激動の時代を生き、ピューリッツァー賞受賞の戦場カメラマンを描く 「今の時代だから響くものがある」

激動の時代を生き、ピューリッツァー賞受賞の戦場カメラマンを描く 「今の時代だから響くものがある」

 1990年代初頭の南アフリカで活躍した4人の戦場カメラマンのうち、生還した2人が記したノンフィクションをモチーフに、オリジナルストーリーで展開する舞台『1993-The Bang Bang Club-』。人種隔離政策“アパルトヘイト”が崩壊しつつあった激動の時期に、命懸けでシャッターを切り続けた男たちの葛藤の日々を丁寧に描いた物語だ。本作に出演する藤江萌と石井陽菜に公演への意気込みや見どころを聞いた。


―――出演が決まった時の心境を教えてください。

石井「実際に起こった出来事を題材にした作品に出演する機会は、これまであまりなかったので、自分にとって挑戦になると思いました。ちょうど私が生まれた年に、(本作の主人公)ケビン・カーターが『ハゲワシと少女』という写真でピューリッツァー賞を取っているんですよ。それもあって、ご縁も感じました」

藤江「私は学生時代に世界史を選択していて、アパルトヘイトの時代のことも勉強したことがあったので、台本を読んでとても興味深く読むことができました。お稽古に入るのがすごく楽しみです」

―――今回、お二人が演じる役柄について教えてください。

石井「私は、主人公のケビン・カーターを支えていた妻と、『ニューヨーク・タイムズ』の編集長の2役を演じさせていただきます。どちらも大人の女性で自立しているキャリアウーマンなので、どう演じ分ければいいのか、これから演出家さんと色々相談しながら作っていきたいなって思っています」

―――今日、着用されている衣裳は、どちらの役柄のものですか?

石井「これは編集長です。もう1人のケビン・カーターの妻は金髪のカメラマンという役になります。職業は違いますが、どちらも仕事に熱心な女性です。大人の女性という共通点があるので、演じ分けるのはとても難しいだろうなと思っていますが、そこは丁寧に作っていけたらと思います」

藤江「私は、また別の雑誌の編集長役です。これまでは実年齢よりも年下の役を演じることが多かったので、今回、初めて年上の女性を演じます。共演者の方たちも実年齢が私よりも上の方が多い中で、編集長という立場のある女性を演じるので、威厳や存在感を出していかなければいけないなと思っています。私は普段の話し方もポワポワしているので、話し方から意識していきたいと思います」

―――お二人は、初共演と聞いています。お互いの印象は?

石井「事務所の社長同士が友達なので、お話はよく聞いていたんですが、お会いするのは今日が初めてです。社長から“似たもの同士”って言われていたので、会えるのをすごく楽しみにしていました」

藤江「私もそう聞いていて、楽しみでした!」

―――どんなところが似ているんですか?

石井「せっかちなところかな(笑)」

藤江「私もせっかちで、とにかく待つのが苦手です」

石井「あぁ、じゃあ一緒だ! 問題もすぐに解決したいから、お仕事で何か気になることがあったら、すぐにマネージャーさんに電話して、確認して」

藤江「わかります(笑)! 私もストレスを抱えたくないので、すぐに解決したくて連絡します。きっとそういうところが似ているんですね!」

石井「それに、稽古場から帰るのもすごく早いです。もう帰るの? と驚かれるくらい着替えるのも早い(笑)。逆に用意も早いので、皆がウィッグをつけようとしている頃にはもう支度が終わってます(笑)」

藤江「そこは違うかも。私はその辺はタラタラしてますね(笑)」

―――お話はつきませんが、この辺りで作品トークに戻ります(笑)。では、脚本を読んで感じた本作の魅力を教えてください。

石井「戦争があって、様々な問題がある政策があって……という世界は、ずっと昔の話かと思っていましたが、実は私が生まれた年に起こっていたのを知り、すごく衝撃的でした。今も世界では紛争や戦争が続いていて、他人ごとではないと改めて感じましたし、この写真が世界に与えた影響も実感できるようになりました。ケビン自身の人生ももちろん大きく変わったと思いますが、それだけじゃなくこの写真を見た人の人生も変えていると思います。私は、目の前にいるお客さんの人生を豊かにしたいなと思ってこのお仕事をしていますが、ケビンは1枚の写真で世界中の皆の心を動かしました。それは、本当にすごいことだと思います。この作品を観て、こういう事件があったこと、こういう人がいたことを知ってもらいたいですし、今の時代だからこそ響くものがあると思います。観ていただいた方の人生に何か少しでも影響を与えられたらいいなと思います」

