2012年に初演、劇場を涙で包んだ感動作が蘇る! 死んでしまったはずの5人と、残された人々の記憶と記録。新演出・キャストでお届け!

 劇団6番シードの名作を新たな演出家、新たなキャストで上演するFlying Highの第2弾は、2012年に上演され、劇場を涙で包んだ感動作『天国の待合室』。

 娘を持つ平凡なサラリーマン、自殺願望のある女子高生、恋人と同棲し始めたばかりの男性、癌で入院することとなった1児の母親、亡き夫のために訴訟を起こそうとしている女性。この5人の男女が出会ったのは、とある心療内科の待合室だった。風変わりな診療治療を行ううちに、5人はそれぞれ失われている記憶があることに気づいていくが……。

 演出の増野美由紀、出演する浮谷泰史(バルスキッチン)、オオダイラ隆生(劇団6番シード)に話を聞いた。


———『天国の待合室』は2012年に上演されていますが、あらためて今回の公演の概要を教えてください。

増野「私も2012年に公演を行っていたことは知っているのですが、見たことはないんです。映像も見ていません。今回のFlying Highというシリーズは、これから飛躍していく若手メンバーを集めた企画で、(主宰の)松本(陽一)さんや6番シードという看板を借りつつ、私たちの色を前面に出していこうと思っています。
 なんていうのかな、松本さんがプロデューサーとして居てくださるからこそ、安心してやりたいことがやれる感じですかね。再演ではありますが、私たちの新しいものを作っていこうと考えているので、過去の映像はあえて見ないようにしようと思います。私はまだまだ新参者ですし、どちらかというと石橋を叩いて渡るタイプなのですが、松本さんはそれを分かった上で、自由にやりたいように泳がせてくれる。前回(※『最後の1フィート〜1編の映画を巡る3つの物語〜』)もそういうスタンスだったので、今回もやりたいようにやらせてくれるのではないかと思っています」

———出演にあたっての意気込みをお聞かせください。

浮谷「僕も6番シードさんの公演を何本も見てきましたし、実際に出させていただいたこともたくさんあるんですけど、この”天待ち”(※『天国の待合室』の略称)は6番シードさんと出会う前の作品なので、見たことないんですよね。だから僕も多分増野さんと同じく新鮮な気持ちでいた方がいいんじゃないのかなと思うし、過去公演の映像を見たらプレッシャーを感じてしまいそうで(笑)
 ただ、初演の時の脚本を読ませていただいたんですけど、いや、僕、久々に家で脚本を読んで泣いてしまいました。
 主軸になる部分はやはり普遍的なものですし、多分自分が年を取ったせいもあると思うんですけど、20代のときにはあまり感じなかったかもしれない感情があって……。この感動や、涙を流すぐらい心を動かされた経験を、舞台を見てくださる皆さんにも共有したいし、演じる側としてもそれを具現化できるように頑張りたいです」

オオダイラ「この作品は14年前に上演ということで、まだ生まれる前で……」

浮谷「そんなはずはない(笑)」

オオダイラ「ですね(笑)。見たことないんです。でも、見たことがあるお客様からは「すごくいい作品だよ」と聞いているので、その作品に携わる楽しみと、その感動や期待を裏切らないというか、それ以上のものをお届けできたらいいなという思いがあります。
 Flying Highという企画自体、最近の6番シードの本公演だとあまりやらなさそうな作風や質感の作品を扱うので、本公演とは違う面白さを出していきたいと思っています」

———脚本を読んでみて、いかがでしたか?

オオダイラ「いや、先ほど浮谷くんも言っていましたけど、生死が関わる物語って、年のせいか涙腺が緩んでね……。
 僕は病気で弱っていったり、死んでしまったりする役が多いんですが、今回演じさせていただく役はいつもと違って、残される側なんです。その残された側が後悔をどうスッキリさせていくのか、奇跡は起きるのか、みたいなところをしっかり演じていきたいなと思っています。楽しみです」

———配役はどうなるのでしょう?

