【稽古場レポート】天願大介作・演出、月船さらら主演。演じるとは何か。深淵を覗く不思議な旅が始まる。métro「GIFT」

【稽古場レポート】天願大介作・演出、月船さらら主演。演じるとは何か。深淵を覗く不思議な旅が始まる。métro「GIFT」

 演劇ユニットmétroの新作「GIFT」が下北沢楽園で2月27日(木)から上演される。初日まで10日を切ったタイミングで稽古場を訪れた。

 稽古はちょうど太宰治「斜陽」の一場面を語る女とスタニスラフスキー(影山翔一)の対話が繰り広げられている最中だった。スタニスラフスキーとはロシア演劇の第一人者で、スタニスラフスキー・システムという俳優の教育法を確立した人物だ。

 月船さらら演じる「女」は女優なのだろうか。太宰治の「斜陽」が好きだと語り、その一節を語り始める。貴族階級の美しい母とその娘が静かに退廃していく様子を精緻な筆致で描いた文学作品だ。さらにそこに垣乃花渡邊りょう)という男が会話に加わる。

 いつの間にか男は弟の直治になって、姉と会話していた。その様子を客観的に観て独自の演劇論を語るスタニスラフスキー。内心で感じていないものを外面的には示さないといけない役者の矛盾。それを役者の脱臼と語る。

 天願は、影山に最初の語りかけは自分の内面の声、独り言なのでそのように、それからは感情を表すように指示する。女はそんなスタニスラフスキーの言葉には意に介さず、「斜陽」の物語を続けている。退廃し、衰えていくものの儚い美しさ。太宰治「斜陽」の真骨頂だ。
 女の弟、直治はふいに垣乃花に戻る。頼りない貴族の弟から、客観的に物語を見つめる垣乃花に。そのスイッチが見事だ。

 暗転して次のシーンは、様々な地獄の様子をグロテスクに生々しく語る唐十郎ならぬ唐十一郎(影山翔一)が登場する。ハイテンションで飛び出してきた後は、講談の話者のように扇子を片手に滔々と地獄巡りの様子を話す。エネルギッシュな演技と地力のある声に思い出した。かつてコロナ禍で観た唐組「ビニールの城」にいたバーテンダーだ。

稽古が一段落したタイミングで、天願大介と月船さらら、渡邊りょうにインタビューした。

____「2024年はアングラの終焉を感じさせる年でした」との文言がフライヤーにありましたが、それは唐十郎さんが亡くなったことでしょうか。

天願「唐さんが亡くなったこともありますが、天野天街も亡くなりましたし、椿組も花園神社から撤退しました。アングラという風景も寂しくなってきたなと。それぐらいの意味ですね。僕の考え方だとアングラとは唐さん一人のことなんです。唐さんはアングラと言われるのは嫌がっていましたけど。そういう区切りの年だったんだなと」

____métroは16年の活動の中で、2回ほど中断したと記録にありました。何か理由があったのでしょうか。

天願「それは、座長に聞いてください(笑)私はいつでもスタンバイしています」

月船「一度目は映像などの仕事が忙しくなってしまって、なかなかmétroへの時間が作れなかったことが原因の一つです。基本的に一人のユニットなのでその準備には膨大な時間とエネルギーが必要ですが、それができなくて。2回目はmétroだけでなく、役者をほぼお休みしているに近い状態でした。コロナを機に「演じる」ことへの意欲がもっと湧いて、一度深く勉強してみたくて、それこそスタニスラフスキーやメソッド、色々なものと向き合いました。それが終わったから第3期が始まるのではなく、そこでさらに芽生えた演じることへの敬愛を抱えながらmétroで実験をしていきたくなったんです」

____月船さんは「GIFT」の台本を読んで、どう感じましたか?

月船「とても新しい形の演劇になるのだと思いました。書いたご本人が戸惑っていらしたのが忘れられませんが、私は大丈夫だと思いました。どう作っていけばいいか、最後に何をお客様に届けられるのか、その時点では未知でしたが、今は確信があります。これは何の話なのか。「演じる」ということの話でもあり、一人一人が何の『革命』と向かい合っているのかそんなお話なのだと感じています。この話と向かい合っていると、どうしても世界のことをも考えます。演技の話ではなく、世界や歴史に繋がっていく思いがここには詰まっていて、その大きさ、広がりを感じます。

 でもこれをやるからには共演してくださる方がとても重要です。誰が演じるかで役が変わる。何に挑戦しているのかを理解していただいて柔らかく化学反応してくださる方がいいと思ってお願いしました。最高のメンバーとなりました」

____天願さんの脚本や演出は、どんなところに魅力があると思いますか?

月船「天才です。そして新しいことをずっと探していらっしゃる。その頭の中を演劇にしていくのは実は大変な作業です。でも、それをmétroでしなくてはいけないくらいの使命感を勝手に思っています」

____逆に天願さんは役者としての月船さんの魅力は、どんなところにあると思いますか?

天願「一言でいえば、御し難い。彼女の理屈や感覚とはぶつかるんです。一筋縄ではいかないところがある。でも僕が思った通りにしてもらいたい訳ではないんで、逆に思った通りになったら面白くないじゃないですか。そこでぶつかって新しい、もっと強いものになることが可能な俳優さんだと思っています」

____今回の作品は特に『演技とは何か?』の真相に迫るものだと思いました。

天願「そうですね。それは月船さん自身も考え、勉強してきたことだと思うんです。大抵の俳優さんは考えざるを得ないことですが、今度は演出家の側もそれを考えているという。あまりお客様に見せるようなものではないのですが、演出家が普段から考えていることを少し出してみようかなと」

