
2015年にブロードウェイで初演され、日本では2018年に東京・大阪で上演されて大きな話題を呼んだミュージカル『サムシング・ロッテン!』。再演を望むたくさんの声を受け、2025年12月から2026年1月にかけて劇場に戻ってくる。
本公演では、初演で演出を手掛けた福田雄一、そして主演を務めた中川晃教が続投。長らく再演を熱望していたという2人が作品のもとに集い、再演に向けての想いや作品に魅了される理由を熱く語った。
―――初演から約7年、ようやく再演が叶いました。今の想いをお聞かせください。
福田「初演が終わってからも、アッキーとはWOWOWの番組『グリーン&ブラックス』でしばしば会う機会があって、会うたびに『“ロッテン”、やりましょうよ』と言っていたんだよね。そう言っているうちにコロナ禍に突入し、それが明けて『ようやくやれる!』と思ったわけで、“ロッテン”の再演はずっとアッキーと僕の念願だったんです」
中川「僕も福田さんにお会いする度、同じ想いでした。コロナ禍ではいろいろなエンターテイメントがストップしてしまってつらかったのですが、そんな中でも福田さんには“グリブラ”収録で定期的に会うことができ、“ロッテン”の話をしては元気をもらっていました。
『サムシング・ロッテン!』は、シェイクスピアという時代のスター的な作家に対して“羨ましい”と思っているしがない作家が、彼に憧れながら『どうしたら自分もあんなふうに輝けるんだろう?』と悩み、『今はまだ冬の時期だけど、きっと春が来る……!』と前へ進む気持ちを持ち続ける作品です。
ミュージカル愛が炸裂しているこの作品には、コロナ禍での『みんなで再会できる日が必ず来る!』という自分たちの気持ちが重なったようにも感じています。ただ、『再演やりましょうよ!』と言うは易し(笑)、形にするためにはいろいろな物事が動く必要があり、なかなか大変で……、でも、言い続けると叶いますね!」
福田「本当に!」
―――おふたり人の出会いは、“ロッテン”の初演よりも前だったのでしょうか?
福田「さっき聞いたんですけど、僕らは(シアター)クリエで会っているらしいです」
中川「はい。シアタークリエの楽屋口で、立ち話をしました。僕は『ジャージー・ボーイズ』の舞台稽古で、福田さんはその前後にクリエで作品をやるということで、その打ち合わせか何かでクリエにいらしたのかな。そこでお声がけさせていただき、福田さんは『“ジャージー”、観たいと思っています!』と言ってくださって。まだ、僕たちが一緒に仕事をするという話は全くないときです」

福田「僕のアッキーファン歴は結構長いので! 僕がミュージカル『モーツァルト!』を初めて観たとき、アッキーはもう出演していなかったんですが、CDを買って車で聞いていたら、『明らかにこの曲は違う人が歌っている』、『これは誰?』という歌声が入っていて、奥さんから『中川晃教さんだよ』と教えられました。アッキーの歌声に魅了され、あのCDを毎日聞いて、『この、歌の上手な方に会いたい!』と思っていたんです。
それで、アッキーに“グリブラ”で初めてお会いしたわけですが、まぁ自由だなと(笑)」
中川「えっ、そうでしたか?」
福田「台本はあるもののあまり沿わないスタイルのようで、横で(井上)芳雄君が『アッキーは自由だなぁ』と言っていたのが印象に残っています(笑)。僕はそれが大好きでした!」
中川「いやいや、そんなことは! 時間的にあまり猶予のない状況でいただくグリブラの台本を、僕がしっかり覚えられないという経緯がありまして。覚えにくい台本かというとそうではなく、芳雄さんをはじめ他の方々は覚えてきているので、僕が不慣れなだけという事情があり……。また現場で、福田さんが『どんな面白いものを見せてくれるのかな?』と期待を込めた感じで見ておられるので、かなりの緊張感がありました」
福田「あの頃から、僕の中にはきっと『アッキーとコメディをやりたい』という気持ちがあったんだと思います。アッキーは本当に“キラ星”ですが、売れていないダメ男の役を任せたら、面白くしてくれるんじゃないかという期待がありました」
―――今回、シェイクスピア役を加藤和樹さんが演じられるというのが、初演から大きく変わるポイントのひとつですね。
福田「カズッキーはね、とんだ天然ですよ! めちゃくちゃ面白い子です」
中川「はい、本当に!」
福田「僕は和樹くんって怖いのかなと思っていたんです。顔立ちもキリッとしているし。でも“グリブラ”に来てくれたら、当時、コントと僕仕切りのトークコーナーがあったんですけど、カズッキーが誰よりも一番饒舌でびっくりしました(笑)。
今回の出演のきっかけになったのが、彼が『ビートルジュース』の初演を観に来てくれたとき、かなりスクロールしないと読み切れないぐらい長文の感想をくれて、『すごく面白かったし、この作品をやってみたいと思うけれど、僕には主演を務めたジェシーくんみたいなことはできないから、すごく悔しいです。でも、福田さんとコメディミュージカルをやりたいという気持ちがとても強くなりました』と。それもあって、“ロッテン”の再演が決まったときに、まず彼が浮かびました。カズッキーにシェイクスピア役をやらせたら、めちゃくちゃ面白そうだなと思ったんです」