増野「2人ともお医者さんの役なんです。浮谷さんもオオダイラくんも絶対この役だなと思い、キャスティングしました。まずオオダイラくんは同じ劇団員ですし、私が演出する作品によく出ていただいているので、キャラクターや雰囲気をよく知っているんですけど、オオダイラくんは静と動が出来る俳優さん。今回の役は、動かないけど、いろいろなことを語る先生なので、そんなオオダイラくんの”静”がみたいなと思ったんです。
 そして、この物語は主演が誰かというのはあまり明確ではなくて、誰でも主演になる作品なんですけど、少なくとも浮谷さんは座長だと思っています。この役を浮谷さんが引っ張ってくれるから、みんなもついていくという絵がなんとなく見えて。それは今まで6番シードの作品に出ていただいたときに感じた信頼があってこそなんですけどね。
 だから、役者としての雰囲気ももちろんですが、2人のポテンシャルも含めて、キャスティングさせていただきました。松本さんも私の要望を尊重してくださいました」

浮谷「僕は5人がやってくる心療内科の先生で、すごく適当な人なんです。ちゃらんぽらんなところはすごく自分に合っている気がします(笑)。また、座長というポジションをさせてもらっているのに、そんなにガンガン喋らなきゃいけないわけじゃないから、すごくコスパがいい役です(笑)
 場所も含めてファンタジーの要素が強いですけど、僕らの役どころがある意味リアリティを持たないと成立しないと思っています」

増野「確かに6番シードの作品としては珍しいかもしれないですね?」

オオダイラ「うん、普通の病院として描きそうですよね。」

———松本さん側からのオーダーはあったのでしょうか?

増野「今のところありません。前回のFlying Highのときも、あえてなのか、試しているのか分からないですけど『自由にやっていいよ。演出もセリフも変えていいから』と言われたんです。だから、今回も自由にやらせてもらえると思います。それはそれでプレッシャーなんですけどね(笑)」

———では、増野さんとしての今回の演出の見どころは?

増野「前回改めて感じたのですが、心を丁寧に描くのが私はとても好きなんです。だから前回の公演は尺が長くなって、みんなに長い長いと言われてきたんですけどね。でも私が芝居でやりたいことは、人の心を丁寧に描いて、それをお客さんに届けること。だからそこは大切にしていきたいなと思っています。
 今回の作品はもう直球で、人の心が右往左往して、ぐしゃぐしゃになって、さぁどうなるかというところなので、すごくやりがいがあるというか、楽しみな作品です」

オオダイラ「僕の役は出演シーンになると、結構長いセリフがドンとあるんです。だからまずそこにちょっと震えていますが(笑)、前回、増野の演出を受けて、すごく丁寧に作品を作ってくれるなと思ったんですよね。例えば、僕ら俳優が『これ』というのを提示したら、『もうちょっとこうしてみたら?』と一緒に作っていく感じがしました。だから今回もまた、精神科医という役どころを、一緒に丁寧に作っていきつつ、説得力みたいなものも出していけたらと思っています。」

浮谷「増野さんも言っていましたけど、明確に誰が主演という作品ではなくて、出てくるキャラクターの1人1人のドラマをすごく丁寧にやっていかないといけないんです。患者の皆さんの記憶が混乱していたり、思い出せなかったりするんですが、僕の役の適当さでどんどん紐解いていくイメージです。別に何かを導くわけでもないんですけど、要所要所にぽっと来て、結果、導いている。
 実際の精神科医の方たちも、多分、ストレートに強い言葉でどうこう言うよりも、柔らかい言葉をかけたり、いつの間にかいい方に患者さんを導いたりしていると思うんです。そういう意味では、不思議な空間設定だからこそ、僕自身がこの場所の説得力、つまり実際にはないんだけど、何かありそうだなという感覚をお客さんに持たせていかなきゃいけないと思います」

———今回は日替わりキャストもいますね。

増野「はい。松本さんと相談の上、決めました。日替わりキャストの役ではありながら、結構重要な役なんですよ。大切な役を日替わりキャストでやっていただくのって、かなりの挑戦です。でも、お願いしている役者さんは全員信頼している方なので、とても楽しみでもあります」

