【公演レポート】今だからこそ観たい青春群像劇!劇団5454『ビギナー♀』

【公演レポート】今だからこそ観たい青春群像劇!劇団5454『ビギナー♀』

劇団5454(ランドリー)が、それぞれの世代の青春を描くハートフルな群像劇『ビギナー♀』(ビギナー)が池袋のあうるすぽっとで上演中だ(13日まで)。

『ビギナー♀』は、劇団5454を主宰する作・演出の春陽漁介が書き下ろした「青春」をテーマに据えた群像劇。

とある地方都市で、それぞれの年代、それぞれの場所で生きている日常の一見小さな、けれども当人たちにとっては大きな出来事を一つひとつ乗り越えながら、仲間と共に過ごしていくかけがえのない時間が描かれていく。

3つのグループのドラマが進む舞台に滲む温かさ

物語は練習をしているよりも、ただ集まって喋っている時間が格段に長い大学のバドミントンサークルに所属する学生たちと、かつて高校時代に帰宅部だったにもかかわらず、正式なバドミントン部よりも練習を積んでいたという、元バドミントン愛好会の大人たち。

そして、演劇部で公演に向け「人生の全てを描いた超大作の芝居」を発表しようと奮闘している高校生たちが、入れ子細工のように描かれていく。

芝生を大きくデフォルメした抽象的なセットを中心に、上手手前のベンチ、下手手前の主にはスナックになる空間、更に舞台奥のテーブルと向かい合った2脚の椅子などのエリアが、自由自在に時と場所を変える物語は実にテンポ良く進んでいく。

基本的には3つのグループに関連はないのだが、大人グループの1人がいまは高校教師、しかも演劇部の顧問になっているというひとつのつながりが、偶然の出会いに発展していく春陽の脚本構成が巧みだ。

更にワイワイと賑やかな学生たちを、大人たちが自分たちにもあんな頃があったねと見つめているなど、各エリアで行われている芝居が自然に少しずつリンクしていきつつ、どこを観るかに全く迷わない見せ方も流麗。

これだけ個性がきちんと書き込まれたキャストが出入りを繰り返し、様々なところでとても大切なことを言っているのに、舞台面を混沌とさせない演出家・春陽の力量も感じた。

何よりもいいのは、就職や結婚に対する悩み。複雑になるばかりの「いじめ」。シングルマザーや経済的余裕のなさ。突然降りかかる介護問題など、いま多くの人が抱えているだろう様々な困難をドラマのなかにちゃんと織り込みながら、全体のトーンが決して暗くならず、むしろ笑いにあふれていることで、バドミントンサークル、元バドミントン愛好会、そして演劇部の面々が、一堂に収斂されていく終幕にかけての展開に至ってはまるでマジックのようだ。

思えば人は思春期も、青年期も、壮年期も、老年期も、その時々には必ず「はじめて」遭遇するビギナーであって、それらすべてで生まれるどんな感情も、不確かさも、きっとなんとかなるよと、どこかで背中を押してもらったような、物語の温かさが胸にしみた。

モラトリアムとの別れが近づく学生たち

そんなドラマを生きる21人の登場人物たちが、いずれもきちんとバッグボーンが描かれている役柄を、個性豊かに演じて目に耳に楽しい。

大学のバドミントンサークル「ビギナー♀」の代表、小栗はなの神田莉緒香は、冒頭から「舞台『ビギナー♀』のオープニングテーマ」を伸びやかな声で歌って魅了する。しかもシンガーソングライターである神田の歌唱力はもちろん、ちょっと意地っ張りで素直になれず、学生というモラトリアムが許される時間の終わりが見えていることはわかっているのに、ついつい現実を先送りにしてしまう、はなの揺れる感情がよくわかる演技力も光った。

はなと同じ3年生の塩本菜津子の森島縁は、とても豊かな表情をしていつつ、最後には必ず笑顔が目に残る森島の個性が、サークルの調整役なのだろう菜津子にぴったり。はなの一番近くにいる友人としての心配りも全体を通して伝わってくる。

もう一人の3年生藤原麻未の山下聖良は、学生気分に別れを告げて就職活動に邁進すべきだと、誰よりも早く現実を見ているからこそ、仲間たちとすれ違ってしまう麻未を切なく表現。仲直りが下手なのはひとりっ子なのかな?と、役の背景も想像させる存在だった。

2年生で男を切らさない、しかも必ず相手に告白させると言い切る森ももかの鈴木千菜実は、片時もスマホから目を離さず、根性とか仲間とか暑苦しい関係はまっぴら、と言ったはずのももかが、改めて自分を顧みた時の変化をきちんと見せて役割りを果たしている。

同じ2年生の杉内佳苗の竹森まりあは、経済的余裕のない家庭でアルバイト三昧の日々だからこそサークルをとても大切にしている佳苗を、湿気のないハキハキとした台詞で聞かせる。特にアルバイトを掛け持ちしている一人芝居の場の面白さは必見だ。

サークル唯一の1年生楢原芽衣の及川詩乃は「バドミントンやりましょう!」とただ話続けているだけの先輩にハッパをかけておいて、自分はラケットを忘れて来ているというとぼけっぷりが、実は最後に意味を持つ大事な役どころを味わい深く演じている。

サークル外の同じ大学生グループで、はなにずっと思いを寄せている幼馴染の楠健の高品雄基が、行動が空回りして笑わせるところがふんだんにありながらも、はなに対しても、妹の志保に対しても誠実な好青年を明るく見せた。

