国際的に高く評価を受ける演劇カンパニーTheatre Company shelf 『バイオ・グラフィ: プレイ(1984)』上演決定

国際的に高く評価を受ける演劇カンパニーTheatre Company shelf 『バイオ・グラフィ: プレイ(1984)』上演決定

社会への批判的な目線を演劇ならではの手法で表現したスイスの劇作家マックス・フリッシュ作品 貴重な日本上演

一般社団法人shelf(代表:矢野靖人)主催、shelf volume 30『バイオ・グラフィ: プレイ(1984)』が2022年6月9日 (木) ~2022年6月12日 (日)にシアタートラム(東京都世田谷区)にて上演されます。

「いいですか、あなたは現在に向かって行動していない、過去に向かっている。そこです。あなたは経験を通してすでに未来のことが分かっていると思っている。だから何度やっても同じ物語になる。」
(『バイオ・グラフィ:プレイ(1984)』マックス・フリッシュ/作、松鵜功記/訳より)

【あらすじ】
もし過去の一場面に戻り、そこから改めて行動を選択し人生の記憶を持ったままもう一度生き直すことが出来たならどこで何を選択し、行動すればいいのか。人は別の選択をして別の人生を送ることが出来るのか。
人生の選択をやり直す自由が与えられた行動科学の教授ハンネス・キュアマン。演出家が、キュアマンのすでに生きられた伝記をもとに、過去の出来事へと彼を導き、彼に行動を選択させる。キュアマンは選択した場面を舞台上でもう一度演じ、言わば伝記の第二版の作成を試みるのだが…         

【戯曲『バイオ・グラフィ:プレイ(1984)』について】
戯曲は1968年に初演され、その後1983年に改訂版が出版された。訳出には1984年版を使用している。タイトルにある「プレイ(ドイツ語ein  Spiel)」は「演技」・「劇」であると同時に、一定のルールに従って他者との関連性において営まれる行為(ゲーム)と解釈することが出来る。劇は劇中劇の形式で進行し、リハーサル中の舞台または稽古場のように、作業灯と舞台照明が繰り返し切り替えられ、舞台上で二重の現実レベルが表現される。

上演に向けて
フリッシュ作品が現代古典として今なお読まれ、劇場で上演され続けているヨーロッパに比べて、日本でのフリッシュ受容は限定的である。小説では60年代に『シュティラー(邦題『ぼくではない)』、『ホモ・ファーバー(邦題『アテネに死す』)』、『我が名はガンテンバイン』が中野孝次氏によって翻訳された。また演劇では50年代に『ほら、また歌っている』、『戦争が終わった時』、70年代に『アンドラ』が翻訳・上演された。その後は「我々は労働力を呼んだが、やって来たのは人間だった」というフリッシュの言葉が日本で紹介されることはあったが、作品はほとんど忘れ去られたと言っていい状況だった。しかし1918年に、大阪で『アンドラ』(市川明訳:新訳)が、また東京で『ビーダーマンと放火犯たち』(松鵜功記訳:初訳)がそれぞれ上演され、フリッシュ受容に変化の兆しが見えてきた。

戯曲『バイオ・グラフィ:プレイ』初稿が書かれたのは東西冷戦、ベトナム戦争、1968年の学生運動の直前、また女性参政権(スイスでは連邦レベルで1975年にようやく認められた)の議論が活発化しはじめた時代である。これらの出来事が戯曲には取り込まれている。インテリで裕福に暮すキュアマンの人生は、スイスの男性中心社会を反映している。キュアマンが選択の自由を手に入れたにもかかわらず、同じ行動を選択しては失敗を繰り返す滑稽さは、女性の社会進出を容易に認めない男性社会を揶揄するかのようである。キュアマンは人生を思い通りに変えて「支配する」ことを望み、そして失敗を繰り返すが、怒鳴ることと暴力を振るうことだけは変えることが出来た。これをいわゆる権力を志向する男性の「女性化」として捉えるとき、戯曲は自分自身男性であるフリッシュの男性的価値観・社会システムに対する自己批判と解釈することも出来る。運命論を打破して人生の可能性を提示しようとする戯曲は確かにその提示に失敗していると言えるが、しかしその失敗の滑稽さの中に、そして失敗して演出家に非難されるたびに「もう一度」と何度もチャレンジし続けるキュアマンの中に、変化を拒む本当の原因が垣間見えてくる気がする。そこにこの戯曲が今なお、フリッシュ戯曲の中では4番目に多く、上演され続ける理由があるのだろう。フリッシュが分析し描くアイデンティティや人間の関係性などの個々人の個人的な小さな問題から、自己と他者との関係の中に潜む社会的(政治的)見えない権力に縛られた人間存在が浮かび上がってくる。

