連続対談企画⑧『“演劇”のある生活』[11月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

第8回 無料放送局『BS松竹東急』 11月の演劇ラインナップをご紹介!

 BS松竹東急は、映画、歌舞伎、一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、今年3月26日開局した放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。

また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという…、なんとも謎に包まれた放送局である。

 この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、カンフェティ編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。

※過去回は下記リンク先にて公開中!
 (第1回)4月のラインナップ
 (第2回)5月のラインナップ
 (第3回)6月のラインナップ
 (第4回)7月のラインナップ
 (第5回)8月のラインナップ
 (第6回)9月のラインナップ
 (第7回)10月のラインナップ

11月のラインナップはこちら!

土曜ゴールデンシアター
 11月5日(土) 夜6時30分~ 歌舞伎「傾城雪吉原」(平成30年12月・歌舞伎座)
                 「一條大蔵譚」(平成27年10月・歌舞伎座)
 11月19日(土) 夜6時30分~ 「ヴェローナの二紳士」
 11月26日(土) 夜6時30分~ 東京ヴォードヴィルショー「トノに降る雨」

週末ミライシアター
 11月5日・19日(土) 深夜0時30分~ ままごと「わたしの星」
 11月12日・26日(土) 深夜0時30分~ 宇賀那健一監督「転がるビー玉」

吉田「今回も見どころ満載の歌舞伎や蜷川シェイクスピア、私の大好きな東京ヴォードヴィルショーなど、盛りだくさんのラインナップですね。」

湯浅「そして、今回はゲストをお呼びしております。映画監督の宇賀那健一さんです。」

宇賀那「宇賀那健一と申します。過去作だと『黒い暴動♥』(馬場ふみか 主演)というガングロギャルムービーや、音楽が禁止された世界を描いた『サラバ静寂』(吉村界人 主演)、30歳を超えた童貞が魔法使いになる『魔法少年☆ワイルドバージン』(前野朋哉 主演)。そして、11月に放送していただく『転がるビー玉』。そして不条理コメディの『異物 -完全版-』があります。配信などもしているので、もしよろしければご覧いただけたら嬉しいです。」

湯浅「監督とは映画関係者が集まる交流会で知り合って、只者ならぬオーラに、これは仲良くならなくてはと思い、お近づきになりました(笑)」

吉田「私は初めましてなのですが、宇賀那さんは映画監督だけでなく、ご自身で会社も経営されているんですよね。映像事業だけでなく飲食・音楽・ファッションなど多方面に展開されていて、先進的な方だなと思って、今日お会いできるのを楽しみにしていました! 会っていきなりですが、飲食店で販売されている『一生飲み放題11万円』や、渋谷で終電を逃しちゃったから暇つぶしに結成したアイドルグループ『始発待ちアンダーグラウンド』先進的な方だなと。センス好きです!」

宇賀那「会社名が『VANDALISM』といいまして、『VANDALISM』って意味が『芸術破壊活動』っていう意味なんですけど、既存の概念を壊して色々と挑戦していこうということで、色々とやっております。」

湯浅「『一生飲み放題11万』ってすごいですよね!」

宇賀那「今年の10月で8年目に入ったんですけど、なんだかんだで40枚近く売れています。」

湯浅「これいいですよね、仕事終わりとかに毎日通えますし。時間制限とかあるんですか?」

宇賀那「貸し切りとかあるともちろん入れませんが、それ以外でしたら基本的に大丈夫です。」

吉田「面白いです!」

湯浅「一生って考えると…安いですよね。…と、話が脱線してしまうので、戻しますね。」

宇賀那・吉田「(笑)」

湯浅「そして、11月のミライシアターでは、宇賀那監督の作品をお届けします。」

吉田「演劇のことは任せてください!ですが、映画については知識があまりないので、色々と教えていただけると嬉しいです!」

宇賀那「よろしくお願いします!」

湯浅「まずは土曜ゴールデンシアターですが、まず11月5日には歌舞伎を放送します。坂東玉三郎さん主演の『傾城雪吉原』(平成30年12月・歌舞伎座)と片岡仁左衛門さん主演の『一條大蔵譚』(平成27年10月・歌舞伎座)をお送りします。」