____俳優が別人を演じるということは、どういうことなのかが描かれていると感じました。

天願「これはスタニスラフスキーだけじゃなくて、僕の言葉もたくさん入っています。僕なりの理解ですよね。僕はスタニスラフスキーを尊敬しているし自分と感覚が似ているところがたくさんあると思っていますが、意見が違うところもあります。信仰のように全部受け入れることはできないです。時代の限界もありますし。でも態度というか、そういうものは継承して然るべきものだと思っています。僕なりのスタニスラフスキーの解釈を、ある種の敬愛を込めて書いています。
 
 唐さんに対してもそうです。全然唐さん自身の話ではないんですが、一人の狂言回しとして出てくる時に、スタニスラフスキーの対抗馬というか同じ分量で出てこられる人というと唐さんしかいなかった。日本でアングラというものを生み出した天才だと思っています。唐さんとは交流もありましたし、親しみを込めて書いている部分もあります。生きていたら怒られるかも知れませんが、唐さんイズムを継承するとこういうこともありかなと。非常に重要なことを言ってもらう役で登場しています」

____唐さんは子供のような天真爛漫なところがありましたよね。

月船「私は実は唐組さんの紅テントには2回出させていただいています。そしてスタニスラフスキーも通って今があります。2つは対局にあるように思われそうですが、実はそんなことはないと思うんです。無邪気さや俳優の肉体の大切さをどちらも痛感します。実は宝塚さえも本当は似てるところを感じる。極めればみんな同じようなところに行き着くのかもしれない。何かの二番煎じや真似事だと失われていってしまうものがあるのかも。まだまだ私にはわからないですけど」

______それにしても月船さんのセリフ量は多いですよね。驚きました。 

天願「これはいつものことなんです。もっと死ぬほど喋ってる時もあります」

月船「そうなんです(笑)。でも暗記が厳しいというよりはもっと違う大変さがあるんです、小説の文章をそのまま演じるというのは。目の前に世界を作らないとお客様の想像力で小説を読んだ方が面白いということになってしまう。そうならないように演じるのが大変ですね」

_____「GIFT(ギフト)」とはどういうことでしょうか。

天願「台本上は才能とか器とか色々なことを書いていますが、僕は死ぬ直前まで努力したのちの瞬間に訪れるものだと思います。簡単にもらえるものではない。極限まで追い詰められて『助けてくれ!』となった時にやっと訪れるものだと思っています」

月船「私にとって、ギフトはインスピレーションです。相手役と台本の言葉を交わしているのに、つまりそれは架空のものなのに、インスピレーションが降りてきて、それが現実以上に本物になる瞬間があります。それが私にとって、演技の神様から貰えるギフトです」

______渡邊りょうさんは今回métroには初参加とお聞きしました。

渡邊「天願さんが書く戯曲によく登場する『垣乃花』という人物の3代目をやらせてもらっています」

天願「2代目は若松武史さんです」

渡邊「1代目が天願監督が一番最初に撮った映画の主役です。まさか、そんなそうそうたるメンバーの中に加えていただけるとは思っていなかったので光栄です。垣乃花は人間と妖怪の間にいる人で、どちらにも片足を突っ込んでいるような人物です。最初に天願さんにそんなイメージを言われました。どこか欠けていて、さららさん演じる女の欠けているもの同士が重なったような存在にも感じられて。斜陽の弟、直治も演じているので、今直治なのか垣乃花なのかわからなくなる瞬間があります」

______月船さららさんとは初共演ですよね。月船さんの印象はいかがですか。

渡邊「タフですよね。表面でおどおどしているシーンもあるんですが、核となるさららさんはドシっと構えていて、大木みたいな人がそこにいると感じています。さららさんが書かせた脚本なんだなと思いました。構成も色々と飛ぶし難しいんですが、さららさんという人が地に根を張っている脚本だから、ついてこれるんだなと思っています。この大木を揺らしたら何が落ちてくるんだ?みたいな。僕もその枝の中の一人なんですが」

______最後に観にくるお客様にメッセージをお願いします。

渡邊「天願さんが話していた『めまい』という体験がこの作品を観ている時に訪れたらいいなと。観劇体験として『めまい』というのがどういうものか楽しみにして来ていただけると嬉しいです」

天願「アングラ演劇ではないです。目指すのはアングラの先です。先輩たちから栄養をもらって今の我々が考えている面白さを追求していますので、そうしたものをどうか覗きにきてください」

月船「演劇ってなんなのだろうって、コロナ禍の中でも考えさせられた、そのもやもやしたものの今の私なりのアンサーがここにありました。たった4日間。是非、目撃していただきたいです」

上演時間約1時間45分。

(取材・文・写真/新井鏡子)

公演情報

métro『GIFT』
期間:2025/02/27 (木) ~ 2025/03/02 (日)
劇場:小劇場 楽園

出演:月船さらら、渡邊りょう、影山翔一、マメ山田
脚本:天願大介
演出:天願大介
料金(1枚あたり):3,800円 ~ 4,800円

【発売日】2024/12/29
●全席自由席 前売/当日 4,800円(税込)

●アンダー25 3,800円(税込) ※枚数限定
(公演当日受付にて年齢の分かる証明書のご提示をお願い致します)

タイムテーブル
2月27日(木) 16:00(ノベルティ付き)/20:00(ノベルティ付き)
2月28日(金) 14:00/18:00〈アフタートーク 〉天願×渡邊りょう×月船
3月1日(土) 15:00/19:00〈作品深掘りトーク 〉天願×月船
3月2日(日) 12:00/16:00

※正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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