【稽古場レポート】死をただ悲しいものとして描きたくない。時おり訪れる笑いが救い。霧島ロックの描く劇団「ここ風」の「うすらひの下に、いる」

【稽古場レポート】死をただ悲しいものとして描きたくない。時おり訪れる笑いが救い。霧島ロックの描く劇団「ここ風」の「うすらひの下に、いる」

10月30日から下北沢「劇」小劇場で上演される劇団「ここ風」の「うすらひの下に、いる」。2005年に旗揚げされた劇団の第23回公演になり、現在は作・演出を霧島ロックが務めている。開幕まで、あと8日に迫る稽古場を取材した。

「ここ風」の舞台は、とても優しくてあたたかい世界」。「ほっこりと、優しい気分になれる」などSNSを検索すると、そんな言葉が並ぶ。
しかし、この日見学した稽古場では親しい人の死の真相をめぐるミステリーのような話が展開していた。劇も終盤に差し掛かり、クライマックスに向けた伏線回収の謎解きのシーンでもある。しかしシリアスな中にも笑いがあり、決して重たくはない。

民家のガレージを模したセットに、劇団の古参のメンバー、三谷健秀天野弘愛、レギュラーメンバーの斉藤太一、昨年加入したはぎこ、客演の浅見直輝石井卓真高橋亮二が集まった。昔の仲間たちが友人のために集結したという劇の要となるシーンだ。

シーンは浅見直輝の独白から始まった。天然なのか、言葉のチョイスもおかしく、それを拾って議論する面々。決して笑えるような状況ではないのに、ついつい笑ってしまう。

そんな独白に対して、霧島ロックが丁寧に演出をつけていく。微妙な声のトーンやボリュームで細かい感情の機微を表現し、人物造形を重ねていく。
セリフの流れや、声のなめらかさも意識しているせいか、とても聴き取りやすい。霧島ロックの声の良さも相まって、劇中劇を見ている感覚にもなった。途中で天野弘愛も立ち位置や動きを提案。ときおり笑いも起こり、役者同士が長年培ってきた信頼関係や風通しの良い雰囲気を感じられた。

休憩中に霧島ロックに話を聞いた。

_____今回、「ここ風」の舞台を観るのは初めてなので、XなどSNSで感想を検索してみました。そこでは「ほっこりとした優しい気持ちになれる」などの感想が多かったので、ミステリーのような展開に意外なものを感じました。

霧島「そうですね。『ほっこり』だと思います。『ほっこり』の中に重たい事件をぶち込んでいます。意識して作っている訳ではないんですが、これまでの作品も、だいたい人の死が絡んでいます。今までだと昔の話なのですが、今回はより生々しい、傷が癒えていない状態の話になっていると思います。

それでも日常は続いていく

でも人間、そんな悲しみの中に浸ってばかりではいられないし、どうしても生活して行かなければならない。笑ったりバカ話することもあると思うんです。そういうことを書きたい。それが生きる活力になっていると思うんですよ。
重たいものを描きながら、役者を重たいままでいさせないでいようと思っています。人間の滑稽さや、どうしようもないおかしさを描きたいですね」

作中でも、事件の真相に迫るような緊迫したシーンなのに「とりあえずシチューを食べよう!」との提案をはさむなど、日常と地続きであるかのようなセリフが見られた。

霧島「死を、ただ悲しいものとして捉えたくないんです。人間は100%死ぬじゃないですか。でも仲間もいたり、考えなくちゃいけないこともある。どうでもいいことで笑ったり癒されたり、そんなことが大切なのだと思ってます」

_____それは色々と経験を重ねてきた大人の感覚だと思います。

霧島「そうかも知れません。私も父親と母親を亡くしています。母親を亡くした時は、もっと悲しいと思っていましたが、驚いたことに悲しくはなかったんです。あの人は本当にあっぱれな死に方をしましたから。
ニュースでも、ひとりで亡くなった老人のことを、ことさら悲惨なことのように悲しいBGMを付けて報道するのは気に食わないところがあります。人は誰しもひとりで死にますから。その人の人生にも、楽しかったことや嬉しかったことはあると思います。それを否定するような感じがします。だから、ただ悲しいこととして描きたくないという反抗心もあるのかも知れません」

コメディの中に何か持ち帰ってもらいたい

_____そんな気持ちになったのは最近でしょうか。それとも旗揚げ当時の20年近く前から感じていたことですか。

霧島「昔は感じていなかったと思います。『ここ風』も2005年の旗揚げ当初は、基本的に役者として出演していました。主催者や演出家も他にいて、ただ楽しいライトなコメディだったのですよ。2015年からは私が脚本も演出も担当するようになりました。そこから作風もガラッと変わりました。楽しいコメディを書きたいのはありますが、それだけに留まらず、そこから何か持って帰ってもらいたいと思って作っています」

(取材・文・写真/新井鏡子)

公演情報

ここ風其ノ二十三「うすらひの下に、いる」

会場:下北沢「劇」小劇場
公演期間 : 2024年10月30日(水)〜2024年11月3日(日・祝)

■公演スケジュール
10月
30日(水)19:00(風割)
31日(木)14:00(風割)/19:00
11月
1日(金)14:00/19:00
2日(土)14:00/19:00
3日(日)13:00/17:00
(受付開始・開場は開演の30分前)

一般:4,000円
風割:3,800円[10月30日(水)19:00/10月31日(木)14:00]
学割(小中高生):3,000円
リピーター割:2,800円(本公演の半券要提示)
※未就学児無料

■出演
三谷健秀
天野弘愛
香月健志
斉藤太一
はぎこ
霧島ロック
石井卓真
浅見直輝
斉藤ゆき
たかのあ茶み
高橋亮次

■スタッフ
作・演出:霧島ロック
舞台監督:HiRoE
舞台美術:安倍美波
音響:夕起ゆきお
照明:矢島千浩(龍前正夫舞台照明研究所)
制作協力:SUI
webデザイン:九里みほ
宣伝デザイン:へんみのぶあき
協力:三文姉妹 株式会社エクリュ 株式会社ヘリンボーン
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成】

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