
音楽座ミュージカルの『リトルプリンス』は、世界中で愛されているサン=デグジュペリによる名著『星の王子さま』のミュージカル版。日本で唯一ミュージカル化を許されていたこともあり、いくつもの日本語によるオリジナルミュージカルを創ってきたカンパニーの代表作とも言える作品だ。
そんな注目作を大幅にリニューアルしたバージョンをこの春から上演している。一新された王子役を務める森彩香と山西菜音は、それぞれ個性が際立った印象的な王子をつくり上げている。秋の公演を前にした2人に話を聞いた。
―――『リトルプリンス』は音楽座ミュージカルの看板作品の1つですが、おふたりは王子役を演じて長いんですか?
森「2016年に入団して、その年の秋に小中学校を回る巡回公演で初めて舞台に立って現在に至ります。でも劇場版で王子を演じるのは今年春の上演が初めてなんです」
山西「私は2021年に音楽座に入りましたが、2024年の巡回公演で初めて王子を演じました。そして今年の劇場版ですね」
―――劇場版での王子は同じくらいに始めたのですね?
山西「全然違います! 森さんは巡回公演でずっと積み重ねていますが、私はまだペーペーです(笑)。そもそも森さんが巡回公演で回られていた時、中学生だった私はこの作品を観ていたんです。自分の学校での公演ではなく、他校にお邪魔させてもらって」

―――では山西さんが音楽座ミュージカルの作品に触れたのは中学生だったということですか?
山西「初めては小学校4年生の頃です。それで音楽座ミュージカルが大好きになって、将来私はここに入るんだと意気込んだんです」
森「私は全く逆でした。大阪芸術大学にいたのですが、その頃は音楽座ミュージカル自体知らなくて、大学に宣伝に来たことで知ったんです。ワークショップみたいなものがあったのですが、そこで音楽座の方々にすごく怒られたので、ちょっと印象が悪かったという思い出が(笑)」
―――それぞれ王子を演じるにあたっての意気込みを聞かせてください。
森「音楽座ミュージカル作品の中で『リトルプリンス』は私にとって一番思い入れが強い作品です。『リトルプリンス』に出逢う前の自分は、“誰かを蹴落としても這い上がりたい”とか、“自分第一”に考えて動く時間が多かったのですが、作品から他の人や物事に思いをかける時間の豊かさや幸せを教わりました。
その反面、大好きだから捨てられないものもたくさんあります。『リトルプリンス』に取り組むうちに、自分が悩んできたことや発見したことがこびりついています。だから今回は抱えているものとどうやって決別するかに思いをかけたいです。お別れの大きさをこの作品で伝えたい。それが今回掲げる意気込みです。さらに今回は代表を含めたキャスト・スタッフが一丸となって、『リトルプリンス』を新しくしたい、今までを払拭したいという気持ちを強く持っています。今までの『リトルプリンス』が大好きだからこそ、捨てるという大きな挑戦をしているんじゃないかと思います」

