【公演レポート】芝居×生演奏を小劇場ならではの距離で 劇団演奏舞台『息子』

【公演レポート】芝居×生演奏を小劇場ならではの距離で 劇団演奏舞台『息子』

劇団演奏舞台の名作戯曲上演シリーズ2024として、2024年8月3日(土)・4日(日)に小山内薫の名作戯曲『息子』が上演された。

本作は1923年に六代目尾上菊五郎、四代目尾上松助、十三代目守田勘弥によって初演が行われ、現在でも度々歌舞伎で上演されている演目。今回は火の番の老爺を鈴木浩二、金次郎を森田隆義、捕吏を浅井星太郎が演じ、劇団演奏舞台の特色である俳優の芝居とバンドの生演奏によるアンサンブルで名作に新たな息吹を吹き込んでいる。

<STORY>
江戸時代末期、雪が盛んに降っている。
ここは江戸の入口にある粗末な番小屋。火の番をしている老人が一人。
そこに捕吏がやって来て、面白くもない冗談を言って去っていく。
入れ替わりにやって来たのは、おふくろを探しに来たという若い男。火の番の老人は男の身の上話を聞く。若い男は上方からやって来たという。
老人は言う。俺にも一人上方へ行ってる息子があるが…。

物語の舞台は江戸時代末期。開演までの間は雪が降る様子が映像で流れ、侘しく寒々しい冬の空気が劇場内を満たしていく。THE★演奏部隊の二人(浅井星太郎・池田純美)によるどこかノスタルジックなメロディがこれから始まる作品への期待を煽り、客席の集中力もグッと増したのを感じる。

鈴木浩二は頑固で融通の効かない火の番を愛すべき老人として演じた。冗談の通じない堅物だが、一方で見ず知らずの若者に食事や煙草、酒を分け与える一面もあり、「きっと街の人々から慕われているんだろう」と思わせる。火鉢をじっと見つめる瞳、息子は大成していると語る声から彼が積み重ねてきた人生や価値観が伺え、深みのあるキャラクターが生まれていた。

両親を探して上方からやってきたと語る若い男(森田隆義)は、仕事やいた場所についても言うことがころころ変わり、なんとも怪しいが愛嬌もある人物。火の番と話す中で明らかになる真実に驚き慌てる姿には悲哀が漂っており、ストーリーをドラマチックに彩っている。

そして、浅井星太郎演じる捕吏は冒頭とラストの出番ながら強い印象を残す。火の番に軽口を叩く時の気安さ、若い男に疑惑を向ける鋭い視線のギャップで物語を引き締めていた。

俳優たちの表情はもちろん、指先の震えや息遣い、火箸で炭をつつく音や酒を注ぐ音まで聞こえる劇場で、物語に没頭できるのが贅沢だ。小さな劇場だからこそ、芝居のちょっとした変化、そこから感じられる心の揺れまで手に取るように見えてくる。

江戸時代の物語ということで、セリフ回しや登場人物する単語が古めかしい部分もあるが、テンポの良いやり取りの面白さ、セリフ以外の部分から伝わるものの多さでカバーされており、すんなりと聞くことができた。

また、オープニングに加え劇中のSEやBGM、エンディングで歌われるメインテーマはTHE★演奏部隊の生演奏。物語を引き立て、見る者の想像力を掻き立て、深めるような音を次々に奏でている。

本作において、火の番が若者の正体に気付いたかどうかはセリフや地の文で明確に描写されていない。メインテーマ「あたらよ」は、様々な受け取り方ができるラストの解釈を手助けしてくれるような歌詞とあたたかくも物悲しいメロディが胸に響く。それでいて希望も感じさせ、しっとりと余韻を残す楽曲によって作品に華を添えていた。

主に歌舞伎で上演される作品を、小劇場らしい手触りで見事に立ち上げて見せた劇団演奏舞台。次なる公演84/名作戯曲上演シリーズ2024は、2024年9月7日(土)・8日(日)、清水邦夫の代表作の一つ、『楽屋―流れ去るものはやがてなつかしき―』を上演する。多くの劇団が上演してきた名作を、劇団演奏舞台がどのように描き出すのか期待が高まる。

公演概要

公演83/名作戯曲上演シリーズ2024
『息子』
作/小山内薫
演出/池田純美

■CAST
鈴木浩二、森田隆義、浅井星太郎
演奏/THE★演奏部隊(浅井星太郎・池田純美)

■日程
2024年8月3日(土)〜4日(日)※公演は終了しました

■会場
演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA
東京都千代田区九段北1-10-2 タイヤビル5階

<次回公演>


公演84/名作戯曲上演シリーズ2024
『楽屋-流れ去るものはやがてなつかしき―』
作/清水邦夫 演出/池田純美

■CAST
典多磨、岸聡子、美ゆき、池田純美
演奏/THE★演奏部隊

■ 日程
2024年9月7日(土)~8日(日)

■ 会場
演奏舞台アトリエ/九段下GEKIBA
東京都千代田区九段北1-10-2 タイヤビル5階

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