藤江「私もやっぱり同じように戦争や平和について考えました。今まであまり戦争を身近に感じていなかったように思います。こうした戦争を扱った作品は、観ているうちに苦しくなってしまうので、私はどうしても身構えてしまうところがあったのですが、この作品は笑える部分もありますし、重た過ぎず、伝わりやすく描いています。それを私たちがどう料理するのかにかかっていると思います。暗いお話だと思わずに、『楽しかったな。面白かったな』と感じていただき、明日から一歩前に進もうと思ってもらえたら嬉しいです。心を動かせる作品にしていきたいと思います」

―――ちなみにお二人は戦場カメラマンという職業について、どんなイメージを持っていますか?

石井「パッと思いつくのは、渡部陽一さん。でも、渡部さんだけでなく、たくさんの方が戦場で報道を続けてくださっていますよね。カメラを構えたら銃だと思われて撃たれてしまった方もいらっしゃったと思います。私には、命を張ってまで仕事をすることはできないので本当に尊敬します。自分が世界を変えたいと強い思いを持っている方しかなれない職業だと思います」

藤江「私もお芝居に対しては強い思いがありますし、例えば、どんなに体調が悪くてもステージに立とうとは思いますが、命まで懸けられるかと言われたら、自分がどうするのか分かりません。戦場カメラマンの皆さんは、カメラや写真が好きというだけじゃなく、戦場で見た現状を世界の人に伝えたいという思いがあるんだと思います。それは、世界を変えたいというすごく大きな覚悟を持って戦場に行かれているんだろうなと感じました」

―――では、最後に改めて本作への意気込みと読者にメッセージをお願いします。

石井「ここまで読んでくださり、ありがとうございます。今回は、戦争や実際にあった出来事を綴っているので、重い作品なのかなと悩んでいる方もいるかもしれません。確かに、作品に触れるまでは勇気がいる作品だというイメージがあると思いますが、観ていただけたら、このお話を知れて良かったなと思ってもらえると思います。それによって自分が今いる場所に感謝できますし、毎日、こうして生きられるのは本当に幸せだと改めて感じることができると思います。皆で楽しい会話劇を作っていこうと思いますので、ぜひ応援してください。ありがとうございました!」

藤江「最初に脚本を読んだときから『これがやりたい』と強く思った作品です。実話を基にしたオリジナルストーリーですが、実際にこういうことが過去にあって、今も自分たちが生きている世界のどこかでそういうことが起きているかもしれない。そうした現実を感じながらも、笑ったり泣いたりできるエンターテインメント性のある作品になっていると思うので、楽しみにしていただけたらと思います。私も演者の皆さんとスタッフの皆さんと一緒に、素晴らしい作品を作っていきたいと思うので、ぜひ観に来ていただけたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

藤江 萌(ふじえ・もえ)
1998年6月25日生まれ、大阪府出身。第14回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞。2020年、WOWOW連続ドラマW『夜がどれほど暗くても』でドラマ初出演。2021年1月にドラマ化された『江戸モアゼル〜令和で恋、いたしんす。〜』では、森谷香澄役でレギュラー出演している。その他の主な出演に、舞台『同窓会〜その怨み晴らして候〜』、『少女夢幻論II』など。

石井陽菜(いしい・はるな)
1994年3月30日生まれ、東京都出身。2014年、『こっくりさん 劇場版 新都市伝説』で俳優デビュー。同年『RIN-RIN-RIN〜ヒーローはいつも君のそばにいる〜』での舞台初出演を皮切りに、数多くの舞台に出演する。近年は、スマホ向けバトルRPG『アサルトリリィ Last Bullet』船田純役で声優として躍進し、舞台『アサルトリリィ』シリーズ 御台場女学校編では、同役で主演を務める。その他の主な出演に、舞台『ゲゲゲの鬼太郎』カスミ役、舞台『Collar×Malice -白石景之編-』向井絵里子役、舞台『宇宙よりも遠い場所』小淵沢報瀬役など。今年の9月には、超次元ミュージカル『ネプテューヌ』の出演が控えている。

公演情報

舞台「1993-The Bang Bang Club-」

日:2023年7月21日(金)~30日(日)
場:俳優座劇場
料:特典付8,800円
  一般8,300円(全席指定・税込)
HP:https://bangbangclub-stage.com/
問:De-STYLE(De-LIGHT/style office) info.destyle.stage@gmail.com

Advertisement

限定インタビューカテゴリの最新記事