中川「なるほど、そういう流れだったんですね!」
福田「だからカズッキーに直接連絡して、『“ロッテン”を再演するんだけど、シェイクスピア役をやってくれない?』とオファーしました(笑)。『やらせてください!』と返事をもらい、スケジュールを調整してくれて今回の出演が叶ったわけなんです。僕にとって和樹くんは笑いが大好きという印象なので、今回の稽古ではだいぶ暴れてくれるんじゃないかという期待感があります!
一幕の登場シーンはナルシスト全開、二幕はかなりボケなくてはならないので落差が大きいですし、とくに二幕はキャラクターの作りようで自由にやれるので、彼がどんなふうに作ってくれるかすごく楽しみ。カズッキーの演じるシェイクスピア役は、ブロードウェイで同役を演じたクリスチャン・ボールのテイストと近くなる気がしているんですよ」
中川「僕は和樹さんのシェイクスピア役を想像しては、1人でニヤニヤしています(笑)。シェイクスピア役が和樹さんに決まったと聞いて『観に来られるお客さんは、この年末年始、ハッピーになれる!』と思いました。和樹さんは、向き合う相手役が見たいものにうまく変わってくれる方。演じるにあたって核となる部分が互いに通じ合った瞬間、1人ではできない芝居が生まれるんです。
今回、僕が落ちぶれた役をやり、和樹さんは優等生の役。これまでだったら逆のような配役が、どう作用するのだろうととても楽しみです。この作品は楽曲が難しいですし、コメディは緻密に作っていかなければならない部分も多く、初演はまさにみんなの力で作ったという感覚がありました。再演はそれを土台に、どこに向かっていくのか。和樹さん含め新キャストの方々の顔ぶれを見て、『初演メンバーの僕も頑張らなきゃ!』と気持ちを引き締めています」
―――中川さんは演出家の福田さんとご一緒する醍醐味を、どのようなところで感じますか?
中川「敢えて言葉を選ばずにいうと、やっぱり色々な意味で『怖い』です。というのも、僕は福田さんのことをとてもすごい方だと思っているから。出自が音楽、ミュージカルである自分に対して、福田さんはもうひとつスケールの大きな世界、映像という場で戦っておられる方という印象があり、そこが、僕が福田さんと一緒に仕事をしたいと思う部分でもあります。一方で福田さんもミュージカルが大好きでやりたいと思っていらっしゃる、そんな中で僕らは出会い、自然な流れにふっと乗って初めて一緒に作品を作ったのが“ロッテン”でした。僕は『1回きりで終わりたくない』と思い、福田さんも『またやろう』と思ってくださり、いろいろな方の助けがあって今回の再演が実現しました。今回も『怖いけれど福田さんを信じてやっていこう!』と思いますし、“ロッテン”でなければできないコメディに臆せず挑み、俳優としての糧にしたいと思わせてくださる。そんな尊敬するパートナーです」

