連続対談企画①『“演劇”のある生活』[4月放送分](BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

連続対談企画①『“演劇”のある生活』[4月放送分](BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

3月26日に開局。“演劇”も放送!無料BS放送局『BS松竹東急』とは何者か?

 BS松竹東急は、映画、歌舞伎、一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、今年3月26日開局する放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。

 また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという…、なんとも謎に包まれた放送局である。

 この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、シアター情報誌『カンフェティ』編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。

4月には渋谷・コクーン歌舞伎を3週連続でお届け!

吉田「よろしくお願いします。」

湯浅「あらためてよろしくお願いします。…この企画ですけど、僕から提案したんですよね。引き受けてくださりありがとうございます。」

吉田「そうですよね、去年の12月くらいにお話を伺って、演劇を放送する放送局が新たにできる、というのは画期的で。そしてどんな放送をするのかが興味深くて引き受けました。」

湯浅「本当にありがとうございます。」

吉田「いえいえ!…そしてまもなく開局ということで。」
※対談は2022年2月末に実施しました。

湯浅「はい!3月26日の開局に向けて、歌舞伎だけでなく、現代劇、ミュージカルまで幅広いジャンルの演劇を、“無料”でお届けすべく日々準備を進めています。」

吉田「4月のラインナップをお聞きしましたが本当に幅広いラインナップですよね。しかもこれを全国の方が見られるというのは…。演劇が今、コロナでかなり苦しい状況ですが、再び盛り上がるきっかけになりそうな気がしていて、期待しています。」

湯浅「ありがとうございます!では早速ですが、今回はBS松竹東急の4月の演劇編成について、ご紹介したいと思います。」

吉田「お願いします!」

湯浅「まずは特別編成として、渋谷・コクーン歌舞伎を3週連続で放送します!

吉田「コクーン歌舞伎の特長は、平場席が設置されていて昔ながらの観劇スタイルを維持しつつも、古典の歌舞伎に新たな演出をつけるという手法を取り入れているところですね。若い世代の方でも観劇しやすい作品だと思います。」

湯浅「確かに歌舞伎はわかりにくいってイメージの方もいるかもしれませんが、コクーン歌舞伎は歌舞伎の素養がなくても、理解できる内容になっていますよね。そして、4月2日の『東海道四谷怪談 北番』の放送前には歌舞伎座で上演された『松寿操り三番叟』を放送します。」

吉田「それはどういった演目なんですか?」

湯浅「五穀豊穣を願う祝いの舞です。松本幸四郎さんと尾上松也さんが出演しています。こうして開局するBS松竹東急の五穀豊穣も願ってという祈りも込めて編成しました。」

土曜ゴールデンシアター初回は「キネマの天地」!そして…小劇場の舞台も放送!

吉田「そして、3週連続コクーン歌舞伎の後はレギュラー編成になるということですよね?」

湯浅「はい、BS松竹東急の演劇編成は土曜日になります。4月30日(土)夜6時30分から『土曜ゴールデンシアター』が、4月2日(土)深夜0時30分から『週末ミライシアター』がスタートします。」

吉田「どういったラインナップになるのでしょうか。」

湯浅「土曜ゴールデンシアターの初回となる4月30日は、こまつ座『キネマの天地』をお送りします。」

吉田「歌舞伎じゃないんですね?」

湯浅「はい、土曜ゴールデンシアターでは、歌舞伎はもちろん編成していきますが、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を編成コンセプトに歌舞伎以外にも、現代劇やミュージカルなど、幅広いラインナップを予定しています。」

吉田「こまつ座といえば、やっぱり井上ひさしさんですよね。日本が誇る劇作家。井上ひさしさんがお亡くなりになった後は、娘さんがこまつ座を引き継いで、色褪せることなく今なお活動されている劇団ですよね。井上ひさしさんを送る会に参加させていただきましたが、錚々たる方々が出席されていました。本当に、劇作家として第一人者だと思います。」

湯浅「僕もそう思います。きっと井上ひさしさんの戯曲は古典になるんだろうなと思ってます。学生時代に劇作家協会の戯曲セミナーに通っていたことがあって、井上ひさしさんの講演回もあったのですが、本当に優しい雰囲気の方で。素直にあんな劇作家になりたいという…大変恐れ多いですが憧れもありました。そういうのもあって、土曜ゴールデンシアターの初回としては、是非とも井上ひさしさんの作品をお届けしたいという思いがありました。」

吉田「なるほどですね。」

湯浅「また松竹にゆかりのある映画「キネマの天地」の続編舞台というのも理由にあります。実は土曜ゴールデンシアターとは別に、日曜ゴールデンシアターという放送が、日曜夜6時30分から始まり、こちらは映画を放送します。そして、4月23日には、映画「キネマの天地」を放送予定となっています。4月23日には映画の「キネマの天地」。そして、4月30日には舞台の「キネマの天地」。と、2週にわたって楽しんでいただけたらと思います。」