健の妹でブラザーコンプレックス気味の楠志保役の井澤佳奈は、或いはこの物語のなかで最も成長する人物かもしれない志保の変化をよく表していて、兄と二人乗りしている自転車シーンが殊更強く印象に残った。

大人だからこそ感じられる「青春」

一方の大人グループでは、そもそもドラマが動き出すきっかけでもある、東京の広告代理店勤務で、久々に地元に帰ってきた橋口杏奈の榊木並が、杏奈には口に出していない様々なものがあるのだなと、冒頭から感じさせる吸引力で大人グループの核になっている。劇中本当に強いスポットライトが当たる場面があるが、芝居力でちゃんと自分を光らせる榊の力量が、大人数の場面でもよくわかる貴重な存在だった。

その大人たちが集うスナックを経営している桑井橙子の岡元あつこが、きっぷもよく情に厚い橙子を、力感を持って演じている。なかでもバドミントンシーンでのこの人の立ち位置は捧腹絶倒ものなので、是非注目して欲しい。

杏奈に高校時代から憧れを持っていたという荻沼カズキの真辺幸星は、憧れオーラを恋人の前で全開にしながらどうして彼女が不機嫌なのかがわからない、というやや天然の入った良い人の造形が自然で、こういう人いる、いる!と思わせてくれる。

そのカズキとの事実婚の関係が長すぎて、上手くいってるからこそ結婚に踏み出せずにいる柴梢の大塚由祈子が、嫉妬を感じた同じチームの杏奈にバドミントンで勝つ!と言い出す役柄の理屈にあわないところを、振り切った演技で笑いに持っていくのが頼もしい。

家業のネギ農家を継いだ横田理枝の谷田奈生は、サバサバとした闊達さのある演じぶりがくっきりしているからこそ、突然やってきた母親の介護にも精一杯責任を持とうとする理枝の思いが刺さってくる。そこから仲間がいることの心強さをも照射してくれた。

パチンコを現在の生業としている菊池美穂の西野優希は、全身から発せられるパワーがとびっきりのなかにちゃんと生活感があって、現代日本を舞台にした作品に説得力を与えてくれる大きな存在感を示している。

燈子のスナックで働くシングルマザー・松木明実の樋口みどりこは、18歳で母親になり子育てに邁進する日々のなかで、店に集まる仲間たちと共にいる時間を尊く思っているたおやかな笑顔が、同じ空間のなかにいて出自が違う女性をよく表している。

その「仲間」たちに占領されている店内で、唯一の「客」である小林茂雄の大竹散歩道は、賑々しいばかりの店に何故茂雄がいたいのか?が台詞のないところからも伝わり、のちの展開を納得させる細かい芝居が引き立った。

彼らとは一歩引いた、杏奈の妹という立ち位置で登場する橋口楓の岸田百波は、杏奈が帰郷した理由を察していて、敢えては訊かない妹の温かさをあくまでさりげなく見せる。二人がバドミントンをしながら会話する場面の技術の高さにも驚かされた。

そして、高校生時代に杏奈と付き合いがあり、いまは高校教師になっている梶栄二の窪田道聡は、大人たちと演劇部の高校生をつなぐ重要な役どころ。「俺たちはもういい大人だろう」を貫いて、はじめ杏奈たちの熱気に交わろうとせず、顧問を務める演劇部の高校生たちにも辛辣だが、その理由が実は理に適っていて作品の現代性を高めている。そんな梶にも変化が生まれ、最後に高校生たちにかける「失敗したっていいんだ」という言葉が、窪田のぶっきらぼうを装った真摯な台詞術でストレートに響き、作品の大切な柱になっていた。

鮮やかに重なる3つの世代

その梶が顧問を務める高校の演劇部の3年生トリオでは、村岡萌の山本愛友が、脚本も書き、ギターの弾き語りで歌いもする多才な萌が、最も心配性で自意識と不安の間で葛藤していることを表現しているからこそ素直に応援したくなる。

槙野桐乃の佐々木光は、この演劇部の伝統だというかなりの大芝居を、更にカリカチュアさせて見せる勢いが3人のなかでも突出していて、振り切った演技でしばしば爆笑を誘う存在感を発揮した。

そんな2人に対して都築栞の中心愛が、最も冷静に状況を判断していて、理詰めでものを考えることができる栞を陰影の深い美貌を生かして表現。ずっと一緒に行動している3人の個性の違いも現れて効果的だった。

この3人が、顧問の梶に「もっと上演時間を短くしろ」と何度言われても「楽しい大人を描きたい、人の一生を演じることに意味がある」と言い続けることが、「バドミントン」を介して自然につながっていく大学生チームと大人チームに見事に重なっていく終盤がなんとも鮮やかで、キャストたちのバドミントンの動きが素人同然から、劇中でどんどんうまくなっていく様にも感嘆した。

全体にテーマ曲をはじめとしたShinichiro Ozawaの音楽が強いアクセントになっていて、休憩なし2時間10分の上演時間を爽快に駆け抜ける、暗いことばかり多いいまだからこそ観たい青春群像劇になっている。

【取材・文・撮影/橘涼香】

劇団5454 2022年秋公演『ビギナー♀』

公演期間:2022年11月9日 (水) ~2022年11月13日 (日)
会場:あうるすぽっと
チケット:SS席 7,000円、S席 6,500円、A席 6,000円(全席指定・税込) 
配信チケット:3,500円

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