ポーランド児童文学の名作をベースにした音楽劇 子どもたちに“劇場に来たら楽しいことがある”と感じてもらえるような作品に

 KAAT神奈川芸術劇場が、”おとなもこどもも楽しめる”ことを目標に掲げて毎年夏に行っているKAATキッズ・プログラム。今年はポーランドの教育者/児童文学作家ヤヌシュ・コルチャックが1923年に発表した作品を原作とするキッズ向け音楽劇『子どものためのうつくしい国』を上演する。国王である父を亡くし、幼くして王位についた主人公マットが、子どものためのユートピアを作るという理想に向けて次々と改革を進めるが、さまざまな困難や失敗が彼を待ち受ける……。作・演出は、自身でも子どもに向けた作品を手掛けた経験を持つノゾエ征爾。演劇好きなら思わず食指が動くこの企画に、ノゾエ自身も”ワクワクする”と話す。そこから巡らせる思考の行く先を、彼と一緒に辿ってみよう。


“これは自分の息子に届くだろうか”と想像しながら

―――KAATキッズプログラムのオファーを受けて、最初にどういうことを考えましたか?

 「まずは嬉しいというのが最初にありました。僕自身、子ども向けのお芝居は好きな分野で、これまでに『気づかいルーシー』(2015年/脚本・演出、2017年&2022年/脚本・演出・出演)や『死んだかいぞく』(2024年/脚本・演出)、あとは若干子どもも意識した作品として『ピーター&ザ・スターキャッチャー』(2020年/演出)などを手掛けてきましたし、KAATは個人的にも身近でずっとやらせていただきたかった劇場だったので、いろんな意味で嬉しかったです」

―――原作の『子どもたちのための美しい国』は、KAAT側から提示されたのですか?

 「そうです。児童書にしては分厚くて、難解なところもあるので不安はあったんですけど、タイトルから受ける期待感と、難解なものに挑むのも好きなので(笑)」

―――舞台化できそうな余地は感じましたか?

 「すぐに具体的な絵が浮かんだわけではありませんが、”なんか面白そう”っていう、演劇人としてのワクワクはすごくありました。まず、子どもが王様になって国を仕切っていくことになるというのがとても演劇的だし、設定は全然違いますが、どこか『ひょっこりひょうたん島』みたいな雰囲気も自分の中によぎったりして。でも、ビジョンがすぐに見えないものの方が、演劇的な何かが生まれてくる可能性を秘めていると僕は思っていて、この作品も、ワクワクはあるけど、どうしたらいいんだろう?……これはきっと”やれ”ということだな、と感じました。その”どうしたらいいんだろう?”から工夫や新たな発想が生まれて、それが自分の演劇を更新させてくれるといつも思っています」

―――子どもが子どものための国を作るという物語は、子どもに向けた舞台を作ろうというモチベーションと重ねられるのでは?と想像しました。

 「おっしゃる通りです。子どもがたくさんいる劇場で上演するという状況自体も、この物語の中に組み込めるかなと思っています。議会のシーンなどもあるし、知らず知らずのうちに彼らが当事者であるかのような感覚にもなれたら面白いですね」

―――重くシビアなところもある物語を子どもたちに向けて作るには、先ほどおっしゃったように工夫が必要でしょうね。

 「そうなんです。今はまだ脚本を書いている途中ですが、楽しんで観られるけど芯のところは届く、みたいなところはどこだろうと思いながら探っています。僕自身は大人になってしまっていますが、幸いなことにちょうどマット世代の息子がいて、脚本を書きながら”これは息子に届くかしら?”と具体的に想像できるのは、良い環境かなと思います」

―――ノゾエさんと数々の作品でタッグを組んでいる田中磬さんが音楽を担当するのもポイントですね。

 「磬さんとはもう15年くらい一緒にやっていますが、常にマンネリにならず、良い意味で驚かせてもらえます。彼自身いつも更新していってるし、僕も変容していってるし、お互いが変わってまた会ったときに、”ここはこういう音楽だろうな”と思って提示しても、磬さんは全然違うものを持ってきてくれたりして。そういう感じでずっと飽きることなく、攻めた作品作りができる。それが彼と一緒にやっていて楽しいところですね」

―――田中さんも、ご自身の活動で子ども向けの演奏会などを行っています。

「チリンとドロンというユニットですね。僕も見に行ったりしますが、とても面白いです。子どもたちが地べたに座って、すぐ間近で演奏を見て……でも、決して自由なだけじゃなく、ここにはちゃんとマナーもあるということもしっかり示していて。今回も一緒にやれるのは心強いです」

―――小さな子どもも見る前提で舞台を作る上で、どういうところに気をつけなければいけないと考えますか?

