“禍(わざわい)”を乗り越えた先に“福”が来ることを願って 舞台『「福」に憑かれた男』小澤雄太×髙橋颯インタビュー

“禍(わざわい)”を乗り越えた先に“福”が来ることを願って 舞台『「福」に憑かれた男』小澤雄太×髙橋颯インタビュー

 喜多川泰の著書『「福」に憑かれた男 ⼈⽣を豊かに変える3つの習慣』が2023年3月、恵比寿 シアター・アルファ東京にて舞台化する。ストーリー仕立てでありながら、自己啓発本としての側面ももつ本作では、日常のちょっとした出来事にも意味があり、良くないと思っていたことは実は自分が成長するために必要なことだった、という学びと喜びが描かれている。
 今、上演されるにふさわしい本作で、他界した父親に代わって実家の書店を継ぐことになる長船秀三を小澤雄太が、そんな長船に憑いてトラブルを引き起こす新人“福の神”・秀神を髙橋颯が務める。未曽有の“コロナ禍”が世界全体を襲ったここ数年を振り返りながら、2人が作品と向き合い、感じたこととは?

―――本企画の内容を聞いた時、加えて原作・脚本を読んでの第一印象は?

小澤「どう? 僕が先に言っちゃうとやりづらくない? 先言っていいよ!」

髙橋「ありがとうございます……! そうですね、情熱もありつつ、温かくて優しい作品だなというのをすごく感じました。主人公のひたむきな姿は、きっと成長したいと思っている人にこそ刺さる作品じゃないかなと思います。僕も高校生の時に自己啓発本にハマった時期を思い出しました」

小澤「いいね! なんかこういうフレッシュさ、羨ましい」

髙橋「そんな、とんでもないです……!」

小澤「僕も自己啓発本は好んで読むタイプの人間で、この原作もその一種なのかなと思って読みました。ただの自己啓発本じゃなくて、そこにストーリーが加えられているので、すごくハートフルで読みやすいのがいいですよね。
 自己啓発本だとどうしても書き手の自論を押し付けられる形になることもありますが、今作のような、誰にでもある禍や、そういった局面で何をしなくてはいけないのか、成功例を物語としてちゃんと紐解いてくれているところに作者の優しさを感じます。自分も頑張ろう!って意気込むよりも、ちょっとやってみようかな……と思えるくらいの、押し付けがましくない作品なのがいいですよね」

―――今回はそんな『「福」に憑かれた男』が舞台になるということで、ご自身が演じられるキャラクターについて、共感できるところ、印象的なところがあれば教えてください。

髙橋「僕自身は全然しっかりしていないタイプで……。普段WATWINGというグループで活動しているのですが、メンバーからも色々突っ込まれたり、こうしてお仕事させていただくと共演者の方からも突っ込まれたり、家族からも突っ込まれたり……。“天然”なんですかね?」

小澤「自分で言っちゃう(笑)」

髙橋「すみません(笑)。そういう周囲を振り回してしまう、ある意味、“破天荒さ”は秀神と共通している部分かもしれないです。
 あと彼は “かまってちゃん”というか、承認欲求が強い子なのかなという印象も受けたのですが、そんなところを含めて愛されキャラでもあるので、僕自身も周りの皆さんのことを大切にしながら、ちゃんと愛してもらえるように頑張りたいと思います」

小澤「僕もこの物語の主人公の長船と同じで、実はサラリーマンやってた時代が5年くらいあって、そこから劇団EXILEで俳優デビューしたんですけど、自分のやりたいことをやるために何かを辞めるのはものすごく大変なことなんですよ。車を売ったり、毎日のように会っていた友達と全く会わなくなったり、環境が大きく変わりました。それを僕の場合は自分から選んでやったんですが、長船は父が亡くなって仕方なく本屋を継ぐことになるので……。より大変だし、気が重いだろうなと。
 僕も実は実家が寿司屋で、結果店は継がなかったわけなんですが、すごく気持ちがわかるなぁって共感しちゃいました。自分からやろうと決めたことじゃないのに、父親がやっていたからやらなくちゃいけない……。だけど、きっと嫌いじゃないんですよね。嫌いじゃないし、やりたいからやろうと思っているけど、どうしていいかわからない。その葛藤を舞台上で表現出来たらと思います」

―――役どころとしては、小澤さん演じる長船に、髙橋さん演じる新人“福の神”の秀神が憑くことで様々なトラブルが起こるわけですが、おふたりは周囲を振り回すタイプですか? 振り回されるタイプですか?