オオダイラ「日替わりゲストって、ワンシーンのみのピンポイント出演が多いと思うんですけど、脚本にどれぐらい修正が入るか分からないものの、元の台本を見る限り、結構出ている役ですもんね?」

浮谷「うん。俺と逆で、コスパが悪い役です(笑)。でも物語的にはスパイス的な感じというか、いいところで引っ掻き回すような役回り。そこが日替わりでいてくれるのは、僕らにとっても刺激になっていいなと思います。楽しみです。」

———改めて6番シードの魅力や「いいところ」を教えてください。

増野「私自身が作品のファンで、入団しているんですけど……たくさんの人に愛される作品をいっぱいやっているなと思います。演劇って、いろいろな個性があっていいと思うし、尖った作品もあっていいと思うんですが、まず初めに演劇を初めて見る人が『わ〜!』となるその瞬間というか、その1つの扉になりうる作品をたくさん打っているんじゃないかな。私はこれからもそういう作品を作っていく1つのコマになりたい、その活動を続けたいなと思っています。
 結構年齢が上がっている劇団なんですけど、残念ながら、あんまり落ち着きがなくて(笑)。松本さんには『役者や創る側に負荷がかかる作品は面白い』という持論があるんですが、それに絶対ついていこうと。その意気込みだけは捨てないでおこうと思っています」

浮谷「僕は準レギュラーみたいな立ち位置ですが(笑)、6番シードは外側から見ていると、やっぱりこれだけの公演回数を重ねているのに、Flying Highをはじめまた新しいことに挑戦していったり、新しい風が常に吹いていたりする印象ですね。何事も同じことをずっと続けていくのは、難しいじゃないですか。でも、そんな中で、いろいろな変化があって――特に結成当時のメンバーはもういないんですよね? 体の細胞と一緒で、新陳代謝で回る。メンバーが入れ替わっても、6番シードというブランドが残っていることが、まずすごいなと思っています。
 そして、僕は先日、松本さんが脚本・演出の作品に出たんですが、まぁ、相変わらず、松本作品は汗をかく(笑)。でもやっぱり汗かいてなんぼと、僕も思っているんです。増野さんが言う通り、いろいろな演劇があっていいと思うんですけど、僕らが楽をしている姿をお客さんも見に来ているわけではなくて、一生懸命やっているからこそ伝わるものが大きいと思っています。
 ”高齢化”が進んでいるとはいえ、皆さんめちゃくちゃ元気ですよね(笑)。身体だけは大切にしながら、ずっとずっと続いてほしい。もうメンバー総入れ替えで「3代目6番シード」みたいに続いていくぐらいに!」

オオダイラ「”高齢化”というワードが出ていますけど、みんな年を重ねているのに、そこにとどまらないのがいいなと思うんです。
 例えば、松本さん自身も、新しい題材とか作風にチャレンジしようとしているし、劇団員それぞれもとどまらない感じがある。毎公演毎公演、『今回も大変だな、辛いな、どう乗り越えようかな』と課題がちゃんとあるんですよ。それが長く続いている秘訣であり、理由なのかなと思っています。『役者が大変な舞台はお客さんが楽しくなる』と松本さんは常々言っていますが、僕らとしても、苦労したらしただけ、拍手や笑い声がドンと大きい気がするんです。6番シードの劇団員として、まだまだ落ち着いていられないと思っています」

———最後に、観劇を楽しみにされている皆さんにコメントをお願いします。

増野「どのキャストにも心の変化や見せ場がしっかりあって、全員が勝負をしなくてはいけないシーンがあります。だから、どの役のファンの人もきっと楽しめるものになると思います。『今回はそんなに推しが出ないかもしれないから』とは思わず、推しが出ている限り是非観に来てもらいたいです! 劇場でお待ちしています」