吉田「どちらも人間国宝出演の名作ですね、気になります。どういう演目なんですか?」

湯浅「『傾城雪吉原』は雪景色の新吉原を舞台に、恋人を思い春を待つ傾城を玉三郎さんが情緒ある長唄にのせてしっとりと踊る舞踊となります。」

吉田「傾城ってなんですか?」

湯浅「傾城(けいせい)とは、最上級の遊女のことを言います。たぶん諸説はあるのだと思いますが、城=国を傾けるほどの美女が語源となっているようです。」

吉田「そうなんですね。」

湯浅「『一條大蔵譚』は義太夫狂言の名作として知られるもので、一條大蔵卿の作り阿呆と本性の演じ分けがみどころの舞台となっています。」

吉田「『舞踊』と聞くと、少し入りづらいイメージがあるかもしれませんが、坂東玉三郎さんの女方は必見です。一目見れば、その立ち姿・振る舞いのとりこになります。間違いないです。『一條大蔵譚』は、ストーリーを知らなくても、両極端なキャラクターを片岡仁左衛門さんがいかに演じ分けるのか?それだけでも一見の価値ありですね。」

湯浅「監督は歌舞伎をご覧になりますか?」

宇賀那「実際観に行ったことはあるんですが、詳しくはないですし、今後勉強していけたらなと思います。」

湯浅「是非放送をチェックしてみてください!そして、11月19日には世界のニナガワ演出の『ヴェローナの二紳士』を放送します。」

吉田「蜷川さんについては以前もこちらでお話しましたが、亡くなられて数年が経ってもなお、そして間違いなくこれからもこの演劇界に大きな影響を与え続ける偉大な演出家だと思います。古典から現代劇まで幅広く手がけられましたが、戯曲の台詞には一切手を加えないということでも有名で、1998年にスタートした彩の国シェイクスピア・シリーズでは全37作を上演するという壮大な企画で大きな反響を呼びました。」

湯浅「おっしゃるとおり、蜷川さんといえば、多くのシェイクスピアの戯曲を演出されていますが、本作はオールメールシリーズとなっています。」

吉田「通称『蜷川シェイクピア』とも呼ばれるこのシリーズの中で、すべての役を男性俳優が演じるシリーズ企画が“オールメール・シリーズ”です。とても人気のシリーズで、これまで『お気に召すまま』(出演:成宮寛貴、小栗旬、他)、『間違いの喜劇』 (出演:小栗旬、高橋洋、他 )、『恋の骨折り損』(出演:北村一輝、姜暢雄、他)、『から騒ぎ』(出演:小出恵介、高橋一生、他)、『じゃじゃ馬馴らし』(出演:市川亀治郎、筧 利夫、他)などが上演され、いずれも大ヒットしました。」

湯浅「大学でシェイクスピア研究の授業を取ったときに教わったんですが、エリザベス朝の時代、イギリスでは職業としての”女優”は認められておらず、代わりに変声期前の少年たちが、女装し女性役を演じていたそうです。シェイクスピアの戯曲もそうだったとかで、ジュリエットもオフィーリアも少年が演じていたと聞いたことがあります。」

宇賀那「実は元々俳優部出身なんですけど、昔所属していた事務所が小栗旬くんと同じ事務所で、なので実際に『お気に召すまま』や『ハムレット』だとか、蜷川さん演出の舞台は何度か稽古や舞台を観ていたことがあります。特に『お気に召すまま』は成宮さんが本当に色っぽくて…あとやっぱり蜷川さんの演出ですね。間近で拝見していて、その熱量がいざ血肉となって芝居になっていくという様子に本当に感動したことを覚えています。」

湯浅「蜷川さんの演出を生で観るというのはとても羨ましいことなんですが、稽古場での蜷川さんはどんな感じだったのでしょう?」

宇賀那「なんか怖いイメージがあるじゃないですか?でも僕が観たときに関してはすごい優しい人で、もちろん、すごい熱量で演出を伝えられるので、その迫力はあったものの、本当に優しい方。あとは芝居に対して、確固たるもの。自分のなかで、絶対的な正解というものを常に持っている方だなあ、って思いました。」

