戦後80年の夏、戦下を懸命に生きた一家の物語を再び 井上ひさしらしい、笑いあり、ほろっと涙ありの音楽劇

 1985年の初演以来、再演を重ねるこまつ座の『きらめく星座』。物語は1945年、戦時中の東京・浅草が舞台。レコード店「オデオン堂」の小笠原家と周囲の人々を活き活きと描いた井上ひさしの音楽劇が、2025年9月7日より紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演される。戦後80年、初演から40年という節目を迎える本作は脱走兵の小笠原正一役を平埜生成、防共隊員甲役を宮津侑生、防共隊員乙役を神野幹暁がそれぞれ演じる。


―――まず、本作への思いをお聞かせください。

平埜「先輩方が作り上げてきた小笠原家の生活空間にどうやって入っていけばいいかな?と、オファーをいただいたてから想像を膨らませてきました。何公演もこなされてきた先輩方に混ざっていくので緊張感はあります。ですがそれ以上に、この作品に向き合える喜びが大きいですね。
 今回、僕は歌うシーンがあるのですが、過去に出演した作品で歌唱シーンの経験はあったものの、苦手意識があるのも本音。本作にとって、歌唱はより重要なポイントになるので、しっかり稽古に励みたいです」

宮津「あの『きらめく星座』に出られるんだ! この世界観に入れるんだ!という、喜びでいっぱいです。
 この作品はやっぱり、世代を超えて楽しめるところが魅力。生成さんが演じる正一は、戦時下の作中では非国民とされていたけれど、現代ではきっと共感されやすい役柄。逆に、僕と神野くんが演じる防共隊員は作中では正義とされているものの、物語のその後を想像してみると……もしかしたら、本人たちも大義を改めているかもしれない。戦争という大きな流れを感じながら、時代に翻弄された登場人物それぞれの物語を忘れずに演じていきたいです」

神野「『きらめく星座』は過去の上演も観ていますが、台本を読んで改めて驚いたのは、“ことばが優しい”ということと、“戦争が題材でもこんなに明るくおもしろく描けるんだ”ということ。この作品は、初演から40年が経つ現在でも、24歳(※取材日時点)の僕が観て楽しめる作品。作品の魅力は物語のそんな普遍性にある気がしますし、重くなりがちな戦争をテーマにしながら、明るく生きた人たちに焦点を当てたコントラストがこの作品の面白さだと感じます。
 自分が観劇していた作品に出演できることは初めての経験。喜びを感じながら、気を引き締めて挑みたいです」

―――2023年公演時のキャスト陣に加わり、お三方とも本作は初参加ですね。作者であり、初演時の演出を手がけた井上ひさしさんから演出を引き継がれた栗山民也さんや、再演に挑む先輩キャストについてお聞かせください。

平埜「繰り返しになってしまうのですが、先輩方が作り上げた作品に僕たち3人が飛び込んでいくので必然的に、栗山民也先生からのご指導も多くなるのかな?と覚悟しています。とはいえ、役者として栗山先生とご一緒できること自体が有難いこと。本作に携われることはもちろんですが、栗山先生にご指導いただけることは間違いなく自分にとって財産。物語の魅力をお届けできるよう精一杯やりたいです」

宮津「個人的には、久保酎吉さんとの共演が嬉しくて。過去に久保さんが出演されていた作品に裏方としてお手伝いで入った際に、“いつか俳優として共演できたらいいね”とお声がけいただいていたんです。役者としてこの作品に挑戦できること、久保さんはじめ先輩方と共演できる喜びでいっぱいです」

神野「俳優の研修所に在籍していた時、『少年口伝隊一九四五』という作品で、栗山先生に演出していただいたことがあるんです。僕は英彦という役で、物語の最後の最後で狂ってしまう重要な役どころでした。“ここで自分が失敗したら、みんなで積み上げたものを崩してしまうんじゃないか”と、毎公演ドキドキしながら挑んだ作品なんです。自分なりに頑張って演じましたが、振り返ると“もっとできたんじゃないか?”と思うこともあって。
 再び、栗山先生とご一緒できる機会をいただけたので、みなさんに成長を感じてもらえるよう、頑張りたいです」

―――最後に、カンフェティ読者へメッセージをお願いします。

宮津「“戦争”と、重く捉えず肩の力を抜いて観に来ていただきたいです。戦争について思いを馳せることは大切だけど、それは観劇後でも大丈夫だと思うんです。まずはリラックスして作品を楽しんでいただければ」

神野「僕たちと一緒に、若い世代のお客さまにもこの作品の世界観を感じてほしいです。僕も自分の友達にも“観に来て!”って声をかけたい。それくらい、こんなにいい作品を観ないなんて勿体無いという気持ちがあります。堅苦しくなく観られるので是非、劇場までいらしてください」

平埜「こまつ座の代表作であり、間違いなく名作。自分の出演有無に限らずおすすめしたいくらい(笑)。歌あり、笑いあり、ほろっと涙も流れて、最後は驚きもありつつ!? 本作を既にご覧になったことがある方には新たな作品の魅力をお見せしたいですし、初めて観劇される方にも是非、劇場で楽しんできたいです」

(取材・文:山田浩子 撮影:立川賢一)

プロフィール

平埜生成(ひらの・きなり)
1993年2月17日生まれ、東京都出身。2017年、こまつ座『私はだれでしょう』で読売演劇大賞上半期の男優賞部門ベスト5にノミネート。その他のこまつ座出演作に、『日の浦姫物語』、『吾輩は漱石である』など。

宮津侑生(みやづ・ゆうき)
1996年8月6日生まれ、神奈川県出身。2023年、新国立劇場演劇研修所16期生を修了。主な出演に、朗読劇『ひめゆり』、舞台『尺には尺を』、『終わりよければすべてよし』など。

神野幹暁(じんの・もとあき)
2000年8月9日生まれ、兵庫県出身。2022年、新国立劇場演劇研修所15期生を修了。主な出演に、舞台『イノセント・ピープル』〜原爆を作った男たちの65年〜、『ジャズ大名』など。朗読劇『少年口伝隊一九四五』で、井上ひさし作品に出演。

公演情報

こまつ座 第155回公演『きらめく星座』

日:2025年9月7日(日)~22日(月)
  ※他、地方公演あり
場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
料:8,800円
  ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://www.komatsuza.co.jp
問:こまつ座 tel.03-3862-5941

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