1995年に第42回産経児童出版文化賞 JR賞および第26回講談社出版文化賞 絵本賞を受賞し、30年経った今もなお愛されている、きむらゆういち・あべ弘士による絵本『あらしのよるに』。ヤギの“メイ”とオオカミの“ガブ”の種族を超えた友情が描かれたこの物語を、読み聞かせと音楽によって届けるスペシャルイベントが開催される。
300インチのスクリーンに絵本の世界を映し出し、よむ人の声とかなでる人の音楽でとっておきの劇場体験を届ける今回のイベントについて、メイ役の中越典子、ガブ役の永田崇人、音楽と歌を担当する瓜生明希葉に話を聞いた。
―――最初にこのイベントのお話を聞いたときはどんなお気持ちでしたか?
瓜生「この本が大好きだったので、率直に『やったぁ!』と思いました。自分の子どもにも読み聞かせしていた本でしたので、決まった瞬間にまず子どもに自慢をしました(笑)」
中越「子どもが小学校1・2年生なのですが、学校の図書ボランティアに参加して読み聞かせをしているんです。絵と少ない文字数の文章で進められていく絵本の世界観、雰囲気、自分のイメージがどんどん広がっていく感覚がすごく楽しくて、子どもにとっても素敵な時間になるのではないかと思って始めたボランティアでした。
今回、こうして音楽・照明・演出もしっかりとしていただく中で、読み聞かせをするというのは初めてのチャレンジなので、私自身が一番楽しみにしています。今日もワクワクしています」
永田「僕も『あらしのよるに』は小さい頃に読んだ記憶がありますし、小学校6年生くらいの時に映画化されてそれを観たのも覚えています。当時、その映画の主題歌だった曲がすごく好きで、今もプレイリスト入っているんですよ。それくらい思い入れがある作品です」
中越「映画になっているの?」
永田「そうなんですよ、アニメーションの映画になっています。作品として多くの方に親しまれているので、このチャーミングなガブという役をどう表現できるのか楽しみにしています」
―――今回のイベントは、スクリーンに絵本の絵が映し出されて、その前でおふたりが読み聞かせをする形になるのですよね。瓜生さんは、その読み聞かせの合間に歌を歌われるのですか?
瓜生「そうです。歌います。それから、絵本の中に出てくる雷の音などの効果音も出せたらいいなと思っています」
―――今回は何曲くらい楽曲を用意されているのですか?
瓜生「今は3曲用意しております。導入の部分で歌って、劇中で歌って、最後に子どもたちとも一緒に歌えるようなフレーズのある曲を作れたらと構想しています」
―――SEやBGMもピアノなどで表現されるのですね。
瓜生「そうですね。絵本の中に、例えばお弁当が落ちるシーンで“ヒュー”という擬音が出てきますよね。そうした擬音をピアノの音で表したら、大人も子どもも面白いと思っていただけるのかなと。普通の芝居ではあまりやらない、ピアノがあるからこそできる演出をできたらいいなと思っております」
―――長く愛されている名作ですので、今さらな質問ではありますが、この作品の魅力をどこに感じていますか?
瓜生「ハラハラ感とほっこり感の絶妙なバランスが魅力だと思います。相反する、仲良くなり得ないだろう間柄というのは、現実世界でもありますよね。でも、そんな2人でも魅力を感じて、惹かれ合って、関係が構築されていく過程は何にも代えがたいものだと思います。それが人間関係や友情の基本の部分だと思いますし、それをこのお話の中で体感でき、大事な人を思える時間になるのではないかと思います」
中越「その通りだと思います。あまりにも哲学的で、深い世界を持った作品なので、私自身も学ぶものがありました。何も見えなくても繋がるということがあるんだなと、その魂と魂が結びつく瞬間を感じて、それこそが本来の友達だなと羨ましさすら感じます。
でも、この物語では、本当にガブが魅力的なんですよ。良いところは全部ガブが持っていく(笑)。面白いところも惹きつけられるところも全部ガブです(笑)。メイはかわいいお尻があればそれだけでいい。ガブは怖いと思われているけれども実は優しくてチャーミングで、自分自身も戦っているという、すごく分かりやすい主人公です。メイはそれを盛り上げていく役柄なので、私もガブを演じたかったなと思いますが(笑)、2人の掛け合いも面白いのではないかなと思います」
永田「そう言われるとよりプレッシャーです(笑)」
―――永田さんはこの作品のどんなところに魅力を感じますか?
