている。

山口淑子(李香蘭)の両親、父・山口文雄には速水けんたろう。母・山口アイには松本梨香。ひたすらに淑子の幸せを願い、淑子が自由に好きなことをして育ってくれればいいと思う一方で自分の望みもどうしても投影してしまう、そんなどこにでもいるが温かい両親を演じる。2人のこの愛が、淑子の運命を動かすきっかけの一つになってしまったのかもしれない…と想像しながら物語を観てほしい。

淑子(李香蘭)の父の友人であり、淑子の義理の父となる李将軍には加藤靖久。加藤はこの役の他にも映画撮影時の監督、軍人など大忙しの活躍を見せる。李香蘭の学校の友人・潘月華は明音亜弥。明音は淑子の少女時代なども演じ、まぶしいほどに瑞々しい芝居で舞台を明るくしてくれる。映画スター・長谷川一夫を演じるのは斉藤秀翼。斉藤もまた、放送局社員や青年活動のリーダー、李香蘭が受ける裁判での検事役など、こちらも大忙しだ。

本作は、「昔あったできごと」「日中戦争時代の物語」と定義づけて終わらせてしまえる話ではない。日本と中国の平和を願って歌い祈り続けた李香蘭の物語は、歌とエンターテインメントが人の心にどれだけの力をもたらすのか、時に慰めとなり、勇気を与え、人と人を結びつけるのかを教えてくれる。この3年ほど、エンターテインメントは不要不急と言われてきた。だからこそ今、改めてエンターテインメントの力と影響力を実感する本作に劇場でぜひ触れてほしい。

公演は1月13日(金)から、東京新宿・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて。文化庁子供文化芸術活動支援事業対象公演として、6~18歳以下は招待を受けられるので、詳細は特設ページを確認してほしい。https://ticket.corich.jp/apply/214967/

公演概要

~日中国交正常化50周年・日中平和友好条約45周年記念公演~
日中合作 音楽劇『李香蘭-花と華-』

公演期間:2023年1月13日 (金) ~2023年1月22日 (日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
・出演
西内まりや
飛龍つかさ/玉置成実/黒崎真音
中村太郎/伊勢大貴/柳瀬大輔/良知真次
松本梨香/速水けんたろう
加藤靖久/明音亜弥/斉藤秀翼
安寿ミラ(特別出演)
・スタッフ
脚本・作詞:岡本貴也
演出・振付:良知真次
作曲:鎌田雅人
振付協力:名倉加代子
総合監修:横内謙介

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