
中山優馬・柴田理恵・風間杜夫・白石加代子の4人が再集結して贈る、『大誘拐』〜四人で大スペクタクル〜。本作は、天藤真が1978年に発表した推理小説を舞台化した作品で、82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り、100億円を略取した痛快な事件を描いた抱腹絶倒の大誘拐劇だ。2024年に中山・柴田・風間・白石の4人で全国13カ所で初演され、笑顔と感動を届けた本作が、再始動する。中山に初演の思い出や手応え、そして柴田・風間・白石という大先輩たちとの共演について話を聞いた。
―――再び、4人が集結して上演されることになりました。再始動が決まったお気持ちを聞かせてください。
「こんなに早く実現ができるとは思ってもいなかったですが、前回の公演が終わる前に先輩方と『再演ができたら素敵ですよね』というお話をさせていただいていたので、こうして実現することができてうれしいです」
―――1年での再始動というのは、本当に早いですよね。
「前回の公演が終わった直後から動き出さないと、これほど早くは実現できなかったと思うので、皆さんのおかげです」
―――初演で印象に残っている出来事を教えてください。
「大ベテランの御三方の凄さをまざまざと見させていただきました。役者は、ここまで高い技術を持っていると“崩し芸”になるんだなと感じました。役を作り上げるとか演じるという段階を超えて、役を崩しにかかるんですよ。特に風間さんはそうで、この役はこんな声出さないだろうというような声を探していくんです。ある意味、すごく自由で、板の上に立つと最後には人柄が出るものなのだと思いました」
―――そうした先輩方から学ぶことや得るものも大きかったのではないですか?
「得るものが大きかったです。到底、今の僕では真似できるものではないので、学んでそれが僕にできるかと言われるとまだまだ難しいですが」
―――その得たものというのは、例えば?
「板の上に立つことの何たるかを教えていただきました。風間さんの舞台上での生き様です。風間さんに『どうやったらそんなに舞台上で自由でフラットにいられるのですか?』とお伺いしたのですが、そうしたら『俺は“狭間(ハザマ)”なんだ。風間じゃなくて狭間』とおっしゃっていて。舞台上では、“風間杜夫”という人物と舞台で演じているキャラクターの間で遊んでいて、キャラクターなのか風間なのかどちらか分からない状態の方が不安定で良いとおっしゃるんです。その不安定さは、舞台では観ている人を楽しませる魅力になるんだと。
だから、ガチガチに作り上げたくはない。立派にセリフを話せても、それは立派に話せたというだけだから、そこから崩していくそうです。でも、僕たち若手がそれをやろうとすると、元から不安定だからダメなんですよ。風間さんの境地まで行ってこそ、観てくれているお客さまも楽しめるのだと思います」

―――柴田さん、白石さんの印象や共演して感じたことも教えてください。
「柴田さんはすごく器用な方だと思うのですが、ご本人は不器用だとおっしゃっていました。だからなのか、作品への取り組み方もとても丁寧で、何度も何度も繰り返し練習をして、可能性を考えて取り組んでいく姿がとてもすてきでした。好奇心を持った少女のようで、その姿がすごく勉強になりました。
白石さんは“語りの境地”。声の圧があって、声から意思が伝わってくる。それは稽古場で作ったというレベルのものではないんです。人生そのものが、その声というツールを使って出てくる。白石さんの生き様なのだと思います。到底真似できないすごさを感じました」
―――お稽古場の雰囲気はいかがでしたか?
「お稽古は和気あいあいとできました。ドタバタと動き回ることが多い芝居ですが、ステージングの小野寺(修二)さんがいろいろと考えて動きをつけてくださったので、すごくスムーズに進んでいった印象でした。この作品で、僕に任されていたところはセリフ量とスピードと安定感。大先輩方は自由に、舞台上で生き生きと役を生きていましたが、僕はそのレベルまで達していないので、任された持ち場をしっかりとやり通すことを意識していました」
―――今、おっしゃったようにセリフ量がかなり多かったと思いますが、セリフ覚えにはあまり苦労はなかったですか?
「セリフ覚えはそれほど苦手ではないですが、今回は説明セリフも多かったですし、量もかなりあったので、頭の中で映像化するまでは少し時間がかかりました。ただセリフを暗記するだけだと忘れてしまったり、間違えたりするので、僕は脳内で映像化して覚えるんですよ。『ここから誰々が出てきて、左側に走っていって、その先に何が見えた』というように映像を(頭の中で)見ながら覚えると間違えることがないんです。そこまでいくには多少時間がかかりますが、それほど苦労はなかったです」
―――中山さんが演じる戸並健次という役柄については、前回はどのように捉えて演じていましたか?
「時代がそうさせているのか、本人の持つものなのかは分かりませんが、とてもバイタリティに溢れた、生きる力の強い青年だという印象がありました。とても素直で愛に溢れた誘拐犯です」
―――健次に共感できるところはありますか?
「誘拐犯ですし、ちょっとやんちゃをしてしまって、刑務所に入っていた過去はありますが、それ以外は普通の青年なので、共感できるところもあります。健次は、自分の人生はここで終わってはいけないという思いがあって、前に進むために誘拐という間違えた方法を企ててしまいますが、もし、それが違う方向に向いていたら、エネルギーに溢れた生き方をしたのではないかと思います。
それは僕の仕事に対する思いにも通じるところはあるのかなと思います。例えば、人生を豊かにするためにこの演劇をやりたい、この映画に出たいという欲があって前に進めるというのは理解できます」
―――今回、再び健次役に挑む上でどんなところをブラッシュアップしていきたいですか?
「前回はついていくのに必死だったので、再始動させていただくからには、皆さんのお芝居を紐解いて、盗んでいきたいなと思います」
―――では、本作のストーリーの魅力、面白さはどこに感じていますか?
「健次はお金が欲しいだけで誘拐をしているわけではないんです。時代に挟まれてどうにもならなくなり、生きる力をみなぎらせ、誘拐計画を企てて、リーダーとして実行します。しかし、お話が進んでいくにつれて、誘拐事件のリーダーはおばあちゃんになっていくんです。健次は健次で、自分以外の人に舵を切ってもらえるということに安心感を覚えて、おばあちゃんに対しても愛情を持つようになっていく。段々とパワーバランスが逆転するというのが面白いなと思います。
その後、おばあちゃんは国のあり方にナイフを突き刺すようなことを行いますが、そうした展開も演劇的だなと思いますし、何よりもこのドタバタ劇を大ベテランが演じるというのがすごいことだと思います」

