カーネギー賞とケイト・グリーナウェイ賞を同時受賞した児童文学の傑作『怪物はささやく』(原作:パトリック・ネス/原案:シヴォーン・ダウド)を、音楽座ミュージカルが世界で初めてミュージカル化する『カイブツはささやく』。主人公の13歳の少年・江崎夜凪(ヨナ)の母を思う気持ちとそこから逃れたいという矛盾した感情、そしてイチイの木の怪物との出会いから生まれた勇気を描く。ヨナ役候補の小林啓也、そして母親役候補の岡崎かのんに、本作への意気込みを聞いた。
―――本作は、音楽座ミュージカル8年ぶりの新作になります。最初にこの作品のお話を聞いたときの印象を教えてください。
小林「音楽座ミュージカルらしいミュージカルだなというのが最初の感想でした。僕たちの作るミュージカルは、人間の生々しさが描かれている作品が多いんです。僕自身もそうした作品が好きなので、『カイブツはささやく』からもそれが伝わってきて、これを音楽座ミュージカルの脚本にしたらどうなるのだろうとワクワクしました」
岡崎「私はこの作品をミュージカルにするというお話を聞いてから、映画で初めて拝見したのですが、この物語に宿る普遍的なテーマが、音楽座ミュージカルが表現してきたものとすごくリンクすると感じ、ぴったりな作品を選んでくださったのだなと思いました」
―――台本を読まれた率直なご感想は?
小林「僕は主人公のヨナという中学1年生の男の子を演じるのですが、僕自身は、見ての通りおじさんなので、まず、それが大変だなと(笑)。ただ、年齢差はあるものの、読んでいくうちにヨナにすごく共感しました。彼が、親との関係性や母親の病気というさまざまなものを抱えながら、一人で生きている姿は、僕自身の幼少期と重なるところがあって、自分自身を投影できると感じています。とはいえ、音楽座でミュージカルにするならば、暗い部分をピックアップするのではなくて、ミュージカルのエネルギッシュさを感じられる作品にしたいです」
―――確かに台本を読むと、歌唱シーンも多く暗い物語とは感じませんでした。
小林「そうなんですよ。音楽座ミュージカルは、重い作品であればあるほど明るくするところがあるんだと思います」
岡崎「現段階でできあがっている楽曲を聞くと、それもまた明るいんです。それに、ヨナが出会うイチイの木の怪物は映画では怖い存在として描かれていますが、今回のミュージカルでは、どこか面白さのある怪物になるのではないかという予感がしています。怪物が歌う楽曲もまるで歌謡曲みたいに楽しげです。とても重いテーマを描いていますが、音楽を使って明るいシーンにしていく。それができるのが音楽座ミュージカルのすごさだと思います」
―――岡崎さんは、脚本を読まれてどんな感想を抱きましたか?
岡崎「私もヨナに共感するところがすごく多かったです。音楽座ミュージカルは、見たくなかったものに向き合わせてくれる作品も多いのですが、今回、怪物によってヨナが自身も知らない感情に気づいていくというところに、すごく勇気をもらいました。きっと誰もが、そうした経験を人生の中でしていくのだろうと思います」
―――小林さんはヨナに共感を覚える、重なるところがあるとおっしゃっていましたが、そうしたキャラクターは演じやすいものですか?
小林「感覚としては自分の実体験とつながるので、イメージしやすいですが、いざ演じるとなると重苦しくなったり、内向的になり過ぎてしまって、自分の感情とぶつかってしまうところもあるんです。自分にはないものを持った役や設定のときには、客観的に捉えた上で、『この人はどういう思いを持っているんだろう』と冷静に考えられるのですが、いざ自分と距離が近いと、固執してしまって『これはこうだ』という自分の思いから離れられなくなってしまうので、自分の中でも危険だなと思っています。ただ、ヨナと自分自身が重なるという感覚は自分にしかないものなので、それは大切にしながら、これからの稽古でどんなアウトプットをするべきなのか探っていけたらと思っています」
―――今の段階で、どんなヨナ像をイメージしていますか?
