50年の逃亡を経て1人の男に戻るための“最期”の旅 あさま山荘の熱狂を知る世代から SNS世代へ繋ぐ魂のバトン

 9月に上演される舞台「キリシマサトル、青春の蹉跌」は、1970年代に起こった連続企業爆破事件に関わったとして指名手配され、50年以上にわたり逃亡を続け、2024年死去した桐島聡をモチーフに、“回顧と贖罪”を描くメタフィクション。
 癌で余命わずかとなった土木作業員のトオルは、勤め先社長の息子・吉田厚に、自分が過去の事件に関わった当事者であること、両親の墓や事件現場を巡る旅を通じて、自らの行為と、若者たちが信じた“社会を変えたい”という熱の意味を映像に残して欲しいと告白する。
 トオルという偽名を使い逃亡を続けた桐島悟役のダンカン、反日武装戦線「虎」のメンバーとして学生運動に関わってきた70年代の桐島悟を演じる大野瑞生、トオルの願いを受け入れた吉田厚役の小早川俊輔の3名に話を伺った。


―――まずは本作に出演が決まった時の心境を教えていただけますか。

ダンカン「規模的に言えば、世界中で起こっている事件と比べたら、70年代の左翼による事件は小さいものかもしれないけど、僕は小学校・中学校の時にリアルタイムで見ていて、本当に凄かったんですよ。特にあさま山荘事件は何十時間も生中継をしていて、当時蕎麦屋に行ったら、出前の親父がテレビの前から動かなくて、出前の電話に出なかったくらい日本中が注目していたからね。もちろん犯罪なので悪いことだけど、俺らよりちょっと年上のお兄さんたちが、そういう風に日本を変えていこうというのはヒシヒシと感じたし、そういう人が50年も逃げることはまずないことで、自分の人生のほとんどだからね。このお話は、逃げていることを物語にしているわけじゃないけど、最後は自分の名前で幕を下ろしたいというのはどういう気持ちなのか、ものすごく興味があったし、桐島を演じさせてもらえるのはとても有難い気持ちです」

大野「有難いなと思ったのと同時に、すごい難しい役をいただいたなという気持ちでした。僕は1970年代を生きていないので、当時の作品を観たり、文献を読んで勉強中ではあるんですけど、まず萩原健一さんが出演した『青春の蹉跌』という映画を観て、今の青春の定義からちょっと違うなとか思って。よくあるキラキラしているもののイメージがある今の青春と比べて、当時の青春は会社に行けば人生がそこからずっと見えていくみたいな。僕らの世代の青春と、当時の青春の違いというものも一つひとつ、気をつけてやっていかないといけないと思いましたし、本当に丁寧にやっていかないと薄いものになるんじゃないかなと思うと、すごく責任感を今は感じています」

小早川「自分にとって学生運動は、間近で体験したものでもないですし、自分が演劇の作品で関わったぐらいで、つかこうへいさんや清水邦夫さんといった方の世界観の距離感でしかないというのが正直なところです。実はちょうど今、インドの独立運動の革命家だったラス・ビハリ・ボースさんを題材にした作品の稽古中で、インドはかつてイギリスの植民地だったじゃないですか。それに対しての革命と当時の学生らが言っている革命は、それぞれ主義主張はあるかもしれないですけど、客観的に見た時に、お互いの革命の意義はきっと共感できないと思うけど、実際に起こした行動はきっと一緒で、50年という時代が経った後に、自分たちの捉え方はこうも変わるんだというのを感じたりして、革命という言葉ひとつ取っても、明確に定義を線引きできるものじゃないのかもしれないと思いました」

―――今回のお話は、桐島聡をモチーフした物語で、史実をアレンジした内容となっていますが、最初に台本を読んでの感想はいかがでしたか。

小早川「フィクションという演劇作品上、青春の挫折や葛藤がリアルに描かれているとは思いました。台本は非常に面白く拝読しましたが、現代パートを生きる1人の現代人として、扱っている題材は安易に美化していいものではないとも強く感じました。自分の体を通してこの物語を最後まで生き抜いた先に、一体何を感じるのか。今はまだ、その複雑な感情を一言で表すのが難しいというのが正直なところです」

大野「ポップに描かれている印象でした。事件を扱っているので、内容自体は重いかもしれないけど、すごくエネルギッシュに描かれているので、すごくいいなとも思いつつ、そこに負けちゃいけないという思いがぶつかり合うことによるエネルギーみたいなものが出たらいいなと思いました」

