
様々な舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」。第十回は、2014年に青山円形劇場で上演された、ナカゴー『森』。森に集まる男たちとたくさんの女たちの物語で、22分という短編作品である。
<作品紹介>
童貞の近藤は、上司に誘われ、森にやってきた。目的は売春婦に会うため。すると、突然、マスクをした女性たちが無数に現れてーー。
ただ目撃するだけでいいです。それだけで楽しいです。

──今回ご覧いただいたのは、ナカゴーの『森』。率直にいかがでしたか?
森の中でサラリーマンの上司と部下が会話をしていたら、たくさんの口裂け女が出てきて……。いや、本当に、今何が起こっているんだろう?これから何が起こるんだろう?と思いながら観ていましたね。
冷静に考えると、何を目指しているのかよく分からないんだけど(笑)、俳優さんの熱演っぷりというか、気持ちとパワーでグイグイ引っ張って、畳み掛けるように舞台が進んでいきました。展開が気になって、気づけばワクワクしている自分がいて……なんか、すごい22分間だったな。
──最後は生首が浮かんで喋っていましたからね(笑)
本当に。あれは何を意味しているのか……(笑)。こういうナンセンス系の作品は、細かいことを深く考えすぎても楽しめないですからね。意味は考えず、ただ目撃するだけでいいです。それだけで楽しいです。
森の中の木の陰からこっそり覗いて観ていたい。

──本作は青山円形劇場で上演されています。客席と舞台の距離が近いですし、縦横無尽に駆け回る演出もより臨場感がありそうですよね。
そうですね。劇場の機構をいい感じに使っていましたし、殴り合いも結構本気で、しつこくやっていましたよね。危なっかしい感じもするんですけど、ライブで見るとまた全然違うんだろうなぁ。なんか、森の中の木の陰からこっそり覗いて観ていたい。
──騒動に巻き込まれたくはない、ですか?(笑)
それは勘弁です(笑)。ハードでバイオレンスでちょっと怖さも感じるから。
──実は本作を作・演出した鎌田順也さんは、2023年に虚血性心不全のため、38歳という若さでお亡くなりになりました。鎌田さんの新作は観られないので、記録の意味でも貴重な映像です。
そうなんですね。僕自身は鎌田さんとは特に交流はなかったんですが、もし生きていたら、この先どんな作家になったのでしょうか。それを知ることができないのは残念ですね。
……僕は、この脚本がどの程度書かれていたのか、気になりました。一つのシチュエーションを与えられて、役者が自分たちで考えて動いて、物語を構築していったのかなぁ。
──確かにどこまでが脚本に書かれていたのか、気になります。恐らくメッセージ性もないでしょうし……。
メッセージ性なんてないですよ。むしろメッセージ性があっても困ります、汲み取れないです(笑)。きっと作っている方もよく分からないからこそ、面白いんじゃないかな。起承転結を考えだしたりすると、きっとつまらなくなると思いますよ。
あ、それからこの作品、あんまり言葉の壁がないなと思いました。どこの国の人が観ても、大人が観ても子どもが観ても、危機迫る人が必死に戦う姿は見入ってしまうだろうし、きっと「なんか可笑しなことが起きている」と分かるんじゃないかな。そういう意味では、できればライブで観たいけど、配信に向いている作品かもしれないですね。

(インタビュアー・文&撮影:五月女菜穂)
ナカゴー【二本立て配信】『森』(短編)/『にっかいろとはっかいろ〜堀船のごめんねてた〜』配信中!
カンフェティストリーミングシアターにて配信中!

ナカゴー【二本立て配信】:
『森』(短編)/『にっかいろとはっかいろ〜堀船のごめんねてた〜』★配信チケット
◆『森』
2014年/青山円形劇場/22分
俳優・近藤芳正さんプロデュースのオムニバス公演『バンダ・ラ・コンチャン コンピアルバム 御ゑん祭~近藤さん出ずっぱりだって!?~」にナカゴーが参加した際の短編作品。
出演:近藤芳正/篠原正明*/鈴木潤子*/髙畑遊*/ 久保明美/墨井鯨子/鶴まき/村上幸代/ 今村圭佑/岡野康弘/吉田健悟/三井慎太郎/ 鎌田順也*[楽器演奏](*=ナカゴー)
作・演出:鎌田順也
映像提供:吉川敏詞(アイーオウ!)
◆『にっかいろとはっかいろ~堀船のごめんねてた~』
2020年/北とぴあ・カナリアホール/75分
出演:髙畑遊/川﨑麻里子/田畑菜々子/土田有未(以上、ナカゴー)/
野上篤史/藤本美也子/新井雛子(堀船の怪談)/ほか
黒衣:小林義典/鈴木潤子
作・演出:鎌田順也
編集:鎌田順也
[視聴券販売期間]
2025年1月25日(土)10:00~2月18日(火)23:59
[配信期間]
2025年1月25日(土) 10:00~2月28日(金) 23:59
※レンタル視聴可能期間:10日間 (240時間)
[視聴券]2,400円(税込)
※視聴チケットご購入で、両作品の映像をご覧いただけます
板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(2012年)『火花』(2017年)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。
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