ノサカラボならではの『ホロー荘の殺人』を 「ノサカラボ」が紡ぐアガサ・クリスティーの傑作ミステリ!

ノサカラボならではの『ホロー荘の殺人』を 「ノサカラボ」が紡ぐアガサ・クリスティーの傑作ミステリ!

 演出家・野坂実を中心に、世界中の名作ミステリを舞台化・上演していく長期プロジェクトとして活動を続ける「ノサカラボ」。そんなノサカラボの新作舞台『ホロー荘の殺人』が5月3日から8日まで、東京・日本橋の三越劇場で上演される。
 秋の週末、ロンドン郊外のホロー荘に集った人々の愛と憎しみが交錯する。複雑に絡みあう人間模様のなかで、突然起きた殺人事件。更に人々の愛と憎しみが交錯するミステリの女王と謳われるアガサ・クリスティーの、今なお世界中で上演が続いている傑作戯曲が、ノサカラボの手でどう舞台化されるのかに、大きな注目が集まっている。
 そんな作品に出演する元宝塚歌劇団 宙組トップスターの凰稀かなめと、元星組トップスターの紅ゆずる、そして演出の野坂実が、いよいよはじまる稽古の前に作品への思いを語り合ってくれた。

心理描写を重厚に描くことができる座組

―――まず、今回ノサカラボで『ホロー荘の殺人』を取り上げようと思われた決め手はなんだったのですか?

野坂「クリスティーの戯曲は何本もありますが、そのなかで『ホロー荘の殺人』はとてもドラマ性が強いんです。他の戯曲はトリッキーな感じの作りで、トリックを主体に物語が二転三転するものが多いのですが、このお話だけはそれぞれのキャラクターの心情がとても明確に描かれている。ですから是非第1回目としてこれをやりたいと思っていました。
 しかも、たまたま小田島恒志さんと電話で話す機会があって「今度『ホロー荘の殺人』をやりたいんだよ」と言ったら「前にそれ訳してるよ」と言われたものですから、「使わせて!」と言ったんです(笑)」

―――すごいタイミングですね。

野坂「そうなんですよね。他の方が訳された本も読んでいたのですが、恒志先生のものは全体から余剰なものをかなりそぎ落としてあって、現代劇としても通ずるものがあって素晴らしいです」

―――具体的にどういうところがこれまでとは異なるのか、何か教えていただけますか?

野坂「1つ挙げるとすると、煙草を吸うシーンは出てきません。ただやはりクリスティーは重要な台詞を言う前に、煙を深く吐き出すというような形で煙草を使っていますし、キャラクターが煙草を吸う為に移動していたりもしますので、そこは煙草を用いないでどう埋めて、つないでいくのかを演出としてちゃんとやっていかないといけないなと思っています」

──その作品を、凰稀かなめさんと紅ゆずるさんを中心とした今回の座組でやろうと思われたのは?

野坂「ノサカラボは朗読劇からスタートしたのですが、シャーロック・ホームズとルパンのシリーズを錚々たる声優の方々を中心に進めています。僕は観客として観るのならば何でも好きで、エンターテインメントも、2.5次元ミュージカルも大好きなのですが、自分がやるとなるとストレートプレイのお芝居が好きなんですね。
 この物語の心理描写や、全体の重厚さが軽くなってしまうと、『ホロー荘の殺人』という作品そのものも軽くなってしまうので、まずやはり一流の俳優さんに出てほしい、お声がけしたいと思って、実は1年以上前から動いていました。
 で、凰稀さんと僕には共通の友人と言いますか、共通の先輩?」

凰稀「大先輩ですね」

野坂「そう、大先輩の的場浩司さんがいらして、的場さんから凰稀さんはお芝居が大好きで、すごく熱い芝居をなさる、ということをお聞きしてたんです。そこで動画を観たり、宝塚時代の作品を拝見して、『是非ヘンリエッタをお願いしたいです』という形になりました。
 紅さんについては、僕の教え子のなかにも元宝塚歌劇団出身の人が多いのですが、彼女たちが紅さんの話をする時って『話術に長けている方です』とか『すごく面白いこともできる、コメディが得意な方です』という、“コメディ”という言葉が何度も出てきて。コメディって裏を返すとすごく悲劇的なんですね。それで紅さんの実際の舞台をはじめ、色々なものを拝見させていただいていくと、明るくてとてもキレがある。
 ところが今回のガーダという役柄は、そこが真逆に働くキャラクターなんです。それを敢えて紅さんにやっていただいたらどうなるんだろうというワクワク感があったので、うちのプロデューサーに『紅さんでお願いします』と頼みました。ですからお二人共出ていただけるとわかった時には、大喜びしたのをよく覚えています」

──お二人はこの作品に参加されることを、どういう気持ちで決められたのですか?

