【稽古場レポート】 特攻隊ミュージカル「流れる雲よ~令和六年より愛を込めて」 79年の時を超えて語られる特攻隊員の思い

【稽古場レポート】 特攻隊ミュージカル「流れる雲よ~令和六年より愛を込めて」 79年の時を超えて語られる特攻隊員の思い

8月14日から博品館ホールで演劇集団アトリエッジの「流れる雲よ〜令和六年より愛を込めて〜」が上演される。本作は25年前にラジオドラマとして創作され、2000年に舞台化された。今年で25年目の節目の年を迎える。今回の脚本は令和六年版になる。

[あらすじ]
79年前の太平洋戦争末期の特攻基地で突然ラジオから不思議な放送が聞こえてくる。それは2024年の未来からの放送だった。そこで、数日後に迫った8月15日に日本が負けることを知った特攻隊員たちは動揺する。特攻命令が下った夜、ラジオ放送を通じて2024年のDJとつながる。実際の知覧基地をモチーフに創作されたSFファンタジー。

役者は「飛龍」「大和」「桜花」の3チームに分かれ、1チーム約30人、総勢90人近くが舞台に上がる。主役は特攻隊員の坂本光太郎、準主役は坂本の親友で特攻機の整備兵、中原正人だ。この2人が2024年のラジオ放送を聞き、数日後に日本が負けることを知る。

この日の稽古は、3チームの役者が集まる大規模なリハーサルだった。稽古場を訪れたのは終了時間の1時間半前。稽古も佳境を迎え、ドアの隙間からも気迫のこもったセリフが漏れ聞こえていた。広いホールの中央で、チームごとに1シーンずつ演じられ、演出がつけられていく。

出番を待つ役者達は、それをぐるりと取り囲むように見ている。演出の指揮をとるのは劇中で後藤広明役としても出演する田中寅雄。その真剣なまなざしに、静かな熱気と気迫が伝わってくる。  演じられていたのは特攻隊の吉村大尉神谷翔平隊員の別れのシーンだった。ここ知覧では特攻命令を下す上官と部下の立場だが、かつて2人は江田島基地で同期の友として青春を過ごしていた。最後の夜になり、別れの杯を交わす2人。

田中寅雄は二人に向けて話す「ここでは人間を見せたいんだよ。80年前に生きていただけで特攻隊員も同じ人間だ。このとんでもなく厳しい時代の中、ふと溢れる人間味、愛を見せたい」と。

吉村大尉にとって神谷は友人であり、妹「あき」の思い人でもある。当然、個人としては死なせたくないが、大尉の立場としては出撃させなければならない。現代では考えられないほど辛い状況だ。神谷は特攻に出撃することで後世に「大和民族の誇り」を残し、自分たちが「祖国の平和の礎」になることを確信したと話す。

その反面、最後には「俺は戦争反対だ。後を頼む。我が友よ」と言い残す。大義と個人の心の間で揺れ動く難しい心情を、少ない会話の中で描いている。

次のシーンは特攻隊員の赤沢利夫と女学生の井出智恵子の別れの場面だった。

さらに妻と産まれたばかりの息子を残して飛び立つ後藤広明と、妻、朝子の手紙のやりとりが、役者の声を通してそのまま語られる。

「朝子、元気か?」から始まり、お互いが「妻として(夫として)過ごすことができた夫婦生活は、決して色褪せることのない誰からも邪魔されることのない、かけがえのない宝だった」と語りかける。
子供の名前についてのやりとりも今の若い夫婦と変わらない、微笑ましいものだった。その後「朝子ー!!」と妻の名前を絶叫し、突入していく後藤。

脚本を読むと女性が登場するのは、この手紙のシーンの他、特攻隊の世話係として女学生数人ほどで非常に少ない。高校球児や僧侶、写真館の息子など様々な境遇の20歳前後の青年が葛藤し、特攻隊として飛び立つ意味を模索する。基地での日常も描かれる青春群像劇でもある。

そして、いよいよ飛び立つ朝を迎え、滑走路に整列する隊員たち。ここで、ひとりの上官が無言で出撃する隊員に野球のボールを手渡す。実は、この隊員は、かつて高校の野球部で一緒に過ごした友人を、先に特攻隊で喪っている。二人は投手と捕手の関係だった。驚きながらもボールを受け取り、大声で礼を言う隊員。

上官として冷徹であらねばならない軍人が、最後に見せた情。非情な戦時下に日常の優しさが溢れだす。この短いシーンに全てが詰まっていて胸を打つ。

渡された軍刀を操縦桿に見立てて握り、次々と突入していく隊員たち。

このあたりから周囲で見ている役者の啜り泣く声が聞こえてくる。

主人公の坂本光太郎含む後藤隊も飛び立ち、激しい空中戦を繰り広げる。恋人に「長生きして幸せな一生を送ってください!」絶叫して散っていく隊員。クライマックスにはどんなことが起きるのかは、ぜひ劇場で確かめて欲しい。

そして特攻隊を生きた坂本光太郎から、2024年を生きる中原の孫「未来」へ向けてのメッセージも語られる。「日本はどんな国になっているのでしょう」との問いかけに私たちは何を答えるのか。最後に命のバトンを受け取ったラジオDJ「未来」からのメッセージも噛み締めたい。