「個人として、演劇人としてのこだわりに執着しすぎないことでしょうか。僕は高齢者施設や障害者施設を毎年回って作品を上演しているのですが、こちらが勝手に職人として演劇的な表現にこだわっても、全然伝わらないんです。もちろんそこには大事なものもあると思うんですけど、じゃあ自分は一番何がしたいのか?と考えると、やっぱり会場にいる皆さんに楽しんでほしいというのが一番。だったら、そのこだわりをもう少し違う方向に向けられないか?という自問自答が毎回起きていて、その感覚にすごく似ています。俳優やスタッフの皆さんとも、自分自身とも、そういう問答は続けた方がいいなと思っています」

空間そのものを作るところから面白さを探っていく

―――原作の長大なストーリーを、今回は5人のキャストで舞台化するのですね。

 「主人公のマット以外は、1人でたくさんの役を演じます。大変ですけど、楽しい要素の1つになると思うんです。たった1人の人間からたくさんの登場人物が生まれる様子を、子どもたちに面白がってもらえたら嬉しいですね。舞台セットも、物語の進行に合わせてみんなで動かして変えていきます。汗をかいて頑張る大人たちの姿が届くといいなと思います」

―――キャストのみなさんについて一言ずつお願いします。まず、主人公・マットを演じる小日向星一さん。

 「以前から結構見させていただいていて、好きな俳優さんです。大人のような少年のような感じが、なんだか不思議なんですよね。そういうのって頑張って作れるものじゃなくて、その人に備わっているものだと思うんですけども、その純粋性というかピュアな部分が、いろんなことに夢中になって翻弄されていくマットにぴったりだなと思っています」

―――続いて、佐々木春香さんについてはいかがですか?

 「KAATさんからご紹介いただいて舞台を拝見したら、とても素晴らしくて。それも複数の役を演じる舞台だったのですが、こんな素敵な方をご紹介いただいてありがとうございます、という気持ちでいっぱいになりました。そんな彼女と、こんな無謀な冒険に一緒に飛び込んでいくのがすごく楽しみです」

―――串田十二夜さんは、『豪華客船タイクツニック号沈没』にも出演されました。

 「最近ご一緒する機会が多く、先ほど触れた高齢者施設を回る公演にも去年から参加してもらっています。彼は俳優を始めてまだ数年くらいしか経っていませんが、演劇との戯れ方を最初からわかっている感じがして。舞台上ではずっと、どうしてこんなにキラキラしていられるんだろう?っていう存在でいてくれて、僕はたまに羨望のような眼差しで見ることがあります。今回の舞台でも、いろんな表情を見せてくれることを期待しています」

―――熊谷拓明さんは、『死んだかいぞく』にも参加されていたダンサーです。

 「普段から、いわゆるダンスとはちょっと違うダンスというところに着目した表現を追求されている方なので、今回も俳優さんたちに合わせて”この人だったらこういう動きだろう”というのを探し出してくれると思います。あと、セリフの上手い下手とは違う次元で、彼の言葉はすごく”届く”んです。そこもすごく楽しみにしています」

―――そんな中に、池谷のぶえさんが参加するというのも胸が躍ります。

 「楽しみすぎますね(笑)。ポテンシャルは計り知れないので、”もう引き出しないわ〜”っていうくらいフルで出し切ってほしいです。一緒にがむしゃらになって遊べたら幸せだなと思っています」

―――複数の役を巧みに演じ分ける様子が目に浮かびます。

 「本当にそうですね。数秒後には違う役、みたいな場面もたくさんあると思います」

―――上演するのはKAATの中スタジオで、舞台と客席のある劇場とは違うフラットな空間です。

 「空間作り自体から、面白いところを探ってみたいと思っています。いい遊び場を作れたらいいなと。僕が舞台美術を考えるときは、小さい模型をいろいろな形に組んでみて作っていくんですけど、子どもたちが自分でそれをやっているような感覚になる空間ができるといいですね」

―――子どものために、と考えて作品を作ることで、結果的に大人も面白いと思えるものになるのでしょうね。

 「子ども向けということは、必ずその親も一緒にいらっしゃるわけで、気がついたら自分たちの方が夢中になっている……というくらいのところも欲張って追求したいと思います」

―――もともと演劇好きだった人も、子どもが生まれて劇場へ行く機会がなくなったという話はよく聞きます。そんな人がこういう機会に親子で観劇して、舞台の楽しさを再発見するといいですね。

 「僕の世代でも、小さい子どもと一緒に観に行きたいんだけど……っていう人はたくさんいます。僕自身、子どもと観に行く舞台って結局KAATさんが一番多くて、今回その一端を担わせてもらえるのはめちゃくちゃ光栄で嬉しいです。他にもこういう場所がもっと増えればいいのになってよく思います」

―――では、小さい子どもを持つ親世代の方に向けて最後に一言いただけますか。

 「何はともあれ、遊びに来てみてください。劇場に来たら楽しいことがあると子どもたちに感じてもらえる作品になるように、僕らも頑張ります。気楽な感じで、楽しみにいらしていただきたいです」

(取材・文:西本 勲)

プロフィール

ノゾエ征爾(のぞえ・せいじ)
脚本家、演出家、俳優。劇団「はえぎわ」主宰。1999年、「はえぎわ」を始動。以降、全公演の作・演出を手掛ける。2012年、『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞受賞。はえぎわ25周年公演『幸子というんだほんとはね』(脚本・演出・出演)は、昨年、読売演劇賞演出家賞の上半期ベスト5に選出された。近年の作品に、『ロボット』(2024年/潤色・演出)、『シッダールタ』(2025年/出演)、サンリオピューロランド35周年記念パレード『The Quest of Wonders Parade』(同/脚本)、『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』(2026年/演出)、『豪華客船タイクツニック号沈没』(同/串田和美との作・演出・出演)、『りんごが落ちる』(同/脚本)などがある。

公演情報

KAATキッズ・プログラム2026 子どものためのうつくしい国

日:2026年8月16日(日)~23日(日)
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈中スタジオ〉
料:おとな4,500円 こども[4歳~高校生]1,000円
  ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて(全席自由・整理番号付・税込)
HP:https://www.kaat.jp
問:チケットかながわ tel.0570-015-415(10:00~18:00)

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