【稽古場レポート】道なかばで子どもを喪った夫婦のその後を描く 矛盾する行動にリアリティで迫る タカイアキフミ作・演出 TAAC『かわりのない』

【稽古場レポート】道なかばで子どもを喪った夫婦のその後を描く 矛盾する行動にリアリティで迫る タカイアキフミ作・演出 TAAC『かわりのない』

TAACの新作『かわりのない』が2月7日(水)から新宿シアタートップスで上演される。上演に先駆けて1月中旬の稽古場を取材した。

描くのは事件の「その後」

 話題になった事件の「その後」を描いてきたTAAC。今回は、難病を患った子どものために募金活動をしてきた夫婦のその後を描く。夫婦は、目標額を達成する直前に子どもを亡くしてしまう。やり場のない喪失感に見舞われた夫婦。夫は、妻にふたたび街頭に立ち、これまで通り募金を呼びかけることを提案する。妻はそんな夫の提案を受け入れる。やがて目標額を達成した夫婦の元に一人の少年が現れる…。

矛盾した行為にリアリティを持たせる

 

 事前に台本をいただき目を通したが、夫婦がすでに子どもがいないのにも関わらず募金活動を再開することや、その後の行動に「こんなことをする人がいるのだろうか?」と、少しリアリティに欠けるストーリーを想像していた。しかし実際の稽古を観て、その思いは払拭された。


 人間の一見矛盾した行動に、緻密な人物造形と演技力で、リアリティを帯びさせ真相に迫る。常識では理解し難い行動も、説得力を持って立ち上がってくる。余分な装飾を省いた抽象的な舞台装置も、その一端を担っているように感じた。

「やり残したことをただやる」その充実感

 この日の稽古は、夫(清水優)が妻(異儀田夏葉)に募金再開を持ちかけるシーンから始まった。夫の田代健太は、妻、由希子の手をとり「わかんない。わかんないけどさ、やってみようよ。もう一回。募金。」と呼びかける。手をとり、向かい合い懇願するような仕草をする健太。

 

 場面が変わり、警察の取り調べ室。
舞台の中央で刑事、春日井陽平(荒井敦史)が座っている。「すみません」と刑事に軽く頭を下げる健太。この場面転換時の立ち位置と目線を入念に調整していた。
募金活動を再開した理由を問う刑事。当然ながら詐欺行為に当たるが、その口調は決して責めてはいない。

 「理由ってそんなに大切ですか?」と逆に問い返す由希子。募金活動によって息子が生きていることを実感する。募金をしてくれるかどうかはどうでもよかった。ただ、バスのロータリーに立って呼びかけることだけで充実していた。
大切な人を後少しのところで亡くし、行き場を失った情熱がこうした行為に駆り立てたことを想像させる。

由希子役、異儀田夏菜の迫真の演技

 さらに場面は駅前のロータリーに変わり、そこで由希子が募金を呼びかける。息子が生きていた頃と同じように、成長すれば当たり前のように広がっていた息子との未来を想像し、その未来をくださいと道ゆく人に呼びかける。かけがえのない息子との、当たり前の人生を願っていたことが伺える。
子どもを持つ親なら身につまされるシーンだ。
由希子役、異儀田夏菜の祈りのような叫びが、こうしなければ立ってもいられないような切実さを感じさせる。圧倒された。

刑事さえもコミュニケーションに困難さを抱えている 

 場面は取り調べ室に戻り、あくまで冷静な口調で集めた金額を問う刑事。集めた金額ではなく、夫は妻の気持ちが軽くなることを願って、妻はただ立ち続けたことに意味があると力説するが、刑事との温度差はかなりある。
この刑事もまた、コミュニケーションに何らかの問題を抱えている人物のようだ。
うっすらと笑みを浮かべている。
 「何がおかしいんですか?」と問う妻。この中で一番、一般的な感情を持っているのは妻なのかもしれない。その感情のずれを、各人物の目線や立ち位置を微妙に調整しながら稽古は続いた。
 ここで取り調べは終わったが、刑事は、最後に意外な言葉を投げかける。

何気ない雑談から、異質さを感じさせる

 場面は変わって、根本家のリビング。舞台装置には特徴があり、床には、そのセットを表すようなテープが貼られていた。
実際にその場にいないシーンでも他の登場人物が舞台上におり、その立ち位置や目線で心情を表現していくようだ。

 根本岳(納谷健)も息子を亡くしたばかりだと言うのになぜか冷静だ。にこやかに刑事に食事を勧めたり、当たり障りのない雑談をする。一見どうでも良いことだが、言葉の端々に頑固で不穏な性格を感じさせる。納谷健の物腰柔らかな外見だからこそ、感じられる異質さ。ここでも人物造形の深さを感じた。
このシーンでは、役者と意見交換もして、セリフも自然な流れになるように微調整を重ねていた。シーンの終盤では、根本の感情がヒートアップ。ゾッとするような違和感を残す。

息子の「かわり」を求めた夫妻



 息子の死の真相を知りたくないのか?と根本に問う刑事。
私が観た場面は、ここまでだが、ストーリーはさらに死の真相へと近づいていく。その結末はとても悲しい。しかし同時に田代夫妻の行動は、それに反するかのように生き生きと描かれる。事件を調べるうちに自身と対峙することになる春日井陽平。陽平の妻・里実(北村まりこ)は、そんな夫との向き合い方に思い悩む。息子のかわりを探し求める田代夫妻と、息子の死にまだ実感が湧かない根本岳。医師の橋爪(廣川三憲)も事件の重要参考人として登場し、それぞれの思惑が交錯していく。
 後半の物語のキーになるのはある精神疾患を応用させたものだ。
前半と同じように、矛盾した行動にリアリティの肉付けで迫ってくるなら、その時に見えてくる光景はどんなものだろう。ぜひ劇場で見届けたい。
(取材・文・撮影/新井鏡子)

公演情報

『かわりのない』

<会場>シアタートップス


<期間> 2024年2月7日(水)~2月12日(月・祝)

<公演日・開演時間>

2月7日(水)19:00 ◎

2月8日(木)19:00 ◎

2月9日(金)19:00 ◎

2月10日(土)14:00/18:00 ☆
2月11日(日)14:00/18:00 ☆

2月12日(月)14:00


◎:前半割 ☆:アフタートーク

<出演>荒井敦史、異儀田夏葉、清水優、納谷健、北村まりこ、廣川三憲

<チケット料金>
一般:6,200円
前半割:5,900円
TAAC応援!一般:9,900円※1
(全席指定・税込)

※未就学児入場不可
※1【TAAC応援!チケット】
TAACの継続的な活動を支援するチケット/TAACロゴステッカー付[非売品]

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