吉田「確か…映画編成も編成にコンセプトとしてありましたよね。」

湯浅「はい。BS松竹東急では月曜~金曜に「よる8銀座シネマ」もスタート。こちらでも映画を放送します。」

吉田「ほぼ毎日映画を放送するんですね!」

湯浅「また、松竹映画だけでなく、そして国内外問わず幅広いラインナップを予定しています。」

4月の「週末ミライシアター」は“ままごと”と“ゴジゲン”の舞台!

吉田「そして深夜には?」

湯浅「…週末ミライシアターが始まります!」

吉田「…。」

湯浅「…。」

吉田「いよいよですね。」

湯浅「そうですね!この編成にあたっては、吉田さんの力もたくさんお借りしました!僕だけが劇団に直接交渉してもなかなか難しいところ、いろいろと吉田さんにはご協力いただきました!」

吉田「この週末ミライシアターという企画を湯浅さんから聞いたときに、私自身も昔演劇をやっていましたが、小劇場界というのは、なかなか頑張っても日の目を見る機会がない。みんな夢と情熱が大きくて、でも、なかなか思うように観客の数が増えない。そういう状況がずっと昔から続いていて…。本当ひと握りの人だけがスターになっていくんですけど、でもそうじゃなくても本当に面白い劇団がたくさんある。また、ただ劇場を大きくしていくのではなく、小劇場の良さを追求したい、というこだわりを持った団体も多い。そういう団体も含めて、スポットライトが当たればいいなあ…と。これは夢のある企画だと思い協力しました。」

湯浅「しかも…何度も言いますが、これも無料ですからね。」

吉田「そうですよね、深夜にテレビのチャンネルを変えていたらたまたま目にすることを考えたら、演劇の裾野も拡がるんじゃないかとも思いますね。」

湯浅「そして深夜とはいえ、土曜日の24時30分です。」

吉田「いや、いい時間だと思います!ちょうど、面白い番組ないかなという時間帯で、ほとんどの人にとってはきっと観たことのない舞台の映像が飛び込んでくるというのは…。」

湯浅「さらに!今のところですが、ノーカット、ノーCMでお送りする予定です!」

吉田「すごいですね。やっぱり、画期的です。」

湯浅「そして週末ミライシアターの記念すべき初回は、ままごと「わたしの星」を放送します。」

吉田「ままごとの作品は『わが星』や『あゆみ』などを観ているんですけど、作品にラップを取り入れたり、ループしたりとか、これまでの演劇手法で使われてこなかったものを取り入れているというところで、わかりやすく新しさがあって、若い人がみてもすぐに 世界観に入り込めますし、観ていて心地よい。ずっと前から注目され続けている劇団ですよね。是非、演劇を観たことのない人にこそ観ていただきたい劇団でもあります。きっと演劇って、ああこんなに面白いんだなってわかりやすく感じられると思います。」

湯浅「ままごと主宰で、劇作家の柴幸男さんは大学の先輩で、お会いしたことはないのですが、ちょうど僕が在学中に「わが星」で岸田國士戯曲賞を受賞。あの頃は、学生劇団の芝居を観に行ったら、ほとんどの劇団が円形舞台をくるくる回っていたように思います。」

吉田「(笑)」

湯浅「「わたしの星」は高校生たちの物語で、出会いや別れ。そして、はじまりや終わりが背景にある話でもありまして。是非とも週末ミライシアターの1作目に!と強く思っていたので、こうして実現できて嬉しい気持ちでいっぱいです。」

吉田「そして2作品目は…ゴジゲン「くれなずめ」ですね。

湯浅「ゴジゲンは、僕が学生劇団をしていた頃に、とある学生芸術祭の第1回で優秀校に選ばれていて、その頃から別格の劇団だったように思います。」

吉田「ゴジゲンは元々慶応大学の演劇サークルから生まれた劇団で、在学中から注目度が高くて…。やっぱり主宰の松居大悟さんが描く世界観ですね。日常を描いているんですが、そこからの飛躍であったり、男中心の汗臭い設定が多いんですが、その設定にもうおさまらない展開。そこからさらに展開。展開することで何か見えてくるんですけど、それも壊しちゃう。それがとにかく繰り返されて、観終わった後にはやっぱりこれはゴジゲンでしか表現できないな、という…本当オリジナリティの高い作品ですね。」

