祝!白寿 石井ふく子演出 笑いと涙の下町人情ものがたり再演決定 届けたいのは「心と心のドラマ」 “渡鬼”ゴールデンコンビの傑作喜劇

 ホームドラマの名手・石井ふく子。『かたき同志』は、『渡る世間は鬼ばかり』をはじめ、ともに数々の名作ドラマを世に送り出した盟友 故・橋田壽賀子の作品の中で石井が最も気に入っている作品だという。
 今回、「石井ふく子白寿記念公演」と銘打ち、12年ぶりの再演が決定。子を思うあまりに“かたき同士”となってしまう母親たちを、藤山直美と高島礼子が演じる。こんな時代だからこそ、家族の大事さを、心と心がどう通じ合うのかを大切にした「心と心のドラマ」を紡ぎ続けたいという石井。白寿を迎えても全く陰ることのない創作への情熱に触れ、主役の2人は今どんな思いでいるのか話を聞いた。


―――まずは、おふたりの役どころについてお聞かせください。藤山さんは、12年前にも同じ役を演じておられますが……。

藤山「石井先生にも言ったんですけど『12年前と同じように動け』言うても無理です。膝も色々……あんまり言えませんけど、諸事情ございますのでね。
 私の役は、おかめという飲み屋の女将。苦労して育てた息子を女の子に取られて……取られるっていう気になるんでしょうね、めでたいことですのに。それで、ええとこの娘さんとうちんとこなんか釣り合わないし、そんな娘さんかなわんって、親同士喧嘩になってしまうんです。
 橋田先生の台詞は長いし、ものすごくたくさん動かなあかんので体力勝負ですが、ひと月間、お客様に喜んでいただけるお芝居をして、石井先生の白寿のお祝いの公演となるように、心して務めさせていただきます」

―――高島さんは12年前、この作品が上演されるのを観客としてご覧になったそうですね。

高島「私はかめさんの敵役、老舗の呉服問屋の女将・お鶴を演じさせていただきます。
 12年前に、直美さんと三田佳子さんが演じられたとき、明治座で拝見させていただいたのですが、主役のおふたりがとにかくドタバタと喧嘩して、罵声を飛ばし合って、ものすごくパワフルな作品だったんですね。三田佳子さんといえばかっこいい役のイメージだったんですけど、その方が自分を捨ててと言うんでしょうか、ものすごいパワーで直美さんと戦っていて。彼女のこれまでにない役どころを観たときに、ものすごく嫉妬をしたんです。私もいずれあんな役をやってみたいと思っていたら、今回三田さんの代わりに務めさせていただけることになりました。正直、いまから緊張しておりますし、楽しみにも思っています」

―――今回は、演出の石井ふく子さんの白寿記念公演でもあります。

藤山「新歌舞伎座さんの方から、石井先生の白寿のお祝いの公演をとお声がけいただいたときに、なにがなんでも参加させていただきたいという気持ちがいっぱいになりました。
 実は私の母も石井先生と同い年なんです。母はBSの再放送で『ありがとう』(石井ふく子がプロデューサーを務めた1970年代を代表するホームドラマ)とかをずっと観てるんですが、『かたき同志』のポスターを見せて、『この石井先生、まだ現役でバリバリがんばってはるねんから、負けたらあかんよ!』って言ったら、『がんばる!』って言って、がんばってくれてはる。先生はうちの母も元気にして下さって、その存在の大きさに感謝しております」

―――この作品の魅力について教えてください。

藤山「姉の子どもたちが男の子なんですよ。同性じゃなくて異性の子どもって、無性にかわいいみたいですね。姉を見てても、この芝居でも、母は息子が無性にかわいい。でも、結局は誰かと添うて(結婚して)いかなあかん。それが、家族が増えるっていうよりも、気分的には取られるような感じがする。
 この『かたき同志』は、母親が学んで、自立していく物語でもあります。かめさんは決して裕福でもなく、苦労して子どもを育てた人だと思うんです。いい意味で、親離れ、そして子離れをしていく、そのきっかけの、温かい人間ドラマになればいいなと思っています」

高島「これは、かたき同士(・・)が、結果、同志(・・)になる、という物語なんですよね。最初台本を読んだとき、鶴さんとかめさんは、石井先生と橋田先生のような気がしたんです。おふたりはひとつの作品を創るときに、お互い意見を主張して、ものすごく戦って、その結果傑作が誕生している。どんなに戦っても、結局おふたりは同志なんですよね。それがこの『かたき同志』にすごくリンクするんです。
 あと、わたしたち世代って、子育や仕事がひと段落してしまってちょっと寂しさを感じる、そんな微妙な年代なんですよ。だけど1歩動いてみると、その後の将来をともに歩むべき親友とか、同志、仲間ができる。1人じゃないんだよっていうエールを送ってくれるような作品に思えたんです。鶴さんとかめさんも、これまでは家族のためだけに、家族のことだけを思って生きてきた。それが、自分たちのために生きて楽しもうっていうところへ辿り着く。台本を読んでいるだけでそういうパワーをいただけたので、観てくださる方にもそういうものを感じていただければと思っています」

(取材・文:前田有貴)

プロフィール

藤山直美(ふじやま・なおみ)
喜劇役者・藤山寛美の三女として大阪市に生まれる。1963年、坂本九主演のミュージカル『見上げてごらん夜の星を』で初舞台。1964年、ドラマ『初代桂春団治』でテレビデビュー。主な出演作に、映画『顔』、NHK連続テレビ小説『芋たこなんきん』、舞台『笑う門には福来る』、『喜劇・道頓堀ものがたり』、『おもろい女』など。

高島礼子(たかしま・れいこ)
1988年にCMへ出演したことを契機に、テレビ時代劇『暴れん坊将軍Ⅲ』で本格的に俳優デビュー。主な出演作に、映画『陽炎Ⅱ』、『極道の妻たち』シリーズ(4代目)、ドラマ『あきない正傳〜金と銀』、『離婚しようよ』など。

公演情報

石井ふく子 白寿記念公演『かたき同志』

日:2025年8月30日(土)~9月21日(日)
場:新歌舞伎座
料:特別席14,000円 1階席13,000円
  2階席7,000円 3階席3,500円
  (全席指定・税込)
HP:https://www.shinkabukiza.co.jp
問:新歌舞伎座
  tel.06-7730-2222(10:00~16:00)

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