永田「“友達最高”に尽きます。最近、今でも付き合いがある学生時代の友達や当時、仲が良かった友達のことを思い返して、本当にありがたかったなと思うことがたくさんあって。やっぱり友達は何ものにも代えがたいものです。そうしたことがこの作品では描かれています。僕自身も『友達って大事だな』と思いながらこの作品に飛び込みたいと思います」
―――それぞれの役柄の魅力についても聞かせてください。中越さんはガブへの思いが強いとは思いますが、メイ役についてもぜひ(笑)。
中越「どうやって読み分けをするのか理解していなかったので、“そうなんだ、メイなんだ、なるほど”ってなっているんです(笑)。作品としてガブの目線で描かれた文章が多くて、メイちゃんの気持ちが書かれているところが少ないのですが、最後にメイちゃんが実は『私は食べられるのかもしれない』という不安を抱いていたことが明確に分かる場面があるんですよ。そうした思いを持ちながらも、ふわふわとした可愛らしい雰囲気があって、天然で、スッと入っていけるような隙がある。ふわふわとした柔らかいイメージです。
私、メイちゃんのお尻がアップに描かれているシーンが大好きなんですよ。メイちゃんのセリフはないし、お尻と尻尾しか画面には出ていないんですが、プリプリってしていて愛おしさを感じます。なので、そうした雰囲気を出せたらいいなと思っています」
永田「ガブは全てが魅力ですが、その中でもあえて魅力を挙げるならばチャーミングさです。憎めない、可愛らしいところがたくさんあって。
僕はそうしたちょっと抜けたところやかわいらしさがある役を演じるのが好きですし、ガブのことも大好きなので、楽しんで演じられたらいいなと思っています」
―――瓜生さんはおふたりが演じるメイとガブのどんなところを楽しみにされていますか?
瓜生「メイさんはやっぱりお尻です(笑)。ガブはどうやったって面白い役になると思いますが、(感情をあまり表に出さないメイを演じる中越)典子先輩の見せどころは多くを語らずに伝えることなのだと思います。明文化はされていないけれども、佇まいや表情から醸し出すものがある。そんな力量がある典子先輩だからこそ合う役なのかなと思います」
―――中越さんと永田さんは瓜生さんの歌と音楽とのコラボレーションにどのような期待がありますか?
中越「むしろ危機感があります(笑)。瓜生さんの音楽はものすごく心に染み渡ってしまうので、音楽に心を持っていかれてしまうんですよ。スッと心の中に入ってきて、心が揺れてしまうので、今回、感情を持っていかれすぎないようにしたいと思います」
永田「僕は先行して音楽を聞かせていただいたのですが、すでに心を持っていかれましたよ(笑)。3曲目のタイトルもすごく好きでしたし、改めてひらがなって美しいなと思いました。あえて英語を使っているところもあって、きっといろいろと考えて作られているのだろうなと感じました」
瓜生「ありがとう。英語に関しては、演出家さんと相談してあえて入れたんです。子どもたちは、今の時点では英文の意味は分からないかもしれないけれど、大人になったときに『これってそういう意味だったんだ』と振り返ってもらえたらいいなと。2度、心に染み渡る時間があったらいいなという思いで入れてみました」
―――「親子で楽しむ」イベントということですが、子どもたちにはどのように楽しんでもらいたいですか?
瓜生「今日、おふたりのお話を聞いていて、この『あらしのよるに』は、性善説のお話なんだなと気づきました。どんな人か分からなくても信じてみようという気持ちや、相手を慮って気に掛けることの大切さが伝わる作品なのかもしれないと思います。
子どもたちには、まだ『絆』という概念はないかもしれませんが、この作品をきっかけにして、お母さまやお父さまとお子さんが『友達を裏切ってしまったら悲しいよね。優しくしたら嬉しいよね。信じてもらえたら嬉しいよね。約束を守るって嬉しいよね。2人だけの合言葉があるのって嬉しいよね』と、会話をするきっかけになったら嬉しいです。子どもたちに、生きているとたくさん素晴らしい友情に出会えるということを伝えていきたいですね」
中越「私自身は心を込めて読むだけなので、それをどう受け取っていただいても、どう楽しんでいただいても自由に楽しんでいただければと思いますが、こうしたイベントはすごく素敵な機会だなと思います。私は田舎で生まれ育ったので、子どもの頃にこうした読み聞かせを観に行くことはなかったんですよ。ですが、渋谷という大都会の中心で親子でいらっしゃって読み聞かせを聞くというのは素敵ですよね。やっぱりそれは都会の良さなんだと思います。
子どもたちにいろいろな選択肢があって、例えば習い事もたくさんの種類があって、最先端のものにも触れ合える。今回のイベントでは、芸術を子どもたちに伝えられたらいいなと思います。芸術には、みんなの気持ちに寄り添ったり、勇気をもらえたりする力があります。私たちはただ読むことしかできませんが、子どもたちがこれを聞いて、ただ笑うだけでもいいし、素敵な音楽や歌声を聞いて喜んでくれてもいいし、『ガブかっこいい。メイちゃんかわいい』と思うだけでもいい。どんな刺激でもいいので、子どもたちに、そして大人の方にも何かを伝えられたらいいなと思います」
永田「本当に自由に観てもらえたらいいですよね。大きなスクリーンに絵本が映し出されていて、その中で読み聞かせがあって、音楽もあって、それを自由に楽しめるというのはすごく贅沢だなと思います。帰りたくなったら帰ってもいいと思うんですよ。それくらいフリーダムに、カジュアルな公演になればいいなと僕は思います。
演劇は、どうしても観るときのマナーがあるので、お子さんを連れていくのは難しいという方もいらっしゃるかもしれませんが、この公演は大声を出してもいいし、何をしてもいい。そんな自由な公演です。それって、僕たちにとってもチャレンジなんですよ。僕自身も今、どうなるのか分かりません。一生懸命読んでいても、泣かれてしまったらどう反応しようと思っています(笑)。きっと唯一無二の空間になると思うので、楽しみですね」
―――ちなみに、皆さんの初めての観劇体験はいつ頃、どのような機会だったのですか?