凰稀「いま、野坂さんのお話を伺って、またさらに喜びがあふれてきました。まずお仕事をいただけるというのはすごく嬉しいことですし、私もアガサ・クリスティーの戯曲作品は初めてなので、やっぱり挑戦したい、勉強したいなと思いました。
 私は野坂さんの演出作品にも初参加になりますし、新しい演出家の方から学ぶことってすごく多いので、絶対にご一緒したいと。またそこから紅子ちゃん(※紅の愛称)もやってくれるということなので、もう楽しみしかないです」

紅「私はストレートプレイ作品自体が初めてですし、ガーダも自分でやったことのない役すぎるんですよ。と言うのも、宝塚歌劇団でトップを務めさせていただいてからは、コメディをやりたいとずっと思っていたんです。もちろんコメディじゃないものもやっていますけれど、できるだけコメディに特化したい、今までにないトップスターのジャンルを開拓してみたいという思いで、自分の道を突き進ませてもらいました。
 でも一方で私は悲劇も大好きですし『アドリブが面白いですね』とよく言われていましたが、実はアドリブは何かアクシデントでも起きない限りは、基本的に取り入れていませんでした。きちんと台本に書かれている台詞が『いまのアドリブでしょう?』と言ってもらえることが理想だったので。
 ですから、今回のお芝居でも『いまのは本当にセリフなの? つい本音が出てしまった言葉じゃないの?』と観ている方に思ってもらえるようにやれたらと思っています。

誰がどう動いても必ずひとつの作品に仕上がる

―――そのなかで、改めて作品についてと、ご自身が演じる役柄についてはどう感じていらっしゃいますか?

凰稀「野坂さんが最初におっしゃいましたが、ミステリというよりも、人間関係や人の心が複雑に入り混じっている作品なので、とても難しいなというのが第一印象でした。
 私も小田島恒志さんの訳された本は大好きなのですが、今回はト書きで動きも全部書かれていたり、台詞の横に『………』と記されていたりして、ここは何かの伏線になる言葉なのかな?とまず読んだ段階で、色々と考えるものが多く書かれているんです。ですから今回初めましての方ばかりとご一緒させていただくのですが、皆さんと全てのことを分かってやった方がいいのか、それとも探っている状態でやった方がいいのか、色々なやり方ができる本だと思います。ただ、幕が下りた時にお客様が『なんだったの?』になってしまってはいけないので、描かれていない部分も本当はこうだったんじゃないのかな?を見つけていけたらいいなと感じています。
 ヘンリエッタという役柄についても、感情がすごく難しいなと思っていて。例えば『愛してる』と一方では言っていて、他方では『愛していない』と言っている。そういうところがいくつもあって、じゃあ何が本当なのか、はこれから本読みで台詞の1つ1つが、色々な役者さんたちの声で表現されてた時にまた感じるものも出てくると思いますから、いまこういう役でこう感じているということが言えないのですが、だからこそこれから始まる本読みがすごく楽しみですね」

紅「とても複雑な作品だなと思いますし、台詞1つをとってもこういう意味で言っていますと断言できるものがないと言うか。演じている側が意図しているものを、お客様がそのまま取ってくれるとも思えないんですね。ですから皆さんお一人おひとりが、最後に残ったものをご自身に引きつけて考えていただける、そうした何かお土産ができれば成功なのかなと思います。
 私が演じるガーダも、旦那様を崇拝しているというほど愛しているのですが、それが単純に『めちゃめちゃ好きやねん』と言うのとは全く違う、色々な考え方ができるので難しいんですけれども、考えていくほどに楽しそうだなとも思います。誰がどう動いてそれぞれのピースは様々な形になっても、必ずひとつの作品に仕上がる、パズルのような楽しさがあります」

野坂「お二人がイメージしてきたものと、僕がイメージしているものを擦り合わせながら稽古をしていきたいと思っているので、非常にワクワクしています。
 『ホロー荘の殺人』は、元々クリスティーが小説でこの話を書いていて、その時には名探偵ポアロが登場していたんですね。でも“やっぱりこの物語にはポアロはいらなかった”と、戯曲にする時にクリスティー自身が書き換えているものなので、おそらくこの戯曲の方が、クリスティーがやりたかったことなんだと思います。ですからそこに敬意を払いながら、この座組でしか作れない最高のものを作ろうと思っています」

遊びにいってもずっと芝居の話をしていた

―――凰稀さんと紅さんは同じ宝塚歌劇団出身で、しかも一時期同じ星組にもいらした間柄ですが、お互いの印象は?

