『シュレック・ザ・ミュージカル』は、2001年に制作されたドリームワークスのアドベンチャーコメディ映画『シュレック』をもとに、2008年にブロードウェイでミュージカル化。今回、トライアウト公演として短縮バージョンが日本に初上陸する。全キャストはオーディションで選ばれ、歌と演技を兼ね備えた珠玉のキャスト達が顔をそろえている。作品を代表してシュレック役のspiに話を聞いた。
自分の殻を破ったと思える瞬間があった
―――1300通を超える応募の中からシュレック役を掴んだspi。配役発表時の反響を語ってくれた。
「シュレックを誰がやるのだろうという予想も色々あった中で、“spiがシュレックをやる”と発表になって『それなら一回は観たい!』という声はけっこう聞きましたね。ある社内では爆発が起きたらしくて(笑)絶対観たい!チケットどうにかして取れないか、と。舞台業界の中でもspiのシュレックは1回は観ておきたいと流れているそうです(笑)
別の公演の出演中に発表になったのですが、楽屋でも『観にいきたいんですけど、チケットどうにかならないですか?』とか、共演者からも『spiさんありえないです。シュレックは映画も見ているので絶対に行きます』と連絡がきたりと反響は凄かったです。僕のファンも大喜びしてくれていて素直に嬉しいです」
―――激戦のオーディションだったそうですが、オーディションで印象に残っていることは? また手応えや決め手はなんだと思いますか?
「2次審査だったかな、皆さんの前で唄った時に、どうなってもいいやと思った瞬間があったんです。もう楽しんじゃえばいいやって。どうやって唄うかではなく、シュレックらしさよりも、自分が持っているものを出し切る。今この音楽を楽しむだけに集中しようと思った瞬間があって、パーンと笑顔で踊りまくって唄いまくりました。終わってから大丈夫か?変なチャンネルに行ってしまったかなと気が付いて。ちょっと恥ずかしくなるところまでいってしまったけど、演出の岸本(功喜)さんがそれを好意的に受け止めてくれていたように見えました。自分の殻を破ったと思える瞬間があったので、もしかしたらこれが良かったのかなと」
―――(取材は7月中旬)歌稽古中とのことですが、稽古の手応えは?
「唄い終わってみんな思わず『これは絶対面白い』と。とても良い感じで稽古が進んでいます。皆さんセンスがあるので、形になって出来上がるのがとても早いですね。さらにそれをくみ取ってくださるスタッフの方々がいらして、とても良い空気です。みんな抜群に歌が上手いので、観に来てくださった方はとても楽しいはず!と思いながら毎日稽古をやっています」
僕の中にある一部のボリュームを上げて役作り
―――シュレックはどんなキャラクターだと思いますか?
「世間一般とは美的感覚が違うキャラクター。30代の男性にありがちと思っているのですが、コンビニで気に入った食べ物をよく買っていたらそのうちなくなってしまったり、好きな飲み物がいつの間にか撤退してしまっていたり、我々には小さな絶望があるんです。それの究極がシュレック。
シュレックは世間が汚いと思うものが凄く好きで、そのせいで普通の社会とは別の所に住まないといけなくなっちゃう代表みたいなキャラクターなのかなと思っています」
―――役づくりについてはいかがですか?共感する部分は?
「シュレックは、イケてない・太っている・臭い・独身で、社会になじめないから孤独を選んだ人物だと思って作っています。俺が共感できるのは、俺自身は体格的に恵まれていて、見た目も男前でかっこいいし(笑)そうありながらも幼少期は、周りとは違う、なんで違うのかわからない、みんなと一緒が良かった、っていうコンプレックスを持って大人になっています。
シュレックもオーガ(人型の怪物)だし、コンプレックスがあるけどどうしようもない、その現実を受け止めて生きているけど、みんなと繋がりたいとどこかで思っています。
『一人で大丈夫なやつなんていない』とドンキーが舞台で言うように、絶対誰かが必要だと思っているけれど強がっている……それはすごく共感できます。役作りというよりは僕の中にある一部のボリュームを上げるイメージですね」
―――ビジュアル撮影はされましたか?
