【ゲネプロレポート】普遍的な家族の物語に新たな展開。最後まで目が離せない「父が死んだ時、僕たちは何年かぶりに集まった。」

【ゲネプロレポート】普遍的な家族の物語に新たな展開。最後まで目が離せない「父が死んだ時、僕たちは何年かぶりに集まった。」

Yumino Projectの舞台『父が死んだ時、僕たちは何年かぶりに集まった。』通称”ちちぼく”が、12月6日に「CBGK シブゲキ!!」で初日を迎えた。上演に先駆けてゲネプロが公開された。

どこにでもある家族の物語

タイトルを見て「うちもそうだった」と思う家庭は意外と多いはず。父親が急死して、独立して家を出ていた子ども達が久しぶりに帰省する。それが数年ぶりになってしまった。険悪な関係でなくとも、仕事や子育てに追われてついつい帰省を先のばしにしてしまう家族はあるはずだ。そんなありがちな家族の物語から始まる本作。

しかし現代的な登場人物と思いがけない展開で、サスペンス要素も加わり、どこに帰結するのか最後まで目が離せない作品になっている。舞台セットは暖色系の灯りがともるリビング。ダイニングテーブルとソファ、バーカウンターで終始する会話劇だ。

末っ子長男とネット上の友人がキーパーソン

主役は四人兄弟の末っ子で長男になる橘快斗(中原弘貴)。3人の姉の長女、原田聡美(花奈澪)、次女の佐々木優子(春名風花)、三女の橘真依(長野雅)。
長男の快斗は22歳で、3人の姉とは年が離れており、高校生の時に母を亡くし家族の愛に飢えている。そのせいか部屋にこもりがちな生活を送っている。

そんな4人兄弟と、姉の聡美の夫誠司(吉田宗洋)や優子の夫宏太(小川拓哉)も加わり、実家のリビングは久しぶりに賑やかになる。橘家を家族のように気にかける、ちょっとお節介な隣に住む竹内礼子(うちだなな)や、その息子でバーを経営している凌(河合健太郎)など、父の死をきっかけに様々な人物が集まり思い出話に花を咲かせる。

昭和の戯曲なら、これだけで物語が展開しそうだ。しかし、ここで新たな登場人物が加わり、リアルな家族にサッと疑惑の影を落とす。快斗がSNS上で繋がり、会ったことはないが、親友のようになんでも話せる仲にある西尾俊輔(正木郁)だ。

中原弘貴の揺れ動く感情表現に注目

家族がリビングに集まっているのにも関わらずネット上の友達、俊輔と話し続ける快斗。俊輔はネット上では高校生と偽っているが、本当は30代のサラリーマンだ。快斗が高校生の時からやりとりをはじめ4年間、快斗の日常を見てきた人物だ。これだけの情報では、かなり怪しい人物だが、快斗の思春期特有のみずみずしい感性や、裏表のない言葉に癒されている様子がわかる。快斗役の中原弘貴は、劇中で高校の制服姿も披露するが全く違和感がない。

ネットリテラシーと生命倫理と

ここで物語は4年前に巻き戻る。快斗の母親が亡くなり、悲嘆にくれる父正雄(山谷勝己)。毎日仏壇の前で酒を飲み、写真の母と語らう。母親に会いたいのかと思う快斗。それを俊輔に話すと「殺してあげれば?」と衝撃的な言葉が投げかけられる。

とまどう快斗に、さらに「人間死にたい時に死ねる訳じゃないんだよ。死にたくない時に死んでしまう方がほとんどだ。だから死にたい時に死ねたら、いいよね。そのほうが幸せなんじゃない」という言葉が続く。俊輔は、死を求めたことがあるという。

リビングが取り調べ室に一転し、刑事手塚次元(五十嵐拓人)とその後輩福士大介(石川翔)に殺人幇助の疑いで取り調べを受ける俊輔。暖かいリビングの空気感が一変する五十嵐拓人の怪演にも注目して欲しい。果たしてネット上で殺人を示唆することは犯罪になるのだろうか。街中で殺人の方法を吹聴して回れば「あの人はおかしい」と阻害されるが、ネット上のクローズな空間だとそれがない。