凰稀「私は入団した時には雪組にいて、その後星組に異動になった時に最初に話しかけてくれたのが紅子ちゃんだったんです。私すごい人見知りだったので、ついボソっと言った言葉から日々気にしてくれるようになって。実際に私が星組にいた期間は1年と10ヶ月というとても短い間だったんですが、その中で1番一緒にいた、ほぼ毎日一緒だったと思います。私が主演の公演でも2番手としてやってくれたりもしていたので、そこからの年月を改めて数えたら恐ろしくなりました。
 13年ぶりに一緒に舞台に立つのを楽しみにしています。紅子ちゃんって舞台では意外に繊細で、そうは見せないなかですごく色々考えているんですね。ですからその真面目さや繊細な心は、何年経ってもきっとあるものだと思うので、そこは私も絶対に大切にしなければいけないと思っています」

紅「実は私も人見知りするんですよ、誰も信じてくれないんですけど(笑)。
 でもその私ですら、かなめさんが初めて星組にいらした時に『こんなに人見知りする人っているんだ!』と思ったんです。普通は人見知りなんかしてない、というように見せようとするじゃないですか」

凰稀「そうだね(笑)」

紅「でもかなめさんはもう見るからに人見知りなさっているのが伝わってきて。でもじゃあこちらから話しかけたら私の想像では『喋るのはあまり好きじゃないのよ』と言われるかなと思ったので、はじめはご遠慮していたんです。
 でも先ほどおっしゃっていましたが、本当にボソッと『組替えって大変』というようなことをおっしゃったので、『何かお手伝いしましょうか?』と申し上げたところからスタートしたのですが、とても仲良くしていただいて。
 休みの日とかも『次のお休み何する?』という感じで、いつも一緒に行動させてもらっていました。宝塚時代って本当に時間がないんですが、その時間がない中でどうやったら楽しく生きられるか、みたいなことを考えながらリフレッシュしていましたね」

凰稀「舞台のことも悩みというのか、分からないことを『どうする?』と、いつも話していたよね」

紅「私はその頃役がつき始めた時で、かなめさんは男役2番手さんでいらしたので、悩んでおられる内容もハイレベルだったのですが、それでもご自分と照らし合わせながら、『その気持ち分かるよ』と言ってくださったり、遊びに行っていても常に芝居の話をしていました」

凰稀「そうなんです。結局常に芝居のことをね」

紅「でもそれがすごく楽しくて、やっぱり生の舞台って1日、1日、1回、1回全く違いますし、役として台詞を交わしていても、その場で生まれてきた感情を受けて、次につながっていく。特に宝塚は公演期間が長いので、かなめさんは宝塚大劇場の初日から東京宝塚劇場の千秋楽まで、ずっと追求していらした。誰しも皆真剣ですけれども、そのなかでも特にストイックな方だと思います」

凰稀「やっぱり舞台の上でこうしてみたい、と気持ちが動いた時にはそれに従いたいし、決まっていた動きをただやるのではなくて、敢えてやらないところから生まれるものもあるかもしれないので。それが違ったなと思ったらまた元に戻してとか、人に迷惑をかけない程度に(笑)、その日の感情は大事にしているとは思います」

野坂「素敵なお話ですね。ストレートプレイって、その瞬間をどれだけ感じていけるのか?というのがとても大事になってくると思うんです。役柄のキャラクターはもちろんあるんだけれども、やっぱり役者さんがそのキャラクターとして、如何に瞬間を感じて切り取っていくかが求められると思いますから、いまのお話を聞いてお二人と一緒にやるのがますます楽しみになりました」

「演出家っていたの?」と感じてもらえたら僕の勝ち

―――そのストレートプレイ、台詞劇の魅力についてはいかがですか?

凰稀「心のままに演じられるというのがすごく楽しいです。やっぱりミュージカルですと、考えなければいけないことが山ほどあるんですよ。音楽や、ダンスの決められたカウントのなかで合わせなきゃいけないこともそうですし、ミュージカルナンバーって1曲のなかですごくドラマが進んでいくことも多いので、さっきは芝居でこう言っていたのに、いま歌としてなぜこう歌っているんだろうと、演じていてその間の気持ちをどう埋めるか?がとても大変な時も結構あるので」

紅「気持ちの変化に2小節しかない、という時もありますよね。この前奏を聞いている間だけで、どう気持ちをつなげていこうか、というような」

凰稀「そうそう。だからこその面白さももちろんあるんだけど、ストレートプレイだと、そういう枠組が全くなくて、本当に人と人とのぶつかり合いというか、作品の中の台詞の交わし合いだけではない、その間に生まれてくるものを直に感じる瞬間があってそこが1番楽しいんですよね。自分でも『今の何?』と思うような感情が生まれてきたりもするので」