ダンカン「台本にも触れているんですけど、1970年代はアイヌ問題や沖縄問題、さらには深刻な差別問題など、多くの課題が存在していて、理不尽な理由で結婚を許さないといった差別が実際にあった時代です。さっきインドの革命の話でもありましたが、そうした重い背景がある中で、今回の焦点をどこに絞って演じていくべきかを考えさせられました」

―――実はみなさん、このインタビューが初対面とのことだと伺いました。同じ桐島を演じるダンカンさんと大野さんは、お互いどんな第一印象でしたか。

ダンカン「第一印象は、本当に精悍ないい男。きっと桐島は逃亡中に整形手術をしてひどい顔にしたんだろうなというのを、言葉じゃなく舞台で表さなくちゃいけないのは難しいなと思って(笑)」

大野「元々存じ上げている方なので、考えても仕方ないなとは思っていたんですけど、僕が今31歳で、ダンカンさんの31歳は多分こんなものじゃないから、そこを意識し過ぎると多分崩壊しちゃうなって思って。例えば喋りながらダンカンさんの目を見ると、目力を感じますし、吸収できるものがあったらどんどん吸収したいと思います」

―――小早川さん演じる吉田厚は、桐島が働く土木会社の社長の息子で、桐島から逃亡犯だということを告白されるも、自らの行為を映像に残したいという願いを受け入れますが、もし小早川さんが吉田と同じ立場だったら、どうしていましたか。

小早川「そりゃ即通報ですね」

一同「(笑)」

小早川「ただ、変に関わって自分が関与されるぐらいだったら、見て見ぬふりを選ぶ可能性もありますよね」

―――本作の見どころやテーマなどありましたら教えていただけますか。

ダンカン「丸の内ビル爆破事件というのは、国に対しての“若者の叫び”で、我々の役目というか、何のためにこんなことやってるのかと言ったら、我々の世代が見てきたものを次の世代に伝えていくということだと思っていて、彼らにとって何かフックになればいいかなと。例えば、つかさんの『飛龍伝』は面白いよね」

大野「はい、面白いです!」

小早川「僕の初舞台作品が『飛龍伝』です!」

ダンカン「きっと『飛龍伝』を観た演劇関係者は、多大な影響を受けた上で他の作品を作ったりしたと思うから、この作品も、次の世代に繋がればいいなと思っています」

小早川「どんな主義主張があったとしても、単純に自分自身としては共感しにくいとは思うんですけれども、フィクションとして、演劇作品として関わるイチ参加者としては、この出来事を一言で断罪するわけでもなく、かといって見過ごすわけでもなく、自分の体を通して生きることで感じる部分というのは見つけられるのかなと思っていて、きっと実際そのように感じる人はかなり多いとは思うんですよね。それを一緒の空間で経験できるのが舞台ならではの醍醐味だと思うんで、その一端を担えるように、実りある稽古を過ごしたいなと今は思っています」

大野「僕らの世代だと難しそうと思って来られるかもしれませんが、台本を読んでいる限りは、別にそういう知識がなくてもきっと分かるので、単純にフィクションだと思って観ていただいても、ノンフィクションだと思って観ていただいてもいいと思っています。その中で僕ら役者はリアリティを追求してやるだけで、単純に会話が面白いところやポップなところもあったりするので、特別な演劇としてではなく、肩肘張らずに観ていただけたら、僕らの世代はきっと楽しめますし、そこで何か受け取るエネルギーみたいなものは絶対に出そうとは思っているので、『あっ、このエネルギーは普段あまり感じないな』と思っていただきながら楽しんでもらえたら嬉しいです」

―――演出は、元芸人でオネエ2人組YouTuber「アバウトガールズ」としても活躍しているヴィヴィアン・モンローさんが務めますが、以前ダンカンさんはヴィヴィアンさんにお会いしたことがあるそうですね。

ダンカン「最初にお会いしたのは、オーディションの時で、ちょっと艶やかな格好をしてて『芸術的な人なんだろうな』という印象でした。後日、うちの近所で声をかけられて、パッと見たら、ポッチャリしたTシャツの男がいて、『誰だろう?』と思ったら、『ヴィヴィアンです』って。ヴィヴィアン要素が全くなくてちょっとビックリしました(笑)。今回アバウトガールズの相方でもある有栖川朋花さんが、クレイジーな監督役として演じるということで、稽古場がどういう雰囲気になっていくか、とても楽しみですし、話を聞いたらご近所さんだということなので、何度かご飯を食べながらいろいろと話をしようかなと思っています」

