
常に進化を続けるクリエイティブ集団「おぶちゃ」がこの10月におぶちゃ8周年記念公演『魔法使いのパレード』を上演する。主催で脚本演出ほか裏方に徹していた大部恭平が初の主演を務める作品として注目の本作。脚本にキングコングの西野亮廣、演出に時速246億の川本成という稀代のクリエイターたちとタッグを組み、出演におぶちゃメンバーとお笑い芸人インパルスの堤下敦を迎え、最強の布陣で始動中だ。大きな転換期を迎えようとしている大部に新たな挑戦に挑む胸中を語ってもらった。
―――発表からやっと全貌が明らかになり、8周年の2025年は変化の年ですね。
「特に今年は自分がキャリアとして最初にやっていた俳優をもう1回やってみるという想いがあって、まさか尊敬する作り手の方々とご一緒できるなんて夢にも思ってなかったです。事の始まりは、去年の春。時速246億の公演に演出助手として参加していた僕に、川本さんが『なんでおぶちゃで主演やらないの? せっかく全部の責任をしょってやってるんだったら、主演やったらいいじゃん』と、ご自身の経験を基に言ってくれたんです。しかも『おぶきょ(大部の愛称)が主演をやるなら、俺は何でもやるよ』と。『その言葉を僕は絶対に真に受けますからね』って(笑)」
―――冗談半分、本気半分のやりとりが、やがて現実に。さらに、大部の地元の横浜赤レンガ倉庫で舞台ができることを知り、すぐさま申請。そんな中で、キングコング西野亮廣氏との出会いが。
「西野さんが僕の企画について相談に乗ってくれている中で、西野さんから『僕がこれに参加するのはどうですか?』ってご提案くださったんです。色々と話している中でまさかの、そんなことは夢にも思ってなかったので、(川本)成さんも面白いじゃん、と後押ししてくれて実現しました」
―――『魔法使いのパレード』の原作は、西野氏による同名小説『グッド・コマーシャル』を三人芝居化したもの。今回は四人芝居としてリブートされます。
「約250席の劇場で8公演、2000人動員するのか、……集客どうしよう……――って正直思いました(笑)。でも、自分が主演をやりながらこんな挑戦できるなんて、最初で最後かもしれないっていう気持ちもあって。僕がいつも作品の方向性を決めているので、今回は先輩たちが『こうしたい』って言ってくれたアイディアに、とことん乗っかってみよう、って覚悟を決めました」
―――役者として全てをさらけ出す決意ですね。
「長年、作り手として演者たちに『もっとこうしろ』とか偉そうに言っていたので、過去におぶちゃに出たことがある演者の皆さんには、ぜひ観に来て笑ってほしいです。『こいつ、全然できてねぇじゃねぇか』って(笑)。4年前に一人芝居を経験した際、次の一人芝居は4年後かな、オリンピックみたいだね、と仲間と話したことを思い出しましたが、4年の時を経て、今度は先輩たちに導かれ丸裸になります」

―――台本の印象は?
「とにかく面白い。演劇を普段観ない人でも楽しめる、僕が大好きな作品になっています。ノスタルジックな要素、ノストラダムスの予言やUFOの話が出てきたり。子供の頃におぼろげに見ていたもの、エンターテインメントの中で薄れていくものが散りばめられています。その中で2025年に僕たちがエンターテインメントに関わっている身として、このバカバカしさがどんどん尊さだったり美しさに変わってく瞬間がラストには待っているんじゃないかなって。
だからこそ、変にうまくやるよりも、一生懸命やらないと伝わらない。台本を読んで身が引き締まる思いです。早くやりたいと思えば思うほど複雑で。理想のイメージができるからこそ自分がその表現を果たしてどこまでやりきれるかっていう不安も同時に襲いかかってくるから、演者として作品を背負う新鮮なプレッシャーがずっとありますね」
―――ターニングポイントになりそうな作品ですが、あらためてどう向き合っていこうと?
「演者はどう準備してたっけ?と、ソワソワしてしまって、パソコンをカタカタしてる方が落ち着いてしまうんです(笑)。これはいけないと思い切ってパーソナルジムに登録して最近はキックボクシングを始めました。大量の汗をかくと余計なことを考えず心身ともにデトックスするのに最適で、部活帰りみたいな感覚が妙に心地いいというか。

