俳優・朝日奈寛が初めて脚本を手がける。団体初のオリジナル作品 1通の手紙から始まった家族の物語世代を超えて繋がった2つの家族を丁寧に描く

 OWARI NO HAJIMARIの第2回公演が、6月10日からシアタートップスで上演される。OWARI NO HAJIMARI(おわりのはじまり)は、俳優の奥谷知弘と岩田有弘から始まった舞台製作チーム。昨年1月に第1回目となる「木曜日にはココアを」を上演したばかりの新しいユニットだ。こちらは作家・青山美智子の小説が原作だが、第2作目となる今回は朝日奈寛が原作・脚本に初挑戦。本作にかける思いを3人に聞いてみた。


———今回の脚本を書いた朝日奈さんから、今回のストーリーをお話しできる範囲で教えてください。

朝日奈「今回の脚本には2つの家族が出てくるんですけど、1つは1940年代に生きた家族と、もう1つは現代に生きる家族の2つの家族です。この2つの家族の繋がりは、昔の家族の方にタケオという三兄弟の次男がいるんですけど、このタケオの娘が現代の家族のお母さんにあたるというポジションになります。
 タケオが亡くなった四十九日に実家に家族が集まった時に、タケオの遺言というか手紙というか、日記のようなものに現代の家族が触れて、そこで、その時はあまりうまくいっていなかった家族が、手紙を読むことによって、ちょっとずつ歯車が噛み合っていき、最終的には再スタートしていくというのが大まかな話の流れになります」

———この物語の着想はどこから来たのでしょうか。

20歳の誕生日に兄から贈られた手紙

朝日奈「僕には兄がいるんですけど、その兄が10年前の僕の20歳の誕生日に手紙をくれました。その手紙が表裏合わせて8枚くらいの相当量だったんです。当時の兄は27歳なんですけど、その歳で書いたとは思えない内容がそこにありました。
 実は僕の家族も結構複雑といえば複雑で、兄と僕は血が繋がっていないんです。僕には実の姉がいて、兄は父の連れ子なんですが、手紙には、ずっと兄弟が欲しいと思っていたことや、僕たち姉弟と出会って本当に嬉しかったということ、あとは今後の人生を後悔しないように生きて欲しいという内容が書かれていました。
 その兄が6年前の4月9日に病気で亡くなりまして、僕は本当に兄貴のことが大好きだったので、なんだかこのことを僕の人生の一部に留めておくよりは、知って欲しかったということもあります。この手紙の内容は本当に世界中の人に共通することだと思うので」

———この手紙を書いた時にお兄さんは、もうご病気だったのでしょうか。

朝日奈「全くそんなことはなくて、2019年に『なんだかちょっと腰が痛いな』というのが続いていて、まあただの腰痛かなと思っていたんですが、なかなか治らなかったので詳しく検査したところ骨肉腫というのがわかりました。そこから亡くなるまで結構早くて、1年も持っていないんです。
 僕もその時、もっと連絡をしておけばよかった、もうちょっと病院に行けばよかったという後悔もあったので、なんだかそれも含めて、今回のことは、この手紙の内容を書きたいがためにあったんじゃないかと思って」

※ここで実際にお兄さんが書いた手紙を見せていただく。

———すごいですね。字もきれいで内容も深いです。私にも妹がいますが、妹にこんなに思い入れの深い手紙は書けません。この時点では、お兄さんは、まさか自分が亡くなるとは思っていなかったんですよね。

朝日奈「はい。だから、もうそれが彼のリアルな人生で、それを舞台に起こしたらまたすごいことになると思って。現代のパートでは血の繋がりはあるけれど、ちょっと距離があるような寂しい家族を、過去のパートでは血が繋がってはいないけれど、家族以上に家族だったという対比を描いて、その2つの家族を手紙がつなげるみたいなストーリーにしようと思いました」

———お兄さんは、どんな仕事をされていたんですか。こんなに達筆で長い手紙を書くような。作家さんですか。

朝日奈「いいえ、全然作家とかそういう感じじゃなくて、最初は色々騒動のあった某広告代理店にいて『もう、やってられない』と辞めて、全く別会社の事務系にいってという感じでした」

