演劇集団キャラメルボックスの代表作として長年、愛されてきた舞台『無伴奏ソナタ』。その世界観をミュージカルとして生まれ変わらせた『無伴奏ソナタ -The Musical-』は、2024年の初演で大きな反響を呼び、この度、再演が決定した。舞台版を手掛け、ミュージカル版でも脚本・演出・作詞を担当する成井豊と、舞台版とミュージカル版に異なる役で出演する多田直人に、意気込みを聞いた。
―――あらためて『無伴奏ソナタ -The Musical-』の初演を振り返ると、舞台版との違いはどういった点に感じましたか?
成井「舞台版では、クリスチャンはほとんど自分の気持ちを言葉にしないんですよね。でも、ミュージカル版では気持ちを口にするし、『音楽は僕のすべて』と歌っちゃう。そういう意味では、ミュージカルのほうが共感しやすいんじゃないかなと思いました。ただ、僕はミュージカルを手掛けるのが初めてだったので、稽古の過程ではかなり戸惑いました。『ミュージカルではこうだ』という話を聞いて、あっ、そうなんだと修正する、みたいなことが多々あって、すごく勉強になりました」
―――“ミュージカルがこうだ”というのは、たとえば?
成井「僕はストレートプレイをずっとやってきたというのもありますが、サンシャイン劇場で30年近くやってきたことが結構大きくて。サンシャインの一番後ろの席からだと、舞台上の役者の表情があまり見えないから、どうしてもセリフで伝えることになるんです。だから、私の脚本だと説明過多で、ミュージカルは、セリフで説明するよりも歌で表現しないといけない。かなりセリフを削ったし、歌詞も実際に歌う人の意見をもらってだいぶ直しました。これまでミュージカルを散々観てきたのに、いざ作ってみると、ストレートプレイのやり方は通用せず、ミュージカルのやり方を取得しないとできないことがよくわかりました」
多田「ミュージカルを観ているといつも感じるのですが、時間が歪む感覚があるんですよ。ストレートプレイだと、会話が順番に流れていくので、お客さんと一緒の時間軸が流れていると思うんですけど。音楽がかかって歌い始めた瞬間に、時間の流れがちょっとゆっくりになって自分の気持ちをしゃべるとか。なんなら、ちょっと(時間が)止まって独白が始まるとか。そういうふうに空間や時間が歪む感じがするんです。その歪んだところ一つひとつを見せ場にしなくちゃいけないという感覚……音楽に対して振付が増えたり、動きが増えたりと、表現をさらに豊かにしないといけない気がするので。本作も、舞台版よりエンターテインメント性が増したと思います」
―――過去のインタビュー記事などを拝読すると、『無伴奏~』は多田さんにとって非常に大きな作品であるように感じます。ミュージカル版の初演時に、新たに芽生えた感情というのはありましたか?
多田「まずは、悔しさですね。僕は舞台版でクリスチャンを演じましたが、ミュージカル版では僕以外の人がクリスチャンをやるべきだし、見たいなとも思っていました。でも、実際に平間(壮一)くんが見事に体現しているのを見て、スゴい!と思うのと同時に、くそ!と思う部分も少しあったんです。もちろん、平間くんのようにやれと言われてもできないとは思いますが、ちょっと悔しいなと思った自分がいたのも事実で。あっ、まだ、そういう感情が自分のなかにあるんだなというのは、1つ発見ではありましたね」
―――自分の演じていた役をほかの方が演じている舞台に、ご自身もキャストとして立つわけですからね。
多田「そうなんです。ただ、劇団の公演だと、再演を繰り返すうちに、先輩がやっていた役を今度は自分がやるとか、自分がやっていた役を後輩がやるというのは結構あることなので、その辺は慣れているつもりではいるんですけど。今、稽古をしている(取材時)『ナミヤ雑貨店の奇蹟』とかもそうですが、自分より若い俳優が、僕のやっていた役でおもしろいことをやっていたりすると、クソ!と思ったりすることは、まぁありますね」
成井「正直だね」
多田「あはは!」
―――本作であれば、クリスチャンとして歌ってみたかった、みたいな気持ちも?