反面、俊輔のリアルな友人、仲村一真(嶋崎裕道)は俊輔に向かって正直な意見を放つ。快斗にも森本颯太(永島龍之介)という屈託のない性格の親友がいるが、俊輔と颯太への態度は微妙に違っている。

他にも快斗がSNSの投稿を始めたのは、母親の病気がきっかけで、その投稿に多くの共感を集めたが、余命を過ぎてからの投稿に「余命詐欺」とのコメントがついたことが明かされる。顔が見えないことで、諸刃の刃ともなるSNSに戦慄する瞬間だ。

顔もわからない人間と仲良くなれるのか「実験」

俊輔が快斗と出会ったのも、快斗が母親のことをSNSに投稿し始めてからだ。140文字で綴られる母親との残り少ない日常に、心打たれ、友人になりたいと思った俊輔。同じ高校生と偽って近づいたことは、罪にあたるのだろうか。他にもネット上の誹謗中傷に傷ついたインフルエンサー湯川凛子(平井沙弥)が、父親を恩人と慕って現れる。

さらに葬儀屋で働く元気の良いスタッフ岡本美恵子(田辺未佳)も加わり、ここから葬儀に向かってスパークする。女子同士のわちゃわちゃした会話もヒートアップ。こんなお葬式見たことない?いや、これが普通の家族の営み。快斗が言うように、家族はうざくて面倒くさい。でも、そこが愛おしい。そう感じさせてくれる。

はたして快斗は、そんな家族の要であったお父さんを殺してしまったのだろうか?顔も見たことがない、素性も知らない俊輔とはリアルでも友達になれるのか?
家族のこれからの形とは?最後まで観ると「橘家」と言う家族が「ありがち」だけど、かけがえのない唯一無二の家族だと気づくのだ。
(写真・取材・文/新井鏡子)

キャスト&スタッフコメント

中原弘貴
いよいよ初日を迎えます。 いえ、”もう”と言った方が僕自身しっくり来るのが正直なところです。 短く限られた稽古期間で、僕自身数えるほどしか稽古を積めてはいませんが、その中でもカンパニー全員が各々のやれるだけのことをやり、精一杯役柄と作品に向き合ってきたと思っています。 観てくださる方に、この作品だからこそ感じられるものや作品の意図などが必ず伝わる素敵な作品に仕上がっていると実感していますので、「ちちぼく」を存分に堪能していただけますと幸いです。 千穐楽まで、応援のほどよろしくお願いいたします。

正木郁
無事に初日を迎えられることをまずはホッとしております。稽古期間も短い中で、キャスト、スタッフの皆様が最大限集中して作り上げた作品です。ご観劇いただいた皆様にも、そんな僕らの想いを受け取ってもらえたら嬉しいです。
稽古で個人的に大事にしたのが、快斗への距離感や伝え方の温度感です。今回はネットを通じてやり取りをしている2人なので、会話も少しその雰囲気を混ぜながら、快斗への”実験”をどのように自然に進められるかなど、他ではあまりしないような取り組みをしていました。あとはやはり、”雑魚いノリ”というものを終始考えていました(笑)

脚本・演出
萩原成哉
私ごとではありますが、今年は家族をテーマに色んな作品を書きました。日常という中にはきっと人それぞれの何かがあると思います。この作品に登場するそれぞれもきっと違う何かを思い、想って居ます。それでも、きっと家族はいつだって家族なんだろうなと。楽しんでいただけましたら幸いです。

公演情報

「父が死んだ時、僕たちは何年かぶりに集まった。」

脚本・演出:萩原成哉

<会場>CBCKシブゲキ!!

<期間>2023年12月6日 (水) ~2023年12月10日 (日)

<公演日・開演時間>
12月06日(水) 18:00
12月07日(木) 13:00★ / 19:00
12月08日(金) 13:00★ / 19:00
12月09日(土) 12:00 / 17:00
12月10日(日) 12:00 / 17:00

※受付・グッズ販売開始:各公演開演の60分前
※客席開場:各公演開演の30分前
★…アフタートーク開催(詳細は公式ホームページをご確認ください。)

<チケット>※当日券のみ
当日S席:10,000円 ※前方3列・特典あり(残席情報は団体SNSでご確認ください。)
当日A席:7,500円 ※4列目以降
(全席指定・税込)


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