吉田「ただただ、羨ましいですね。」

宇賀那「良い経験をさせていただきました。」

湯浅「11月26日には、東京ヴォードヴィルショーの『トノに降る雨』が登場します。本作は僕が大学時代に腐るほど読み漁った中島敦彦さんの戯曲です。」

吉田「来年で創立50周年を迎える東京ヴォードヴィルショーは9月・10月に続いて3ヶ月連続の放送ですね! 大好きな劇団なので嬉しいです。『トノに降る雨』はもう単純にチラシが好きで、いまでもふと思い出すほど記憶に残っています。中島敦彦さんは、私は劇団道学先生のイメージが強いのですが、本当に様々な団体に書き下ろしされていて、観客からも作りてからも愛された脚本家さんなんだとつくづく思いますね。」

湯浅「『愛された』と過去形になるのが辛いですよね。実は最近まで中島さんがお亡くなりになっていることを知らなくて…。もう新作が読めない、観られないというのは本当に残念に思います。」

宇賀那「『喜劇』ということについていうと、ここ最近、コメディを撮ることが多くて、なので『笑い』については自分的にすごく探究している部分があります。笑ってほしいポイントでまったく笑ってくれない恐怖などは感じつつ、色んな感情と紙一重で、怖すぎるからこそ笑えることなどもあって非常に興味深いジャンルだなと思っています。」

11月の週末ミライシアターには、ままごとが登場!そして宇賀那監督の作品も!

湯浅「そして、11月の週末ミライシアターは、ままごとの『わたしの星』を放送します。」

吉田「『ままごと』は2009年、劇作家・演出家の柴幸男さんを中心に旗揚げされた劇団です。劇場作品に加えて、近年では、『-その時、その場所で、その人たちとしかできない演劇-』をコンセプトに、滞在制作を通して、様々な場所で上演を行なっているのが特徴的ですね。」

湯浅「ちょうど岡山出身の僕からすると、瀬戸内国際芸術祭が瀬戸内で、今年開催される年なんですが、ままごとさんの芝居が上演されるので大変注目しています。」

吉田「いいですね。」

湯浅「本作は記念すべき、この週末ミライシアターの1作目として放送した名作です。まだ開局したての頃は弊社のことを知らない、という方も多かったこともあり、見逃した!再放送してほしい!というご意見がよく届きます。こうしたかたちで今後は過去の傑作選もお送りできないかなと考えています。」

吉田「傑作選いいですね!お客さんからリクエスト作品を受け付けるのも面白いかもしれません。あとは、舞台以外のテレビ・映画・音楽などのエンタメ業界にもお芝居好きな人が多いので、そういう演劇ウォッチャーの方々から『あなたのベスト1作品』を募集して放送するのもありですね。」

湯浅「参考にさせていただきます!本作は火星への転校と、文化祭での発表をめぐる、高校生たちの1日を描いた内容で、出演者は実際の高校生です。やはり何度観ても若々しさあふれる演技から目が離せません。学生というところでは、僕の学生時代は劇団作って公演うっていろんなことを学びましたが、今の学生は公演うてているんですかね。」

吉田「実態調査をしたわけではないのであくまでイメージですが、学生の公演は減っていて、劇団となるとさらに激減してると思いますね。コロナの影響はこの2年半ほどですが、そのずっと前から、ある種アナログな“劇団”という組織を形成する必要性というか必然性が少なくなってしまっている気がします。時代の流れ、と言ってしまえばそれまでですが、個人的には、劇団も観客も共に成長していく良さみたいなものは、ユニットやプロデュース公演では成立しないと思っているので、若い学生がもっと気軽に演劇に触れて、劇団を旗揚げしやすい環境づくりをしたいですね。」

湯浅「確かに一昔前だと出演するチャンスもなかなか得られないこともあり、劇団制度は良かったのかもしれませんが、今やオーディションもありますから、別段、劇団に入らなくても俳優は出演できる土壌が育ってしまっているというのもあるかもしれませんね。」