小林「これから稽古が始まるので、まだ未知ではありますが、例えば、離婚して父親はアメリカに行き、母親は病気で、叔母と暮らしているというヨナの家族環境は、傍から見たらかわいそうで、辛いことを抱え込んでいるように見えます。でも、実際はそれだけではないと思うんです。僕自身も両親が離婚していたり、父親との関係に悩んだりした苦しい時期もありましたが、だからといって友達とバカ笑いする日もありましたし、ゲームをして騒ぐこともありました。きっとその姿を見ていた周りの人は『そんなに苦しいことがあったの?』と驚くと思うんです。ヨナもきっと同じで、『こういう状況だからこうだ』と一面的なことではないと思いますし、お客さまにもそれが伝わるようなキャラクターを作っていきたいと今は考えています」
―――岡崎さんは今回、ヨナの母親役です。今、どんなイメージを持っていますか?
岡崎「お母さんはすでに末期の癌を患っていますが、生きることを諦めない人だなと台本を読みながら感じました。自分で演じながらも背中を押されるような、パワーを持った人です。自分の運命や人生を置いておいても、ヨナを前にただ生きるということを諦めないのは、すごくかっこいいと思います」
―――辛くて悲しい演技もできる役柄ではありますが、必ずしもそう演じるというわけではない?
岡崎「そうですね。音楽座ミュージカルで、辛く苦しい状況にいる人物を描くとなったとき、必ずしもそうは描かないと思うんです」
小林「描かないですね」
岡崎「お母さんは、最後まで貪欲に生き続けるだろうなと私も思うので、そう演じていけたらと思っています」
―――今、お話いただいた強く生きる人物を描くということもそうだと思いますが、初めて音楽座ミュージカルの作品をご覧になるという方に、音楽座ミュージカルならではの魅力を教えてください。
小林「僕がいいなと思っているのは、泥臭さです。物語の中にかっこいい人間がいないんですよ(笑)。どの人物も、それぞれにもがいています。そして、人に積極的に関わっていきますが、それは自分のためでもある。それは、音楽座ミュージカルの僕たちの関係と同じです。僕たちはそれぞれ夢や目標があって、ここに集まってきて、キャリアも年齢も関係なく、音楽座ミュージカルでいい作品を作りたいという思いがあります。劇中で描かれる人物たちも同じで、等身大です。逆境にも負けずに向かっていき、人を巻き込むことを恐れない。首根っこを捕まえてでもどうにかしようという思いがある。それはどのキャラクターの根底にあるところで、そうしたキャラクターは音楽座ミュージカルらしさを感じるところだと思います。
今回、原作や映画を観てくださっている方たちの中には、『ミュージカルになるってどういうことだ』と思っている人もいると思います。実際に観たら、きっと衝撃がたくさんあると思います。ある種の裏切りがあるのかなと(笑)。これまでも音楽座ミュージカルでは、原作のある作品を上演してきましたし、僕も何作かに関わらせていただきました。そうした作品も、原作やアニメ化、映画化された作品と、音楽座ミュージカルの台本は印象が違うんですよ。『このシーンはこんなに重かったっけ?』とか、『すごく皮肉が利いているな』とか、意外に思うシーンも多くて。なので、初めてご覧になる方は、その違いに驚くと思いますが、それもまた面白さなのかなと思います。例えば、怪物の雰囲気やお父さん。お父さんは、離婚して外で家族を作るという、パッと見たら嫌な人物かもしれませんが、音楽座ミュージカルでは『お父さんが一番人間らしい』と感じていただけるかもしれません。そうした泥臭い人間像が見どころになるのではないかと思います」
岡崎「私もそう思います。それから、一言で表せない、普遍的なテーマを持ったミュージカルだからこそ、歌と踊りと芝居で表現することで、お客さまの心にスッと届く作品になっているのではないかと思います。ミュージカルだからこそ、伝わるものがあるんです。この作品も、観ていただいた後に気分が落ちるのではなく、そっと背中を押してもらえるような、それぞれの立場で心に残る作品になるのではないかと思っています」
