数々の古典作品が劇中劇として綴られる 集大成を超えて計算外な作品に! 好評を博した、文豪たちの愛憎劇が早くも再演

 2024年に好評を博した『レッド・コメディ〜赤姫祀り〜』が、早くも再演が決定した。本作は、「赤」を身にまとった「男」が紡ぎ出す、いにしえの物語。「女形」が孕むその内実を、文豪の愛憎劇に仮託して、哀しきコメディとして描き出す。花組芝居の座長で、本作の構成・演出を務める加納幸和と、初参加となる阿部丈二(演劇集団キャラメルボックス)に本作への思いを聞いた。


———早くも待望の再演が決まりました。このタイミングでの再演というのは、どういった経緯や思いからだったのですか?

加納「(まつもと市民芸術館の芸術監督の)木ノ下裕一くんが『松本でぜひやりませんか』と、初演を観て声をかけてくれたんです。それで、いつ頃が良いかと、いくつか候補を挙げてくださったのですが、僕もいい歳だからあまり先にはしたくない(笑)。でも、翌年となると少し早すぎるということで、2026年の今年、上演することになりました。それに合わせて、せっかくならば東京でもと思い、座・高円寺1での公演も決まったということです。なので、きっかけは松本での公演です」

———なるほど。松本での公演から始まった再演なのですね。

加納「僕としても、これまでとは作り方も考え方も違う、初めての作品だったので、もう1回検証したいという思いもありました。この作品を1回だけの上演で終わらせるのはもったいないという気持ちもありましたし、いい機会だからもう1回見直そうと。2年での再演なので、まだ僕の中の熱もそれほど冷めていない。そうしたいろいろな意味で、再演にはちょうど良い時期だと思います」

———前回の公演で手応えもありましたか?

加納「そうですね。ここまで劇中劇をたくさん入れた作品はこれまでなかったので、まず皆さんが『台本はどうやって作り上げたのですか?』と驚かれたようです。秋之桜子さんは、新劇の方ですから、古典はそれほどご存じないだろうということは、ある程度の方はお分かりですから、なぜこうしたものが書けたのかと。
 実は、最初の段階から僕と密に相談して、やり取りを繰り返してできあがったものなんですよ。彼女とはこれまでもご一緒していて、僕の無茶な要求も飲んでくれることも分かっていましたし、僕の手の内も分かっているというツーカーの関係なので、お互いに許し合いながら作っていったという作品です。本来ならば、上がってきた台本を、僕がセリフを変えてしまうことはしないですが、それが許されたということです」

———新たな試みを重ねた作品なのですね。

加納「自分でも、こうした作品になるとは思ってもいなかったですから。実は、もともとは、僕の還暦のときに、何か個人的なイベントを行いたいと思ったことから始まったんです。僕が赤い衣裳を着て、赤姫の役で歌舞伎をオムニバスにまとめて、小さな劇場でやろうと。それがコロナですべてダメになってしまって、還暦を逃したらこの企画はできないと思って、なかったことにしていたんですよ。でも、やっぱりやりたい。それで、立ち上げた企画がこのような形になったんです」

———阿部さんは前回の公演はご覧になられましたか?

阿部「劇場で拝見しました。先ほど、加納さんが手応えについてお話しされていましたが、観客の僕の立場からすると手応え十分でした(笑)。すぐに秋之さんに連絡して感想を伝えたほど、本当に面白かったんです。皆さんが思っているように、驚くほど劇中劇が入っていて、どう作っていったのだろうと僕も思いました。僕が初めて加納さんとご一緒させていただいたのは、秋之さんの脚本、演出が加納さんの(西瓜糖 第10回公演の)『いちご』だったのですが、お2人の組み合わせはすごく相性が良くて、いち観客として観てもすごく面白い作品だったと思います。
 先ほど加納さんもおっしゃっていましたが、お2人の間にしっかりとした信頼関係があることは現場でも感じました。もちろん、秋之さんは自分をしっかり持っていらっしゃって、自分の本に対しても深い考えを持っている方ですが、同時に加納さんがサジェスチョンしたことはその場で変えていくという姿も拝見したので、本当に面白い化学反応がお2人の間に生まれて出来上がった作品なんだろうなと思いました。なので、その過程がどう作られていったのかは、とても興味を持ちました」

———そうすると、今回の作品も待望のオファーだったのですね。

阿部「本当にめちゃくちゃ嬉しかったです。今、加納さんからこの作品の経緯を聞いて、初めてコロナ禍があって良かったと思いました(笑)。お祝い公演として上演されていたら、僕にはご縁がなかったと思うので(笑)」

———今回、加納さんは阿部さんにどんなことを期待してオファーをされたのですか?

加納「前回の田岡啓太郎のイメージは、少し違うなと思ったんですよ。初演を務めた小林大介という役者は、いかつい役が多いものですから、もう少し優男の方が良いのかもしれないなと。それもあって、丈二くんがいいなとお願いしました」

———阿部さんは田岡という役についてはどうとらえていますか?