多田「いやぁ、どうなんでしょうね。でも初演の際に、平間くんが別のお仕事で稽古に出られないときがあって、1回だけ稽古場で代役に入ったことがあるんですけど、そのときは楽しかったです(笑)。ブドウ畑で作詞するシーンで。まぁ、無責任にやらせてもらったというのもありますけどね。いい思い出です」
―――初演時の稽古場は、どんな雰囲気だったのでしょうか。
成井「ディスカッションがとても長かった(笑)!」
多田「あー! たしかにそうでしたね」
成井「キャラメル(ボックス)のメンバーも3人いましたけど、それ以外はミュージカルに多く出られている俳優さんたちで。初演に出演いただいた俳優さんたちは、自分の役のことだけじゃなくこの作品をミュージカルとして成立させるために、全体に対する意見を述べてくれる。だから、ディスカッションになる。稽古の途中に、1時間くらいディスカッションすることが平気であったよね」
多田「ありましたね」
成井「僕の長い演出歴のなかで、こんなにディスカッションをしたのは『無伴奏~』だけですね。ディスカッションって疲れますが、すごくためになる。作品に対する理解がすごく深まるし。それに、“脚本・演出は成井に任せる”じゃなくて、みんなで作るんだという意思をずっとたしかめられる。みんなが本当にこの芝居をよくしたいと思っていることが伝わってくるから、うれしかったし有意義でした」
多田「たぶん、ミュージカル作品の立ち上げだったからだと思いますよ」
成井「あー、なるほど」
多田「演出や流れがあらかじめバチッと決まっていたら、“あっ、もう、そういうもんなのねー”って、もしかしたらみんな乗ったかもしれないですけど。初めてのミュージカル化ということで、やっぱりミュージカルに多く出演されている皆さんはこだわる……音の入り方とか、なぜここで歌い出すんだとか、そういうところにはストレートプレイばかりの僕らよりすっごく気を遣って綿密に考えているな、という印象を受けました。あと、この『無伴奏~』の世界観自体が、結構ディスカッションに向いているというか」
成井「あははは! そうだね」
多田「ディストピアの世界で、独自のルールがあって。じゃあ、みんなどういうふうに暮らしているんだろうとか、どういう考えなんだろうっていうのを考えれば考えるほど、それぞれの考えが出てきちゃうっていう」
―――今回、初演からどんな部分が変化しそうですか?
成井「マイナーチェンジですけど、初演から変わるところは結構ありますよ。舞台美術もそうだし。音楽も、楽曲そのものがなくなるとかメロディがガラッと変わるとかっていう大変化はないけど、細かい変化があるし。演奏もだいぶ練り直しているし。初演を観たお客さんがどれぐらい気づかれるかはわからないですが、作り手からすると“あっ、結構変えちゃうんだな”って。私から、脚本のこの部分はこう直したいと言ったところもありますが、それ以上にプロデューサーサイドから『この曲をこうしたい』『技術をこうしたい』と、いろんな意見をいただきました」
―――初演に引き続き、成井さんは作詞も手掛けていますが、脚本を書くのとはまた心持ちが違うものなのでしょうか。
成井「そうですね。決して作詞が嫌いなわけではないのですが、僕、音に言葉をはめるというのができなくて。なので、専門家の方や音楽監督さんに結構、直していただきました。逆に言うと、そういう人に直してもらえるから、自由にできたというか。“あまり音符と(歌詞が)合ってないけど、いいや、直してくれるだろう”って気持ちをラクにして作詞ができたので(笑)。決してツラい作業ではなく、おもしろかったです」
―――本作のテーマにちなんで……おふたりが禁じられたら困るものはありますか?
成井「うーん……でも、やっぱり演劇かなー」
多田「あはは! うん、困りますよね」
成井「僕は日々、本を読めて映画を観られれば、それで十分、幸福な人生なんですよ。旅行したいわけじゃないし、グルメにも興味がないし……。思い返すと、高校3年生のときに、演劇をやるか小説家になるかという2つの道があって。とりあえず、大学の4年間は演劇をやろうと早稲田大学に入ったんですけど。同時に筑波大学に受かったので、そちらに入って小説家を目指しながら教員をやるという手もあったんですよ。でも、もしそっちを選んでいたら、教員にはなれただろうけど、たぶん小説家にはなれなかっただろうと思います」
―――なぜ、そう思うのですか?
成井「僕には、物を書く才能がなかったから。実際、演劇の道を選んでからも、最初のうちはろくでもない脚本を書いていたんです。でも、俳優たちとお客さんに育てられて。何年も何年も書いていくうちに、才能のなかった男が、努力によってそれなりのものが書けるようになった。でも、小説だと自分の力しかないじゃないですか。たぶんうまくならずに、20代のうちに挫折していたんじゃないかな。演劇を選んだおかげで、作家として成長できて。ミュージカルの台本を書いたり、アニメの脚本を書いたり。小説も何本も書いちゃった。いやぁ、高3にして正しい選択をしたよ(笑)」
―――多田さんは、禁じられたら困るものは?
多田「これは、決して好感度を狙っているわけじゃないのですが、家族ですかね。娘が今、6歳になったんですけど、コミュニケーションをとれるようになってきて。生まれた当初よりも、むくむくと愛情が湧いてきているんですよ。あとは、奥さんの存在もそうですよね。僕は、1人では絶対に生活が破綻するタイプの人間で。妻のサポートとかわいい娘がいて成り立っているので、禁じられてしまったら生きていけないかもしれないです」
―――成井さんは演出をする際、“役者のこんな部分を見せたい”と考えることはありますか?
