創立40周年記念公演、2年の延期を経てついに上演! 尊敬しているけれど一緒にいたくない──史上最悪の相棒とコンビ再結成なるか!?

 加藤健一役者人生50周年&事務所創立40周年を記念した舞台『サンシャイン・ボーイズ』。同い年の佐藤B作を迎え、2人でヴォードヴィルの大スターコンビを演じるという夢のような企画が2020年5月に上演予定だったが、新型コロナウイルスの影響を受け、断腸の思いで延期した。悔しい思いをバネに、再びの夢を胸に、満を持して2022年に上演が決定!史上最高とも言われた大スターコンビ、ウィリーとアルを演じる2人に話を聞いた。

何もかもそのままに『夢、再び!!』の文字だけ書き加えて

――ついに上演ですね。再始動のお気持ちはいかがですか?

加藤「2年前、本番2週間前に延期が決まってすごく悔しい思いをしましたが、2年経ったおかげで噂が地方に広まって『ぜひうちで上演してください』という話もいただいたのは嬉しいことでした。台詞も2年前にすべて覚えていたので再演は楽だろうと思っていたら、すっかり忘れていましたが」

B作「そうそう、本当に忘れてましたね。びっくりするぐらい! 中止になってから一度覚えたセリフは時々チェックして忘れないようにしようなんて思っていたんだけど、2、3回しか続かなかったね」

加藤「また覚え直しましょう(笑)。台詞以外にも、大道具も発注して少し組み立てていたんですが、壊さざるをえなくて廃棄しました。悔しいけど、俳優もスタッフも同じメンバーが全員揃って出発できるのは本当に嬉しいです。何もかもそのままに『夢、再び!!』の文字だけチラシに加えました。リベンジですね!」

B作「そうですね。コロナ禍で僕が上演できなかったのが『サンシャイン・ボーイズ』だけなんですよね。台詞はゼロから覚えなおしていますけれど、大変な台詞劇なので、この歳でやるのは大変ですね。そこが面白いんでしょうけど」

――台詞劇であり、とくにお2人の関係や掛け合いは見どころのひとつですが、初共演の印相は?

B作「加藤さんは大きな岩のような方でね。ドーンとしていらっしゃるので本当に頼もしいですよ。ぶつかりがいがあるので、どう崩してやろうかと。でも、岩はなかなか崩れないね~」

加藤「なにを(笑)」

B作「頼もしい演劇人ですよね。生き方が演劇そのものですから! この前も柄本明さんと芝居をしていた時に、あの柄本さんが『加藤健一は別格だろう』と言っていて嬉しかったですね。同年代でこれほど尊敬に値する方と舞台に立てるありがたい経験ですから、精一杯悔いのないようにやります」

――加藤さんは、B作さんの印象はいかがですか?

加藤「いやあ、B作さんはもうちょっとチャラチャラした人かなと思ってたんですけどね。すごく真面目なので驚きました」

B作「どうも誤解されるんだよなぁ~!(笑)」

加藤「僕なんかよりずっと真面目で、稽古初日に台詞が入っているんですよ。どれだけ努力して稽古初日に臨まれたんだろうなと驚いて、とても尊敬しております」

B作「台詞の量が違うから! 俺、加藤さんの1/4ぐらいだから! 加藤さんは相撲で言うと“東の正横綱”で、こっちは“関脇小結”みたいな感じだから」

加藤「なにを言ってるの(笑)」

B作「なにか一つでも無礼なことがあっちゃいけないと思うんですよ。加藤さんの前では台詞を覚えていないと芝居にならないだろうと。と言うか、俺は台本を持って稽古をするのが苦手なんだよね。目の前の文字に集中しちゃって、自然にできないの。だから覚えていないと申し訳ないなと。台本を持ってもできる人は羨ましいですけどね。ただ、稽古前に台本がないなんてことは何回も体験しているから、今回は戯曲があるだけで嬉しくて嬉しくてしょうがないので、台詞だって覚えますよ(笑)」