宇賀那「先ほどお話しされていたアナログというところでいうと、僕は逆にすごい羨ましいなと思っていて、やっぱり映画っていうのは、二ヶ月上映したとしても活弁とかじゃない限り基本的には同じものじゃないですか。だからよっぽどのシネフィルの方じゃないと何度も観に来るってことは無いと思うんです。個人的に音楽で起こったことは映画ですぐ起こると思っていて。音楽は配信とかで、より手軽に手に入るようになったけれど、どんどん価格が安くなっている。これは映画でも既に起こっていることなんです。でも音楽には観る度に毎回違うライブっていう強みがあるじゃないですか。だからまだ良い。そして、演劇の場合はそもそもが基本的にライブです。これは本当に羨ましいなと思いますし、映画がどうすればお客さんを取り戻せるかは演劇や音楽以上に真剣に考えなくちゃいけない問題だと思っています。ライブというアナログを含んでいる演劇や音楽は、コロナ禍でもちろん苦しい部分もあったとは思うんですけど、人が一回離れてしまったとしても、でもまだ渇望している分、逆にアナログの価値みたいなものがここからさらに見直される時代が来るんじゃないかと思いますね。習慣は離れてしまったかもしれないけれど、それでもやっぱり生で観れるものは生で観たいと皆思っているはずです。」

吉田「嬉しいですね。」

湯浅「なんか…映画も演劇もそうですけど、人のコミュニケーションを表現する芸術だと思っているところがあって。会話の間とか、言い回し、身振り手振り、すべてが日常のコミュニケーションに準拠しつつも、そういった人間のコミュニケーションを表現していくものだと思うんです。ただコロナ禍を経て、今こうしてオンラインで話していますけど、これが面接だったり、会議だったり、すでに当たり前に日常に溶け込んでいるじゃないですか。このコミュニケーションの在り方はこれまでの生活にはなかったもので、人と人のコミュニケーションを表現するのが映画であり、演劇であるならば、このオンラインコミュニケーションの先にどんな作品が生まれるのだろうか、とか…一方で、このコミュニケーションを小さい頃から当たり前に享受してきた世代はもしかしたら、監督がおっしゃるように一周まわってアナログ回帰した表現こそ最高と考えるんじゃないかとか…たまに思ったりします。」

宇賀那「個人的にはやっぱり演劇は生で観たいし、体感したいということを再確認した時代だったかなと思います。」

湯浅「そして、映画枠では宇賀那監督の『転がるビー玉』をお送りします。」

吉田「まず俳優が豪華ですね。」

宇賀那「そうですね、大々的にオーディションもさせていただいて、魅力的な俳優が集まりました。」

湯浅「再開発が止まらない渋谷を舞台に、明日を描けない女の子たちのささやかな青春物語です。メインキャストには、吉川愛さん、荻原みのりさん、今泉佑唯さん。三者三様それぞれの葛藤が本当丁寧に繊細に映し出されている作品です。」

吉田「『転がるビー玉』も含め、これまでの宇賀那さんの作品のトレーラーをいくつか拝見しました。どの作品も、切ないけど品があって、尖っているけどやさしくて、映像美も素晴らしくて観る者の心の奥に届く作品を作られる方だなと思いました。」

湯浅「拝見しましたが、本当になんていうのか、動き出せないでいるもどかしさを隠せない若者と一方でそんなことは関係ないように未来に向かって再開発の進む渋谷という街。すべて見終わった後に、『再開発』って言葉に何か込み上げるものがありました。そっか、成長でもなく『再開発』なんだよな、と。そこに少しばかり希望みたいなものも感じました。20代の頃って基本的に何を言っても大人は相手をしてくれないじゃないですか。30代を過ぎてからようやく聞いてくれる。本作の若者もそうで、基本的にうまくいかない。一方で渋谷はどんどん進化を遂げているように見える。でもこれ『再開発』なんですよね。これまでの渋谷の発展に携わった多くの方が築いたものの土台にあって、それをまたさらに再開発されていく…だからこの物語に出演している若者も挫折したり、うまくいかない様子が描かれるんですが、実はそれは土台になって、彼女たち自身の『再開発』につながる…。そういうとても優しい作品だなあと思いました。」

