連続対談企画⑥『“演劇”のある生活』[9月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

第6回 全国無料放送局『BS松竹東急』 9月の演劇ラインナップをご紹介!

 BS松竹東急は、映画、歌舞伎、一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、今年3月26日開局した放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。

 また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという…、なんとも謎に包まれた放送局である。

 この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、カンフェティ編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。

※過去回は下記リンク先にて公開中!
 (第1回)4月のラインナップ
 (第2回)5月のラインナップ
 
(第3回)6月のラインナップ
 (第4回)7月のラインナップ
 (第5回)8月のラインナップ

9月のラインナップはこちら!

土曜ゴールデンシアター
9月3日(土) 夜6時30分~ 東京ヴォードヴィルショー「アパッチ砦の攻防」
9月10日(土) 夜6時30分~ 地球ゴージャス「X day」
9月17日(土) 夜6時30分~ 古今亭菊之丞「文七元結」/シネマ歌舞伎「人情噺 文七元結」
9月24日(土)  夜7時~「マーダーミステリーシアター 裏切りの晩餐」(2021年12月16日公演)

週末ミライシアター
【演劇】
 9月3日・17日(土) 深夜0時30分~劇団時間制作「迷子」
 9月10日・24日(土) 深夜0時30分~あやめ十八番「しだれ咲き サマーストーム」

【映画】
 9月4日・18日(日) 深夜0時30分~コメディ映画特集
  「Crane Truck」「ギーコさん」「15歳の総理大臣」「青森さんちの祝日」
 9月11日・25日(日) 深夜0時30分~コメディ映画特集ほか
  「ラヂオ幽霊」「利用規約の男」「ネイバーフッドインベイション」「スナック来夢来人」「浦島太郎」

吉田「9月も本当に同じ放送局とは思えないバリエーションに富んだラインナップですね。しかもどれも見ごたえのある作品ばかりなので、秋の始まりに、週末、家でくつろぎながらじっくり鑑賞するには良いラインナップです。コメディ映画特集も気になります。」

湯浅「では早速、土曜ゴールデンシアターのラインナップからです。まず9月3日は東京ヴォードヴィルショーの『アパッチ砦の攻防』をお送りします。」

吉田「東京ヴォードヴィルショーは1973年、佐藤B作さんを中心に結成。来年で創立50周年を迎えます。誰でも楽しめる軽演劇(ヴォードヴィル)をやろうというスローガンのもと活動している劇団です。割と初期の頃ですが久本雅美さんや柴田理恵さんも在籍されていたこともあります。」

湯浅「三谷幸喜さんの戯曲をよく上演されているイメージがあります。」

吉田「三谷さんと東京ヴォードヴィルショーとの関わりは深く、三谷さんが東京サンシャインボーイズという劇団をやっていた頃に、B作さんが『ショウ・マスト・ゴー・オン』を観て感動し、早速三谷さんに脚本を依頼したそうで、それから三谷さん書き下ろし作品を何本も上演していますね。」

湯浅「『竜馬の妻とその夫と愛人』など、東京ヴォードヴィルショーで上演された後に映画化された作品もありますね。個人的には東京ヴォードヴィルショーさんの『エキストラ』という作品が三谷さんとしては珍しい?不条理劇のテイストもあって好きな作品です。」

吉田「気になります!」

湯浅「今回お送りする『アパッチ砦の攻防』も三谷幸喜さんの戯曲で、何度も再演されている名作のひとつです。」

吉田「東京ヴォードヴィルショーの旗揚げ当時1970年代の演劇界は、アングラ演劇が全盛期で、そんな中、流行り始めたテレビのお笑いの要素も取り入れた喜劇を創れないかということで結成された劇団なので、三谷さんの書くコメディの作風も丁度マッチして、素敵な作品を数多く生み出していったんだと思います。」