湯浅「またこの「くれなずめ」という作品は映画化もされていて、松居大悟さんが監督を務めてらっしゃいますよね。」

吉田「映画版でも映画だからこその表現があって、やっぱり、松居大悟さんはすごいです。」

吉田「実はカンフェティでは松居大悟さんにコラムを連載していただいておりまして…。まだ松居さんが20代の頃から始めていて、今では130回を超えて、11年目に突入しているんです。」

湯浅「すごいですね!長期連載!」

吉田「もうライフワークになっているとおっしゃっていて、ありがたいです。」

湯浅「この対談企画もそうなるといいですね(笑)」

吉田「ははは。とりあえず、10年を目指しましょうか!月1回だから120回ですね(笑)」

湯浅「頑張りましょう!でも本当この「週末ミライシアター」は続けばいいなあと思っています。僕はどうにか小劇場舞台を深夜ででも放送できないかとずっと思っていました。この週末ミライシアターについては企画書を出しては落とされ、企画書を出しては落とされ…を繰り返していて、ある日上司に「この企画書は日の目を見ますか?」って聞いたんです。そして「見ることはないと思うよ」と言われて、なので、その翌週にも同じ企画書を出しました。」

吉田「物分りが悪い(笑)」

湯浅「でも熱意が伝わったのか、企画にGOを出してくれて、なので、こうして小劇場舞台を放送できるというのはなんとも感慨深いものがあります。」

吉田「週末ミライシアターのロゴも素敵ですね。」

湯浅「『芽』をイメージしたデザインにしました。この芽からどんな花が咲くのか、色は何色なのか。そもそも花になるのか。なんていう無限のミライを連想させるものとして芽をひとつの象徴にしました。」

土曜は“演劇”のある生活を!

吉田「毎週土曜は家で演劇が楽しめるということですね。」

湯浅「さらにですね!」

吉田「まだあるんですか?」

湯浅「4月は毎週昼12時から5週連続で、藤山寛美先生出演松竹新喜劇をお届けします。」

吉田「本当盛りだくさんですね!いやあ楽しみです!」

吉田「最後に、これは単純な興味なのですが、演劇を放送するうえで何か感じたことはありますか?」

湯浅「歌舞伎や小劇場の舞台も含めて、演劇をレギュラーで放送するというのはこれまでなかなかになかったことではないのかなと思います。なかったからこそ、ほとんどのことが初めて尽くしで、いろいろなことに奮闘する日々です。」

吉田「でも一方で、無料の全国放送ですから、BSが見られる環境の方なら誰でも演劇を視聴できるということですよね。」

湯浅「はい、これまで演劇を観たことがなかった人も目にするチャンネルと言えます。そしてそのなかで…演劇を初めて観たけど面白いなって思う人もいると思うんです。」

吉田「絶対います!!」

湯浅「断言しましたね!(笑) ただ、そうやってふと目にすることで生活の可能性の幅が、ちょっとだけ拡がる。その拡がった“可能性”が演劇だったらいいなあと祈りを込めて編成しています。そしてそれはテレビの可能性だったりもするのかなとも思っています。」

吉田「はい、なんかそれらしい言葉で締めくくられましたが…。」

湯浅「(笑) ということで、この企画は来月も続くわけですが…!」

吉田「私自身もちょっといろいろと改めて演劇を見直す機会となると思っています。楽しいお話がこれからも出来ていければいいなと!」

湯浅「はい!5月の編成も“ワクワク”を届けられるよう準備を進めています。是非ともBS松竹東急の演劇編成に、ご期待ください!」

撮影:嶋垣くらら

BS松竹東急 4月の放送予定

【放送日時・番組名】
 特別編成
 4月2日(土) 夜6時30分~「松寿操り三番叟」(2016年4月・歌舞伎座)
       夜7時~渋谷・コクーン歌舞伎「東海道四谷怪談 北番」(2006年4月・Bunkamuraシアターコクーン)
 4月9日(土) 夜6時30分~ NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」
 4月16日(土) 夜6時30分~ 渋谷・コクーン歌舞伎「佐倉義民傳」(2010年6月・Bunkamuraシアターコクーン)

 土曜ゴールデンシアター
 4月30日(土) 夜6時30分~こまつ座 「キネマの天地」

 週末ミライシアター
 4月2日・16日(土) 深夜0時30分~ままごと「わたしの星」
 4月9日・23日(土) 深夜0時30分~ゴジゲン「くれなずめ」

 5週連続!松竹新喜劇
 4月2日・9日・16日・23日・30日(土) 昼12時~「松竹新喜劇」

【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成無料放送)
【局公式Twitter】 @BS260_official

プロフィール

●湯浅敦士(ゆあさ・あつし)/右
日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。

●吉田祥二(よしだしょうじ)/左
シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。

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