阿部「僕も加納さんがおっしゃったように、前回の公演を拝見して、非常に男らしい男性だと感じたんです。内面は置いておいて、田岡から出るフィジカル的なエネルギーは、すごく男らしく、高圧的なイメージがあったので、『僕なのかな?』とまず思いました。
 大前提として、どんな役でも喜んでやるつもりでしたが、ちょっと驚いたところがあって。でも、前回とは違う雰囲気があってもいいんじゃないかということであれば、自分なりのものを提示できるのではないかと思います。とにかく必死に学ばせていただきながらも、外の空気が入ったことによって起こるいい効果を与えられるように、一生懸命演じたいと思っています」

———加納さんは、再び、柊木葵という役を演じるにあたって、どんなことを考えていらっしゃいますか?

加納「どんなに一生懸命作っても、少し時間をおいてみると『もっとこうすればよかった』と、どの作品でも反省が出てくるものなんですよ。今回も、考えて考えて作り上げた作品ですが、改めて台本や記録映像を観ると、やっぱり『何でこうしちゃったのか?』と思うところが随分と出てくるんです。たくさんの劇中劇を担い、重い衣裳を着ていなくてはいけないということもあって、当時はウワーっと(勢いで)演じていたけれど、やっぱりもう少し人のことをきちんと愛していないとダメだなと今は思います。
 それから、冒頭の車椅子に乗っているシーンがあまりにもあっけなさすぎた。実は今回の再演では、劇中劇を1つ増やそうと思っているんですよ。冒頭のシーンに、全く新しい劇中劇を少し入れようと思っています。そうすることで、もう少し僕の役のポジションを明確にできるのではないかと思います」

阿部「そうしたら、チラシの車椅子に乗っている絵ともより一層繋がるようになりますね」

———演出の面ではいかがですか?

加納「前回、シアタートラムで上演したときは、劇場の石垣のような壁を利用したいと考えていました。14世紀くらいのヨーロッパの古城のような壁だったので、ケルト音楽を使ったり、クリスタルではないシャンデリアを飾ったりしたんです。ですが、今回は、また別の劇場なので、まず、しつらえが変わります。ただ、ケルトという非常に神秘的な、感情移入ができるようでできない、不思議な古い音楽は、やっぱりいいなと思うので、それは変えないと思います。それから、もちろん丈二くんが田岡を演じてくれることでも役のイメージが変わります。衣裳も部分的に変えようと思っています。初演では、まだ感覚的に衣裳を選んでいたのですが、今は、それぞれの役がしっかり見えてきたことで、変えるべきと思うようになりました」

———阿部さんは、花組芝居という劇団の空気はどのように感じていますか?

阿部「正直、若い頃は絶対に自分が携われるとは思ってもいなかったです。うちの劇団(演劇集団キャラメルボックス)の成井(豊)と加納さんは大きくいうと同世代で、繋がりがあるということも知っていましたし、お話はよく聞いていたのですが、まさか自分がこうして参加させていただける機会があるとは考えてもいませんでした。歌舞伎や古典は、まさに芸事が必要で、特殊技能のようなものを軸に持っていなければ務まりません。
 花組芝居さんは、それを持っていらっしゃる劇団だなと思います。僕は、お芝居を始めたのが遅かったということもあって、歳を重ねるごとに、それまで気づいていなかった和物の美しさやかっこよさを強く感じるようになってきて、視野が広がってきたように思います。なので、そうした魅力を知った今、このタイミングで、花組芝居さんに参加させていただけることは本当にありがたいことですし、嬉しいです。
 僕は、数年前まで、演劇でよく言われる古典のシェイクスピアも、一度もきちんとやったことがなかったんです。それは役者としてどこかずっと引っかかっていて。でも、それも叶うことができました。同様に、日本人として、日舞や歌舞伎の要素を取り入れた作品もいつか携わってみたい。やはり役者として携わったことがないというのはとても残念なことだという思いがあったので、それが叶った喜びもあります」

加納「成井くんとは同世代なんですが、この世代の劇団は、まだ60年代、70年代の第1、第2世代あたりの影響や流れが強く残っていたので、今と違って、劇団ごとに肉体が違ったんですよ。キャラメルさんはキャラメルさんの共通言語と身体を持っていて、それはどの劇団もそうでした。だから他劇団の役者の取り替えが利かなかったんです。身体が違うから、別の劇団に行くと『何かが違うね』となってしまう。今はもうそうしたことはなくなりましたね。それが良いのかどうなのかはまた別の問題ですが。それが80年代の真ん中から終わりにかけて出来上がった劇団なのだと思います。それ以降の劇団は替えが利くんですよ。劇団と名乗っていらっしゃっても、半分がゲストで、それはもうユニットでしょう? というところもある」

———確かに、今の劇団は強烈な個性があるというところは少ないかもしれないですね。

加納「それも時代ですよね。でも、丈二くんは、客演されるときにはその劇団の空気やノウハウに合わせることがおできになる。消せないものは持っていますけれどもね」

———阿部さんは、もともと、歌舞伎などの古典作品はご覧になっていたのですか?