浮谷「先ほども少しお話ししましたが、脚本を読んで、久しぶりに涙した作品です。自分が年齢を重ねたからそう感じたのかもしれないんですけど、出てくる患者さんたちって、いろいろな世代がいるんですね。子どもを持つ母親もいれば、恋人と同棲するという若いカップルもいたり……。
 最近の小劇場のお客さんの年齢層って、結構広がりがあると思うんですよ。いわゆる2.5次元系から入った若い人もいれば、昔から演劇を見るのが好きな”観劇おじさん”みたいな人もいるし、幅広い年齢層のファンの方に支えていただいていると感じているんですけど、今回の舞台は見に来てもらえたら絶対誰かのキャラクターに感情移入できるんじゃないかな。
 もちろん全く同じ経験をしているというのはないと思うけれど、どこか近しい経験や感情があるはず。例えば、若い人なら、これから先、自分が生涯を閉じるときにどんなこと感じるのかな、そこに向かって今後どう生きていくのかなと考えるきっかけになるかもしれないし、逆にお年を召した方なら、この気持ちがすごく分かるな、自分もこんなことがあったなと思い出すかもしれない。
 お客さんたち一人ひとりの生きてきた人生の中で、きっと共感できるものがあると思うので、あんまり稽古前に言うのもあれですけど(笑)、絶対泣けると思うし、絶対泣かせます! 本当にいい話ですし、新しく集まったキャストでアイデアをどんどん膨らませていきたいと思いますので、心のデトックスをしに来てください! ……僕も一応、座長というポジションを任せてもらえるのは、久しぶり。なので、ここでちゃんと結果を出していきたいです!」

オオダイラ「年2回の劇団の本公演とは違う番外公演だからこそ、より新しい顔ぶれというか、6番シードを知らなかった人にも来てもらえるきっかけになると思うんです。素敵な作品だな、見てよかったなと思っていただけたら、きっと6番シードにも興味を持っていただけると思います。
 浮谷くんが言ってくれた通り、誰かのキャラクターの感情に刺さるし、感情移入しやすいと思います。きっと、自分がこれから後悔しないように生きていこうと思ってもらえる、そのきっかけになるような舞台ですし、見終わった後にキャラクターたちが今後どうなっていくのか、想像してもらえる作品でもあると思いますので、そういうところも含めて、楽しんでいただきたいなと思います」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

増野美由紀(ますの・みゆき)
1984年生まれ、埼玉県出身。脚本家、演出家、演出助手、たまま produce 主宰、劇団 6 番シード所属。2008 年より俳優として活動。松竹芸能にお笑いコンビ フライデーズとして所属し舞台・コントライブ・イベントに多数出演する。退所後は劇団6番シードに入団。主宰の松本陽一に師事し脚本・演出を学ぶ。主宰する「たまま produce」では脚本・演出を担当。第一回公演「アスター」では女子高生と教師達が葛藤しながら成長するヒューマンドラマを繊細かつエネルギッシュに描く。

浮谷泰史(うきや・たいし)
1987年生まれ、東京都出身。劇団バルスキッチン所属。2008 年から小劇場を中心に俳優として活動。2013 年に劇団『チョコレイト旅団』を結成し、全公演の演出を担当。2018 年からは脚本も手がけた。その後、劇団は活動休止。2026 年からは劇団『バルスキッチン』に加入。古典会話劇からコメディ、ミュージカルや時代劇など幅広いジャンルの舞台に出演する傍ら、脚本提供・演出、映画出演やラジオドラマ製作、演技講師、ミュージカル作品の演出、宮城県南三陸町での演劇ボランティアなど活動は多岐に渡る。

オオダイラ隆生(おおだいら・たかゆき)
1984年生まれ、千葉県出身。劇団6番シード所属。近作として、日本の劇団「その鉄塔に男たちはいるという」、劇団6番シードプレゼンツ「メイツ!〜ブラウン管の向こうへ〜」、劇団6番シード「ボイルド・シュリンプ&クラブ」 、Flying High vol.1『最後の1フィート〜一編の映画を巡る三つの物語』など。

公演情報

6Cプレゼンツ Flying High Vol.2
『天国の待合室』

日:2026年8月7日(金)~11日(火・祝)
場:スペースBANRAI
料:6,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.6banceed.com
問:劇団6番シード
  mail:6banceed.info@gmail.com

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