加藤「実は、僕はね、台本を持って読むのは得意なんですよ」

B作「いいなぁ!」

加藤「演出家に『まだ持ってますか?』とついに聞かれるくらい持っています。若い時は記憶力も良かったので、稽古初日に初めて台本を開くこともありました」

B作「えええ⁉」

加藤「だからよく演出家や翻訳者の方に『加藤さんは初日の本読みが一番下手ですね』と言われて……というのも前の日まで別の作品を読んでいるんで、ごちゃごちゃになってしまうんですよね」

B作「すごいな、時間があれば上演戯曲を探していらっしゃるわけですね!」

2年延期した間に、脚本がもっと面白くなった

――『サンシャイン・ボーイズ』は喜劇王ニール・サイモンが悲劇も書けることを証明するために発表したといいます。この作品、喜劇ですか? 悲劇ですか?

加藤「いやあ、喜劇でしょう(笑)」

B作「大悲劇でもありますよねえ」

加藤「僕はニール・サイモンの本を全部持っていて、『サンシャイン・ボーイズ』も何回も読みました。若い頃からいつかはやりたかったけれど、おじいさん達の話だからまだ早いよなぁと思っていたんです。そしたら、いつの間にか“今もうおじいさんじゃん! 早くやらなきゃ!”と。幸いにも事務所創立40周年記念だったので上演を決めて、B作さんが乗ってくださったので絶対に成功するなと思ったんです。結果的には延期になってしまったわけですが、今は2年分歳をとったせいか、前に読んだ時よりも台本が面白いです」

B作「うん。この2年間が有効だった感じがしますよね」

加藤「やっぱり歳をとると面白い作品なのかもしれないですね。相方と一緒にやりたいのに意地を張っている年寄りの感じとか、よりわかるようになったのかも。本当にすごいです、ニール・サイモンは」

B作「名作ですからね。仲の悪い奴っているけれど、笑顔でいながらもやっぱり嫌いだというのを演じるのは、本当に難しい。まぁ、舞台を降りたら口をきかないというのはコンビの人達にはよくあるみたいだけどね。なんでそういう気持ちになっちゃうのかが見えてきたら面白いんだろうな。きっと“笑いを取ってるのは自分だ”とか“客が喜んでるのは俺の力だ”みたいな思いがお互いにあるんだろうね。それが“本当に嫌いだ”という気持ちにまで持っていくにはどう作っていったらいいかというのは、戯曲にしか答えがないから読んで想像するしかないけど」

加藤「好きな台詞があるんですが、『そんなに嫌なら、どうして43年も一緒にやってたの?』『そりゃあ奴がすごいからだ』という。嫌いな奴のことを『あんな絶妙なタイミングでジョークを飛ばせる奴は他にはいない。あんな風に台詞を言える奴も他にはいない』って言うんですよ。『あいつがどれぐらい凄かったか知ってるか?』と、わざわざ言うところは核心的ですね。役者としてすごいと思うことと、『唾を飛ばすな』『指でつつくな』ということはまったく次元が違う。尊敬しながらも嫌いというのは、僕らもものづくりをする一人としてわかります。ただ、すごい人は嫌われたりする。ゴッホだってベートーベンだって傍にいるのは大変そうでしょう。すごい才能がある人はどこか嫌なところがあったりもするんですよね」

B作「たしかに(笑)。尊敬しながらも仲が悪いという関係を見せるのは難しいですね。前に熊倉一雄さんがテアトル・エコーでやった時にすごく評判が良かったらしいので、エコーに電話して『ビデオありませんか?』って」

加藤「言ったの?(笑)」

B作「そしたら『ない』と言われた。ちょっと見てみようかと思ったんだけど、そういうズルしちゃ駄目だね!“自分で考えなさい”っていう天の声だったね、あれは!」

プロの遊び人として、芝居でとことん遊ぶためには

――お2人はウィリーやアルと同世代になりました。かつて思い描いた俳優像に近いでしょうか?