阿部「実は、先日、加納さんに連れて行っていただいて、初めて歌舞伎を観ました。まずは、歌舞伎座の広さにびっくりして。映像では観たことがあったのですが、やっぱり生で観ると全然違いました。どうせ自分には分からないと思っていたところがあったんですよ。きちんと理解した上で観ないと楽しめないのではないかとか、自分には観る資格がないのではないかとか、勝手に劣等感を感じていて、観に行く機会がなかったのです。ですが、今回、加納さんが一緒ならば、それはもう心強いので。もちろん分からないところもありましたが、想像しながら観る楽しさを久しぶりに味わうことができました」

———そうでしたか。本作では、古典作品の魅力を劇中劇で存分に味わいながら、現代劇としての楽しさも味わえますよね。古典を知らなくても楽しめるというのも魅力の一つかなと思います。

阿部「本当にそう思います」

加納「劇中劇をどう入れていくのかも、すごく考えたんですよ。これとこれはやりたいと僕からお伝えした作品もありますし、秋之さんから『こういう人間関係を描いた歌舞伎はないですか?』と聞かれることもあって。それに合わせて僕が探してきて、『これなら入れられるかな?』と考えながら入れていくという作業を行ったんです。普段はそうした作業はなかなかないので、それもまた面白かったですね。古典をそのままではなく、この物語に合うように少しだけ変えているところも何箇所かあります。だからこそ、うまく融合できたのかなと思います」

阿部「初演を拝見したときに、劇中劇のシーンは言葉がうまく拾えないところもありましたが、それでも達者な方たちがシーンとして表現されているのを観ると、すごく引き込まれる面白さがあって。観終わった後は、心地よい疲れがあって、すごく満足感がありました」

———最後に改めて、読者へのメッセージをお願いします。

加納「僕の還暦祝いの公演が、紆余曲折あり、こうした形になりました。集大成を超えて計算外な作品に仕上がっています。今回、再演するにあたり、もう1度改めて作品と向き合い、見直して、さらに強烈なものにいたしますので、初演をご覧になっていない方にも、初演をご覧になった方にも楽しんでいただけたらと思います。きっと新たな発見があると思います。ぜひご来場いただけたらと思います」

阿部「自分のことは一旦、棚に上げておいて、本当に面白い作品だと思います。どうしても観る舞台というのは偏ってきてしまうものだと思うので、新しいものを観てみようと思われている方は、ぜひこの作品をご覧いただければと思います。僕が若い頃には観てこなかった、日本の伝統芸能の要素も入っていたりするので、若い演劇人の方にも学生の方にも観ていただけたら嬉しいです。本当に間違いない作品です!」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

加納幸和(かのう・ゆきかず)
兵庫県出身。日本大学藝術学部卒業。1987年、『ザ・隅田川』にて「花組芝居」を旗揚げ。かぶきの復権を目標にした男性だけの劇団として活動を開始。小劇場ブームの終焉期に登場した個性派劇団として注目を集める。来年創立40周年を迎える劇団の座長として、脚本・演出を手掛け、自らも女形で出演。西瓜糖『ご馳走』、花組芝居『毛皮のマリー』で、2019年前期の読売演劇賞 演出家賞にノミネート。外部での客演・演出・脚本提供や、映像にも進出。女形指導、母校の日藝・カルチャースクールでの講師、NHK歌舞伎生中継の解説も務めるなど、多方面で活躍。最近の主な舞台作品に、『ドレッサー』、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸双騎出陣、こまつ座『連鎖街のひとびと』、演劇調異譚「xxxHOLiC」-續・再-(以上、出演)、西瓜糖『いちご』、博多座『新生!熱血ブラバン少女。』(以上、演出)、花組芝居『鹿鳴館』(演出・出演)、花組芝居『陽炎座』、結城座『荒御霊新田神徳』(以上、脚本・演出・出演)など。

阿部丈二(あべ・じょうじ)
フィリピン出身(帰国子女)。2004年に演劇集団キャラメルボックスに入団。主な出演に、ドラマ『刑事7人』、『警視庁・捜査一課長』、映画『図書館戦争』シリーズ、『アンフェア the end』、『植物図鑑』、彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』、『舞台 増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和』シリーズなど。

公演情報

花組芝居 『レッド・コメディ~赤姫祀り~』

日:2026年7月9日(木)~12日(日)
場:座・高円寺1
料:一般6,000円 U-25[25歳以下]4,500円 
  O-70[70歳以上]5,500円
  ※各種割引は要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://hanagumi.ne.jp
問:花組芝居 mail:office@hanagumi.ne.jp

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