小澤「自分は完全に振り回すタイプですね。敢えて振り回される時もありますけどね、もちろん」

―――大人な回答です(笑)。髙橋さんはどうですか?

髙橋「僕は、完全振り回しちゃっています……。迷惑しかかけていないです」

―――そんな申し訳なさそうに(笑)。役としても、カンパニーの仲間としても、最終的にどんなコンビになるか楽しみですね。

小澤「そうですね。長船のように“福の神”という見えないものに振り回されるって、人間味があるよなぁと思うんですよ。世間体だったり、あるいは他人の気持ちだったり、人間って神様に限らず、常に目に見えないものに振り回されて生きていると思うので……」

―――おふたりは目に見えないものを信じるタイプですか?

髙橋「お化けはいるとは思っています。僕、寝ている時に、たまに金縛りにあうんですよ! その時に自分の部屋の物置やハンガーラックにこの世のものじゃない顔が見えるんです……」

小澤「この世のものじゃないけど、顔だっていうことはわかるんだ(笑)?」

髙橋「なんとなくなんですけど(笑)。人の顔立ちをしたようなものが……。日本で言う『女性らしい顔』とか。疲れてる日に必ずなるんです。だから心霊スポットに行ったら、もっとハッキリ見えてしまうかも……と思ってはいます」

―――あまり心霊スポットには行ったことはない?

髙橋「怖くて行けないです」

小澤「じゃあ心霊スポットに行くっていう企画をDVD特典映像か何かで……(笑)」

髙橋「怖いです! 一緒に行ってください!」

小澤「嫌です!!」

2人「(笑)」

―――小澤さんはいかがですか?

小澤「僕は基本的に霊的なものは信じないタイプなんですけど、まあ当たり前にあることなのかなとは思いますね。なんて言ったらいいんだろう、難しいですけど、信じるものの違いかなって。神様って何で人の形をしているの?って考えると人間がそう想像したからだと思うんですね。
 例えばインドの神様はゾウの姿なわけじゃないですか。だからもうそれは崇め奉るもので変わってくると思うんですよ。その中で僕が信じないといけないものっていうのは、自分が貫きたいと思っている信念みたいなもので、それがイコール自分自身の在り方だろうなと。でも、見える見えないは置いておいて、自分自身の心の支えや拠り所としては神様がいるなら信じたいなとは思います」

―――もし自分に憑くとしたらどんな神様がいいですか?

髙橋「守護霊がいいです……守ってほしい」

小澤「きっと憑いてるよ、大丈夫だよ! 僕は七福神がいいです。七福揃っているに越したことはないですが、恵比寿様が1番いいですね(笑)!」

―――そうですよね(笑)。続いて、「禍を転じて福となす」という言葉にちなんで、苦労して始まったけれども、最終的にはとても楽しかったな、よかったなと思えるエピソードを教えてください。

髙橋「僕の所属しているグループ(WATWING)はつい先日、1月にZeppツアーをやったばかりなのですが、実は本番1ヶ月前まで本当に埋まっていなかったり、ファンクラブの人数も足りなかったりで……。全然明るい話じゃないな、これ、ごめんなさい」

小澤「いいよいいよ、最終的に明るくなればいいんだよ! 最後に『イェーイ!』って言えば大丈夫だから(笑)!」

髙橋「ありがとうございます(笑)! 最終的にはメンバー、スタッフさんの頑張りもあって、なんとかなりまして。何か1つ大きなことをなし得る時ってすごく苦しくても、仲間やファンの皆さんと一緒に時が経ってから思い返せば、そういう苦労もすごく楽しかったね、やってよかったねって思えることを感じて、これが“やり甲斐”っていうんだなって思いました。……イェーイ!」