———お兄さんは、それまでの人生で誰か大切な方を亡くされた経験があるんですか。

朝日奈「実の母親を幼い頃に病気で亡くしています」

———そういったことがベースにあるのですね。これから物語はどんな方向に進むのでしょうか。

朝日奈「最初は現代の家族から始まります。どこかチグハグなかたちで四十九日に集まり、ひょんなことからタケオが遺した手紙を読むんですけど、そこから過去パートに移ります。そのタケオ含めた三兄弟が葛藤や衝突もあるなかで、少しずつ絆を育んでいって、まあ最終的には戦時中なので長男のコウジに赤札が届いて特攻に行ってしまい、ほぼ家の大黒柱だった兄がいなくなった後に次男のタケオが奮闘するというか、どうにかしていく。そういった展開になります」

———そうなんですね。お兄さんの手紙という現代の物語に、戦時中のことを絡めたのは何か意図があるんですか。

朝日奈「僕は、そもそも歴史が好きで、最近の若い人というか僕らの世代の人も含めて、そういう歴史に触れる機会は本当に少なくなってきていると感じます。なんなら、もう終戦の日もわからない人も全然普通にいると思うと、そういった戦時中に実際に生きていた人の葛藤とか、そういったものを考える機会を増やしたいと思ったこともあります」

———岩田さんは今回なぜ朝日奈さんに脚本をお願いしようと思ったのですか。

岩田「僕と(奥谷)知弘くんが『OWARI NO HAJIMARI』のプロデュースをやってまして。知弘くんが朝日奈くんのこの才能を見抜いて、これは面白いんじゃないかっていう話で、じゃあここはこうしようあーしようとさまざま話し合い、たくさんの覚悟とアイデアを持って本を書いてくれました」

———奥谷さんが朝日奈さんの才能を見抜いたというのは、どんな経緯があるんですか。

奥谷「見抜いたっていうか(笑)ちょっと持ち上げすぎですけど。『OWARI NO HAJIMARI』をアリさん(岩田有弘)と一緒に立ち上げて、第1回目の公演『木曜日にはココアを』で僕が初めての演出に挑みました。今回『OWARI NO HAJIMARI』第2回目の公演で次に何やろうとなった時に、本当にたまたま寛(朝日奈寛)と、ご飯に行ってたんですよ。その時に寛から『知弘さん、俺なにか舞台とか作ってみたいんですよね』と言ってくれて。『どういうのをやりたいの?』と聞いたら、色々と案を出してくれたんですよ。僕とアリさんが、ちょうど次に何をやるかっていう話をしているタイミングに、寛が話してくれたのもあって『いいじゃん、面白そうじゃん』ってなって、そこからアリさんに『どうですかね?』と話を持っていったという経緯になります」

———そうなんですね。その時点でお兄さんの手紙の話は聞いていたんですか。

奥谷「聞いていました」

———岩田さんは、どう感じましたか?

岩田「多分、今、新井さん(ライター)が受けた感動と一緒です。血の繋がっていない兄貴を本当の兄弟のように、そしてそれ以上に尊敬しているという実体験があるのと、今の時代において家族とは血が繋がっている事、に投げかけるメッセージ性とか言葉の強さって、絶対彼にしか書けないなと思えたので。
『本、書いてみる?』って言ったら間髪入れずに『書きたいです』と言ってくれて。でも、その頃は半分くらいしか信じてはなかったです(笑)
 だから最初の頃は原案は寛くんで、脚本家はまた違う方を立てようとしてたんです(笑)でも最終的には納期を守り第1稿を書き上げてくれて、今回演出で入る上野さんも、もう舌を巻くほどでした。上野さんは前回の第1回目の公演では原作の脚本を起こしてくださった方です」

———岩田さんは、どんな役で出演されているんですか。

岩田「僕は現代パートに登場し、タケオさんの娘さんと結婚した旦那さんの役で出演します。もちろん血が繋がっていない家族の役なので、血の繋がりがない亡くなった兄を大切にするタケオさんが、僕を家族として認めてくれたわけです。タケオさんの家族への特別な想いを実感できるような役柄になると思います」

