こまつ座の唄芝居で、笑って、感じて。吉野作造の人間讃歌 知性の奥にある、人間味あふれる吉野作造の魅力

 こまつ座第161回公演『兄おとうと』が、2026年10月11日から11月1日まで、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演される。井上ひさしの戯曲、鵜山 仁が演出を務める本作は、明治・大正・昭和の三時代を生き、民本主義を唱えた兄・吉野作造と、その背中を追うように官僚への道を歩んだ弟・信次の評伝劇だ。憲法という時代の大きなテーマを背景にしながらも、本作では、大人になった兄弟が枕を並べる印象的な挿話など、家族だからこその温かな交流も丁寧に描かれる。こまつ座作品へは初参加となる、吉野作造役の横田栄司と、その妻・玉乃を務める彩吹真央。兄弟、姉妹、そして家族の関係性をどのように紡いでいくのか、本作への思いを語った。

―――まずは、台本を読んだ印象をお聞かせください。

横田「作中の吉野作造の魅力は、インテリジェンスな部分だけでなく、温かみや人情味があるところ。ちょっととぼけていたり、でも言うべきことは弟にしっかり伝えたりする。政治学者としての一面と、家族に対する一面、その両方が丁寧に描かれているところにある気がします。調べれば調べるほど立派な人ですから、“僕で大丈夫?”という思いもあります。この戯曲は吉野作造の人間らしい部分までしっかり描かれているので、僕みたいなやつでも挑戦できるのかなと、感じています」

彩吹「意外です。実は今日の取材前に、横田さんの作造を想像しながら台本を読んできたんです。まだ数分お話ししただけですが、“きっとこういう作造さんになるんだろうな”と、しっかり腑に落ちた感覚があります。私は『イヌの仇討ち』以来、こまつ座作品への出演は4回目です。『イヌ〜』は赤穂事件を題材にした作品でしたが、今回は明治・大正・昭和という長い時代を描いていきます。登場人物たちは、それぞれの時代を懸命に生きていますが、人間の愛らしさの描き方に普遍性がある。生活の中にある、当たり前の幸せがたくさん散りばめられている作品だと感じていますし、時代の移り変わりを感じながら、その中で変わらない人間らしさを丁寧に届けられたら」

―――おふたりは、信次役の岡本圭人さん、君代役の霧矢大夢さんと兄弟、姉妹をそれぞれ演じます。

横田「けんちゃん(岡本健一)がよく、圭人を楽屋に連れてきていたんです。共演は初めてですが、彼が留学する前に挨拶をした以来になります。素敵な青年だな、というインパクトは鮮明に覚えていますね。僕自身は実際に兄がいて、弟の立場。テレビのチャンネル争いやプリンの取り合いをしたり、僕ら兄弟はインテリジェンスのかけらもないですが(笑)、台本を読みながら、兄はこんなことを考えてたのかな?と、作品に向き合っています」

彩吹「妹役の霧矢(大夢)は宝塚時代の同期生。年齢は霧矢の方がひとつ下で、本作のしっかりした妹像はまさに彼女そのもの(笑)。私は本来、甘えたな性分なので霧矢とも『お互い、そのままでいけそうだね』なんて話しました。玉乃さんのすこしおっとりした部分は、自分の中にもあるものなので、それを隠さずに役へ生かしたいですね」

―――こまつ座作品に、どのような印象をお持ちでしたか。

横田「僕は、こまつ座作品へは初参加になります。その喜びだけで“やります”と即答したあとで、鵜山さんから“そういえば、歌えるの?”と、聞かれて。実はぎくっとしていたんですよ(笑)。ですが、俳優として絶対にやるべきだという確信があります。僕の人生の中で1番泣いた作品は、すまけいさん初演の『父と暮せば』なんです。井上さんの作品はどれも人間が生き生きしていて、みんな欲望が強くて、でもまっすぐで大好きなんですよね」

彩吹「わかります。『イヌ〜』は、世間で知られていることが本当に正しいのか、一見すると当たり前のように思えることも、その裏側を知ることで見え方が変わる――そんな視点を描いた作品でした。今回も吉野作造という人物の魅力を、多くの方に届けたいです。前作の公演後、麻矢さん(現こまつ座代表・井上麻矢)から『次はぜひ、歌えるこまつ座作品に』と声をかけていただいていたので、その願いが叶ったことも嬉しくて。すこし話は逸れますが、振付の謝珠栄先生は、宝塚歌劇団時代の初舞台でラインダンスを振り付けてくださった方。こうして再びご一緒できることにもご縁を感じていますし、今からとっても楽しみなんです」