―――福田さんが考える、ミュージカル俳優としての中川さんの魅力とは?
福田「ミュージカルの役者さんは、人間味を感じさせないほうがベターなこともあります。ミュージカルには現実離れしたキャラクターが多く登場し、役者さんはこの世のものではないような魅力を求められることもありますし、ミュージカルを見るお客さんたちもそこに夢を抱いているところがあるでしょう。もちろんアッキーにもそういった一面はある一方で、このニック・ボトム役を演じてもらったとき、非常に人間味を出してくれていることにものすごい驚きを感じました。お客さんの目線まで下りてきてくれたアッキーのニックが、僕は大好き!
僕自身、売れない劇団を率いて頑張っている人間なので(笑)、ニックには非常に共感できる部分があります。ニックはシェイクスピアのことを『僕はアイツが大嫌いだ!』と言いますが、その気持ちが僕には分かるし、演じる役者さんがそこまで下りてきてくれないと、真実味をもって観客に伝わりません。アッキーがちゃんと“売れない劇団の座長”にまで下りてきてくれたというのは、実はとてもすごいことで、ミュージカル俳優さんというカテゴリーの中でやれる人は稀有ではないかと思っています。
初演の稽古前は『モーツァルトやフランキー・ヴァリをやっていた中川晃教が、これをやってくれるんだろうか?』という疑問がありましたが、アッキーのニックが本当によかった。単純にあのニックをもう一度見たいというのが、今回の再演の理由です」
中川「ありがとうございます!」
―――おふたりが『サムシング・ロッテン!』に魅了されている理由を教えてください。
中川「この作品の魅力を考えるときに、僕は『温故知新』という言葉をよく思います。僕は昔の服もずっと捨てずに持っておくタイプで(笑)、なぜかというとファッションのトレンドは必ずまた巡ってくるから。前の流行りそのままというわけではなく、何かが少し加わって進化し、それがその時代ならではのテイストになったりもします。
そういうサイクルは、音楽の世界でも同じようなことが起きていると思っていて、クラシカルからポップスまでさまざまなジャンルの楽曲があり、新しく生まれる中で、ニックのような作り手たちは『自分の手で今までにないものを作りたい』ともがき続ける。そういうところに、とても共感できるんです。僕自身もこの世界に入ってしばらく、なかなか思うようにいかず落ち込んだときがありましたから、ニックの気持ちが分かる部分もあって……。ちなみにニックを演じるうえでの僕的なハイライトは、実は1幕の始まりです(笑)」
福田「へぇ、そうなんだね!」
中川「現実の世界からいらしたお客様を前に、『これから皆さんを、ルネサンス時代の物語に誘うのだ』と気持ちが盛り上がり、いつもワクワクしています。歌唱的にはギミックが盛り盛りで手強さも感じますが、同時に大きなやりがいも感じられる作品ですし、演じ終えたときの幸福感や高揚感が今もずっと僕の中に強く残り続けていて、だからこそずっと『またやりたい』と思ってきました」
福田「以前にブロードウェイ『モンティ・パイソンのSPAMALOT』をやったときに、脚本・詞・音楽を担当したエリック・アイドルと対談する機会がありました。エリックは『悲しみは世界共通だが、笑いは国によって違う。だから君がこの作品を演出するなら、日本のお客さんに向けてリライトしなければダメだ』という話をしてくれて、この言葉が僕にはすごく響いたんです。アメリカでウケたからといって、上演台本をそのまま翻訳して日本で上演しても、同じところで同じように笑いが起きるとはかぎらない。むしろ、そうならないことがほとんどです。
だからこそ、僕はときにオリジナル版を大きくアレンジして、さまざまな作品を上演してきました。そういうことをやっていると、ミュージカルが好きな方からは『福田はミュージカルを破壊している』、『福田はミュージカルを愛していない』というご指摘をいただくこともありますが、僕は本当にミュージカルが大好きです!」