宇賀那「ありがとうございます。」

湯浅「あと、景色が本当によくて、まだ建設中の…えっと。」

宇賀那「ミヤシタパークですかね。」

湯浅「はい!まさにミヤシタパークがちょうど建設中で…いいタイミングでの撮影なんだなあとも思いました。」

宇賀那「まさに今おっしゃれていたようなことで、そもそも撮ろうと思ったキッカケは何本か監督していくなかで、俳優部との出会いもすごく増えて、そんな中でやっぱり俳優部ってすごく難しいなと改めて実感したんです。例えば、僕たち映画監督は、企画が実際は進んでいなくても脚本を書き出せば企画が進んでいるような感覚を得られるし、アスリートで言えば、筋トレしたらその分筋肉がついていく。でも、俳優部にはわかりやすい指標がなくて、何が正解なのか分からないまま曖昧模糊としたものに手を伸ばし続ける…だからすごく皆さんすごく悩んでいる。だけど、その悩んでいる姿が僕はすごく愛しいし、美しいなと思ったんです。だから映画を通して大丈夫だよ、と言ってあげられるような作品を作りたくて。大丈夫だよ、というとおこがましいですが、その大丈夫だよ、というのが売れるから大丈夫だよ、とか、稼げるから大丈夫だよ、とかそういうことではなくて。あなたが藻掻いている姿っていうのは圧倒的に美しいから、そんな姿を見ている人は絶対にいるから、そのままのあなたで大丈夫だよ、と言ってあげられるような作品を作りたくて。大きい物語のうねりはないんですけど、登場人物たちを肯定的に見続けている視線のような映画にしたいと思って作りましたね。

あと、もう一つはそのときの渋谷を記録する映画を作りたいなと思ったのも重要なポイントです。僕自身、昔から渋谷のカルチャーが大好きで、渋谷のライブハウスや古着屋や映画館とか色んな場所に育てられてきて…。ちょうどこの作品を撮影したのが2019年の夏だったんですが、東京オリンピック前で、さらに再開発が行われていく時だったんです。僕の大好きな渋谷が変わっていってしまう、でも渋谷ってずっと変わっていった街なので、それは否定的には思ってないけど、今この景色をちゃんと記録に残していきたい、というところで、ミヤシタパークとか、昔のパルコとか、そういう変わっていく場所を敢えてロケーションに選んで撮影しました。

その2つの要素を掛け合わせて、逆ロードムービーというものを作ろうと思ったんです、今回の登場人物の女の子たちのまわりはたくさんの人々が行き交っていて、街はどんどん景色が変わっていくけど、自分たちは全然成長している実感がなくて、だからこそすごく苦しい思いを抱えて藻掻いている。でも、その藻掻いている苦しさも他人には共感してもらえない。それで進めないからこそ、結局最後に小さな一歩を進むことができる。っていう、自分たちだけが進めない逆ロードムービーに挑戦してみました。」

湯浅「確かにすごく優しい物語なんです。まわりはキツイこと言う人がいたりするんですけど、登場するメインの女の子たち3人は別にお互いでいがみ合うこともないし、傷ついている様子を見ても、かくあるべきだなんて言わない。ただそっと寄り添うようにそばにいる感じで、本当に優しい描写にあふれた作品と思います。あと『無くなってしまう風景』を残したいというのは演劇にはできないことかなと思います。芸術はどこかで記憶に残るので、『あの頃』を思い出すキッカケになることもあるのですが、実在の建築物のような『ノンフィクション』の『記録』というところでは、演劇ではなく、映画じゃないと出来ないんじゃないかと思います。」

宇賀那「映画で『VISION』というクラブが出てくるんですけど、先々月くらいに畳んでしまいまして、自分も思い入れもあった場所なので、かなり無理を言って撮影させていただきました。本当にあのとき映画に残せてよかったなと思っています。あと、今見返すと誰もマスクをしていなくて、そういうこと自体にも不思議な感じがしますよね。」

吉田「確かに!面白いですね。絶対見ます。」

湯浅「そんなところで、最後に何かあれば…。」

宇賀那「告知にはなるんですが、12月3日からですが僕の短編集が池袋のシネマ・ロサほか、全国順
次劇場公開があります。あと12月10日から『乾いた鉢』という新作長編映画も公開になりますので、是非ご覧いただけましたらと嬉しいです。」

湯浅・吉田「今日はありがとうございました。」

宇賀那「ありがとうございました!」

プロフィール

●宇賀那健一(うがな・けんいち)
1984年生まれ。ブレス・チャベス所属。主な作品に『黒い暴動♥』『サラバ静寂』『魔法少年☆ワイルドバージン』『転がるビー玉』『異物-完全版-』などがある。2022年12月に『宇賀那健一短編集:未知との交流』『渇いた鉢』が全国順次劇場公開。

●湯浅敦士(ゆあさ・あつし)
日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。

●吉田祥二(よしだしょうじ)
シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。

【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成無料放送)
【局公式Twitter】 @BS260_official

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