「やるならこのタイミングしかない!」 前回公演からからわずか半年 演劇ユニットmétro最新作が上演

 演劇ユニットmétroの第15回公演『REAL』が9月11日より上演。métroは、2008年に立ち上げた月船さららが主宰の演劇ユニットで、映画監督で脚本家の天願大介がmétroの作・演出を担当。2度の休止期間を経て、今年2月に約4年半ぶりとなる新作『GIFT』を上演。前作からわずか半年という短時間で最新作に挑む月船さららと天願大介に本作へ意気込みや見どころ、さらに月船が馬の背中に寝そべっているメインビジュアルの撮影秘話などを聞いた。


―――宜しくお願いします。『REAL』のお話に入る前に、まず今年2月に上演した約4年半ぶりの本公演『GIFT』を振り返っていただけませんでしょうか。

月船「métroを立ち上げて今年で17年目になりますが、その間に4~5年活動が空いた時期があるんです。『GIFT』は2度目の休止明けの作品なんですが、そうなると、ただ何となくでは復活できないというか、休止中に私も天願さんもいろんなものを吸収したり、学んだり、心に残ったことが作品に反映されて、『新しいmétroを出さなくては』という思いが強くありました。そんな気持ちで取り組んでいたところに、お願いした脚本を読んで、『これはすごい、新しい挑戦になる』と感じたんです。
 本番では、物語仕立てではないことの難しさや、お客様がどう受け取ってくださるのか、正直不安もありました。でも、観てくださる方々の想像力や感性が本当に豊かで、『GIFT』のような作品に挑戦していいんだ、という気持ちになれました」

天願「『GIFT』は今までのmétroとは少し毛色違う作品だったので、不安もありました。文学作品を舞台にする時、ただの脚色ではなくて、“文学の芸能化”という風に僕は呼んでいるんですけど、そういう新しい手法でやってきて、それがかなりいいレベルになってきてるなと思っていたところに休止期間に入ったので、あの手法を捨てるのは惜しいなと思って。それで『GIFT』では、太宰治の作品を使って不思議な話を作りました。今の時代、日本の作品に欠けているものの1つが“文学性”で、きっとアナクロに思われるんでしょうけれども、すごくもったいなくて。『GIFT』では新しい形で立体化出来たので、僕としてはよかったなと思っています」

―――今回の『REAL』は、『GIFT』からわずか半年という短い期間での上演となります。

月船「『GIFT』で何か手応えや勢いのようなものを感じたことに加えて、天願さんの筆がとても乗っていたこともあり、『今の天願さんに書いてもらいたい!』『来年、1年先に延ばさずに次回作をやらねば!』という思いがありました。
 métroは私ひとりだけのユニットですが、何年も一緒に作ってくださっているスタッフさんたちがいます。皆さんとスケジュールを合わせたり、イマジネーションが湧くような劇場との出会いを大切にしている中で、ちょうど9月にすべてのスケジュールが合致し、『やるならこのタイミングしかない!』と。この時期を逃してまた1年以上空いてしまうくらいなら、今やるしかないということで、9月の上演が決まりました」

天願「お互いのスケジュールを考えると、今回を逃したら結構先になってしまうので。最初はこっちが大変で、稽古が始まったら演者の方が大変になりますが(笑)。ただ演劇は、準備に1年以上かかってしまう映画や映像作品と比べると一番短い時間で出来るという特徴がありますし、その日に起こったことをその場で喋ることも出来ますから、9月に上演する意味があると思っています」

―――上演の情報解禁時にあらすじが紹介されていますが、今回はどのようなお話でしょうか。

天願「古い質屋さんを舞台にした3人の姉妹の話になります。次女と三女が守っている古い質屋に長女が帰ってくるところから物語が進んでいきます」

―――あらすじには、「宮沢賢治」や「ニーチェ」といった作家さんの名前や「パレスチナの馬」といった気になるワードが記されています。

天願「今回、宮沢賢治の詩を中心に、あと1つの童話を使っています。また「パレスチナの馬」というのは、イタリアの広場でニーチェが馬の首にすがって叫びながら発狂したという『ニーチェの馬』という有名な逸話と、パレスチナの難民キャンプが爆撃された後の瓦礫を組み合わせて馬のモニュメントを作った話をヒントに作ったもので、決してパレスチナの話ではありません」

―――ありがとうございます。ところでメインビジュアルでは、月船さんが馬の背中に寝そべっていますが、撮影秘話などありましたら教えてください。

月船「あの写真、合成ではなくて、本物の馬と一緒に撮影したんです」

―――えっ? 合成じゃないんですか?