瓜生「観劇ではないのですが、私が舞台というものに関わりたいと思ったのが、小学校3年生のときに、地元の福岡で通っていたピアノ教室でミュージカルを作るという特別企画に参加したときでした。
その企画で『サウンド・オブ・ミュージック』をやることになったんですよ。普通のピアノ教室だったんですが、情操教育の一環としてなのか、そこに通っている子どもたちが生徒役を演じて上演するという企画で。通っている生徒全員がオーディションを受けることになったので私も受けたら、その子役の1人に選ばれたんです。そこで舞台に出演することになり、舞台制作の奥深さを知って、舞台に関わる仕事をしようと心に決めました。
実際に観劇したのは、16歳のときに『人間風車』という舞台の音楽を担当させていただいたときです。初めて劇場で観て、演劇って恐ろしいなと。生のお芝居の迫力に震えるような怖さがあって、すごく覚えています」
中越「同じです。私も初めて観たのは『人間風車』でした。音楽も怖かったですよね」
永田「僕も正直なところ、子どもの頃には観た記憶がないんです。学校の体育館などに来てくれていた芝居を観たくらいしかなかったかなと思います。しかも僕はヤンチャ坊主だったので、その時はちゃんと観ていなくて。なので、東京に来て、世の中にこんなにも演劇ってあるんだと驚きました。
もし、自分が小さい頃に戻れたら、子どもの頃に劇場に行ってみたいです。劇場には行ったことはなかったですが、子どもの頃、母親の友達が『ぐりとぐら』の絵本を読み聞かせしてくれたことがあったんですよ。いつ、どこだったのかも覚えていないですが、その瞬間だけは覚えていて。そんな記憶のように、今回、劇場にきてくれた子どもたちがいくつになっても、その瞬間の記憶だけでも覚えてくれていたらいいなと思います」
―――最後に改めて読者へのメッセージをお願いします。
中越「私たちも新たなチャレンジになると思います。奇跡的な瞬間を私たちも期待しているので、ぜひその時間を一緒に楽しみに来てください」
瓜生「みんなで作り上げる舞台だと思っているので、お子さまも親御さまも含め、みんなで楽しみましょう」
永田「僕自身も楽しもうと思っています。みんなで楽しめるイベントになったらいいなと思っていますので、迷っている方はぜひ足を運んでいただけたらうれしいです」
(取材・文:嶋田真己)
プロフィール
中越典子(なかごし・のりこ)
佐賀県出身。1999年からモデルとして活動を始め、ドラマ『ストレートニュース』で女優デビュー。2003年のNHK 連続テレビ小説『こころ』でヒロインを演じ、広く知られるように。主な出演作に、NHK 連続テレビ小説『ブギウギ』、舞台『薮原検校』、舞台『永遠の一瞬〜Time Stands Still』など。2026年1月4日よりNHK BS時代劇『浮浪雲』の放送が控える。
永田崇人(ながた・たかと)
福岡県出身。ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』シリーズで、音駒高校・孤瓜研磨役として出演し、話題に。主な出演作に、ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』、舞台『W3 ワンダースリー』、ドラマ『ガンニバル』、『無能の鷹』など。2026年3月開幕のPARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』への出演が決定している。
瓜生明希葉(うりゅう・あきは)
福岡県出身。中学時代からオリジナル曲の制作を始め、高校時代に舞台『人間風車』の劇中劇に抜擢される。以降も、ミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』、『MIDSUMMER CAROL 〜ガマ王子VSザリガニ魔人~』など、数々の話題の舞台に楽曲を提供。京王グループやメナード化粧品「薬用ビューネ」のCMソングも担当するなど、各方面からセンスあふれる楽曲と透明感のある歌声で注目されている。
公演情報
CUBE presents 親子で楽しむ『あらしのよるに』
読み聞かせと音楽 スペシャルイベント
日:2026年1月12日(月・祝)
11:00/14:00/17:00開演 ※開場は開演の30分前
場:CBGKシブゲキ!!
料:おとな[中学生以上]3,000円
こども[小学生以下]500円
(全席指定・税込)
HP:https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/arashinoyoruni
問:キューブ
tel.03-5485-2252(平日12:00~17:00)