湯浅「そして、9月10日には、地球ゴージャス『X day』を放送します。」

吉田「地球ゴージャスは、1994年に俳優の岸谷五朗さん・寺脇康文さんが旗揚げしたユニットで、1〜2年ごとにプロデュース公演を上演しています。7月にも土曜ゴールデンシアターで『HUMANITY THE MUSICAL ~モモタロウと愉快な仲間たち~』が放送されましたが、舞台をこよなく愛するお二人だからこその、壮大で豪華なライブエンターテインメント作品を毎回上演されていますね。」

湯浅「今回6人の男女によるオムニバスストーリーながら、中川晃教さん、陽月華さん、藤林美沙さん、森公美子さんら、ミュージカルでも大活躍している方々が出演しており見応えある作品となっています。」

吉田「第一線の方とコラボするキャスティングも見事ですね。」

湯浅「9月17日には古今亭菊之丞師匠による落語『文七元結』とシネマ歌舞伎『人情噺 文七元結』をお送りします。」

吉田「同原作の落語と歌舞伎を連続して放送するわけですね。」

湯浅「歌舞伎の中には落語原作の作品もたくさんあります。今回は落語をまず楽しんでいただいて、そのうえで、歌舞伎だったらどう変わってくるのだろうと楽しんでいただくという趣向です。」

吉田「シネマ歌舞伎というのは、歌舞伎の舞台公演を撮影し、映画館の大スクリーンでデジタル上映するために作られた作品です。豪華な俳優陣を特等席で鑑賞しているかのような迫力で、年配の方だけでなく、若い方でも楽しめますよね。今回の企画も、同じ演目を違った味わい方をするという、秋の夜長にぴったりな素敵な企画だと思います。」

湯浅「シネマ歌舞伎『人情噺 文七元結』は山田洋次監督と中村勘三郎さんという夢の顔合わせが実現したことでも話題になった作品でもあります。」

湯浅「そして、9月24日は『マーダーミステリーシアター 裏切りの晩餐』が登場します。」

吉田「『人狼ゲーム』『脱出ゲーム』に続く、いま話題の体験型推理ゲーム『マーダーミステリー』をまったく新しいリアル体験型ステージとして映像化したのが、マーダーミステリーシアターですよね。大枠のストーリーはあるものの、全編アドリブ・一発本番の即興演劇×オンライン体験型ステージというのが、最大の魅力です。」

湯浅「と言いながらたぶん実際どんなものなんだろうというのがよくわからない人もいると思います。是非これを機会にチェックすることをおすすめします!演劇はこういうものだと思い込んでいる方もいるかもしれませんが、演劇にも本当いろいろなかたちがあるので、是非楽しんでほしいです。」

吉田「最近ではイマーシブシアターも流行っていますよね!」

湯浅「本当、時代時代にあったかたちで、新しい演劇って生まれているんだなあと思います。」

吉田「『イマーシブ』って、『没入感のある』とか『没入型の』という意味で、それって演劇ならではだと思うのですが、従来のステージと客席が分かれている伝統的な構図を取り払って、観客をパフォーマンスそのものに没入させるというのが、これまで得られなかった感覚を味わえるエンターテインメントとして、これからもさらに発展すると思います。」

湯浅「そうですね!」

吉田「コロナの影響もあり、普通の演劇がやりにくい状況もあって、必要に迫られるという側面もありながら、みな新しい演劇を追求し、生まれているというのを感じます。」

湯浅「ZOOM演劇もありますもんね!」

吉田「そういうふうにしてやっぱり演劇は発展していくんですね。」

9月の週末ミライシアターには劇団時間制作、あやめ十八番が登場!

湯浅「そして、9月の週末ミライシアターでは、劇団時間制作さんとあやめ十八番さんが登場します。」

吉田「ついに来たか!という感じですね。」

湯浅「9月3日、17日は劇団時間制作『迷子』をお届けします。」

吉田「劇団時間制作は2013年に旗揚げ。『人間が見て見ぬふりをしている現実、感情と向き合う時間を制作する劇団』と銘打つ通り、人が人と生きた“時間”を描くことを重視し、物語はフィクションながらも、どこかで起こっているであろうリアルな現実や社会問題を題材に描く作風が特徴です。2021年には、『ヤングマガジン』にて連載され、2012年に映画化された『ヒミズ』を舞台化したことでも注目を集めました。」