月船「そう思いますよね。黒い布の前に馬がいて、私は本当にその馬の背中に寝そべっています。合成だと思われるのが悔しくて(笑)」

―――馬は音に敏感ですし、大きい音に驚いて落馬する危険性があるので、撮影は大変だったんじゃないですか。

月船「馬に『よろしくね』って語りかけながら乗りました。とてもよく躾けられていて、スタッフさんが支えてくださったおかげで、撮影中は落ち着いていられました。
 métroの撮影では、スキューバダイビング用のプールに沈んだりとか、結構無茶なことをいろいろやっていて(苦笑)。今回のビジュアルをご覧いただいて、私たちの意気込みが少しでも伝わったら嬉しいです」

―――本作に対する意気込みや気合が伝わるビジュアルに感じました。

月船「休止期間の間にいろいろなことを学べたからこそ、『GIFT』や『REAL』をつくることができたと思っています。
 どちらの作品も、過去から今、そして未来につながっていくようなことだったり、世界のどこかでニュースにはならなかったけど、本当は大事な出来事だったり、そういうものに目を向けていて。ちゃんと視野を広く持って、いろんなことに関心がなかったら、出会えなかった作品だったと思うんです。
 métroを離れている間に、自分の中から自然に湧き上がってきた関心がなければ、きっと“馬の上で写真を撮る”という表現にもつながらなかったと思いますし、最近、何かとても大きなものを感じているんです。脚本の中にも、私が感じていることと天願さんが考えていることが、びっくりするくらいリンクする瞬間があって。今の私たちが持っている感覚があるからこそ、それをお客様の前で上演できるのだと、あらためて感じています」

―――ちなみに天願さんは撮影時に同席されていましたか。

天願「いや、同席できませんでした。ちょうど『REAL』の執筆中で、最後どうしようかなと思っていたところに、馬のビジュアルが送られてきて、その写真のイメージを参考にして台本を書き換えたりしました」

―――そうだったんですね。『REAL』をご覧になる方の中には、長年métroを観続けている方もいれば、初めてmétroをご覧になる方もいるかと思いますが、こんな方に特に観に来て欲しいというのはありますか。

天願「演劇はすごく自由で、自由だということは、具体的にいろいろな形の演劇を見ることで、自由というのがわかると思うんですよね。自分の中で『演劇はこうだ』と思う人は、その人の納得出来る作品を観る。でもそれは自由ではなくて、そうではない作品もあります。そういう意味では、『REAL』は他の作品とあまり似てないかもしれませんが、決して小難しいお芝居ではないので、少し冒険していただいて、いろいろ演劇があるということも自由の1つなんだということを感じてくれればと思いますし、演技経験のあるなし関係なく、“こういうことしてもいいんだ”、“こんなことも芝居になるんだ”と思っていただける作品なので、演劇好きでずっとこだわってきた人も、これから演劇を観ようかなと思う人も観ていただくと『REAL』の面白さを感じてもらえるのではないでしょうか」

月船「“自由になりたい人”ですね。
 出来上がったチラシを見た時に、馬とそれに寝そべる女性の姿が、まるでメリーゴーランドの馬が本物になって、遊園地から一緒に飛び出していくように見えたんです(笑)。馬の上でお昼寝しているみたいで、なんだか自由そうで、気持ちよさそうだなぁって(笑)。
 この世の中、不自由なことって本当にたくさんあるなと思っていて。例えば演劇でも、私たち役者はもっと自由に演じていいはずなのに、いろいろなものにとらわれていて、自由に演技できていないことにすら気づいていなかった瞬間が、自分の中にもあったんですよね。でも、métroの作品の中では、ものすごく自由に解き放たれて、何か直感的なものが降りてきたような体験ができたんです。
この作品を観てくださるお客さんにも、琴線に触れる言葉がどんどん自分の中に積み上がっていって、自由になれるとか、何かに挑戦できるとか、インスピレーションが湧くような、そんな体験をしていただけたら嬉しいなと思います」

―――共演者にも触れたいと思います。サヘル・ローズさんは、声の出演となった2020年の『痴人の愛 ~IDIOTS~』以来で、出演としては2019年『陰獣 INTO THE DARKNESS』以来、約6年半ぶりとなります。