小澤「素晴らしい! WATWINGの子たちは鍛えられてるな〜」

髙橋「ありがとうございます……!」

小澤「いや、でもね、こうやって過ぎたことを明るく話せることって大事だと思うんですよね。
 僕も主人公の長船と同じで、父を亡くしてるんですよ。僕がデビューした時の旗揚げ公演を父が病院から外出許可をもらって観に来てくれて。その後、亡くなってしまったんです。僕の人生の中では大きな禍なんですけど、人が亡くなることは、後なのか先なのかってわからないじゃないですか。その中で『ああ、亡くなってしまったな』で終わらせたら、その人の人生はそこで終わってしまうと思っていて。『禍を転じて福となす』というのは、その禍を乗り越えるために何ができるかっていうことをちゃんと考えさせてくれる、だから禍を福となすって言う意味なんじゃないかなと。
 僕は父の仕事は継がなかったけれど、生きている限り役者として誰かに影響を与えられる人間になりたいと思うし、どんどん出てくる若い俳優さんたちに時代を継承していけたらいいなと思います。それは、この父の死を乗り越えたからこそ思えることなので、自分にとってそういう考えが芽生えたことは“福”なのかなっていう風に思います」

―――禍というと、まさにコロナ禍で大変な思いをした方々も世の中に大勢いると思うので、そういう方々が観て、明るい気持ちになれる作品になるといいですね。

小澤「そうですね、本当にいい機会だと思います。コロナ禍以降、当たり前のことが当たり前でなくなって、手探りでやらなくちゃいけない状況で、もうこれは日本にいる全員が乗り越えなきゃいけない禍ですよね。それこそウイルスも目に見えないものじゃないですか。だからこそ、今このタイミングで公演するのにふさわしい、すごく意味のある公演になると思います。いい作品にしたいと思っております! ね! イェーイ(笑)!」

―――ありがとうございます(笑)! では最後に、観に来てくださるお客様にメッセージをいただけますか?

髙橋「自分のグループ活動の話が多くなっちゃって申し訳ないのですが、僕たちWATWINGはまさにこのコロナ禍でデビューしたんです。『Shooting Star』という楽曲があるのですが、何か目に見えないものに抑えつけられてるような不安の中で、でも歩みを止めちゃいけないよねっていう、力強い歌詞になっていて……。
 今、ありがたいことに、ようやくライブでも直接気持ちを伝えられるようになってきましたが、今回の舞台でも、生のお芝居を観ていただいて、役や作品を通して、より気持ちを伝えられたらと思っています。『明日からまた頑張ろう』と思ってもらえるようなものを必ず届けますので、ぜひ3月、僕たちと共に時間を過ごしてください」

小澤「今回のこのカンパニーの皆さんと、どれだけのものができるか。どれだけ頑張っても稽古期間は1ヶ月近くしかないので、その中でどれだけ自分達の関係性を築き上げて、それをお客様に伝えられるか……。始まってみないと分かりませんが、舞台ってこんなに面白いんだ!と思ってもらえる作品になるように、日常が戻ってくるよう願いも込めて頑張ります。劇場でお待ちしています!」

(取材・文・写真:通崎千穂(SrotaStage))

プロフィール

小澤雄太(おざわ・ゆうた)
1985年10月8日生まれ、東京都出身。2009年、「第1回劇団EXILEオーディション」に合格し、俳優デビュー。近年の主な出演作品に、映画『漆黒天 -終の語り-』、舞台『漆黒天 -始の語り-』、『ショウ・マスト・ゴー・オン』ほか。

髙橋 颯(たかはし・ふう)
1998年5月8日生まれ、埼玉県出身。ホリプロ初の男性ダンス&ボーカルグループWATWING(ワトウィン)のメンバーとして活動中。2020年に上演された『デスノート THE MUSICAL』ではL役に抜擢され、注目を集めた。

公演情報

舞台 「福」に憑かれた男

日:2023年3月1日(水)~5日(日)
  【追加公演】
   2023年3月7日(火)・9日(木)
  【メモリアル「福」イベント】
   2023年3月10日(金)
場:シアター・アルファ東京
料:S席[前方席・特典付]7,800円
  A席6,500円
  U22割[22歳以下]2,200円 ※要年齢証明
  (全席指定・税込)
HP:https://tokyo-stage.com/fuku/top
問:東京舞台制作 tel.03-5843-5321

Advertisement

限定インタビューカテゴリの最新記事