山西「先ほども話しましたが、音楽座ミュージカルを目指したきっかけが『リトルプリンス』でした。劇場で王子さまを観て、私はこの役を絶対やるんだ!と思ってこの場所に入ってきたので、今回王子役のチャンスをいただけて本当に嬉しいです。それを自分のものにして、今後もここで活躍していければと思います。だからまずは王子に対して一生懸命向き合いたい。森さんも話されていたように、今回は王子のイメージもかなり変えました。絵本の中にいる王子は神聖で今にも消えてしまいそうなイメージですが、今回はそこら辺にいるクソガキ・悪ガキを目指しています。
でも私は子供っぽさばかり目立って、原作にある求心力や伝えたいものが抜けてしまいがちですね。ありがたいことに巡回公演で毎日王子に向き合っていますが、その中で本当に自分自身が大切に思っていることは何か? どういうところで原作の王子と音楽座の王子を重ねられるか? そのあたりをもっと深めていけたらと思っています」
―――おふたりが話されたイメージ刷新について。より具体的に変わったところを教えていただけますか?
森「王子のイメージだけでなく、舞台装置も変わりましたし、振付も国内外で活躍し、アーティスティックスイミングの振付なども手がけているKAORIaliveさんにお願いしました。以前の振付もすごく好きですが、新振付でより生々しくドラマ的になったと思ってます。楽曲はそれほど変わりません。BGMを含めると40曲くらいありますから、常に音楽が鳴っている感じかもしれません」
―――音楽座ミュージカルは音楽も生演奏ですよね。
森「演奏している方との心の交流が重要ですね。これは相手役との芝居と同じで、一方通行だと演奏側もきっかけが拾えないんです。舞台では予定調和ではなく、瞬間の空気感やお客さまとか相手役の反応、突然のアクシデントなどを受け止める覚悟がないと、音楽側も引っ張っていけないんだとよく感じますね」
山西「その通りだと思います。音楽監督がピアノを弾いているんですが、演技のダメ出しを音楽監督からされることも結構あるんです。『お前そこはそうじゃないだろ』みたいに、たくさん言われます。だから歌うだけとかお芝居をするだけでは通用しないと感じています。
カンパニーは朝9時から夜6時くらいまで、毎日ずっと一緒にいるのが当たり前なので、それぞれのメンバーのいいところも悪いところも全てわかっています。だから逆に安心して自分をさらけ出せる環境なんです。そこで芝居ができるのはいい環境ですね。阿吽の呼吸も養われます」

―――では、お互いの王子の印象をお願いします。
山西「森さんは可愛らしいお顔とキリッとした感じがもはや“王子”だなと思います。さらに入団していきなり王子役に抜擢され、色々な紆余曲折があった中で培ってきた思いが、森さんの王子からは滲み出ています。そこに私はすごく憧れていて、王子への愛の深さが足りないと自覚している私としては、森さんから溢れる王子への愛がいいなと思います。私も追いかけていかないといけないところですね」
森「山西さんは自然と構いたく、お世話したく、振り回されたくなる。そんな他人に応援させる力みたいなものを持っています。さらに一緒にいる相手を会話の中でほぐしていく力もあります。彼女の前では人が簡単に無防備になれる、バリアがいらない存在ですね。それは私にはない部分です。
王子のセリフは意外と大人びていたり、逆に大人が言葉にできない素朴さがあるところが魅力的で、それらを自然にお客さまに伝えたい。彼女はセリフと行動がミスマッチなせいで、それがすごく刺さってくるんです。身体のムーブメントやビジュアルも含めて、印象とミスマッチなんですね。あまりにも無防備で子供で、何のためらいもなく話せる相手なのに言葉だけがすごく棘を持っていたりとか鋭かったりとか。そんな相反する部分を一緒に持てるってすごい魅力だなと私は感じています」
―――作品づくりも「ワームホールプロジェクト」という独特なスタイルを採用していますね。そこでは最終の舵取りも合議制なんですか?
森「スタッフみんなが声を出せるような状態で作品をつくっていますが、最終的には代表の相川タローが作品づくりの根幹を握り、決断をします。代表はすごくセンスがいいので、私たちもそれに憧れてついていきたい、という気持ちを持ってます」