月船「『陰獣 INTO THE DARKNESS』では、私とある意味“ふたりでひとつ”のような役を演じてくれました。もともと別の舞台で初めてお会いしたんですが、サヘルさんには、他の人とは共有できないような不思議な感覚を持っている方だと感じたんです。
 『陰獣 INTO THE DARKNESS』はmétroの旗揚げ公演の再演で、当時は、もうひとりの旗揚げメンバーだった出口由美子さんがその役を演じていました。でも、彼女が芸能界を引退してからは、彼女なしでの再演はできないと思っていたんです。そんな中でサヘルさんに出会ったとき、『あっ、この方だ!』と直感的に思って、すぐに声をかけました。それくらい、私とサヘルさんの間には何か特別なつながりがあるんです。
 今回は姉妹の役ということもあって、どうしてもサヘルさんがよくてオファーをしたところ、涙声で『嬉しい』という連絡をいただいて……本当に尊敬できる女性です」

―――渡邊りょうさんとマメ山田さんは『GIFT』に続いての出演になります。

天願「渡邊くんは『GIFT』と同じ役を演じます。もちろん『GIFT』と『REAL』は全然違う話ですけど、その登場人物は僕の作品に時々出てくるんです。初代が井村昴さん、二代目が若松武史さんで、渡邊くんは三代目になります」

―――métroをご覧になられたことがある方にとって、おなじみのキャラクターなんですね。

月船「マメさんには、他の誰にも出せない佇まいというか、存在感というか……本当に心から尊敬しています」

天願「マメさんは先輩ですが、私は尊敬していません」

一同「(笑)」

月船「métroではない公演でマメさんが演じていた役が本当に素晴らしくて、天願さんに『続編はないんですか?』と話したところ、『GIFT』でその役が登場することになったんです」

―――別の主催作品に登場したキャラクターが移籍するなんて、あまり聞かない話ですね(苦笑)。

天願「マメさんは不思議な人ですけど、彼にしかできない“雰囲気”、“間”があって、それは本当に助かっています」

―――犬宮理紗さんは、métro公演初出演になります。

月船「犬宮さんは新人さんです。ワークショップで初めて出会いました。そのときから、素直な演技がとても魅力的な俳優さんだなと感じていました。今回、宮沢賢治の作品が登場すると聞いて、私はすぐに『「永訣の朝」をぜひ!』と天願さんにお願いしました。“あめゆじゅとてちてけんじゃ”という有名な一節がある詩で、宮沢賢治の妹・トシが高熱で亡くなる直前に、地元の方言で『みぞれを取ってきてください』と頼んだ言葉です。それで私は、『“あめゆじゅとてちてけんじゃ”を言わせたら抜群の俳優を知っています。この詩をぜひセリフに入れてください』とお願いし、彼女にオファーしました。この作品の中で、彼女が生み出してくれる空気は、きっと特別なものになると確信しています」

―――ありがとうございます。では最後にこのインタビューをご覧になられている方に向けてメッセージをお願いします。

天願「期待を裏切らないような作品になると思います。期待してください」

月船「前作から急ピッチでの本公演になりますが、改めて“今やるべきことだったんだな”と感じています。正直、準備はとても忙しいですけど、『GIFT』を観てくださったお客様の記憶がまだ新しいうちに『REAL』をお届けできることに、意味がある気がしています。そして、今回が初めてmétroをご覧になる方には、私たちがさらに一歩進んだ姿を観ていただける機会になると思っています。ぜひ、たくさんの方に足を運んでいただけたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

月船さらら(つきふね・さらら)
1975年5月8日、滋賀県出身。演劇ユニット「métro」主宰。主な出演作に、映画『世界で一番美しい夜』(檜原輝子役)、映画『完全なる飼育 etude』(小泉彩乃役)、舞台『少女仮面』など。

天願大介(てんがん・だいすけ)
1959年12月14日生まれ、東京都出身。脚本家、映画監督。metro全作の作・演出を担当。主な脚本作品に映画『オーディション』、映画『十三人の刺客』、映画『アンジーのBARで逢いましょう』など

公演情報

métro 第15回公演『REAL』

日:2025年9月11日(木)~14日(日)
場:インディペンデントシアターOji
料:一般5,500円 初日割引[9/11]5,000円 アンダー25[25歳以下]4,000円 ※要身分証明書提示(全席自由・税込)
HP:https://sarara.asia/metro
問:métro事務局 tel.070-6618-7348

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