
俳優・林剛史の新たな挑戦
初演出作品『アーケードの軌跡―After the Silence ―』で描く表現者の矜持
俳優として数々の舞台や映像作品で研鑽を積んできた林剛史が、2026年4月、ついに「演出家」として産声を上げる。タッグを組むのは、長年の信頼を寄せるプロデューサーの林清氏。「ダブル林」が仕掛ける本作は、寂れゆく商店街を舞台に、再生を懸けて演劇に挑む人々を描いていく。演出家として見た景色とは。初演出に挑む胸中を聞いた。
≪「いつか」が「今」になったダブル林の結成≫
―――演出へ踏み出すきっかけをお聞かせください。
林剛史(以下、剛史)「30代後半ごろから思いとしてはあったんです。役者として復帰を願っている親友といつかタッグを組もうと約束していまして、でもお互いに忙しくコロナ禍もありなかなか実現は難しくて。ならば、僕が演出としての力をつけ、基礎を固めた時にこそ彼を呼びたい。そんな中、様々な作品でお世話になっているプロデューサー林清さんの作品に携わっているうちに『ダブル林で何か面白いことはできないか』と相談したのがはじまりです。
僕は演出をやってみたい、清さんは脚本を書いてみたい、2人がそれぞれ『初めての草鞋(わらじ)』を履いて共に歩き出そうと、そこから今日まで毎日連絡を取り合い、試行錯誤を繰り返しています」
―――本作のキャスティングにおいて、SNSを通じてオーディションもありました。
剛史「フリーや個人で活動していると、外部からのオーディション情報ってなかなか入ってこないんです。SNSで知ることはあっても、テレビや映画のキャスティングは内々で決まることが多い。僕自身がそれを経験してきたからこそ、事務所に所属している、いないに関わらず、実力と情熱のある人に門戸を広げたかったんです。蓋を開けてみれば、事務所所属、フリーを問わず、様々な個性を持った方に集まっていただきました」

―――林清プロデューサーとのディスカッションで印象に残っていることは?
剛史「オーディションで清さんと評価シートを照らし合わせた時、意見は9割以上一致しました。作品に対するビジョンが合致していたことが何より嬉しかったですね。結果として本当に素敵な、そして少し癖の強い(笑)実力派のキャストが揃いました」
≪演出家泣かせの台本≫
映像や舞台を何百作品とプロデュースしてきた林清氏。脚本家として初挑戦の台本はト書き(動作指定)が緻密で、映像的なカット割りを想起させるものだった。
―――台本の初稿を拝見しましたが、とてもト書きが多くて驚きました。
剛史「初演出でこれをやるのか、という難易度でした(笑)。役者の技量が試されるし、空気感やキャラクターの深みを完全に掴まないと成立しない、いわば“役者泣かせ”であり、同時に“演出家泣かせ”で。清さんは、初めて書くからこそ丁寧に説明しようとして、ト書きが増えてしまったと仰っていましたが、演出する側としては非常に試される内容でした。それでもだいぶそぎ落としましたよね」
林清プロデューサー(以下、清P)「だから演出家と脚本家っていつも一体となってやってるんだな、っていうことが初めて脚本を作った時に理解できました。人に説明するのは大変ですよね。書いていると動きとかも俯瞰で見えちゃうので、つい書き込んでしまって。僕にとっても実験なんです」
剛史「今のままだと表現しきれない部分があるし、物語が重厚な分、1箇所や2箇所、希望や救いとなるメリハリとして“笑い”を増やしたいと伝えました。僕は役者としての目線もあるので、この台本から根幹の木は変えずとも、そこにどう枝葉をつけ、花を咲かせるか。
稽古が始まってからも、キャストの皆さんとセッションしながら生きた作品を目指しています」
≪演出席から見えた「伝える」ことの難しさ≫
―――演出家となると様々なことに関わると思いますが、気付いた事はありますか?
剛史「“脳の使い方が違う”と思いました。オーディションの話ですが、俳優は演出の意図を汲みパフォーマンスに全力を注ぎ30分くらいで終わります。でも演出家は相手の心にどうビジョンを描かせるか、それを言葉で伝える時、相手に寄り添い、どう引き出しを開けるかで。6〜7時間ぶっ通しで何人にも向き合うことはすごい体力が必要な作業で、でもそれは演出家の方々がこれまで僕に注いでくれていた労力そのもので本当に勉強になりました。
スタッフワークとしても、照明や音響のプロフェッショナルの皆さんに自分のビジョンをどう言語化して伝えるか、人間関係の構築も含めてしっかり大切に挑んでいきたいです」
清P「初演出、初脚本という初めてづくしなので、スタッフのみなさんは全て、例えば舞台監督さんもそれだけじゃなく活動されている方、音響も普段は演出家もやっている、劇団を持たれている方とか。皆さんがそれぞれいろんな立場に立って物を見られる方々にお願いしました」
剛史「心強いですよね。いろんな意見をいただきながら、同じ目線、同じ目標に向かって作っていける」
≪商店街に「参加」する、観客と共に創るリアリティ≫
本作は、林清氏がかつて高松市の商店街で感じた“さびれてしまって音のない商店街”の体験がベースとなっている。一方、林剛史もまた、阪神淡路大震災を経験し、幼少期に活気溢れていた地元のアーケードが静まり返っていく様を見てきた。
―――作品としてこだわっていきたいところは?
剛史「清さんから提示された3つのプロットの中で、僕が共感して選んだのがこの物語でした。自分が過ごした街並みがなくなっていく寂しさ。そこに役者が役者を演じ芝居という要素を組み込み、どう活気づけられるか。このコンセプトとテーマは、今の僕にしかできないと感じました。
そして進んでいく会話劇の中で、喋っていない人間も何を思い、どんな表情をしているかとか、そんなところにも注視した“間”と“空気感”にこだわった、五感で商店街を感じてもらえるような演出を構築していきたいです」