紅「私もお芝居が好きなので、かなめさんのお話を聞くと早くお稽古がしたいなと思います。ただ何しろ未経験なので、歌と踊りがなくなったらどんなるんだろう、それこそ楽譜にもダンスのカウントにも縛られていないぶん、余計に難しいと感じることもあるのかなとも思いますし、もう全てが冒険です」

野坂「ストレートプレイの場合は役者さんの感情を見せるのが、おそらくお客様にとって1番のご馳走になってくると思うんです。お芝居ってやっぱり、相手に何かを言われて、それを受けてまた言葉が出るというものなので、例えば『嫌い』と言われてムカついたから『なんでそんなこと言うのよ?』という言葉が出てくる。感情が動くから次の言葉が出てくるので、それがいくら戯曲に書かれているやりとりであったとしても、必ず演じているご本人が現れてくるんです。そこがストレートの難しいところだし、楽しいところでもあります。
 もちろん作らないと何もやっていないことになるのですが、でも作り込み過ぎても違ってくる、謂わば水みたいなものなので、そういう意味でもとても良いお二人が揃ってくださったなと。お二人ともお芝居をものすごく楽しみにしていらっしゃるから、必ず楽しいものができるだろうと思います。
 僕は自分が演出をやっている時の1番のこだわりとして、役者さん達がいいお芝居をして、お客さんは物語に引き込まれて笑ったり泣いたりしながら、楽しかったねと言って帰ってくださって、演出家っていたの?という感じになれたら僕の勝ちだと思っているんです。逆に『演出がすごく良かったです』と言われたら、僕は暗い感じになっちゃうと思います。
 やっぱり舞台で役者さんが輝いている、それが何より前に出るのが良いことですから、そこに今回も持っていきたいですし、多彩な俳優さん達が揃ったので、このメンバー全員で重厚感ある物語を展開させますので、是非楽しみにしていてください!」

(取材・文&撮影:橘 涼香)

プロフィール

凰稀かなめ(おうき・かなめ)
元宝塚歌劇団宙組トップスター。美貌の男役として注目を集め、『ベルサイユのばら』『風と共に去りぬ』など宝塚を代表する名作の数々で主演を務めた。2015年退団後は舞台・ドラマ・映画と幅広い活躍を続けている。2018年、舞台『さよならチャーリー』で文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞受賞。主な舞台作品に、ミュージカル『1979 -バスティーユの恋人たち-』、『屋根の上のバイオリン弾き』、『DOROTHY~オズの魔法使い~』、ドラマティックレビュー『TARKIE THE STORY』、などがある。

紅ゆずる(くれない・ゆずる)
元宝塚歌劇団星組トップスター。日本初演のブロードウェイミュージカル『THE SCARLET PINPERNEL』新人公演で演じたパーシヴァル・ブレイクニー役で一躍頭角を現し、のちに星組トップスターとしてのお披露目公演で同役を演じるなど、数々の伝説を残した。2019年退団後は、舞台・映像と活躍の場を広げている。近年の主な舞台作品に、熱海五郎一座 東京喜劇『Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー ~日米爆笑保障条約~』、『アンタッチャブル・ビューティー ~浪花探偵狂騒曲~』、ミュージカル『エニシング・ゴーズ』などがある。

野坂実(のさか・みのる)
舞台演出家。2002年に「クロカミショウネン 18」を旗揚げ。第13回公演で動員2000人突破、2012年に解散。現在は、翻訳劇や漫画原作の舞台等、様々なジャンルの舞台演出を手がけている。緻密なプロットの物語を、スピーディかつ解りやすくする独自の演出スタイル(嘘と勘違いのトリックアート)で、幅広い世代から支持されている。
2021年より世界中にある名作ミステリを舞台化・上演していく長期プロジェクトである「ノサカラボ」を始動。また声優・水島裕、山寺宏一らと演劇ユニット「ラフィングライブ」の共同主宰も努めている。舞台演出の他に、2009年劇団スーパー・エキセントリック・シアター創立30周年記念公演『ステルスボーイ』、2011年「ベイビーベイビーベイビー」主催/社団法人日本劇団協議会H22年度文化庁芸術団体人材育成支援事業 創作劇奨励公演、等の脚本も手がけている。近年の主な演出作品に、『春風外伝2021』、劇団ヘロヘロQカムパニー『江戸川乱歩パノラマ朗読劇 5人の明智小五郎』、舞台『罠』、朗読劇『黒蜥蜴』、『モルグ街の殺人』などがある。

公演情報

ノサカラボ『ホロー荘の殺人』

日:2023年5月3日(水・祝)~8日(月)
場:三越劇場
料:9,800円(全席指定・税込)
HP:https://nosakalabo.jp/hollow/
問:ノサカラボ
  mail:info@nosakalabo.jp

Advertisement

限定インタビューカテゴリの最新記事