翻訳者:松鵜功記

プロフィール

演出家紹介:矢野靖人(やのやすひと)
Theatre Company shelf演出家・代表。1975 年名古屋生。北海道大学在学中に演劇を始める。1999年4月より劇団 青年団(主宰 平田オリザ)演出部に所属。

同劇団退団後、2002年2月に shelf 始動。shelf では洋の 東西を問わず、毎公演、古典的テキストを中心に大胆に再構成。同時代に対する鋭敏な認識、空間・時間に対する美的感覚と、 俳優の静かな佇まいの中からエネルギーを発散させる演技方法 とを結合させ、舞台上に鮮やかなビジョンを造形し、見応えのあるドラマを創造する手腕には定評がある。

代表作に『GHOSTS-COMPOSITION/IBSEN』(作/ヘンリック・イプセン)、『悲劇、断章-Fragment/Greek Tragedy(「トロイアの女」より)』(作/エウリピデス)、『班女/弱法師』(作/三島由紀夫)[deprived](日本国憲法前文、武田泰淳「ひかりごけ」、太宰治「おさん」及び「人間失格」、ウィルフレッド・オーウェン「不思議な出会い」等からなるテキストコラージュ作品)等。

劇作家紹介:マックス・フリッシュMax Frisch (1911-1991)
スイスの劇作家、小説・散文作家、建築家。チューリヒ生まれ。
1930年から『新チューリヒ新聞』文芸欄に記事を寄せる。1934年に最初の小説を出版するが、1936年から建築を学び、1954年まで作家とならんで建築家としても活動する。第二次世界大戦の終結を目前に控えた1945年に劇作家としてもデビューし、戦後のスイスとヨーロッパを鋭く批判する作家として注目される。

演劇の代表作に、ナチ台頭を許したドイツおよびヨーロッパの市民社会を批判する『ビーダーマンと放火犯たち』(1958)、ユダヤ人差別問題を個人と集団とが作り出す他者に対する偶像に問う『アンドラ』(1961)、「私」の可能性と他者との関係性を追求するフリッシュ独自のドラマツルギーの実践である『バイオ・グラフィ:プレイ』(1967)などがある。散文では、個人の記録に虚構の物語、現代史的出来事への考察、文学・演劇論などを組み込んだ日記形式の作品『日記1946-1949』(1950)および『日記1966-1971』(1972)、多くの言語に翻訳されて世界的に読者を獲得した『シュティラー』(1954)、『ホモ・ファーバー』(1957)、演劇『バイオ・グラフィ:プレイ』同様、「私」の語られる可能性を追求する『我が名はガンテンバイン』(1964)、自伝的要素と虚構の物語を巧みに重ね合わせた小説で近年映画化された『モントーク岬』(1975)などがある。

翻訳者紹介:松鵜功記(まつうこうき)
津田塾大学ほか非常勤講師、翻訳家。スイスの作家マックス・フリッシュを中心とした現代ドイツ語文学とスイスの社会・文化について研究。ドイツ語作品の翻訳ではルーカス・ベアフース作『20000ページ』にて第八回小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞。

<主な著書・翻訳書>
『スイス文学・芸術論集 小さな国の多様な世界』(スイス文学会編、鳥影社、2017年、共著)
『スイスを知るための60章』(明石書店、2014年、共著)
『スイスの歴史―スイス高校現代史教科書 〈中立国とナチズム〉― (世界の教科書シリーズ27) 』(明石書店、2010年、共訳)