―――2027年には、音楽座ミュージカル40周年を迎えます。その40周年に向けての新作という意味でも、本作は非常に重要な作品ですよね。
小林「はい。そして、そうした節目に在団できることも本当にありがたいと思います。こうして40周年を迎えられるのは、カンパニーを作ってくれた最初のメンバー、そして引き継いできたメンバーなどのたくさんの先輩方がいるからです。先輩方が最高のステージを作り続けてくれたからこそ、今の僕たちがあります。まだまだ自分たちには足りないところもあると思いますが、期待を裏切らない作品作りをしていきたいと思います。そして、今の若い世代にも音楽座ミュージカルを知っていただき、『こういうカンパニーがあったんだ』と思っていただけるような作品を届けていきたいです」
岡崎「40周年は本当にすごいことだと思います。日本でオリジナルミュージカルを40年作り続けてきたという、その歴史の中に自分が入れることは本当にありがたいことですし、これからも第一線で日本のオリジナルミュージカルを届けていきたいという思いがあります。このタイミングで新作を発表することで、お客さまからの期待も高いと思いますので、それを裏切らないものをお届けできたらと思っています」
小林「実は、僕も来年40周年を迎えるんです。同い年なんですよ」
岡崎「それはすごいです!」
―――新作公演ということで、再演とはまた違う難しさ、楽しさもありますよね。
小林「やっぱり0から1に作り上げるのは、本当にすごいことです。以前『グッバイマイダーリン★』という作品で、出演しながら小道具も担当したのですが、演出も振付もその場で作っていくこともあって、作っては壊すを繰り返して作り上げていくので、新作は本当に大変だなと思いました。今回もすでに台本も何度も書き直しされています。それくらい何度も何度も作り直しているんです」
岡崎「でも、そうして作っては壊すを繰り返しているからこそ、今、本当に届けたいものをリアルタイムで物語に入れていけるのだと思います。柔軟に作っていけるというのがオリジナルの魅力であり、面白いところです。私たちも、稽古の中で、『ここはこういうセリフの方が良いのではないか』と提案させていただくこともあります」
小林「ある意味では、一緒にクリエイティブしていくんですよ。ただあるものをやるのではなく、自分たちからもアイディアを出して、みんなでエネルギーをかけて作っていかなくてはできあがらないんです。そういう意味でも覚悟を持って臨んでいます」
―――本作の脚本・演出の相川タローさんからは、本作についてどんなお話がありましたか?
岡崎「タローさん自身が『自分をヨナに重ねている』とおっしゃっていたのが印象に残っています。大切な人を亡くす経験は、誰しも経験すること、してきたことだと思うので、本当に誰もが共感できる物語なのだなと改めて思いました」
小林「僕はおかげさまで長くやらせていただいているので、先代のオーナーで、タローさんのお母さまのレイ子さんとも何度もお会いしていますし、レイ子さんが亡くなられた後にタローさんが代表になられたときも見てきました。なので、余計にこれまでのさまざまな思いが台本に集約されていることを感じます。ただ、タローさんは『僕がやりたいことをやるということではなく、みんなもそれぞれに感じて、自分たちの思いを出して、一緒に新しい作品を作っていこう』とおっしゃっていて、その言葉にすごく共感できました」
―――そして、本作は舞台美術も見どころの一つとなるのかなと思います。
小林「美術プランナーとして久保田悠人さんが参加してくださっています。かなり衝撃的なセットになると聞いていますので、そこも見どころだと思います」
岡崎「そうした舞台美術ももちろんですが、本当にいろいろな見どころのある作品になると思います!」
―――最後に改めて公演に向けた意気込みと読者にメッセージをお願いします。