B作「うーん……どんな俳優になりたいというものはなかったんですよね。でも、とにかく芝居は上手くなりたかった。だから、少し前の時代の俳優さんへの憧れは強かったです。昔の映画に出ていた地味だけど主役よりも脇で輝いているような俳優さんはほとんど好きです。藤田まことさんや、渥美清さんや森川信さん……普通のおじちゃんを演じながらも、若い時から浅草のストリップの世界でお金を稼いでいた匂いや色のような感じが残っているところが素敵だなぁと。自分はそうじゃなくて、普通に田舎から東京に出てきて大学で芝居をやったから、若い時に大変な苦労をしてこの世界に入ればよかったのかもしれない。まぁ、生きるための苦労はしてるんですけどね」

加藤「もちろんそうですよね」

B作「でも(ビート)たけしさんを見ていると、浅草でエレベーターボーイをやったりと、どん底から登ってきている。コント55号の2人の笑いの作り方もとてつもなく追い込んでいたんですよ。萩本(欽一)さんは坂上二郎さんの代わりに相手役を探していたけれど、結局、二郎さんには敵わない感じがしちゃうんだろうね。コントでも、萩本さんは全部台本をわかっていて、二郎さんはなにも知らないでいきなり生本番ということをしてきてた人達。普通に台本があって稽古で作っていく笑いはつまらなさそうだったね。一緒に舞台をやった時、同じ芝居をしていたら萩本さんに怒られたよ。『いつまでそんなに気に入ってやってるんだ。稽古で作ったものを壊せ』とね。何のための稽古だったんですか!と思うけど(笑)」

加藤「すごいね(笑)」

B作「しかも壊したうえでお客さんにウケなきゃ駄目だから、大変なプレッシャーでしたよ! でも浅草あたりで苦労してきた人達は、そういうことを毎日のようにやってたんだろうな。それが血となり肉となりテレビに出るまでになった人は、やっぱり相当な努力と才能があって選ばれた人達なんだろうな。だから『サンシャイン・ボーイズ』の2人もかなりすごい方々なんだろうと思うね。そんな人達が歳をとってもう1回一緒にやろうという時には、いろんなプライドもあるし、年寄り的な“お前がやりたいって言うならやってもいいよ”みたい意地の張り合いもあるんでしょうね。本当はやりたいくせに、そういうふうに言っているところが面白いですよね」

加藤「そうですね、読めば読むほど面白い(笑)。そうやって今、僕はこの作品をとにかく楽しんで読んでいるところ。まだ何を表現していけばいいかまで考えられていないんです。どうすれば観た人が良かったなと思ってもらえるのかは、これから考えていかなきゃいけないですね。でも基本的には、やっている人が楽しむことが大事ですよ。演劇でもスポーツでもプロフェッショナルと言われる人はプロの遊び人だから。遊ぶためには役や作品を理解しなければいけない。たぶん誰よりも自分が楽しみにしてます(笑)」

(取材・文&撮影:河野桃子)

プロフィール

加藤健一(かとう・けんいち)
 静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を創立。
 その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞 (1982/1994年)、文化庁芸術祭賞 (1988/1990/1994/2001年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞 (2002 年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞 (2004 年)、第38回菊田一夫演劇賞、他演劇賞多数受賞。2007 年、紫綬褒章受章。2016年、映画『母と暮せば』で第70回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。

佐藤B作(さとう・びーさく)
 福島県出身。1973年、劇団東京ヴォードヴィルショーを結成。舞台出演は、劇団本公演のほか、『奇跡の人』『ヘンリー四世』など多数。2013年第48回紀伊國屋演劇賞団体賞、ほか受賞多数。
 近年の舞台は『終われない男たち』、二兎社『ザ・空気ver3 そして彼は去った…』、プリエールプロデュース『マミィ!』など。主な映像出演はドラマ『こちら本池上署』『渡る世間は鬼ばかり』、NHK大河ドラマ『新選組!』・『八重の桜』・『鎌倉殿の13人』、連続テレビ小説『はね駒』、映画『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』ほか。

公演情報

加藤健一事務所 vol.107
『サンシャイン・ボーイズ』

日:2022年3月3日(木)~14日(月)
場:下北沢 本多劇場 ※他、地方公演あり
料:前売5,500円 当日6,050円 
  高校生以下2,750円 ※要学生証提示/当日券のみ
 (全席指定・税込)
HP:http://katoken.la.coocan.jp/
問:加藤健一事務所 tel. 03-3557-0789

インタビューカテゴリの最新記事