<演劇上演台本翻訳と上演>
ルーカス・ベアフース著『フラウ シュミッツ』(劇団Shelfリーディング公演、2018年7月)
マックス・フリッシュ著『ビーダーマンと放火犯たち』(劇団東京演劇アンサンブル、2018年3月)
ルーカス・ベアフース著『20000ページ』(劇団文学座、2015年4月)

カンパニー紹介:Theatre Company shelf

“shelf”はbook shelf(本棚)の意。
沢山のテキストが堆積・混在する書架をモチーフに活動を展開。俳優の「語り」に力点をおきつつ、古典、近代戯曲を主な題材として舞台作品を制作し続けている。2016年4月法人(一般社団法人)化。

2008年8月『Little Eyolf ―ちいさなエイヨルフ―』(作/ヘンリック・イプセン )利賀公演にて、所属俳優の川渕優子が、利賀演劇人コンクール2008<最優秀演劇人賞>を受賞。同年、同作品名古屋公演(会場・七ツ寺共同スタジオ)にて名古屋市民芸術祭2008<審査委員特別賞>受賞。2011年10月、『構成・イプセン― Composition/Ibsen(『幽霊』より)』(会場:七ツ寺共同スタジオ)にて、名古屋市民芸術祭2011<名古屋市民芸術祭賞>受賞。

2014年9月、ノルウェー国立劇場・アンフィシェンにて、『GHOSTS-COMPOSITION/IBSEN』が、国際イプセンフェスティバル正式プログラムとして招聘。2015年11月、タイ・バンコクにて開催されたLow Fat Art Festに招聘。バンコクにて滞在制作、現地アーティストとの共同制作を行った作品[deprived]は、バンコクシアターフェスティバルにて”Best Script of a Play”にノミネートされた。2018年『Hedda Gabler』にて中国初ツアー実施。中国5都市村(武漢、南京、上海、北京、方峪村)で上演。北京国際青年演劇祭、武漢新青年演劇祭、山東方峪村演劇祭に招聘参加。中国では2019年にも5都市(武漢、合肥、南京、北戴河、上海)ツアーを実施している。

公演概要

shelf volume 30『バイオ・グラフィ: プレイ(1984)』
公演期間:2022年6月9日 (木) ~2022年6月12日 (日)
会場:シアタートラム(東京都世田谷区太子堂4丁目1番地1号キャロットタワ-1階)

作:マックス・フリッシュ
翻訳:松鵜功記
構成・演出:矢野靖人

■出演者
川渕優子 / 三橋麻子 / 沖渡崇史 / 綾田將一 / 横田雄平

■スタッフ
舞台美術:鈴木健介
衣裳:藤田友
照明:則武鶴代
音響:和田匡史
舞台監督:土居歩
宣伝美術:オクマタモツ(956D)
プロデューサー:矢野靖人
制作助手:平沢花彩
制作協力:菅野佐知子(劇団チョコレートケーキ/ノアノオモチャバコ)
著作権管理:酒井著作権事務所、SUHRKAMPVERLAG
提携:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター
企画・制作・主催:一般社団法人shelf
後援:世田谷区、在日スイス大使館

■公演スケジュール
6月09日(木) 18:30
6月10日(金) 18:30
6月11日(土) 14:00
6月12日(日) 14:00
※上演時間2時間半を予定(途中休憩有)

■チケット料金
一般:4,500円
学生:2,000円 ※当日要証明書提示
U24:2,000円 ※24歳以下/前売りのみ劇場チケットセンターのみでの取扱い、要事前登録
*障害者割引:4,000円 ※介助者1名無料、劇団のみ取り扱い
*配信チケット(オンラインで視聴する):3,000円 ※公演終了後に配信、期間限定。劇団のみ取り扱い
(全席指定・税込)

公式ホームページ
https://theatre-shelf.org/jp/news/Biografie_Ein_Spiel_2022.html

4月30日(土)10:00よりチケット発売開始

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