成井「いや、そんなことは考えないですね。修正すべきポイントは指摘しますけど。あと、ダメな部分だけじゃなく、なぜ、そういうダメな演技をしてしまうのかも。こういうクセや思考法があるから、それを正さないことには、この演技は修正できないんだと。偉そうな言い方ですけど、どちらかというと治療をしている感覚なんですよ。もちろん、どこも直すところがない人もいますよ。神保(悟志)さんとかね。でも若い役者は、なにかしら問題点を抱えているんですよ。それを見つけて『こうしたほうがいいんじゃない?』と。褒めて育てるよりも、問題点を指摘してあげることが多いですね。でも僕ね、『○○という役者は、俺が育てたんだよ』と言うのが、もう許せなくて(笑)。絶対に言いたくないと、昔から思っています」
多田「でも、僕は成井さんに育てていただいた感覚は……」
成井「なーに言ってんだよ!」
多田「ちょっとありますよ」
成井「違うよ! 君が勝手に育ったんだよ」
多田「いや、本当に。でも、自分の悪いところやクセに対する治療をしてもらったうえで、その処方箋をどう使うかは俳優次第だと思うので。成井さんをはじめ、いろんな演出家から言葉をもらって、自分なりに咀嚼して。その結果、“そうは言われたけど、俺はこう思う”とか、“たしかにそうだな。じゃあ、そこを直して次のステップにいこう”とか」
―――ちなみに、成井さんからいただいた処方箋で一番響いたのは?
多田「『君はベタを学ぶべきだ』ですね。僕が(キャラメルボックスに)入団して2・3年目ぐらいのとき……『少年ラヂオ』だったかな。本番が始まって、若手だけで成井さんの楽屋にダメ出しを聞きにいったんです。そのときに、この言葉を言われて。『このままじゃ、西川浩幸みたいになるよ』って。それはどういうことなんだ!? 西川さんになれるならいいんじゃないかと思ったんですけど(笑)、自分なりに咀嚼してみたんです。たしかに僕は、ちょっとシニカルな笑いやシュールな雰囲気に逃げがちだったので、もっと大衆に向けた演技ができるようにならないとダメだよ、ということかなと。まずは誰が見てもわかりやすい演技をできるようにならないと、応用はできないと。まずは王道をということですよね」
成井「そのことはまったく覚えていないんだけど、今、振り返ると、たしかにそう言ったんだろうなという感じがしますね。多田は、器用でセンスがよかったんですよ。センスのいい人からすると、ベタというのはセンスが悪いからやりたくないんですよね。それは、わかるの。だけど、より多くの人の支持を得たいのであれば、むしろベタをオリジナリティを持ってやることが大事なんです。たとえば、渥美清さんは彼にしかできないやり方でベタをやっているし、志村けんさんもそう。今、多田は恥ずかしいのかもしれないけど、それはありがちなベタを想像しちゃっているからで。そうではない、多田だけのベタがあるはずだと思うんですよね」
多田「うんうんうん」
成井「でも、最初は照れくさかったんだろうけど、結構、大胆にやるようになりましたよね。だから、大きく変わりましたよ。初期の頃の多田は密室芸人っぽいところがあって(笑)。小さな劇場でやっているぶんにはそれでいいんだけど、大きな劇場での公演やミュージカルをやれるようになったのは、ベタというか、大きな芝居をできるようになったことが大きいと思います」
―――あらためて、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
多田「僕は、宣伝文句として『絶対に後悔させないので、観にきてくださいね』と、あまり言わないようにしているんです。それは、僕自身がお芝居を観にいって後悔したことがあるからなんですけど(笑)。でも、『無伴奏~』という作品だけは、この宣伝文句を使ってもいいと。どんな人が観ても、絶対に刺さるシーンや言葉がある名作だと思っています。絶対に後悔させないので、劇場までいらしてください。よろしくお願いします!」
成井「初演のときも、一生懸命がんばりました。でも終えてみると、“あぁすればよかった、こうすればよかった”がいっぱい出てくるんですよね。40年以上、芝居をやっていますが、初演で完成する芝居なんて僕はないと思う。かといって、2・3回で完成するとも言えないし、完成はずっと先にあるのかもしれない。でも、とりあえず脚本家・演出家としてそれなりの形になったと思えるのって、2回目なんですよ。今回、その2回目のチャンスを与えられたので。1回目よりもずっといいものになっているはずですから、ぜひ楽しみにしてほしいです」
(取材・文:林 桃 撮影:間野真由美)
プロフィール
成井 豊(なるい・ゆたか)
1961年10月8日生まれ、埼玉県出身。1985年に演劇集団キャラメルボックスを創立。劇団の脚本・演出を担当。主な脚本・演出作品に、舞台『アルジャーノンに花束を』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『祈りの幕が下りる時』など。
多田直人(ただ・なおと)
1983年12月17日生まれ、北海道出身。2004年、演劇集団キャラメルボックスに入団。主な出演作に、舞台『ブンナよ、木からおりてこい』、二兎社特別企画 ドラマリーディング3『振り返る人たち』、音楽劇『中原中也』など。
公演情報
無伴奏ソナタ -The Musical-
日:2026年7月17日(金)~26日(日) ※他、大阪公演あり
場:サンシャイン劇場
料:12,000円(全席指定・税込)
HP:https://napposunited.com/sonatathemusical2026/
問:アミューズチアリングハウス https://fc.dps.amuse.co.jp/cheering/qa/contact