「これからですが、特殊メイクのマスクは製作段階を見ていて凄いことになりそうです。これはインパクト大です!」
―――見どころを教えてください。
「おならとゲップありますよ!(笑)真面目なことを言うならば、夢を追いかけていたはずなのに、現実を直視して自分の立ち位置を把握することがみんなの人生にあると思います。世の中に馴染めないと思って孤独を選んだはずのシュレックも冒険の中で友達ができて、自分を見つめなおす現実に直面します。そこに(お客さまは)共感できるんじゃないかな。
そして素晴らしいキャストが集結しています。特にファークアード卿がめちゃくちゃ面白いです。シュレックとフィオナ、ドンキー、ファークアード卿の四人の雰囲気が最高だと思うので見どころです。さらにおとぎ話の住人たちも、みなさん抜群のセンスで役に向き合っています」
―――キャストの皆さんの印象は?
「本当にみなさん、素晴らしいです。物語が単純だからこそ要求されることが多くて、コメディなのに絵本のようにシンプルで。面白く絶妙なラインにどう繋げるか、ここは大味にした方がいいのか、ここは繊細にしたほうがいいのか、そういうセンスが問われる作品だと思っています。でもみんなクリアしている、そこが印象深いですね。そしてヤングフィオナが可愛くて! お楽しみにしていてください」
―――spiさんは2.5次元作品でも活躍されていますが、本作も原作があってミュージカルになる作品です。2.5作品の経験が役に立っているなと思う部分はありますか?
「役にたっているのは“度胸”ですね。2.5はめちゃくちゃ厳しくて、衣裳とかウイッグとか、環境がすごく大変なんです。もちろん他の作品も大変とは思いますが、2.5で培った経験は役に立っていますね。2.5の俳優は単純なことでへこたれたりしない、本当に強い、飲み込みは早い、人に魅せる見せ方もわかっている。お客さまの心に手を伸ばす方法も2.5で学びましたね」
大人から子供まで、幅広く楽しめる作品に
「大人が子供たちを連れて軽い気持ちで行ってみたら、子供たちは超笑っていて、大人たちはちょっと感動しちゃう。絵本を読んだら大人が感動しちゃったみたいな、そんな事が起こる作品だと思います。子供たちはビジュアルのインパクトが凄くて、変なキャラクターがいっぱいいる、おならもゲップもあるのでケタケタ笑って絶対楽しいと思いますが、大人たちには多様性やコンプレックスなど、実は根深いものに笑いを織り混ぜて表現していると気付くと思います。そういう意味では大人も子供も楽しめるミュージカルになっていると思います。劇場でお待ちしております」
―――この作品は「仲間との絆」「真実の愛」「困難に立ち向かうこと」をテーマにパロディ満載で描かれています。それにちなんで、spiさんの困難の乗り越え方を教えてください。
「困難からは逃げます! それは自分が思う困難から逃げるのであって、周りからみたら困難に立ち向かっているなって思うかもしれない。俺は困難だと思っていないことの方が多いかもしれません。自分に必要なことで楽しんでやっているけど、周りから見たら努力しているように見えるのと一緒。ただあまりにもストレスがかかったり、これは困難だと思ったら逃げます(笑)」
(取材・文&撮影:谷中理音)
「塩を食べます! 岩塩からサラサラの物も色々試していますね。自然の塩はナトリウムがあって良いのでオススメです」
プロフィール
spi(すぴ)
1987年10月30日生まれ、神奈川県出身。
幼少の頃から聖歌隊やミュージカルに出演し歌に磨きをかける。10代には音楽活動をはじめ、ニューヨークで舞台技術・ヒップホップ・クラシックバレエなどを学ぶ。「トリプル・スレット・エンターテイナー」を目指し、舞台やミュージカル、歌手など幅広く活躍中。近作にミュージカル『ジャージー・ボーイズ』、ミュージカル『刀剣乱舞』、ミュージカル『手紙』、ミュージカル『オリバー!』などがある。10月からは2022年版のミュージカル『ジャージー・ボーイズ』が控えている。
公演情報
『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演
日:2022年8月15日(月)~28日(日)
場:東京建物 Brillia HALL
料:S席 大人8,800円 こども4,000円
A席6,000円(全席指定・税込)
HP:https://www.shrek-musical.jp/
問:サンライズプロモーション東京 tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00/土日祝休)