———奥谷さんは、どんな役ですか。

奥谷「1940年代のコウジという血の繋がっていないタケオの兄です。後から家族に参加する立ち位置の役です。そこに時代背景もあるので繊細に、そして寛がこの役を僕に預けてくれたという思いもキャッチしながら大切に演じたいなと思っています」

———今はどの辺まで仕上がっているところでしょうか。

岩田「今は脚本が99%出来上がっていて、このインタビューが掲載される頃には稽古をがっつりやっている頃だと思います。キャストもそれぞれいい感じになってると思うんですけどね。
 今回現代と過去の話が交互に織りなすんですけど、現代パートではそのタケオにそっくりで、タケオが特別に可愛がっているセイジという孫がいて、現代パートの言うなれば軸になる子なんですが、その役に、今まさに注目されているダウ90000の上原佑太君が、満を持してがっつり芝居をしてくれるっていう状況。その弟には玉垣大知君、妹には工藤スミレさん。以前作品でご一緒して芯の強いお芝居をして下さいます。そして僕の妻役で3人の母役。つまりはタケオの娘役には舞台に10年ぶりに特別にご出演いただける青山倫子さん。現代編では過去で書かれていたお手紙に触れ、現代の家族がどう変化していくかを見て欲しいです。
 過去パートは1940年代、激動の時代の中、懸命に生きる家族のお話になりまして。タケオ役が宮内伊織君です。知弘との縁があり、OWARI第1回目の『木曜日にはココアを』を観てくれていて、今回髪も短く切って気合い入れてお芝居してくれています。
 そしてタケオの弟、キヨシ役には大平峻也君。ご存知、名だたる舞台で大活躍で、ちっちゃくて可愛らしく天使のようで、歳は知弘と同じくらいなんですが、1940年代の登場人物で一番下の子をやってもらっています。もうめちゃくちゃいいです。彼にしかできないと思ってお願いしました。そんな子たちを育てる母にはOWARI第1回目『木曜日にはココアを』も出演していただいた今村美乃さん。そして、今回のキーとなるお手紙を届ける郵便局員役に朝日奈寛。メインビジュアルも飾ってもらっちゃいました!濃厚なシーン連続の過去パートも必見です!」

———キャスティングは岩田さんがされているんですか?

岩田「この3人で相談しながら決めさせてもらっています。特別に想い溢れるキャストたちが我らと同じ想いで作品を創ってくれる。僕らにとって大きな幸せで楽しみの1つです」

———最後に、意気込みやお客様へのメッセージをお願いできますか。

岩田「OWARI NO HAJIMARIとしては第2作目なんですけど、第1作目と同じで丁寧な作品作りをしたくて、今まで以上に信頼できるスタッフ陣が、クリエイティブで刺激的、しかも気持ちで作品に寄り添ってくれている。
 だからキャストもそうだし、スタッフもそうだし一瞬一瞬のそのシーンを丁寧に切り抜くっていうか、各セクションとても丁寧に創ってくれていて、芝居・セリフだけじゃない、観てくれた方々に色々なかたちで届けられる表現をしたいなと思っています。
 ちょっと夢を言うと、言葉が通用しない海外にこのままを見せたいなと思ってるぐらいすごく丁寧に空間を作りたいと思っています。それにはやっぱりこの2人が必要で。我らが集まるとなんだか柔らかで細かく丁寧にやりたがる空気が醸し出ます。お客さんにもこのまったりゆったり丁寧な空間を、一緒に泳いでいただけたら嬉しいなと思います」

朝日奈「ここまで信じてくれたこの2人には本当に感謝しかないです。僕が伝えたいものや書きたいものは、本当にもうのびのびと書かせてくれたので。その本当に伝えたいことや、僕の兄貴が残してくれたこの手紙と生き方っていうものは、見てくれた方には、すごくストレートに伝わるようには書いているつもりなので。
 ちょうど僕の兄貴の七回忌が今年っていうのもありまして、本当にいろんな節目が重なったこのタイミングだったので、作品自体もそうなんですけど、僕にはこんなに素敵な兄弟がいて、これほど弟に尽くしてくれた兄貴の存在を皆さんに知ってもらいたいと思っています。僕の今の人生を作ってくれた兄貴だと思います。
 それをきっかけに、観に来てくださった方も、周りの人と何か関係を築く上で、後悔することがないように1つの参考というか、そういったきっかけにしてもらえれば嬉しく思います」