中川「よくブロードウェイにも行かれていましたよね」
福田「そう、ブロードウェイ滞在中は毎日ミュージカルを観て、劇場が笑いに包まれる瞬間や、観客がノリノリで歓声を上げる様子をライヴで体感していて、『日本の劇場に、ああいう空気を作りたい!』という想いがすごくある。だからこそ『オリジナルのままでは、日本のお客さんは笑えない』と判断したら、笑ってもらえるように変えるという挑戦をし続けています。
『サムシング・ロッテン』はそんな僕のミュージカル愛を好きなだけ注ぎ、好きな人たちと思いきり楽しんで作れる、とても大切な場所。だからずっと定期的にやっていきたい作品ですし、今回もアッキーをはじめ魅力的なキャストたちと共に作る稽古場を、今から本当に楽しみにしています!」
―――公演に寄せて、メッセージをいただけますか。
中川「初演のとき、お客様は『どんな作品だろう?』とワクワクしながら劇場にいらっしゃり、幕が開いたばかりのときは戸惑いもあったかと思いますが、物語が進むにつれ、劇団員たちが必死にヒット作を作ろうとしているシーンが展開され、彼らが巻き起こす笑いに引き込まれたのではないでしょうか。
また、ミュージカルファンにはおなじみのナンバーが散りばめられていたり、セリフにもミュージカル作品を彷彿させる要素があったりと、ミュージカル好きな人たちが『この作品、私たちが観ないで、ほかに誰が観るの?』という気持ちになる作品だと思います。また福田さんの演出という点で、ミュージカルにあまり関心のない層の方々に対して新しい入り口もできました。まさに全方位、どなたが観ても『よかった!』と言ってもらえる内容が、初演の『サムシング・ロッテン!』がお客様に爆発的に喜ばれ、幕を下ろすことができた理由だと思っています。
僕は福田さんの演出を通じてさまざまな“初めて”を経験させていただきましたし、観に来てくださるお客様にもきっと『このミュージカルは別格!』と感じていただけると思います。実はとても高度なことをみんな頑張ってやっていて、福田さん演出の+αも加わり、ほかにはないエンターテイメントに仕上がっています。さまざまなミュージカル作品が上演されている今の時代だからこそ、この作品を多くの方々に届けていきたいです」
福田「僕がなぜ『サムシング・ロッテン!』をやることになったかといえば、双方は全く関係性がないプロデューサー2人から、ほぼ同時に『サムシング・ロッテン!』は福田雄一がやるべきだと勧められたから。僕は作品をブロードウェイで観ていなかったので『どんな話ですか?』と聞いたら、『売れない劇団の座長が、予言者に「これからミュージカルが流行る」、「次に流行るのは『オムレット』だ」と言われて、座長が必死でオムレツのミュージカルを作る話です』と説明され、『よくそんなバカバカしい話がブロードウェイで成立したね!』と大笑いして、すごくいいなと思いました。
敷居がものすごく低いから、ミュージカルファンはもちろん、ミュージカルに詳しくない人も思いきり笑える、本当に楽しいミュージカルです。ぜひ身構えず、年末年始に大笑いして、劇場を後にしてもらえたらと思います」
(取材・文:木下千寿 撮影:間野真由美)


福田雄一さん
「僕が好きだった給食は、カレーうどん。僕の時代はソフト麺ではなく、もう普通のうどんでした。カレーうどんの日は、4時間目前にはカレーの匂いが教室や廊下に届いていて、ウキウキしながら給食の時間を待っていたのを思い出します」
中川晃教さん
「僕の当時のお気に入りメニューは、クジラの竜田揚げです。片栗粉で揚げていたからちょっと白っぽい衣がサクサクで、身はホロッと柔らかく、サッパリした味わいながらお肉のようなジューシーさも感じられて、好きでした」
プロフィール

福田雄一(ふくだ・ゆういち)
1990年、成城大学在学中に劇団ブラボーカンパニーを旗揚げ。劇団公演の構成・演出を務める傍ら、フリーの放送作家としてバラエティー番組に多く携わり、ドラマや映画の脚本・監督作品も多数。近年は外部公演の脚本・演出も手掛けるなど、エンタメ業界で広く活躍中。

中川晃教(なかがわ・あきのり)
2001年、自身が作詞作曲した「I WILL GET YOUR KISS」でデビュー。2002年、ミュージカル『モーツァルト!』のタイトルロールを演じ、卓越した歌唱力と表現で大きな話題を呼ぶ。以降、音楽活動と並行して数多くの人気ミュージカルにて主演を務める他、楽曲提供もおこなうなど、多角的に活躍している。
公演情報

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』
【東京公演】
日:2025年12月19日(金)~2026年1月2日(金)
場:東京国際フォーラム ホールC
料:S席15,000円 A席10,000円
U-25券[25歳以下限定/当日引換券]7,000円
※要身分証明書提示(全席指定・税込)
問:キョードー東京 tel.0570-550-799
(平日11:00~18:00/土日祝10:00~18:00)
【大阪公演】
日:2026年1月8日(木)~12日(月・祝)
場:オリックス劇場
料:S席 昼公演15,000円 夜公演14,000円
A席 昼公演10,000円 夜公演9,000円
B席 昼公演7,000円 夜公演6,000円
U-25券[25歳以下限定/当日引換券]
昼公演6,000円 夜公演5,000円
※要身分証明書提示(全席指定・税込)
問:大阪公演事務局
tel.0570-666-255(平日12:00~17:00)