―――最後に観劇される方へ、メッセージをお願いします。

彩吹「家族とは、兄弟とはというような、あたたかい部分に、血を注ぐことに力を入れたい。お客様が観劇された後に、“ちょっと旦那さんや家族に優しくしようかな”なんて、家族を考える役割になれたらいいなと思ってます」

横田「エネルギーを持って日本を前に推し進めようとした人たちがいた、ということを知っていただきたい。大正時代のことを知る人も少なくなってきたいま、“日本人も捨てたものじゃないな”と、元気になって帰っていただけたら。劇場でお待ちしています」

―――2人の言葉に続くように、取材に同席していたこまつ座代表・井上麻矢がこう語った。

井上「吉野作造先生は、いつも“なぜ?”と、問いかけることを大切にされていた方。今の時代は、与えられた情報をそのまま受け取ってしまうことも多い。この作品を通して、“なぜ?”と問い直すことの大切さを少しでも持ち帰っていただけたら」

―――2人も井上の言葉に深くうなずき、時代を超えて今に通じる問いを投げかける本作への思いを、改めて共有するひと幕となった。

(取材・文:山田浩子 撮影:間野真由美)

友達とのカラオケで、必ず歌う曲は?(歌ってみたいでもOK)

横田栄司さん
「『必ず歌う曲』ってあるかなぁ? ご一緒している顔ぶれや世代に合わせて変えているような気がします。先日高校の同窓会に参加した時は、ボウイや尾崎豊で盛り上がりました。舞台の旅公演先では、サザンオールスターズの『旅姿六人衆』が歌いたくなりますね。劇団の先輩で亡くなられた坂口芳貞さんが歌っていた、中島みゆきさんの『ファイト!』は、今でも心に焼きついていて、たまに思い出しては歌っています」

彩吹真央さん
「ここ最近はカラオケに行く機会が少なくなりましたが、以前から今井美樹さんやDREAMS COME TRUEさんの歌が好きなのでよく歌います。その歌い慣れた曲をYouTubeやLiveで歌うこともありますし、歌ったことがないカップリング曲などを探し出して歌うこともあります。そんな時は1人でカラオケに行って練習することもあります」

プロフィール

横田栄司(よこた・えいじ)
1971年10月11日生まれ、東京都出身。文学座所属。舞台『ヘンリー五世』、『The Silver Tassie 銀杯』の演技で第26回読売演劇大賞 優秀男優賞を受賞。蜷川幸雄演出のシェイクスピア劇に多数出演するほか、近年は、舞台『デスノート THE MUSICAL』、『リチャード二世』、『オセロー』、『もうひとりのわたしへ』、『リア王』などに出演。近年の主な映像作品に、映画『シン・ウルトラマン』、NHK 大河ドラマ『真田丸』、『麒麟がくる』、『鎌倉殿の13人』、NHK 連続テレビ小説『あんぱん』、ドラマ『99.9‐ 刑事専門弁護士‐SEASON Ⅱ』、『THE GOOD WIFE / グッドワイフ』、『ボーダレス~広域移動捜査隊~』など。

彩吹真央(あやぶき・まお)
6月9日生まれ。1994年に宝塚歌劇団 入団。男役スターとして活躍。2010年に同劇団を退団後は、舞台を中心に、コンサートやラジオドラマなど多岐にわたって活動。舞台作品の代表作に、『End of the RAINBOW』、『サンセット大通り』、『ラブ・ネバー・ダイ』、『マリー・アントワネット』、『チャーリーとチョコレート工場』、『W3 ワンダースリー』など。こまつ座作品への出演は、2017年、2020年、2022年に上演された『イヌの仇討』以来、4度目となる。

公演情報

こまつ座 第161回公演『兄おとうと』

日:2026年10月11日(日)〜11月1日(日)
  ※他、大阪公演あり
場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
料:昼公演9,500円 夜公演8,500円 U-30[30歳以下]7,000円 ※他、高校生以下あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.komatsuza.co.jp
問:こまつ座 tel.03-3862-5941

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