岡崎「私は、オリジナル作品の初演に一から携わるのは今回が初めてです。なので、オリジナルキャストとして参加できるということにありがたさを感じていますし、私たち俳優一人ひとりが背負っているものの大きさも感じています。40周年で大きな注目を集めている中で、どういう作品を作っていくのかをしっかりと考えながら取り組んでいきたいと思います。私自身は、『私の物語』にしたいと今、考えています。この作品が私にとって大切な作品となり、お客さまに『音楽座ミュージカルに出会えてよかった』と思っていただけるような作品に仕上げてお届けしたいと思っておりますので、皆さんぜひ観に来てください」
小林「今回、中学生のヨナを演じます。年齢差はありますが、思い切ってやらせていただこうと思っています。長くカンパニーにいる中で、今が一番、エネルギーにあふれているなと自分では感じています。40周年という節目ではありますが、ここからさらに100年、200年続き、音楽座ミュージカルがさらに大きくなって世界に行けるように、自分たちが精一杯、最善を尽くして作品を届けていきたいと思います。そして、初演となる『カイブツはささやく』の、今この瞬間を観ていただけたら嬉しいです」
(取材・文:嶋田真己 撮影:立川賢一)
岡崎かのん さん
「お弁当に入っていたら嬉しいのは、甘い玉子焼きです‼︎ 我が家では、お砂糖を入れた少し甘めの玉子焼きが定番でした。私にとってお弁当といえば、運動会や遠足など、少し特別な日に持っていくもの。そのたびに食べていたからか、今でも甘い玉子焼きは、私の中で“特別な日の味”として記憶に残っています。こうして思い出していたら、あの甘い玉子焼きが恋しくなってきました……!」
小林啓也 さん
「欲望のまま考えると“アヒージョ”です。エビもいいですが、王道であり最強の“マッシュルーム”が至高。お弁当だから温かいものや冷たいものは入れにくいですが、もし、アヒージョが入っていたらパンにつけたりガーリックオイルを別添えパスタに和えて簡単ペペロンチーノにしたり、バリエーションが広がりお弁当が楽しくなりますね。僕はお酒が飲めませんが、お酒のつまみが大好きなんです。軟骨の唐揚げとか、ナムルとかなめろうとか。その中でも“アヒージョ”はピカイチです。お弁当に毎日アヒージョいれたい。でも、そもそもタプタプのオイルは持って行きづらいし、ましてやお昼ににんにくMAXアヒージョ食べたらもう稽古場で口があけられません」
プロフィール
小林啓也(こばやし・けいや)
東京都出身。劇団青年研究所で学び、舞台『自由の彼方で』、『月の岬』、『僕の東京日記』などに出演。卒業後、ミズキ事務所に所属し、映画『ごくせん』、コメディミュージカル『セレブ気どり』などで活躍。2010年9月から音楽座ミュージカルに参加。2022年上演の『ラブ・レター』における演技で「2022 All About ミュージカル・アワード 主演男優賞」を受賞。
岡崎かのん(おかざき・かのん)
東京都出身。子どもの頃からミュージカルに魅せられ、将来ミュージカルに関わることを目標にバレエやダンスを学ぶ。高校時代はダンスなどのレッスンを優先するため、全日制から通信制高校に転校。在学中に音楽座ミュージカルに参加し、2019年『SO-KATSU』で初舞台。その後、『ラブ・レター』、『ホーム』などで主演を務める。2026年の『マドモアゼル・モーツァルト』ではモーツァルトを好演した。
公演情報
音楽座ミュージカル『カイブツはささやく』
日:2026年12月11日(金)~20日(日)
※他、大田区プレビュー公演あり
場:草月ホール
料:SS席 13,200円 平日昼12,100円
S席 12,100円 平日昼11,000円
A席7,700円 ※他、U-25席あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://ongakuza-musical.com
問:音楽座ミュージカル tel.0120-503-404
22名限定! S席12,100円 → 9,900円 +カンフェティポイント付き!