湯浅「僕は初めて劇団時間制作さんの作品を拝見したのですが、とにかく脚本がむちゃくちゃすごい!と思いました。吉田さんが前に劇団チョコレートケーキさんのお芝居を死と向き合い覚悟を決めた人たちの舞台。そういった覚悟を決めた俳優が観られる舞台はやっぱり面白いとおっしゃっていたのを思い出しました。」

吉田「演劇を色々観ていると、『この作品は演劇以外の、小説や映画や音楽や絵画でも表現できる』とかっていう視点で見てしまうことがあるのですが、一年に数本、これは絶対に演劇でしか表現できないことをやっている劇団に出会うことがあって、そういう作品に出会うと『これはやられた!』っていうガツンとした衝撃が走りますね。時間制作は間違いなくその一つです。」

湯浅「いわゆる“演劇的”というやつですね。劇団時間制作さんの作品は、ともすればすでに壊れているんですよね。でも壊れていないフリをしている。本当に緊張の糸が舞台上で常に張り巡らされているようで、ちょっとした刺激でプツンと切れる感じ。そしたらせき止めていたはずの感情が勢いをもって表面化する。そのピリピリした感じ。本当にたまらなく面白かったです。」

吉田「時間制作さんの過去の作品のあらすじを読むと、最後に圧倒的現代劇という言葉で締めくくられていることが多くて。この“圧倒的”という言葉が表していること、意味することをぜひ作品を通して感じてほしいですね。」

湯浅「続いて、あやめ十八番さんの『しだれ咲き サマーストーム』です。」

吉田「あやめ十八番は、2012年に旗揚げされた、俳優・堀越涼の作・演出による舞台を上演する演劇ユニットです。歌舞伎・能・浄瑠璃など古典のエッセンスを取り入れて現代劇の中に昇華させ、しかも現代人の感覚で古典演劇を再構築するという作風が特徴です。」

湯浅「今回の作品は一人の男と、その前妻・後妻の丁々発止のやり取りを描いた女達の合戦を描いた物語で、あやめ十八番さんの言葉では“擬古典”演劇と称しています。」

吉田「作品もさることながら、公演タイトルやビジュアルにもこれぞ『あやめ十八番』というある種確立されたカラーがありますよね。古典にも現代にも通じる、普遍的な美を感じさせてくれる団体です。」

湯浅「そして毎週土曜には演劇を、日曜には映画をお届けしている週末ミライシアターですが、9月はコメディ映画を中心にインディーズ映画の話題作をお送りします。」

吉田「コメディは今全ての人が求めているもののような気がします。インディーズ映画ということで、癖のある、癖になるコメディが見られるんじゃないかと期待しています!」

湯浅「早いものでこの9月末をもって開局して半年になります。」

吉田「どうですか?」

湯浅「小劇場の俳優と話していたりすると、名前を聞くようになったと言ってくださることもあります。それこそ、あやめ十八番さんも弊社の存在を知ってくださっていました。」

吉田「演劇自体がまだまだニッチな業界なので、新しい取り組みが浸透するのにも少し時間は必要なんじゃないかと思います。実際、フリーペーパーの『カンフェティ』も発行して早17年が経ちますが、最初の2~3年は、私がもともと活動していた小劇場やコアな演劇ファンの方達からでさえも、『カンフェティ?なにそれ? 聞いたことない』と言われ続けました。でも、たとえ時間がかかっても浸透さえすれば、一メディアとして定着しやすい業界でもあると思います。開局から半年、ある程度認知度を得たこれからこそ色々仕掛けていきたいですね。私も引き続き応援します。知ってもらう苦労というのもありますが、業界にも良い刺激につながると思います!」

湯浅「さらにワクワクする演劇編成に向けてがんばりますので、よろしくお願いします!」

プロフィール

●湯浅敦士(ゆあさ・あつし)
日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。

●吉田祥二(よしだしょうじ)
シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。

【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成全国無料放送)
【局公式Twitter】 @BS260_official

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