伝説の女優と偉人達が織りなす歴史ミステリー朗読劇が集大成へ! 歴史の闇に埋もれた真実を紐解く、進化し続ける物語

 19世紀末の伝説的女優 サラ・ベルナールのために書かれた戯曲『サロメ』は、実はサラ主演で上演されていない。本作はなぜ彼女が上演を諦めたのか、という謎に迫る物語を朗読劇化したもので、早くも再々演が決定した。作・演出の田尾下哲は「磨かれていく作品」だと語る。

田尾下「オスカー・ワイルドの『サロメ』でミュシャが絵を描き、『トスカ』を書いたサルドゥも関わるとんでもない時代。芝居が上演できなかった理由ははっきりしているけれど、サラが諦めた理由は明らかになっていないんです。朗読劇として上演を重ねることで、お客様の反応や響く部分、あるいは冗長に感じる部分を見極め、脚本は常に変化を遂げてきました。“声”に特化した、朗読劇ならではの繊細な表現をこれまで以上に深く追求しているところです」

 サラ役の青木エマ、ミュシャ役の松風雅也は初演から続投。オペラ歌手である青木は、本作で朗読劇に初挑戦しており、役への深い愛情は人一倍だ。

青木「大スターを演じることにハードルはありましたが、共通部分を探して膨らませる作業に、とても楽しく取り組んでおります。ディーヴァの先輩方を現場で見てきた経験を生かして、サラが出すオーラやみんなをピリつかせる大女優の存在感を朗読劇でいかに表現するか、3回目はより人間性の部分を深めていきたいです。今までとは違う膨らみをお届けできたら」

 ミュシャ作品の愛好家でもある松風が思うミュシャとは。

松風「才能を認められたいとか、人間としての成長や挑戦、そして失敗や成功を繰り返してきた“普通の人間”であること。そして天才に囲まれた天才の精神性を表現したいですね。特に今回はオスカー役も演じるという新たな挑戦も加わり、とても心が跳ねる良い役なので、台本のほとんど自分が担当する形になって、ちょっとパニックです(笑)」

青木「前回は別チームで松風さんを拝見できて、最後の長セリフがさすがの圧巻でした。松風さん凄い!と印象深いです」

松風「そこは命がけで、いかに読んでいる雰囲気を出さずに伝えるかが肝心なので、褒めていただいて嬉しいです。声優も身体が楽器と言いますが、青木さんのアプローチも凄い。歌の素晴らしさと、年齢の幅を感じさせる迫力と可愛らしさは、さすが田尾下さんが選んだ方だなと」

 初演からベストキャスティングだった本作は、いよいよ次のステージへ向かう。

田尾下「熟成され、磨き上げられてきた本作は、舞台化へ向けた最後のステップだと思っています。今は4人ですが、舞台ではどうするのか常に考えながら挑戦します。朗読劇としての集大成をぜひその目で、耳で、お確かめください」

(取材・文:谷中理音 撮影:平賀正明)

 

生まれ変わっても今の自分から1つ何かを引き継げるとしたら?(モノ・能力なんでも)

青木エマさん
「健康な喉(声帯)。有難いことに、今まで耳鼻咽喉科のお世話になったことがありません。珍しいと驚かれます。両親に感謝というものもありますが、唯一無二の楽器として、無理のない発声を、大学時代の恩師が指導してくださったことも大きいと思います。オペラや声楽に無知なままで始めた音楽生活で『この歌手みたいになりたい』、『オペラとは』という感覚が皆無だったが故に、自然と自分の声帯が辛くない歌い方をしてきたことも要因かもしれません」

松風雅也さん
「記憶です。例え、人(ヒト)以外に生まれ変わって忸怩たる思いになったとしても、知識があれば解決(納得?)できる事は多いと感じています。偉人の言葉で『無知は飢餓よりも不幸』を思い出します」

田尾下 哲さん
「人との出会い。これまでの人生で、国籍・人種、そして世代、さまざまな人に会ってきました。全てがいい出会いではなく、傷つけ傷つけられたりもしました。しかし、その出会いがあったために、自分を成長させてくれて、また、成長、研鑽しなくてはならないと教えてくれました。具体的に言えば、悔しい想いをしたこと程、自分はその思いを無駄にしないと、自らに研鑽を課すことができてきています。ですので、わたしを甘やかすことなく、叱咤激励、そして批判をした人々に感謝をしています」

プロフィール

青木エマ(あおき・えま)
神奈川県出身。国立音楽大学声楽学科卒業。二期会オペラ研修所51期マスタークラス修了。修了時に優秀賞受賞。数々のコンクール受賞歴を持つ。オペラ『ラ・ボエーム』、『カルメン』ほか、二期会では2013年『こうもり』でデビュー。2015年には西本智実指揮『蝶々夫人』を演じ、ヒロイン役からズボン役まで幅広く活動中。

松風雅也(まつかぜ・まさや)
福島県出身。『電磁戦隊メガレンジャー』で役者デビューを果たし、「おはスタ」おはスタ番長で注目を集める。声優・俳優・ラジオパーソナリティなど、幅広い分野で活躍中。代表作に、アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』、『進撃の巨人』The Final Season、『HUNTER×HUNTER』などがある。

田尾下 哲(たおした・てつ)
兵庫県出身。演出家・劇作家、田尾下哲シアターカンパニー主宰。2000年から演出家として活動を開始。2003年から2009年まで新国立劇場に所属。2009年、ヨーロッパデビュー。近年はオペラの演出に留まらず、ミュージカルやストレートプレイ、映像作品など多彩な作品に携わっている。

公演情報

朗読劇 サラ・ベルナールの『サロメ』

日:2025年7月30日(水)~8月2日(土)
場:城西国際大学 紀尾井町キャンパス 1号館内 地下ホール
料:7,500円(全席指定・税込)
HP:https://x.com/sarah_salome06
問:ZERO project mail:ticket@zeropro.net

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