奥谷「寛が初脚本ということで、僕とアリさんはもちろん周りの強力なスタッフさんのお力をお借りしながら全力でサポートしています。『OWARI NO HAJIMARI』は、派手なことはしないです。派手なことはせずとも、日常から生まれる何気ない会話から人間や家族の温かさとか、命のありがたみとか、なんか人間っていいよね、人っていいよねっていう。そう聞くと重いかもしれないですけど、日常生活ができることって当たり前だけど、それが幸せだよねっていうそういうのが作風として、この団体から滲み出たらいいかなって思っています。
 僕は、今回は寛がそれを体現してくれたような脚本を持ってきてくれたと思っているんですよ。そして、演出の上野さん(上野友之)が脚色をしてくださってより素敵な作品になっています。時代背景は戦争を描いてはいますけど、決して戦争に重きを置いているような脚本じゃないですし、どちらかというと家族をベースに笑いのシーンもちょっと入ってます。だから重く捉えずにご来場いただく皆さんには、戦争のことも知ってもらいたいですけど、それより、いろんな家族の形があるよ、愛の形があるよっていうのが伝わってもらえばいいなって思います。
 寛が書いた今作はフィクションとノンフィクションのものを掛け合わさったものが生まれているので、なんだかすごいメッセージ性があるものを届けられるんじゃないかなと思っております」

(取材・文&撮影:新井鏡子)

プロフィール

奥谷知弘(おくたに・ちひろ)
1994年12月26日生まれ、埼玉県出身。俳優・演出・プロデュース・空間クリエイト。元Candy Boyのリーダー。『あんさんぶるスターズ!!』シリーズや『ジョーカー・ゲーム』などの人気アニメ原作舞台に出演。その後主演舞台を経験しドラマや映画へも少しずつ活動の幅を広げる。テレビ神奈川『猫のひたいほどワイド』のリポーターを務める。OWARI NO HAJIMARI#1『木曜日にはココアを』ではコーヒーやアロマの資格を活かした演出を務めた。

岩田有弘(いわた・ありひろ)
1979年10月30日生まれ、東京都出身。俳優・演出・プロデュース。舞台製作チーム「銀岩塩」「秘密兵器」「大人の麦茶」そして「OWARI NO HAJIMARI」を掛け持ち、本多劇場グループだけでも50作品500ステージ以上のオリジナル舞台製作・出演し「下北沢小劇場の申し子」と称される。小劇場のみならず大劇場の舞台製作も行う『牙狼<GARO>』の初の舞台化、TVドラマとのコラボ舞台、映像と舞台の完全融合のフュージョニカルステージ『ABSO-METAL』シリーズ製作など多岐のジャンルの舞台を扱う。

朝日奈 寛(あさひな・ひろし)
1996年5月11日生まれ、東京都出身。俳優・脚本。テレビドラマや映画、舞台など数多くの作品に出演。主な出演作にドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』(Amazonプライムビデオ)や『オトナ女子』(フジテレビ系)、映画『不良少年 3000人の総番(アタマ)』や『暗殺教室2』、齊藤工監督、ショートフィルム『半分ノ世界』、舞台『NINJA ZONE』総監督:坂本浩一の豪鬼役、またOWARI NO HAJIMARIの前作『木曜日にはココアを』にも出演している。

公演情報

OWARI NO HAJIMARI #2 言乃葉」

日:2026年6月10日(水)~14日(日)
場:新宿シアタートップス
料:7,500円 U-25[25歳以下]5,500円
  学割3,000円
  ※U-25・学割は要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://www.owari-no-hajimari.com
問:OWARI NO HAJIMARI
  mail:info.owari.no.hajimari@gmail.com

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