今回の舞台は舞台上にいる時間が長いので、体力作りや喉のメンテナンスにも力を入れています。西野さんからは『2つだけお願いごとがあります』と言われまして、“楽屋に加湿器を必ず用意してください”、“本番中には飲みに行かないでください”と。成さんは俳優目線で僕へのアドバイスをくださったり、演出面でも何度も打ち合わせしてくれて、そんな心強い先輩たちがいるので、僕はもうとにかく何も考えずに一生懸命やりたいと思っています」
―――久しぶりの役者としての感情ですね。ちなみにこの4人の出演者ですが、おぶちゃメンバーとインパルスの堤下敦の配役が気になります。
「堤下さんは三人芝居の『グッドコマーシャル』に過去に出演されていて、今回も快諾してくださいました。堤下さんが積極的に事前の準備もご協力くださって、とても心強いです。
僕の役がわけあって自殺を考えている人物。堤下さんはやることなすことがうまくいかない立てこもり犯役。そこに柳下大、そして瀬口美乃が絡んでいきます」
―――そして今回、様々なクラウドファンディングを立ち上げて、演劇ではあまりないタイプの手法に、挑戦と意味を感じます。
「西野さんが大切にされている“予算(お金)の課題としっかり向き合うこと”はいい勉強になっています。
クラファンは楽をしてお金を集める装置では決してなく、一人ひとりに会って、作品の魅力を伝え、熱量を感じ取ってもらって応援してもらうこと。実際にいわゆる“どぶ板営業”を実践しておりますが、時間はかかれど作品や僕の応援をしてくれる方が日に日に増える実感が湧き、数字以上に自分への大きなパワーになって帰ってきています。
西野さんの真似をしたいわけではなく、西野さんがやられていることの中で、おぶちゃ流に落とし込めるものをひとつでも見つけられれば。もちろん色んな考えがあると思いますが、この実験ができるのは今回プロデューサーと主演をやる僕しかいない。おぶちゃ独自の何かを見つけて、エンターテインメントの新しい形を吸収できる公演にしたいです」
―――最後にメッセージをお願いします。
「とにかく、1人でも多くの方に観てほしいです。素敵なクリエイターの先輩たちがバックアップしてくださいました。コンセプトは“全力野球スポ根ポカリ感コメディ”。さらなる高みを目指すべく少数精鋭の会話劇としての作品力を多くの方にお届けしたいです。
今まで素敵な俳優たちがおぶちゃの主演をやってきてくれました。この先のおぶちゃがやる企画のためにも、愛されるチームでいるためにも、この作品を心を込めて1人でも多くの方に届けたいです!」
(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

大部恭平(おおぶ・きょうへい)
8月17日生まれ、神奈川県出身。おぶちゃ主宰。脚本家/演出家/プロデューサー/俳優として幅広く活躍中。俳優としてキャリアを開始し、舞台やドラマに出演するほか、脚本・演出として多くの作品を手掛けている。脚本演出代表作に、『ポエム同好会』『ほむら先生はたぶんモテない』『無人駅で君を待っている』『LALL HOSTEL』『Joie!』などがある。
公演情報

おぶちゃ8周年記念公演
『魔法使いのパレード』
日:2025年10月2日(木)~7日(火)
場:横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
料:SS席[前方2列]9,900円 S席[3列目~6列目]7,700円 A席[7列目以降]5,500円(全席指定・税込)
HP:https://ofcha.biz
問:おぶちゃ mail:staff@ofcha.biz