
俳優として数多くの名作に出演する一方、コンテンポラリー・ダンサーとしても国内外で活躍する森山未來。ノルウェーの振付家・演出家、そしてアルゼンチンのダンサーと組んだ最新作『STILL LIFE-スティル・ライフ-』が、待望の日本初上陸を果たす。インタビューは、ダンスとも演劇ともつかないという舞台の内容から、これからのダンスの存在意義まで、多岐にわたった。
―――『STILL LIFE-スティル・ライフ-』は2024年のノルウェーでの初演後、「ヴェネツィア・ビエンナーレ」などでも上演され、高く評価されました。神戸でも滞在制作が行われていましたが、どういった過程を経て完成したのでしょう?
「振付のアランと、ダンサーのダニエルとは、2012年の舞台『テ ヅカ Te ZukA』の時に知り合って、ずっと一緒に何か作ろうという話はしていたんです。2020年頃、本格的に話し合い始めた時に、僕とダニエルの共通の話題になったのが、土方巽さんや大野一雄さんなどの暗黒舞踏に関してです。とりわけ彼らが用いていた“舞踏譜”に興味を持っていました。西洋のダンススコアは、五線譜の上に記号が書いてある、記号的・数学的なものですけど、舞踏譜は言葉で説明しているんです。“ミミズがはい回っているように”とか」
―――一瞬「どう動けばいいんだ?」と戸惑いますけど、逆に解釈が広がる面白さもありますね。
「要は振付に、詩的な言語というものが介在してるんですね。アランはテキストを多用して、演劇なのかダンスなのか、そういったカテゴライズに囚われずにパフォーマンスを製作してきたキャリアもあり、“言葉”から身体がどう立ち上がっていくのか?というイメージを共有しながら、クリエーションを進めることができました。土方さんの言葉に『舞踏とは命がけで突っ立った死体である』というのがあって。“STILL LIFE”は日本語だと“静物画”と訳されますけど、フランス語で直訳すると“死せる自然”なので、そこも共鳴している部分だと思います」

―――ということは、ダンス作品とは言え、台詞が入るのでしょうか?
「結構しゃべりますね。でも演劇の脚本と違うのは、言葉が物語を説明するためだけに存在するんじゃなくて、そこで繰り広げられる身体的な動き、あるいは照明や音響や舞台美術と融合して、どういうイメージが立ち上がるのか?といった、言葉を素材の1つとして扱っている部分。演劇作品でもそういうことをやっている方はいると思いますけど、どちらかというと言葉よりも、身体的なところに回帰していくので、“STILL LIFE”は演劇とは呼べないかな……とは思います」
―――共演のコーラス隊は、公演地の地元合唱団が参加するという趣向もユニークですね。
「アランから『コーラスの旋律の美しさが、作品を後押しするのではないか』という提案から、ステージには合唱団も出演します。これまでもツアー先の現地の方々に参加してもらっているんです。でも曲を歌うというより、みんなでほっぺを叩いて音を出すとか、身体を叩いて雨のように聞こえる音をノイズっぽく出してみるとか、皆さんが想像するコーラスとは違う瞬間があると思います」
―――3ヶ国で滞在制作して、各地のアーティストと交流しながら、作品の断片を積み上げていったわけですが、それが“人間と自然の関係”というテーマに集約されたのは。
「アランが作品を整理する時に、企画書みたいなものを作ったんですけど、その冒頭で『自然は私たちと切り離された存在ではない。自然とのつながりを失えば、自分自身とのつながりを失う』という、ランドアーティストの言葉を引用しています。人間が自然を切り離し、社会が複雑化し、自我と他者の境がいよいよ不確定になって、何の害もない花粉によって、あるいは自分の免疫システムによって自分自身が攻撃される。この記事だって、本当に人間が書いたのか、AIが書いたかもわからない(笑)。そんな風に、いろんなものから自分が切り離されてしまっているという危機感……“自分は今、どこにいるんですか?”という感覚が、この作品に接続していったのだと思います」

―――今おっしゃられたように、テクノロジーは日々進化する一方、国際情勢は好転が見えず、現在は大変混沌としています。そんな世界で、“ダンスをはじめとする表現活動は何ができるのか?”を問われているような気もしますが。
「現在で言えばAIですが、その時代の最新技術に触れてみてどういう表現や問題定義ができるのか、といったようなことは、常にその同時代を生きているアーティストは行っていること。でも結局、人間は絶対にどこかでフィジカルに回帰していくしかない。テクノロジーが全部やってくれる世の中になって、人間が何もしない状況が増えれば増えるだけ豊かになるという考えもあるけれど、余暇のように生きる人間の身体なんて、ろくなもんじゃない(笑)。記憶とか労働とか、いろんなことを自分から引き剥がして、身体だけが残った時に、じゃあその身体で何をするんですか?と、考えざるを得なくなるだろうと」
―――そのディストピア的な状況が決してSFではなくなってきた今、人間と自然の関わりなど、いろいろなことに思いを馳せる時間になりそうです。
「どう感じるかは自由ではありますけど、そういうことが前面に出ている作品です。身体的・音楽的な言語って、通常の言語とは知覚する脳が全然違うというか、直感的に響いてくるものではあると思うんですよ。そこを体験する/しないで、日常をどういう風に生きるのかのさじ加減は変わるはず。だからどんなに世界が変わっても、踊りたいという人、踊りを体感したいという人がいなくなることはないはずですし、なくなるなんて事態が起こる日が来るとすれば、みんなそんなに悠長ではいられないだろうと思います」
(取材・文:吉永美和子 撮影:植村耕司)

プロフィール

森山未來(もりやま・みらい)
1984年、兵庫県生まれ。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年には文化庁文化交流使として、イスラエルに1年間滞在、Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。俳優として、これまでに日本の映画賞を多数受賞。ダンサーとして、第10回日本ダンスフォーラム賞受賞。東京2020オリンピック開会式ではオープニングソロパフォーマンスを担当。2022年4月より神戸市にArtist in Residence KOBE(AiRK)を設立し、運営に携わる。ポスト舞踏派。
公演情報

『STILL LIFE -スティル・ライフ-』
日:2026年6月20日(土)・21日(日)15:00開演 ※他、神奈川・静岡公演あり
場:神戸文化ホール 中ホール
料:一般5,500円 神戸割[市内在住・在勤]5,000円 U25[25歳以下]2,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.kobe-bunka.jp/hall/
問:神戸文化ホールプレイガイド tel.078-351-3349