―――ちょっと作品から離れまして、本作は現代と1970年代のお話となりますが、もしも1970年代にタイムスリップしたとしたら、何をしたいですか。

ダンカン「1970年代だとちょうど10代だよね。すぐにでも今の時代にタイムスリップして戻りたいです」

―――こういう回答は想定外でした。

ダンカン「若い人たちが羨ましいよ。今の時代は海外とかガンガン行けるじゃない。でも70年代ってそんなことができなかった時代だったし、ましてやインターネットやケータイすらもなかったからね。だって、ネットでアフリカの村の人と直接話せるんですよ。そんなことは当時ではありえなかったわけだから」

大野「年上の方がそう言ってくださると有難いですね。『今の若者はネットに頼りすぎてる』とよく言われます。逆に僕はインターネットにずっと依存しているのが苦手で、インターネットが繋がらない世界が自分にとっては合っていると思うんですよ。もともと身近に見える世界でコミュニティを作ってみたいという憧れがあって、もし70年代にタイムスリップ出来たら、それを体験してみたい気持ちはあります。学生運動もちょっと興味があって、例えば三島由紀夫と東大全共闘の討論会の映画を観て刺激にもなりましたし、当時の学生たちと討論してみたいですね」

小早川「当時の演劇を観てみたいし、もし機会があれば出演したい気持ちもあります」

ダンカン「あの当時の演劇は『何が正解なんだろう』と追い求めていた時代だったから、例えば真っ白に塗ったり、吊るし上げられたりとか、いろいろなものがあったね」

大野「確かに当時の演劇は観てみたいです」

小早川「今はハラスメント対策とかしっかりやっているけど、当時は全くやっていないわけでしょ? きっと稽古中はめちゃくちゃだったと思いますよ」

ダンカン「当時は演出家が灰皿を投げること自体カッコいいと言われていたからね」

小早川「もし灰皿を投げられたら絶対避けてやりますよ(笑)。『あいつは避けたんだよ』という伝説を作ります」

―――では最後に公演を楽しみにされている方に向けてのメッセージを小早川さんからお願いします。

小早川「自分は、観に来てくださるみなさんのおかげで舞台に立てているという思いだけなので、ここに来てもらったら、楽しい時間をお届けするというのはお約束しますので、ぜひ劇場に足を運んでください。お待ちしてます」

大野「難しいことを考えなくてもいいから、とにかく来て欲しいというところと、脳だけで観るのではなく、体感して欲しいなと思っています。とにかく楽しんでください」

ダンカン「『戦争を知らない子供たち』という歌がありましたが、70年代の学生運動は、まさに戦争を知らない子供たちが国家に対しての初めての戦争だったと思います。どんどん日本も変わっていくんでしょうけど、その気持ちを絶対感じさせますので、ぜひご覧いただきたいと思います」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

ダンカン
1959年1月3日生まれ、埼玉県出身。立川談志師匠の弟子「立川談かん」として活動後、1983年にビートたけし率いる「たけし軍団」に加入。お笑いタレントのみならず、俳優、放送作家、映画監督など幅広く活躍。舞台出演は2023年3月上演たけし軍団の結成40周年記念公演 『ウスバカゲロウな男たち』以来となる。また熱烈な阪神ファンで知られ、現在サンケイスポーツでコラム「虎の通信簿」を連載中。

大野瑞生(おおの・みずき)
1994年8月1日生まれ、岡山県出身。2010年『育子からの手紙』で俳優デビュー。主な出演作に、『ウルトラマンギンガ』、ミュージカル『刀剣乱舞』、舞台『エドワード8 世からのラブレター~マルゲリッツ・アリベールは、有罪か、無罪か? Love Letters from Edward VIII : Is Marguerite Alibert Guilty or Not?』、劇団『ハイキュー!!』“出逢い”など。

小早川俊輔(こばやかわ・しゅんすけ)
1993年10月12日生まれ、大阪府出身。2013年舞台『飛龍伝』で俳優デビュー。主な出演作にミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン、銀河英雄伝説 Die Neue These、『シカバネアイズ~名探偵草流鏡治郎の事件簿~』、舞台『刀剣乱舞』心伝 つけたり奇譚の走馬灯など。

公演情報

舞台『キリシマサトル、青春の蹉跌』

日:2026年9月2日(水)~6日(日)
場:新宿シアタートップス
料:S席[特典付]10,000円 A席7,500円(指定席・税込)※他、自由席あり。詳細は下記HPにて
HP:https://kirishima2026.jp/
問:運営事務局 mail:info@kirishima2026.jp

インタビューカテゴリの最新記事