【稽古場レポート】音楽の力で風を起こして冒険の旅に出かけよう!物語付きクラシックコンサート「アラジン・クエスト」は、主人公と一緒に体験する参加型コンサート

【稽古場レポート】音楽の力で風を起こして冒険の旅に出かけよう!物語付きクラシックコンサート「アラジン・クエスト」は、主人公と一緒に体験する参加型コンサート

7月27日と28日に日生劇場で上演される「アラジン・クエスト」は、音楽とお芝居の両立を目指す日生劇場オリジナルのコンテンツ。音楽をしっかり聴かせ、お芝居のストーリーもきちんと立てているので、いわゆるMC付きのコンサートではないとのこと。どんな舞台なんだろう?と楽しみに稽古場を訪れると、まさに音楽を体全体で感じながら、役者と一緒に物語の世界へ没入するような体験型コンサートだった。

目の前の視界が開けるような爽快感

ストーリーはスランプに陥った音楽家のジョージが、ランプの精に導かれてアラビアン・ナイトの世界へ旅立つところから始まる。この世界ではジョージはアラジンと名前を変え、囚われのルーナ姫を助ける冒険に出る。

左から百名ヒロキと大久保祥太郎

主人公のアラジンに百名ヒロキ、ランプの精に大久保祥太郎、ヒロインのルーナ姫に山下裕賀、魔法使いに武岡淳一が扮する。この日の稽古は、4人を中心にアラジンとランプの精ポギーが大海原に乗り出すシーンから始まった。 まずリヒャルトストラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れる。映画「2001年宇宙の旅」の壮大なテーマ曲だ。目の前の視界が開けたような爽快感の中、アラジンとポギーは魔法の絨毯が変じた船で海に漕ぎ出す。

中央・石丸さち子

そこに客席の後ろから大きな波が押し寄せて、二人は大はしゃぎ。この波のダイナミックな仕掛けは当日のお楽しみ。きっと客席から歓声が上がるはず。
演出の指揮を取るのは脚本も担当している石丸さち子。音楽のタイミングも確認しながら、パワフルに演出をつけていく。

客席も一緒になって音楽で風を巻き起こす

アラジン役の百名ヒロキ

ランプの精・ポギー役の大久保祥太郎

元気よく海に乗り出したアラジンとポギーだったが、船を進めてくれる風が吹かない。
そこで音楽の力で風を起こし、波を作ろうとするアラジン。ここで指揮者のマエストロ(角田鋼亮※この日は副指揮 松田義生)も登場する。ドレミの音階でメロディを歌って、その強弱で波を作っていこうとするアラジンたち。オペラ歌手の山下裕賀も加わって美しいハーモニーが部屋全体に響く。アラジンやマエストロは客席にも声をかけ、指揮をして一緒に盛り上げる。

(中央)山下裕賀

夜明けのような清々しい曲の中、風が起こり船が動き出す。井上一平のオリジナル楽曲だ。冒険物語にふさわしいワクワクするようなメロディに、いつの間にかストーリーの中に引き込まれていくのに気づく。ここまでで楽曲のどのタイミングで役者が次のアクションに入るのか、何小節目でセリフを発するのか入念なリハーサルが行われた。 

観客と一緒に歌い徐々に盛り上げ、風を巻き起こすアラジンたち。見どころのこのシーンを最大限に盛り上げるため、何回もタイミングを図る。クライマックスでは、ついに風と波が起こり拍手が巻き上がる。動き出した船に飛び乗るアラジンとポギー。百名ヒロキ大久保祥太郎の躍動感も気持ちいい。

(中央)武岡淳一

順風満帆に船を進めた二人だったが、そこに魔法使い(武岡淳一)が立ちはだかる。重々しい声で「海の恐ろしさを思い知れ風を吹け、嵐よ巻き起これ!」と叫ぶ魔法使い。この間も演奏が続くので、まるでミュージカルのワンシーンを見ているようだった。

各界のプロフェッショナルが集結!