―――これからも含めてどんな演出家を目指しますか?
剛史「役者の痛みとか悩みは、やはり役者をずっと続けている分、誰よりもとは言えませんが、ある程度わかると思っています。
役者にこうしたいを全部渡すだけではなく、一本筋通して、言い方悪いですけど、ちょっと俺の背中についてきてくれ、のような姿勢や人物であったり、林剛史だから!と思わせる説得力というか、それが最終的に尊敬や信用、信頼に繋がると思っているので、そういう演出家でありたいと思っています。僕自身がもしかしたら皆様からオーディションされている側じゃないかなと感じています」
―――では楽しみにしていることは?
剛史「本当に素敵なキャストが揃いました。食材(キャスト)は最高です。機材や厨房(スタッフ)もベテランが支えてくれています。あとは、コックである僕の腕次第。よく演出家が『責任は俺が取る』と言いますが、今はその言葉の重みが痛いほどわかります。でも演出も芝居も表現の根っこは“楽しんだもん勝ち”。緊張や悩みを超えて、スタッフ、キャストの皆様といろんな意見を交換し合って着地していきたいです。
そしてお客様には来てよかったと思ってもらえる舞台を作っていこうと思っています。
劇場に入った瞬間、お客様には商店街の一員になってほしいです。ちょっと商店街に入ってきたみたいな感覚で劇場に来ていただけたら」
(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

林 剛史(はやし・つよし)
1982年8月15日生まれ、兵庫県神戸市出身。
2004年スーパー戦隊シリーズ『特捜戦隊デカレンジャー』デカブルー役で注目を集める。ドラマ『アストロ球団』主演・宇野球一役では得意の野球を披露するなど、身体能力を生かして多くの映像や舞台で活躍中。近作に、舞台『ハイキュー!!』シリーズ、朗読劇『涙箱』シリーズ、『歌舞伎町シュガーナイト』、『蒲田行進曲』、『鬼背参り』、劇団バルスキッチン『商店街グランドリオン』などがある。
公演情報

舞台『アーケードの奇跡 -After the Silence-』
日:2026年4月15日(水)~19日(日)
場:千本桜ホール
料:S席[特典付]6,500円(指定席・税込)
一般5,800円(自由席・税込)
HP:https://x.com/arcade_kiseki
問:ファインプロモーション
mail:info@finepromotion.co.jp