―――前回、演出の笹部さんからはどんなお話や演出がありましたか?
「笹部さんは演出家でもありますが、物書きでもあるので、言葉選びが面白い方だなと思いました。稽古中は、笹部さんが実際に演じたり踊ったりして見せてくれることもあって、とても楽しかったです。若かったら健次役を演じたかったのではないかなと思うくらい、笹部さんの中に“理想の健次”が構築されているのだと感じたので、それに近づけていこうという役を作り上げていました」
―――今回は東京公演からスタートし、全国14カ所を巡ります。
「こうして今回も地方を回らせていただけるのはとても贅沢なことだと思いますし、とても楽しみです。やっぱり各地で反応が全然違うんですよ。大都市では演劇を観る機会は多いですが、あまり機会がない都市もあります。なので、地方に行くと、この期を逃さずに楽しもうというお客さんの想いを感じます。今日はイベントの日。なんならお祭りに行くような感覚で来てくださる方もいます。劇場の顔も距離感も違うので、すごく刺激的です。毎回同じ公演は全然ないなと改めて思います」
―――大阪公演も予定されていますが、大阪の公演ではどんな空気感を感じますか?
「笑いに対して厳しいとよく聞きますが、僕が関西出身だからか、あまりそれは感じないです。とても楽しんで、集中力を持って観てくださっているように思います。ただ、笑いどころは関西と東京だと少し違うんですよ。大阪ではツッコミのところで笑いがくることが多いんですが、東京だとボケのところで笑いがくる。大阪の人は目の前で繰り広げられていることに対して、お客さんの感情を代弁して突っ込んであげるというのが面白いのかもしれないなと感じます」
―――なるほど。ちなみに前回も全国各地を回られましたが、共演者の皆さんとどのようにツアーを楽しまれましたか?
「皆さんにあちこち連れて行っていただきました! 富山公演のときに、柴田さんがよく行かれるお店に一緒に行かせていただいて、ホタルイカのしゃぶしゃぶを食べさせてもらいました。白石さんにもあちこち連れて行っていただきましたし、風間さんにはご飯を食べた後にスナックにも連れて行っていただきました(笑)。
柴田さんとは、大分で一緒に焼き物の蔵を見に行かせていただいたこともありました。その土地ならではのことをたくさん体験させていただき、とても勉強になりましたし、楽しかったです」
―――ありがとうございました。最後に改めて公演に向けての意気込みとメッセージをお願いします。
「日常を忘れて楽しめる作品です。ジェットコースターに乗っているかのようにアトラクション感覚で楽しめる演劇はなかなかないと思いますし、そうした中で生きていることの素晴らしさや人間のエネルギーのすごさが感じられる作品になると思います。大先輩方のドタバタ劇は元気になること間違いないので、楽しみにしていただけたらと思います。ご来場をお待ちしております!」
(取材・文:嶋田真己 撮影:立川賢一)

※本インタビューは、シアター情報誌「カンフェティ」2025年10月号掲載の記事を、関西版Vol.11発行に伴い、ロングインタビューとして再編集したものです。
プロフィール

中山優馬(なかやま・ゆうま)
1994年1⽉13⽇⽣ まれ、⼤阪府出⾝。2006年より芸能活動をスタート。舞台作品の主演や映像作品への出演を重ね、俳優として研鑽を積む。近年の出演作に、『⼤誘拐』〜四⼈で⼤スペクタクル〜、ミュージカル『Endless SHOCK』、舞台『⾎の婚礼』、『あゝ同期の桜』などがある。『⼤誘拐』〜四⼈で⼤スペクタクル〜は、今年また新しく全国ツアーが再始動する。
衣装:ジャケット 143,000円 パンツ 63,800円(NEW ORDER(SianPR)/問:Sian PR tel.03-6662-5525) 靴 29,700円(Dr.Martens(Dr.Martens AirWair Japan)/問:Dr.Martens AirWair Japan tel.0120-66-1460) ※その他スタイリスト私物
公演情報
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『大誘拐』〜四人で大スペクタクル〜
【東京公演】
日:2025年10月10日(金)~13日(月・祝)
場:シアター1010
料:9,800円 U25[25歳以下]3,000円
(全席指定・税込)
問:シアター1010チケットセンター
tel.03-5244-1011(10:00~18:00)
【神奈川公演】
日:2025年11月29日(土)・30日(日)
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉
料:S席9,800円 A席8,800円
U25[25歳以下]3,000円(全席指定・税込)
問:KMミュージック tel.045-201-9999
(平日11:00~13:00・15:00~17:00)
【大阪公演】
日:2025年11月7日(金)・8日(土)
場:サンケイホールブリーゼ
料:9,800円
U25[25歳以下/1階バルコニー席]3,000円
(全席指定・税込)
問:キョードーインフォメーション
tel.0570-200-888