深々とあいさつをして、この日の稽古は終了。


■最後に今回の主演となる村井飛斗福井将真にインタビューした。

左から福井将真と村井飛斗

__今回の役どころを教えてください。

村井飛斗坂本光太郎という特攻隊員の役で、中原正人の友人を演じています」

福井将真「僕は中原正人中原未来という二人の人物を演じています。中原正人は昭和20年の特攻機の整備兵です。中原未来は中原正人の孫で、2024年の現代を生きるラジオDJです」

____「流れる雲よ」は、2000年から舞台化されていますが、お二人はいつから関わっているのでしょうか。

福井「僕は演劇集団アトリエッジのサムライジンクというチームに所属しているので、今年で6年目になります」

村井「僕は半年くらいです」

____村井さんにお聞きしますが、今回はじめて特攻隊員を演じるにあたり、特攻隊についてどう感じましたか。

村井「今、当たり前に僕たちが生きていることは、おじいちゃんや、ひいおじいちゃん、そのまた先の祖先に当たる人たちが繋いできた命があるからこそだと感じました。その人たちに恥じないような生き方をしているか、問いかけるような日々でもあります。以前から戦争物の映画は好きで、よく観ていましたが、ここまで特攻隊にフォーカスして調べてみたのは今回が初めてです」

_____台本を初めて読んだ時の感想を教えてください。

村井「この台本が全てであり、しっかりと伝えたいことが書かれていると思いました。これを主演の坂本光太郎である僕が、伝えていくことが大切だと感じました」

____役柄に気持ちを持っていくためにやっていることは何かありますか。

村井「昭和20年を感じるのは無理なことですが、稽古では海軍の所作や上官に対しての礼儀、女学生さんに対する配慮を学んでいます。また主演でもあるので、坂本光太郎を今ある座組に馴染ませるために、コミュニケーションを心がけています」

______福井さんの出演は今回で何回目でしょうか。

福井「僕は6回目になります。これまでは16歳の整備兵をやっていたので、中原正人と未来の役は初めてになります」

______特攻隊員は20歳前後の若者中心で、お二人より若いと思いますが、実際に日記や手紙を見ましたか。また見てどう感じましたか。

福井「もう何とも言えない感覚になりました。元々は高校球児なのに遺書を書いている。『とうちゃん、かあちゃん、大和男児として本懐を遂げてくるよ』と書いてあったり、妹さんのことが書いてあったり。自分のことが書かれていないんですよ。全部相手のことを想って遺書が書かれているというのは、本当に感じるものがありました」

村井「僕は自分に置き換えた時に『誰に書くんだろう?』と思いました。一度書こうと思ったのですが、書けませんでした。向かってはみたものの、書けなくて。でも今の僕たちよりも歳の若い人たちが、お国のため家族のために戦場に行った。平和に生きている僕たちからすれば考えられないことだと思います」

______最後に本作を初めて観るひとたちに向けてメッセージをお願いします。

福井「この作品を通して自分の生きる使命というか、今、生きていることの大切さを感じてほしいです。特に20代の僕たち世代の人に、生きる意味を感じてほしいです」

村井「福井が言ったことが全てですが、僕は特に死を介した『』を感じてほしい。一緒に死んでいく仲間たちや、その棺桶を用意する整備兵たち、それを見送る女学生たち、命令を下す上官たちと、人と関わっていく上で、ここまで感情移入することは普通はないと思うんですよ。『死』が関わっていないから。その人間模様や、そこにどんな愛があるのかも見て欲しいです」

_____整備兵が棺桶も用意するのですか?

福井「この『棺桶』は特攻機の比喩です。僕たち整備兵が毎日整備している飛行機は、言うならば死にに行く人たちの乗り物です。そのまま棺桶になる」

______もう二度と帰ってこない。それを整備する側もつらいですね。

福井「そうなんですよ。特攻兵もそうですが、彼らを送り出す側のつらさも想像を絶するものがあると思います」

脚本の中にも整備兵、中原正人のセリフで「すっぱだかのぼろぼろの飛行機に、何で貴様を乗せなきゃならん。何で俺はそんな整備なんかを、何の為にやっているんだ!」という悲痛な叫びがあった。上演期間は終戦の日を挟む8月14日から18日。

(取材・文・写真/新井鏡子)

公演概要

第38回ギャラクシー賞奨励賞受賞作品
「流れる雲よ2024令和六年より愛を込めて」東京本公演

会場:銀座博品館劇場

【上演期間】2024年8月14日(水)~7月18日(日)

【上演スケジュール】
14日(水)18:00 <桜花> 
15日(木)12:00 <大和> / 18:00 <飛龍> 
16日(金)12:00 <桜花> / 18:00 <大和> 
17日(土)12:00 <飛龍> / 18:00 <桜花> 
18日(日)11:00 <大和> / 16:00 <飛龍>
※別所ユージは飛龍、大和公演出演

■チケット料金(税込・全席指定)
・一般予約前売中:□VIP席 30,000円<前列座席 スペシャル特典/パンフレット&グッズ付>/
 □S席9,000円<パンフレット付>/□A席7,000円
・当日:□VIP席35,000円<前列座席 スペシャル特典/パンフレット&グッズ付>/
 □S席10,000円<パンフレット付>/□A席8,000円     
 ※5歳未満の未就学児入場不可

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