山西「私はいわゆる“Z世代”という枠組みの中に入りますが、そんな若手が見てもセンスがいいなって思うんですよ。作品の世界観も、代表がつくりたい視点も、今の若い人に刺さるなと思っています。そういった意味で最先端なカンパニーと代表であり、それについていっている感覚があって、嬉しく思います。
若干お父さん的な部分もあり、自分自身も代表にすべてをさらけ出せるっていう感覚になれるのは、ありがたいと思っています」
―――難しいかもしれませんが、王子としてのおすすめの場面があれば教えてください。
森「原作や絵本の印象だと、ミュージカルの2時間半は長いと思われがちですが、飽きさせないように、心がワクワクする瞬間をたくさん散りばめています。音楽的にもセリフ回しにしても。だからあまり気構えず、ワクワクして観てほしいと思います。
私としては“星めぐり”の場面がおすすめです。王子が花の下を旅立ち自分が何をしたいのか、どういう存在かわかりたいという思いで、いろんな星を旅するんですが、そこはもはやテーマパーク感覚です。一幕ラストで出会いに向かっていく曲があるのですが、作品の終わりにその曲がリミックスとして出てくるんです。それは“別れは終わりではなく、全てがまた始まる”瞬間。全てがエンド・スタートしていくという意味合いでこの曲を挟んでいます。別れが始まりに繋がる感覚はすごい感動です。人が生まれて死んでいく、これがずっと続いていく。しかも自分一人だけでなくありとあらゆるものが繋がって、これからも繋がっていくんだっていう感覚ですね。誰もが孤独に、一人ぼっちになって、生きることを諦める瞬間はあるかもしれません。そういった悩み事を全て払拭してくれる曲なので、ぜひ注目していただきたいと思います」
―――それでは最後におふたりからのメッセージをお願いします。
山西「音楽座ミュージカルの作品を観たことがない人はすごく損していると思うので、まずは観に来ていただいて、心の欲求や隙間を埋められる感覚が届けばいいと思います。ミュージカルが好きな人はもちろん、ミュージカルのことが嫌いな人も、ぜひ一度観に来てほしいです」
森「『リトルプリンス』は、観た方の人生にかけがえのないものになるという確信が、私たちにはあります。この作品に出逢えば、人生をもっと遊び心を持って楽しめると思います。前向きな気持ちで足取り軽く劇場にお越しください」
(取材・文:渡部晋也 撮影:立川賢一)


森 彩香さん
「私の推し ジャッキー・チェンは、今も昔も変わらず自分の求める姿にとことんストイックで、自分の肉体を躊躇うことなく映画に注ぎ込む超憧れの人。昔はそのストイックさに惹かれてたけれど、今は彼のもつユーモアのセンスに憧れています。時を重ねてもなお人を楽しませることに全力で挑めるジャッキーが大好きです」
山西菜音さん
「『ふたりはプリキュア』のキュアホワイトとキュアブラックです。2歳から21年間ずっと大好きな作品です。『女の子だって暴れたい!』というキャッチコピーに胸が高鳴り、困難に体当たりで挑む2人の姿に強く憧れています。小さな頃から彼女たちを見て、自分も強くありたい、全力でぶつかりたいと思うようになりました。舞台に立つときも恐れずパワフルに挑み続け、観客にそのエネルギーを届けたいと思っています」
プロフィール

森 彩香(もり・さやか)
広島県出身。大阪芸術大学卒業後、2016 年に入団。入団1 年目で『リトルプリンス』の王子役に抜擢され、以降『グッバイマイダーリン★』ねずみの奥さん役、『とってもゴースト』かたまり様役、『ホーム』麻生めぐみ・山本広子役、『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』折口佳代役、『SUNDAY(サンデイ)』レスリー役、『7dolls』ムーシュ役、『ラブ・レター』ナオミ役など、主要なキャラクターを演じている。賢プロダクションに所属し、声優としても活動している。

山西菜音(やまにし・なお)
愛知県出身。同朋高校音楽科声楽専攻ミュージカルコース卒業後、2021 年に入団。『リトルプリンス』王子役、『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』寺尾役、『SUNDAY(サンデイ)』シシャ役、『ホーム』オリジン役などで出演。
公演情報
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音楽座ミュージカル『リトルプリンス』
日:2025年11月14日(金)~16日(日)
※他、名古屋・広島公演あり
場:IMM THEATER
料:SP席15,400円 SS席13,200円
S席12,100円 A席7,700円
U-25席[25歳以下]1,100円
※U-25席は要身分証明書提示
(全席指定・税込)
HP:https://ongakuza-musical.com
問:音楽座ミュージカル事務局
tel.0120-503-404
(月~金12:00~18:00/土日祝休)