稽古を見せていただいたのはここまでだが、お馴染みの名曲以外にもオリジナル楽曲が挿入され、物語の世界観を創り出していた。ファンタジックな楽曲は井上一平の作曲・編曲。 NHKBS番組の「フロンティア」や「ブルーピリオド」の音楽を担当し、NHK「うたコン」で演奏される楽曲の編曲も担当している。

主人公のアラジン役百名ヒロキは、今回演出・脚本を担当する石丸さち子が2017年に制作した「ボクが死んだ日はハレ」でミュージカルデビュー。それ以降は、ミュージカル「RENT」や「タイタニック」など実に30本以上の舞台出演を果たしている。大久保祥太郎は28歳。阿佐ヶ谷スパーダースの劇団員でもあり、2022年から3年連続で石丸さち子の舞台に出演。ゆかりのある3人のチームワークも抜群だ。ベテラン俳優でTVドラマや舞台はもとより、声優としても活躍する武岡淳一も参加し、物語に深みを与えている。

さらにヒロインの山下裕賀はメゾソプラノのオペラ歌手。2023年には日本音楽コンクール声楽部門第一位および聴衆賞を受賞。これまで日生劇場では「ヘンゼルとグレーテル」のヘンゼルや「セビリアの理髪師」ロジーナを演じている。今回はヒロインのルーナ姫のほか、アラジンたちが道中で出会う骸骨娘や人魚姫の歌も担当。クライマックスで歌われるオリジナル楽曲にもぜひ注目したい。

演奏は「アラジン・クエスト」オリジナルのオーケストラ

演奏は国内外で活躍中のソリストやオーケストラ首席奏者たちがこのコンサートのために集まった特別編成のオーケストラ。今作ではミュージカルのようにオーケストラピットに隠れることはなく、全ての奏者が舞台上に上がり、役者としても参加する。さらにコンサートマスターにヴァイオリンソリストの川田知子、指揮者に角田鋼亮が登場。指揮者は音楽を操るマエストロとして劇中にも登場する。オーケストラも役者と一緒に演技をするそうなので、その条件で集まったメンバーとのこと。またとない贅沢なメンバーが集結した東京2日限りのコンサートなのだ。

必ずどれかが琴線に触れる!魅力的な楽曲

演奏曲は一度は耳にしたことがある「魔法使いの弟子(デュカス)」や「動物の謝肉祭(サン・サーンス)」「剣の舞」のほか、「くるみ割り人形」など、バレエの楽曲やガーシュインのミュージカルの名曲「アイ・ガット・リズム」など、バラエティも豊か。異国情緒たっぷりに冒険の世界へ誘う。一足早く、夏休みの旅気分を満喫できそう。お子さんと一緒なら音楽の世界への入り口としておすすめしたい。

指揮者の角田鋼亮が指揮だけではなく、ミニピアノ演奏も披露。かわいらしいミニピアノの音に注目!

(取材・文・撮影/新井鏡子)

公演概要

日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024
物語付きクラシックコンサート「アラジン・クエスト」

日程:2024年7月27日(土)・28日(日)
会場:日生劇場

出演:
角田鋼亮〈指揮〉
百名ヒロキ〈アラジン〉
大久保祥太郎〈ランプの精〉
山下裕賀〈ルーナ姫(メゾソプラノ)〉
武岡淳一〈魔法使い〉
ニッセイシアターオーケストラ
川田知子〈コンサートマスター〉

演出:石丸さち子
作曲・編曲:井上一平
脚本:長屋晃一 石丸さち子
美術:土岐研一
照明:日下靖順(A.S.G)
衣裳:西原梨恵
音響:高橋秀雄(アントラクト)
振付:天野一輝(梅棒)
ヘアメイク:村山悦子(丸善)
副指揮:松田義生
コレペティトゥア:河野紘子・三澤志保
舞台監督:浅沼宣夫(ザ・スタッフ)
協力:株式会社河合楽器製作所
イラスト:橋賢亀
主催・企画・制作:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
協 賛:日本生命保険相互会社

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